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娯楽革命Ⅱ 〜熱狂はここに咲く〜  作者: 藤田 麓
第一幕 北西街代表選

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46 チームへのご褒美


 その後、残りの二名が開発案の発表を行ったが、どちらもアイデアとしては弱く、大した印象を残せないまま発表が終わった。


『では言っていた通り、どの開発案に投票するかを各自熟考して、夏に投票することにしよう。その間高位貴族が無理に下位の者に投票を促すようなことはせぬように。では、今日はこれにて解散』

 

 ヤルギリがそう締めて、今日の会議は終わった。入り口近くの人から退場が始まると、私は近くにいたアンビシアとアルサイ家の派閥がいる人たちの方へ向かう。

 

「プレゼン、上手くいきましたね。アンビシア様が最初にばーんと登場してくださったおかげです」

「確かにあれで強い印象は残せたと思うけれど……私はどうやら、貴女の能力を見誤っていたようね」

「え?」

「その口の上手さは誰譲りなの? どこで習得したのかしら」

「プレゼンですか? 自分のやりたいことをアピールしたいと思ったら、誰でもできますよ」

「そんな訳ないでしょう。ああ、あの演劇を始めた人だものね。人前に立って演技をすることに抵抗がないのね」

「まぁ、そんなところです」

 

 私は笑って誤魔化す。実は前世からプレゼンの方法を学んでいたとか、実践していたなんて言えない。

 

「お陰でいい発表になったと思うわ。サヤル家とソウ家の者たちが嫌な顔してたわよ」

 

 アンビシアはそう言ってチラリと反対側にいる人たちに視線を向ける。そこにはさっき壇に上がっていた二家の当主がいて、こちらを苦々しく睨みつけていた。

 貴族らしくない敵意剥き出しの顔に驚いていると、私たちの前にカラバッリの背中がスッと現れる。その後、「そろそろ我々も出ましょう。また後日打ち合わせを……」「そうだな」という当主たちの声が聞こえてきた。どうやらカラバッリが睨みつけたらしい。

 

「おじい様、守ってくださってありがとうございます」

「フッ、アリム家の当主が誰か教えてやっただけだ。しかしあれだけの敵意を向けられたのだ、これからなにか嫌がらせをしてくるかも知れぬぞ」

「アリム家に対してそんなことしてきますかねぇ」

「ディアナとアンビシアが個人でいるところに仕掛けてくるかも知れぬ。そちらも気をつけられよ」

「は、はい……!」

 

 カラバッリに言われ、ケルディがビビりながら答える。

 

「ではアンビシア様、これからは表で堂々とお会いできますし、計画通りよろしくお願いします」

「ええ、わかっているわ。ソウ家のあの顔をもっと歪ませることができるなんて、楽しみね」

「アンビシア様、怖いです」

 

 そうして私たちは会議場から帰路についた。これからはイリーナが考えた新しいデザインの服を複数個作り、それをアンビシアと私が着て、互いの派閥のお茶会をたくさん開く予定だ。今回は男性貴族にアピールしたが、次は女性貴族に私たちの開発案を知ってもらう必要がある。

 

 今まで交流のなかった移住民の人たちにも会えるもんね。そこで劇団の宣伝もしちゃおう。よーし、気合い入ってきた。やるぞ!

 

 私は馬車の中でフンス! と両手を握り締めた。

 

 

 開発案発表の日から数日後、クィルガー邸にシムディア・アイン大会のチームメンバーがやってきた。双子だけは仕事が入っていたので、それ以外のメンバーである。以前約束した、彼らへのご褒美を渡す日なのだ。

 客用談話室に座ったメンバーを見て、私は改めてお礼を言う。

 

「大会に参加してくださって本当にありがとうございました。皆さんのお陰で優勝することができました。今日はゆっくりしていってくださいね」

「ディアナ様のお役に立てたことがなにより嬉しいです」

「学生のころから興味があったシムディア・アインに出ることができて、良かったです」

「私も、最初は戸惑ったけど、優勝できて嬉しかった。いい経験になったよ。ありがとう、ディアナ」

 

