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【本編完結済み】鉄パイプ令嬢は逃走王子を尻バットする〜処刑直前に王冠を押し付けられたからハッタリだけで国を乗っ取りました〜  作者: 朱音ことは
前編 バカ王子に王冠を押し付けられたわよ!

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13/35

13話 てめーはわたくしを怒らせた

 清々しい朝の日差しでまぶたが持ち上がる。



 ――こんなにきちんと眠れたのは、2週間ぶりかしら。


 ……え?

 待って、ここはどこ?牢じゃない……ベッド?朝?……なぜ?



「――ミュウ!なぜ起こさないのよ!!」

「ふぉわ!おはようございます!」


 私のベッドに頭をのせ、椅子で寝ていたミュウは、ぴょいんと起き上がった。

 よだれの痕が、凄い。


「1時間って言ったでしょう!?なんで起こさないのよ!」

「だ、だってグリースさんに相談したら、疲れてるから寝かせておけって」


 ため息をついて鏡に向かう。


 下品なお仕着せ(メイド服)に着替え、ミュウに髪を整えさせる。

 鉄パイプを手に取り執務室へ――だから、ホワイトブリムをつけるんじゃない!!



 ――



 貴賓室の扉を開けると、目の前には剣を腰に下げた熊。

 ふわぁと大きな欠伸をしてから首をゆっくりと回してほざく。


「おっ、顔色よくなったな。しっかり眠れ――って危ねえ!」



 ギィン!!!!



 偶(・)然(・)私の手元から彼に向かって飛んでいった鉄パイプ!――はグリースの剣に敢えなく捌かれてしまった。

 生意気ね?当たりなさい。



「誰が、寝かせと、命じたの、かしら?」

「す、すまんかった。善意だ。でも謝る。申し訳なかった」


 引きつった顔で床に落ちた鉄パイプを差し出されたので受け取る。少しは溜飲が下がったわ。



「……寝ずの番、ありがとう」

「ついでだ、ついで。昨日はベッドに潜ったところで寝れる気がしなかったしな」

「そう。その後、何か異変はあったからしら?」

「異変ってわけじゃねぇが……ちょっと来てくれるか?」



 ――



「――烏合の衆が仕事を集(たか)りに来た?」

「違う。お前さんの力になりたいと集(つど)ったんだ」

「20人も集(あつ)まるなんて、お嬢様人気者ですね!」


 城門前の小窓から外を覗き見る。


「……パスね。素性不明、能力不明、敵対勢力リスクありの人間を城に入れるメリットがないわ」

「そんな言い草ねぇだろ、俺らだって同じじゃねぇか」


 少しムッとした顔。本当に、嘘がつけない男ね。


「あら、今いるメンバーは違うわよ?グリース自身と、あなたの人を見る目への『信頼』があるもの」

「へ?」



 ぽかんと口を開ける熊を放置して、城門に向かう。


 わたくしは『タダ働きでよければ配給の手伝いでもしていろ』と慈愛で丁寧に包んだ言葉を烏合共に告げ、さっさと廊下に戻った。



「さ、朝食よ」


 またお腹が鳴ってしまったら、恥ずかしいでしょう?



 ――



 市井の料理人もなかなかのもの。

 メニューは相変わらず粥だけれど、勝手が知れたせいか格段に味が上がった。特にオリーブが良い味を出していたわ。


 ミュウと、なぜか動きがぎこちないグリースと共に、執務室に顔を覗かせる。彼らはすでに災害関係の書類精査と区分けを進めていた。


「「ハザッス!!」」

「おはよう。あら、こちらの二人は?」



 壁際に壮年の男女が直立していた。

 ミシェルが二人に声をかけると、素早く左胸に手を当てる。



「キールとマージです。元同僚の夫婦で、彼は食糧管理課、彼女は道路建築部署の経験がある者です。キールは暴動参加者でもあり、グリースとの顔通しも済ませています。優秀さ、勤勉さでは同期で右に出る者がいません」


