14話 悔いが残らない方を自分で選べ
「お嬢様!どうぞ!!」
シーツに厳重に封印された肖像画の山が6つほど運び出されて、わたくしはやっと部屋に入らせてもらえた。
白い漆喰の壁。ああ、なんて清々しいの!
ミュウを椅子に座らせ、テーブルに宝物庫目録を置く。
わたくしはグリースに振り返った。
「お疲れ様、グリース。帰っていいわよ」
「なんでだよ!ほとんど俺が片付けたんだぞ!?」
「あら。本来、平民を入れて良い場所ではないのよ。仕方がないでしょう?」
グリースがミュウの頭に手を乗せた。
「……どうせこいつのとんでもねぇ記憶力を隠したいだけだろうが。違うか?」
「私ですかぁ!?」
まぁ、バレるわよね。緊急事態とは言え、彼には手の内を見せすぎたわ。
「『信頼』だのなんだの、耳障りの良い言葉で持ち上げやがって。結局、肝心な所は隠すんだな」
まっすぐに、睨みつけられる。
「……あなたを守るためよ」
「そうやって適当に慈愛振りまいときゃ諦めると思ってる。違うか?」
グリースは唸り、わたくしは半歩後退る。
……なんでこの男、急に聞き分けが悪くなっちゃったのかしら。
「事実だわ。――あなたの目に、アシュレイ・ヴィルシュはどう映った?余人がミュウの事を知ったとお父様が気付けば、万が一もあり得る。……だから、グリース」
深入りしないで。
言外で訴えると、舌打ちで返される。
一歩。足を踏み出された。
「……なら、俺も正式に部下にしろ」
「は?」
大男を見上げた。……何を言っているの?
「それなら消されんだろう。……第一!ここまで振り回されて、全部解決したら『はいサヨウナラ』なんて、納得できるわけねぇだろうが!」
「……!!」
息が止まった。彼が激高するところなんて、想像もしていなかったから。
また一歩。距離が縮まる。
体格は大きいけれど、朴訥として警戒を生まない容姿。相手の懐に入る能力。ヒトに愛され、ヒトを愛することが出来る人。
さらに、近づく。もう目の前に。足が、動かせない。
熊のような……年の離れた兄のような、人。
そんな男に牙をむかれ――先に折れたのは、わたくしの方だった。
「……今までどんな生活をしていたか知らないけれど、戻れないわよ」
「ミュウに務まるなら問題ないだろ。俺に不足があるか?」
「はぁ……外では『お前さん』でも『お嬢さん』でもなく、『お嬢様』と呼びなさい。わたくしの部下になりたいのならね!」
熊が、ニヤリと口の端を歪めた。
「かしこまりました、お嬢様。……今後ともよろしく」
差し出された大きな手を、力一杯握り返してやった。
――
「納得いきません!」
椅子にちょこんと体育座りをしたミュウが頬を膨らませている。
「私の方がず~っとお役に立ってたのに、ポットでのグリースさんもメイドになるなんて、嫌です!」
あぁ、厄介な子ばかりだわ。
『ポットで』ってなによ。『メイド』ってなによ。メイド服のグリースが紅茶を淹れている姿が脳裏に浮かんでげんなりする。
わたくしが口を開く前に、グリースはミュウの頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「よろしくな!ミュウ先輩!」
「……せんぱい?」
「おう。だってそうだろう?」
途端、大きな瞳がキラキラと輝き始める。
「ふふん、先輩ですから許してあげます!さ、サクサク仕事を終わらせますよ!ほら、グリースさん!先輩にお宝を視せてください!ほらほら!」
腕まくりをしたミュウはやる気にあふれている。――わたくしもデスクにつき、目録帳を開いた。
――
執務室に戻ると、メンバーは相変わらず書類と格闘していた。
「戻ったわよ。……なんだか、とても疲れたわ」
ソファに座り込んだわたくしに、マイクがお茶を差し出した。
「お疲れ様っス!国宝なんて気ぃ使うッスよね。割ったらこえーし」
「……そうね。目録帳内全164点中、『紛失品』は13点。ほとんどが換金性が高い宝飾品よ」
マイクが真顔になる。
「それ、もう売られてないっスか?商会のツテで調べます?」
「馬鹿を言うな。クーズイル陛下が消えて13日、ゴーミル殿下は昨日だ。さすがにそこまで愚かでは――訂正する。奴らならやりかねん。調べろ」
口を挟んでおいて勝手に自己完結するミシェルに、全員が苦笑いを浮かべた。
「はい、2人もこれ。もうすぐ休憩時間なんで先に休んでてくださいっス」
マイクはミュウにホットミルク、グリースには珈琲を渡す。
「あ、そういやグリース、機嫌直ったんだな。なんかいいコトあった?」
熊がブフッと口をつけたばかりの珈琲を吹き出す。
「……わりぃ。あー、なんつぅか……勤め先が決まった……ってとこかな」
鼻先を掻きながらボソボソ小声で答える男を見て、わたくしはくすりと笑った。
お読みいただきありがとうございました!
グリース、ブラック企業に就職。
次回、真相解明。
前編はあと3話で終了です。
引き続き、お付き合いいただけると嬉しいです!




