15話 真相はいつもひとつ?
休憩室の円卓に、少しだけ質素になったおやつが並び――しかし、空気は重い。
……いえ。ミュウだけは嬉しそうにぱくついている。ここまで能天気だと羨ましくなるわね。
「詰み、だな」ミシェルが目頭を揉んだ。
「どちらか片方でもあればこじつけることもできるが」
「なぁミシェルさん、いっそこのまま乗っ取っちまうのはどうだ?」
グリースの雑な提案をミシェルが一蹴する。
「奴らの出奔先が国外なら、王位の正当性を主張した亡命政権に攻め入る口実を与えることになるぞ」
「うお、やべーな」
「あ、国宝泥棒としてクビにするとかどうっスか?」
「公爵家がいる。剥奪しても王位は血族優先だ」
「終わったー!クーズイルは悪政、ゴーミルはバカ、公爵家もクズばっか!」
愚痴る3人をぼんやりと眺める。ミュウがクッキーを持った手を挙げた。
「はい!お嬢様がキラキラのドレスを着て王冠を被ったら皆が王様だって思います!」
あんなに丁寧に説明したのに、なんでケロっと忘れてしまうのよ。
もう、これだからおバカさんは。
――チリッ。耳の後ろに違和感。
何かが引っかかり、一連の流れを振り返る。
13日前。
国王は王子に譲位し、失踪。
昨日。
ゴーミルが王冠をわたくしに押し付け逃走。
仕事は完全放棄。執務室の床には、書類が散乱していた。
どこに出しても恥ずかしい国の恥ね。
父親の方が国が回ってた分、まだマシ……
爆発的に増えた横領。
暗証番号24桁の直筆メモ。
金の便座の嘆願書。
でもないわね。
鼻で笑った後、ふと過ったのは1つの問い。
彼はどんなバカだった?
――もしかしたら、この違いにヒントが?
クーズイルからゴーミルへの譲位宣言書は存在するのか?
そして、ゴーミルからわたくしへの譲位宣言書は?
国璽は一体どこにある?
ロンディネ王国の王は……誰?
――ディア、自分の脳みそを捨てなさい……!
相手は常識が通用しない底抜けのバカ二人。
底無き深淵を、覗き込む。
――
「譲位宣言書は、間違いなくあるわ。――そしてそれには、クーズイルの署名と国印だけが刻まれている」
わたくしの言葉に、一同は目を剥く。
「ほえ?どういう意味ですか?」
「ちょ、お姫様!俺らのこと信用してないんスか?!引き出し全部、棚の本全部確認しましたよ!」
「気持ちはわかるが現実逃避は良くないぞ。ほれ、キュイでも食え」
「『白紙の委任状』……?しかも殿下からではなく、陛下から直に?……ありえない!」
当然の反応ね。でも――。
「棚は全て動かした?話はそれからよ」
――
一度整えた執務室。
半信半疑の皆に、全ての家具と装飾品の下を探索させる。全てが終わったその時。
わたくしたちは、打ちひしがれていた。
「はは……は、は……ありえん。こんなこと、あってたまるものか……」
両膝をつくミシェルが掲げた、1枚の紙切れ。
「ミシェルさん嬉しそぅもがもが……」グリースがミュウの口を押さえる。「可哀想だから追い打ちをかけないでくれ」
「お姫様すいません!偉そうなこと言ってマジすいませんでした!皆!」
「「サーセンッシタァ!!」」
滑らかな大理石の床と、天井近くまである埃を被った本棚のわずかな隙間に、ソレは眠っていた。
汚れてざらついた、譲位宣言書。
裏面には、ゴーミルのポエム。
表面には、国王・クーズイルの署名と国璽――燕の印のみが踊っていた。
――
真相はきっとこう。
早々に暴動の気配を察し、逃亡を企むクーズイル。
一応、王である彼は、手続きの重要性を『最低限』理解していた。
彼にとっての『最低限』。それは、受け取った書類に印を押すこと。
そう。金の便座なんてあり得ない陳情があったのは、ガバガバすぎて確実に決裁が通ると領主が知っていたから。
爆増した横領がその証左ね。
13日前。
クーズイルは、ゴーミルに王位を押し付けるためにいつも通り自分のサインと捺印をした譲位宣言書を用意した。
そして、王冠と共にそれをゴーミルに与えて失踪した。
まさか息子が『規格外のバカ』だと思わずに。
規格外は王冠に夢中。手続きを何一つ行わず、書類の裏にポエムを量産。
そして、昨日の朝。
外の騒動に気づき、窓を開けるゴーミル。その瞬間、突風が吹き書類が飛び散った。
――ヤバイ!このままじゃ殺される!!
暴徒を見た彼は、慌てて窓を閉じる。
――どうしよう!死にたくない!
落ちた書類を踏み荒らしながら、無い頭を回転させ。
――そうだ!父上みたいに、誰かに王冠を押し付けよう!
彼は、王子の証である印章指輪を放り捨て、生贄を探すべく執務室から出ていった。
こうして、バカのバカによるバカのための至高のトリックが完成したというわけ。
あら、あまりにも馬鹿馬鹿しくて信じられない?
それでも。
事実はいつもひとつ、なのよ。
――
「ディア・ヴィルシュ様。……お納めください」
壊れたように笑い続けたミシェルは、突如、丁寧に紙面の埃を拭い、最大限に汚れを除去した。
そして、恭しくわたくしに差し出す。
「次の王名が空欄の譲位宣言書など、あってはならない。頭がおかしくなりそうです」
一瞬の沈黙。
ミシェルは首元のタイを緩め、カチャリと眼鏡を押し上げた。フゥーーと深く息を吐き出し、吸う。
「……俺の推察は、こうです。――クーズイル国王陛下から譲位を望まれたゴーミル殿下は、自らの力不足を恥じて『拒んだ』。しかし、次の継承者を指名させようにも王は不在」
「ぷはっ……!ナルシストのバカ王子が、力不足を恥じるとか……ぷぷっ」
吹き出したマイクをミシェルが睨みつけて続ける。
「――殿下はやむなく、最も王たる資質がある者に『王冠を託し』、あえて『姿を消した』。それが今回の『真相』でしょう」
ミシェル以外の全員、口元が震えている。
わたくしも笑いを噛み殺しながら返す。
「まぁ!もしかして、殿下は『わたくしを試した』のかしら?なんて……ふふ」
「その通り!まさに殿下が求めた逸材!この国の救世主!聖女でございます!!」
ビシリ!と謎のポーズを決めるミシェル。
っ、もう限界、吹き出しそう……!
必死で真面目な顔を作り、わたくしは書類が滑り込んだ本棚を指した。
「なるほど!だから『今日、このポストに譲位宣言書が届いていたのね!」
スン。
「……は?何を言ってるんですか?」
え?なに、その反応。
「……えっと。これが届いていたのがこの本棚でしょう?なら、本棚は郵便受け……よね?」
唐突にミシェルが、吹き出した。
つられて執務室の皆もゲラゲラと笑い始める。
「く、くく……ははは、本棚がポスト?こんなポストがあるものか!しょうもない!!くくく」
「ちょっと!なんであなたが笑うのよ!?……もういいわ!今からこれはポスト!いいわね!?」
皆がお腹を抱える中、一人ぽかんと置いてきぼりのミュウが首を傾げた。
「え~っと、本棚が?どういう意味ですか?」
赤毛をひと撫でし、ウインクする。
「わたくしが『王様』って意味よ」
彼女は、今までで一番嬉しそうにニッコリと笑った。
めちゃくちゃしょうもないオチですみません!!
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