 滔々と2人の説明をして「……このままでは、引退したのに過労死しかねないので、何卒ご許可を」と悲痛な表情でつけ足した。



 二人と真っすぐに目を合わせる。……災害の件を話したのだろう、瞳に炎が灯っていた。



「ミシェル。『王位継承の儀』参加者、ね。……いいわ。キールは生活関係を、マージは経路確保や修繕地域の優先順位を組んで。ジーロとサイチェスは2人を補佐して頂戴」

「御意!」

「わぁ!よろしくお願いします~!」


 ミュウがパチパチと拍手すると、2人はくすぐったそうに笑った。


「マイク、実家の回答は?」

「ばっちりっス!あ、契約書どぞ。お姫様が爆睡してる間に査定も……はい、黙ります」


 チャッと出された書類に目を通し、サインをする。ミュウにもさりげなく視せてからマイクに返した。


「では、作業を開始して。引き続き、探し物もよろしくね。ミュウ、宝物庫へ行くわよ」

「あー……俺も行く」

「呼んでいないわよ」

「行く」

「……ご勝手に」



 ――



 ミュウに案内させた宝物庫には鍵が掛かっており、当然のごとく鍵は紛失中。

 もはや怒る気すら失せてくるわ。



 わたくしは鉄パイプを振り上げ、「まったまったまった!目録庫の壊錠(カイジョウ)ってやっぱそれかよ!?」


「なによ急に元気になって。鍵を探すよりは早いわよ」

「ぐっ……とにかく、一回見せてくれ」



 熊は間に入り、扉に張り付いた。


「……ふむ、この形だと外すしかないか。ミュウ、工具部屋は?」

「へ?えっと、工具……?大工さんの仕事部屋なら北階段地下一階の「わかった」最後まで言わせてください!」



 程なくして戻ってきた彼が手にしているのは鉄の棒――バールという道具だった。


 グリースは先端を蝶番の隙間に差し込み――ものの5分で扉がガタリと地に落ちる。



 目録庫でのわたくしの苦労(いちじかん)は何だったの?



「おいおい、お宝の部屋がこんなちゃちい扉でいいのか?さすが王族(ポンコツ)だな」


 半笑いでグリースが扉を外し「なん……だと?」奥にある金属製のダイヤル式二重扉に驚く。

 そこで驚かないでよ。


「あの親子がポンコツだからって、先祖までポンコツなわけがないでしょう」


 先祖代々アレならヴィルシュがとうに乗っ取っているわ。


「ミュウ」

「256808741521456905732584です!王様の字で宝物庫ってメモが執務「回して」はい!」

「……当代のポンコツぶりが先祖の苦労を全部踏みにじってやがるぞ」

「否定はしないわ」



 わたくしは肩をすくめて進む。


 ギィィ……と、グリースが重たい扉を開き、燭台に火を灯す。


 明るくなった部屋。

 目に飛び込んだのは、金銀財宝――ではなく『ゴーミル(バカ)の肖像画』だった。


 1枚や2枚ではない。壁一面に埋め尽くされている。


 あらゆるポーズ、あらゆるアングルで描かれた麗しきバカの絵画。

 ――わたくしはギリギリの理性で一番近くの絵を宝石で彩られた額縁から外した。



 剥き出しのカンバスに、思い切り鉄パイプを叩き込む!!



 バキィッ!

 ドゴッ!!

 ガコン!!!



 ――ぜんっぜん!足りない!!なんなのよ頭沸いているの!?あんたの肖像画のどこに宝物庫に入れる価値があるのよ!!


 いっそお前が入っとけ!!そしてそのまま干からびろ!!!



 ……はっ!


 いけない、わたくしとしたことが。背後を振り返ると、同情の目が4つ、静かにわたくしを見つめていた。


「……こほん。見苦しい所を見せたわね。額縁は保管して、絵は……えー、と。お芋でも焼いて、皆に配りましょうか……おほほ」


 視線に耐えきれず、ズタボロになったカンバスを裏返して端に寄せたわたくしは――無言の2人に部屋から追い出された。


 屈辱、だわ。

 わたくしは廊下の隅で膝を抱えた。

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