 プルキン、オプラーシャ、クヤンがそう言ってお茶やお菓子に手を伸ばす。大会の話でひとしきり盛り上がったところで、私は用意していたご褒美を三人に贈った。

 プルキンには私個人の紋章が入った記念バッジ、オプラーシャには大会の全試合の詳細記録、クヤンには劇場の良席券とファリシュタのサインが入ったパンフレットだ。

 

「おお……! これがディアナ様の紋章っ。感激です……!」

「あ、別にそんな特別な意味のあるものではないですよ、プルキンさん。護衛隊の皆さんに見せびらかしたりしないでくださいね。家にこっそり置いててください」

「それはできません」

「え……」

「ディアナ様の紋章を家に置いておくなど! 毎日身につけ、護衛隊のみなにも毎回自慢します!」

「そ、そんなことしなくていいです! 恥ずかしいですから!」

「恥ずかしくありません! 名誉なことです!」

「ダメですってば! そんなことしたら護衛隊の皆さんからも欲しいとか言われちゃうじゃないですか」

「ディアナ様の特別役に立っているわけではないのですから、彼らには必要ありませんよ」

「ええー……」

 

 いい笑顔で言われてちょっと引いていると、オプラーシャが記録の紙を読み込んで震え出した。

 

「素晴らしい……! こんな細かな記録まで録っていたのですね。あ、この試合は後半しか見れなかったのです。まぁ! こんな動きをしていたなんて」

「なにかの役に立ちそう? オプラーシャ」

「ええ。私は趣味で試合の展開を頭の中で妄想したりするのですが、そのパターンが増えるので嬉しいです」

 

 妄想……。なんか淑女から聞いてはいけない言葉を聞いた気がする。

 

 そこで私はとあることを思いついて、彼女に提案する。

 

「それだけ試合が好きなんだったら、シムディア・アインの会場を模型で作って遊んでみてもいいんじゃない? ほら、盤上ゲームみたいに」

 

 この世界には盤上ゲーム、いわゆるボードゲームというのは存在している。私もチェスを元にしたゲームの販売の許可をアルスラン様からもらって売っているのだ。

 私の言葉にオプラーシャは目を輝かせる。

 

「それは素晴らしいアイデアですね! 作ってもいいのですか?」

「個人で遊ぶ範囲だったら自由にしてもらっていいよ。楽しそうだし」

「わぁ、どうしましょう。すぐに職人を呼んで設計図を作らなくては……!」

 

 そんな彼女の様子を見て、クヤンが苦笑しながら私に話しかける。

 

「オプラーシャは本当にシムディア・アインが好きなんだね。私は演劇の方が好きだけど」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。あ、クヤンがファリシュタのファンだって聞いて、ハンカルが驚いてたよ」

「あ……そっか、ちょっと恥ずかしいな。ハンカルはファリシュタと仲が良かったから黙っていたんだ。怒ってなかった?」

「怒る? なんで?」

「なんでって……だってハンカルは……あ」

 

 クヤンはそう言って急に口を閉じる。その様子に私はピンときた。

 

「もしかして……クヤンも知ってるの?」

「……ディアナも知ってるか。さすがに」

「よくわかったねぇ。ハンカル、しっかり隠してるのに」

「確かに表情には出ないんだけど、学生のころに彼女のこと目で追ってるの見てたから。そういうところでわかるんだよ」

「へぇ……クヤンもオプラーシャと同じように人のことよく見てるんだねぇ」

「見てないと、姉上に怒られるからね」

「……苦労してるね」

「よく言われる。ディアナもボヤッとしていたら怒られるから気をつけて」

「う、わかった」

 

 アンビシアの前では気が抜けないな、などと思っていたら、プルキンがバッジをマントにいそいそと付けながら口を開いた。

 

「そういえば騎士団の仲間からシムディア・アイン大会は今後も開催するのか? とよく聞かれるのですが、ディアナ様はどうお考えですか?」

「もちろん、今後も続けたいと思ってますよ。前回の大会が好評でしたし、アルサイ家の競技場を今後も借りることができそうですから」

「なんと! それを聞いたら皆喜びます。北西街以外の者たちも観に行きたいと言っていたので」

「観客が増えるのは大歓迎ですよ。次の大会の詳細が決まったらお知らせするので、騎士団の人たちにも広めてください」

「承知いたしました! 今後もこのプルキンになんなりとお申し付けください!」

「……別にプルキンさんだけ特別扱いしてるわけではないですからね」

「わかっております!」

 

