17話 わたくしたちの戦いはこれからよ!
「陛下。入ってもいいか?」
他国に宛てた『即位の通告書』にサインと捺印を終えたタイミングで、ノックと共に声をかけられる。
「どうぞ、グリース。いいところに来たわね」
「グリースさん、お疲れさまでした!」
執務室に入ってきた彼は白い式典服から平服に着替え、髪もオールバックをボサボサに戻してしまっていた。
いつもの無精ひげがないせいかしら。ずいぶん若く見えて、なんだかすこし調子が崩れるわね。
ミュウに通告書を宰相室に届けるように託し、ついでにお茶と菓子を用意するよう命じる。
執務席からソファに座り直すと、向かいには熊が沈み込んだ。
「おう、戴冠式お疲れさん。……もう、ドレス着替えちまったんだな。……あー、その。そうだ、式!めちゃくちゃよかったぜ」
「ありがとう。あなたも悪くなかったわ。馬子にも衣装って感じで」
「おい」
「ふふ、冗談よ。騎士みたいで素敵だったわ」
一拍して、グリースが咳き込んだ。
「ちょっと!唾が飛んだわよ!」
思わず手元のハンカチーフでガードしたけれど……いやだわ!?これお母様が縫ったものじゃない!
わたくしは、熊を思い切り睨みつける。
「す、すまん。驚いちまった……ステキって、なぁ……いや、しかし、ああいう堅苦しい服はどうにも合わねぇ。もう1年は勘弁してほしいぜ」
さっぱりした顎を撫でてぼやくグリースに、わたくしは首を傾げた。
「あらそう?でも、それほど間を開けずにまた着るわよ?」
「は!?なんでだよ!」
「何をとぼけたことを言ってるのよ。やっと準備が出来たのじゃない」
「……準備ぃ?」
わたくしはにやりと笑い、指先でテーブルをトン!と強めに叩く。
「『今!!一番怒ってるのはわたくしだ!!!王家の奴らをぶっ潰す!!お前たち全員の命を背負ってあげるわ……付いてきなさい!!』」
熊の目が見開く。
「……それ、あの時の」
「そう。わたくしが掲げた最初の『宣誓』を、達成する準備よ」
「!!……マジでやんのか!?」
ガタリ、とグリースが立ち上がった。
「もちろん。被災者支援の枠組みは出来たから、責任者をキール夫妻に任命済み。新王就任の祝いで税額を引き下げを行ったから、足元は安定するでしょう」
反対勢力?
……議会に同席させた大勢の民に対して『税額を下げるなんてふざけるな!』と言える領主は、いなかったわねぇ?
「書類仕事は……ミシェルがどうにかするんじゃない?」
ジト目で見られ、苦笑する。
「冗談よ。彼にもサポートを数名かつけるつもり」
「なら良かった。あの人、マジで死んじまうぞ」
甘いわね。存外、ああいうタイプは追い詰められている自分が好きなものなのよ。
「グリース。最初のターゲットは元国王――クーズイルよ」
「クーズイル?ゴーミルの方はいいのか?ずいぶん恨みを募らせてただろう?」
意外そうなグリースに笑いかける。
「あら、お楽しみは最後にとっておかなきゃ。それに、消えた国璽を早く取り返さないと」
「!?国璽をクーズイルが!?なんでわかるんだ?」
――バカの深淵を少々、ね?
きっと、あなたも近いうちにわかるわよ。
「あいつはレオパト王国の離宮で悠々と暮らしているらしいわ」
手元の鉄パイプを南――海を挟んだ隣国、レオパト王国に向けた。
「確かなのか?」
「ええ。お父様の報告書にもあったし――何より、国宝と特徴が一致する指輪がひとつ、流出していたとマイクの実家が掴んだの」
「なるほどな……闇市だな?取り戻せるのか?」
真剣な表情のグリースに向かって、首を振る。
「古道具屋よ。二束三文で売られていたから、すぐに買い戻させたわ」
「んなっ……」
絶句するグリース。……ええ。私も同じ反応したわ。
ちなみに、報告したマイク自身も何とも言えない顔をしていたわよ。
国宝を普通の中古屋で売るバカがどこにいるのよ!!
レオパトにいるわよ!!!
「……ねぇ。わたくしもう、我慢の限界なの」
――ああ、本当にここまで長かったわ。
たかだかバカに仕返しするだけなのに、ずいぶん時間がかかってしまった。
「あなたはわたくしの側近でしょう?当然、付いてきてもらうわよ?」
――
……なんて、格好良く決めてみたけれど、最初の標的――クーズイルは腐っても元国王。
お父様からの報告書で、海の向こうの隣国レオパト王国……その離宮に居ることは把握しているけれど、直接訪問をするわけにはいかない。
立場上、形式張った通知や親書が何通も飛び交う必要があるのだ。
手続きが多くて、本当にイライラするわ!
握り締めた鉄パイプで、わたくしは思い切り風を切った。
ビュン!と鳴る高い音。
日に日に鋭くなっていくスイングを鏡で確認する。
――首を洗って待っていなさい。
時が来れば。
全身全霊でストライクして差し上げるわ!!
ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました!!
明日から 『後編 バカ王子を全力尻バットするわよ!』が開始します。全8話です。
引き続きお付き合いいただけると幸いです!
全力で尻を狙ってくので、面白いと思ったらブクマや下の☆☆☆☆☆で応援いただけると、作者が小躍りして喜びます!
よろしくお願いします!!