 ……本当かな。

 

 プルキンの態度に、後ろに控えているルザとイシークが「特別なのは我々だけです」「勘違いしないでいただきたい」と嫉妬心を露わにしていた。

 

 

 そして次の日、私はカラバッリ邸の訓練場へと向かった。前日できなかった双子へのご褒美を贈りにきたのだ。

 

「あ、きたきた。ディアナ! こっち」

「あれ、ディアナ訓練服じゃないの?」

「私は必殺技を考えるだけで、訓練には参加しませんから」

「なんだ。ディアナと手合わせしたかったのに」

「騎士じゃないんですから、手合わせなんて無理ですよ」

 

 そんな軽口を言い合いながら運動場のような広場へ足を向ける。今日は双子の動きを見たいとジャシュとアルトゥル、それにパンムーとアルニーまで一緒にやってきた。

 

「みんなは危ないから少し離れたところから見ててね」

「わかりました、姉上。アルトゥルもここから見るよ」

「うん。パンニーもここだよ」

「パムー? パムパム!」

「ニーニー」

 

 パンニーと名前を合体されて呼ばれた二匹は、アルトゥルの言うことなど聞かず、猛ダッシュで双子の方へ走っていってしまう。

 

 ……まあ、あの二匹は放っておいてもいっか。危なくなったら勝手に避けるでしょ。

 

「それで、ディアナはどんな技を考えてくれたの?」

「いえ、まだなにも決めてませんよ。お二人が実際にどんな動きをするのか知りませんから。いつもどんな訓練をしているのか、どんな技を持っているのか教えてください」

「いいよ! わかった」

 

 それから双子の動きを見せてもらう。トグリはスピード重視の攻撃型で、チャプは強化が得意な防御型だ。双子なのでユニゾンしているのかと思いきや、意外とバラバラである。

 

 こんなに見た目はそっくりなのにね。

 

 体力はともに無尽蔵。元気いっぱい。永遠に走っていても平気なのではないかと思うほど、じっとしない。この辺りは性格のままだ。

 常にウロチョロしているので敵を翻弄できそうだが、計算して動いているわけではないのですぐにミスが出るらしい。挑発にもすぐに乗ってしまうタイプのため、作戦を考える上官は頭を悩ませているそうだ。この辺りはクィルガーからの情報である。

 

 一級なのにクィルガーに勝てないのは、そういう弱点があるからなんだろうな。

 

 二人の剣の打ち合いを見ながら、私はうーむと顎に手を当てる。この双子の特性を活かしてなにかできないだろうか。

 

 この二人はおそらく、弱点を克服するより得意なものを伸ばした方がいいと思う。スピードと強化かぁ。

 

 攻撃タイプはバラバラだが、双子なだけあって息はピッタリだ。今も同じタイミングで踏み込んで、同時に剣を振っている。その揃った足のリズムを見て、私はふと顔を上げた。

  

「……チャプって、トグリの速さを目で追えますか?」

「ん? まぁ見えるけど。なんで?」

「トグリが走っている時の踏み込む足に、タイミングよく強化をかけることができるかなと思いまして」

「どうだろう? 強化を早く放つことが必要だから効果はすぐに切れそうだけど」

「それなら連続で右、左、右、左と素早く強化をかけてみてください。トグリは強化がかかっても焦らず、大きく飛ぶように走ってみてください」

「……よくわかんないけど、やってみる」

 

 剣を鞘に納めて、トグリが走る構えをすると、チャプがその横に控える。

 

「じゃあ走り出すよ? せーの」

 

 トグリが足を踏み込んで走り出すと、チャプはその足の動きを確かめながら「『ヤシル』強化を!」と叫ぶ。彼の胸当てにある緑の魔石から放たれた光がトグリの左足にぶつかった。その瞬間、トグリが前につんのめって倒れた。

 

「あだっ!」

「うわっ」

 

 思いっきり顔から地面に倒れたトグリが「いっだぁ」と言ってうずくまる。

 

「大丈夫ですか? 『ヤシル』癒しを」

 

 私が慌てて癒しをかけるとトグリはすぐに立ち上がった。

 

「大きく飛ぶどころか、足が固まって動かなくなっちゃったよ」

「ああ、そっか。強化だとそうなっちゃうんですね」

「ディアナはどういうイメージで強化をかけたかったの?」

 

 隣にいるチャプに聞かれて、私はバネのイメージを伝える。

 

「固めるのではなくて、足の筋肉を強くしていつもより大きな力で地面を蹴って、そのまま跳躍して欲しかったんです。それができたら飛ぶように走ることができるかなって……」

「なるほど。じゃあ強化の強さをもっと弱めた方が成功するかもしれない。トグリ、もう一回やろう」

「わかった。じゃあ走るよ?」

 

 そう言ってトグリが再び走り出す。彼の足のリズムを見ながら、チャプが強化を唱えた。先ほどより小さな緑色の光が高速で飛んでいき、トグリの左足にぶつかる。すると、彼の体がポーンと斜め前に大きく跳んだ。

 

「わっとと」

 

 少しバランスを崩しながらトグリが右足で着地する。距離としては五メートルくらい跳んだようだ。

 

「すごい! 走ってただけなのにこんなに跳んだ! チャプ、今度は連続でかけてみてよ!」

「わかった!」

 

 それから同じようにトグリが走り、チャプが強化をかけるとトグリの体がポーンと跳ぶ。着地した瞬間に右足に強化をかけるとさらにポーンと跳んでいく。タイミングが掴めたらしいトグリは、そのまま走るように跳びまくった。慣れていくうちに跳ぶ距離も伸びていく。大きな運動場を回るように跳ぶトグリを見て、ジャシュとアルトゥルが「すげー!」「すごーい!」とはしゃいでいる。

 

「わはははは! なにこれ! すんごい楽し……ンガっ」

 

 跳びながら喋ったトグリが舌を噛んで着地に失敗する。口を押さえて転がっているトグリを見ながら、私は腰に手を当てた。

 

「できましたねぇ。ちょっと驚きです」

「強化でこんなことができるんだ……体を固めることしか頭になかった」

「チャプ、この大跳躍って使えそうですか?」

「そりゃもちろん! 体ひとつで飛んでいけるんだから敵の裏をかくこともできるし、もっと跳ぶ距離を伸ばせば高い崖だってひとっ飛びで越えられるよ」

「んー、でもそれって黄の魔石術でもできますよね? 人や物を引っ張り上げたりして」

「そうだけど、あれって黄の魔石術が得意な一級の人しか使えないじゃない? 特に人の移動は僕たちは苦手だから咄嗟にはできないもん。この強化ならもっと簡単に使うことができるよ。僕の特性だから」

 

 それから赤の衝撃の魔石術でも同じことができるのではと実験してみたが、いくら衝撃の力を小さくしても跳んでいく方向をコントロールすることができず、トグリの体があっちこっちに吹っ飛んでいった。

 

「狙ったところに着地できるのはこの強化だけだよ。すごい、本当に新しい必殺技ができちゃった!」

「あまり派手な必殺技にはなりませんでしたね」

「なに言ってんの! これを使って『大跳躍衝撃斬!』とか『大跳躍一閃!』と出せるんだよ。立派な必殺技だよ! ありがとうディアナ!」

 

 そのような必殺技を出す機会はあるのだろうか、と思ったが、双子が喜んでくれたようなので良しとする。

 その後、二人の練習を見ていたパンムーとアルニーが走りと跳躍のアクロバティック技を開発していた。ここにいる全員でサーカス団を作ったらいいのではないかと、少しだけ考えた。

 

 それにしても強化ってこんな使い方できるんだね。守りの魔石術って言われてるけど、それとはイメージが離れてきちゃったな。

 

 そんな休日を過ごしたあと、私は久しぶりに王の書斎に呼ばれた。

 

 

 

 

チームへのご褒美回でした。

双子の必殺技は使われる日が来るのでしょうか。

次回は久しぶりのアルスラン登場。


次は 芽生えた我欲、です。

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