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娯楽革命Ⅱ 〜熱狂はここに咲く〜  作者: 藤田 麓
第一幕 北西街代表選

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39 大会の閉会式


 それからの試合は一進一退を繰り返す展開となった。冷静さを取り戻した双子は私の指示をきちんと聞くようになり、前半の相手の動きを分析したオプラーシャが効果的な作戦を考え、私たちが実行に移す。相手も次から次に違う攻め方をしてきたが、攻撃の騎士たちの動きのパターンを把握できたのもあって、なんとか防ぐことができた。

 

 本当に、何個作戦を考えてきたんだろう。

 

 ウマルは声に出さず、小さなサインを出して選手たちを動かしていた。彼らも文句を言うこともなくそれに従っていく。それでも試合の終盤に入って一対〇のままでいると、さすがに焦りが出てきたようだ。高い位置にずっと立っていた彼は自チームの一級の選手になにやら合図を出す。すると黄色い光がウマルを包み、そしてそのままこちらに飛んできた。

 

「……!」

 

 彼はヴァキルの近くに立っていた私の一段下の石に着地すると、素早く口元に小さな笛を当てて思いっきり息を吸った。

 

 ピィィィ——————————‼

 

 間近で鳴らされた甲高い大きな音に私は思わず耳を塞いで「わあ‼」と叫ぶ。エルフの耳に脳天を貫かれたような痛みが走る。涙目になってウマルを睨むと、彼はヴァキルに向かって魔石術を唱えた。

 ウマルから放たれた赤い光がカーブしながらヴァキルに迫る。が、その直前で違う方向から飛んできた衝撃の光に弾かれた。

 

「な……!」

「間に合った……!」

 

 ヴァキルの裏からクヤンが現れて拳を握る。それを見て、私は耳から手を離して魔石術を唱えた。

 

「『サリク』石をずらして」

 

 ウマルの立っていた石が三段分黄色の光に包まれ、横にずれた。三メートルの高さから悲鳴を上げてウマルが落ちていく。彼は騎士とは違って戦闘に慣れていないので、しばらく動けないだろう。

 

「クヤンありがとう!」

「オプラーシャに警戒するよう言われてたんだ。本当にその通りになった!」

 

 クヤンは興奮するようにそう叫び、すぐに周囲を見回す。最初はビビっていた彼も今日の試合の中で慣れてきたようだ。

 それから守備に奮闘している間に、試合終了の銅鑼が鳴った。

 ジャァァァアンッという音とともに会場中からワッと歓声が上がる。スコアは一対〇のまま。最初の一点を守り切った。

 

 ふぅー……勝てたね。良かった。あー……まだ耳が痛い。

 

 奥の方がズキズキと痛む。耳を揉んでいると、それに気づいたオプラーシャが癒しをかけてくれた。彼女は本当によく気がつく。

 ピラミッドから下に降り、整列して観客たちの声に手を振る。どうやらお客さんたちも満足してくれたようだ。拍手とともにたくさんの明るい言葉が降ってくる。

 その後、一度選手たちはフィールドから関係者通路に出されて、閉会式の準備がされることになった。細長い小上がりに腰掛けて休憩していると、徐にプルキンが廊下の向かいの小上がりで休憩していた相手チームに近づいていく。彼はウマルの前に立つと、腕を組んで眉を顰めた。

 

「先ほどのディアナ様への笛は選手への攻撃に当たるのではないか? クシュラサ様に止められなかったからそのまま続行したが、貴殿の攻め方は少々卑劣に思える」

「……あの攻撃が反則なら、忌み笛の方が痛みとしては酷いと思うが? それに今回の大会ルールにアイテムの禁止という項目はなかった。故に卑劣でもなんでもない」

「なんだと……⁉」

 

 ウマルの言い分にプルキンの顔に青筋が浮かぶ。剣呑な空気に私が止めようと腰を浮かすと、向こうの他の選手たちがプルキンに同意し出した。

 

「ははは、確かに止めれなかったから良かったものの、ウマル様の作戦は騎士から見ると有り得ないくらい汚かったな」

「敵の裏をかく、というのはわかるが、そのやり方がなぁ」

「作戦をサインで覚えるのも大変だったし」

「頑張ったのに結局負けちゃったしな」

「……はぁ、疲れた」

 

 チーム内から次々と出てくる文句にプルキンがあんぐりと口を開ける。

 

「……其方、仲間に全く慕われてないではないか」

「フンッ。当たり前だ。優勝するために急遽かき集めたメンバーだからな。私が使えると思った人間を無理に引っ張ってきただけだ。仲間意識なんてない」

 

 試合に負けたからか、挨拶した時のような穏やかさを放り投げたウマルに、私はトコトコと近づいた。

 

「無理に引っ張ってきたとは?」

「……私は人の弱みをかき集めるのが趣味だ。だから弱みを知っている人間の中から勝つのに必要な人材を選んだ」

「へ?」

 

 話を聞くと、ウマルは昔から病気がちで、家に籠ることが多く、外交的な性格でもなかった。暇を持て余したウマルは他人の情報を集め、分析するのを楽しむようになった。そうしているうちに、会ったこともない人たちの派閥問題や個人的な弱点に詳しくなったのだという。

 家族はそんなウマルのことを陰湿で気味が悪いと、あまりよく思わなかった。

 今回、大会が開かれることを知って、優勝すれば家族からも多少認められると思ったウマルは、弱点を知る人の中から有能な者を選び、彼らに「弱みを他の人に知られたくなければ協力しろ」と迫ったんだそうだ。

 

「……それって脅迫ではないですか」

「そうなんです。酷いんですよ、ウマル様は……私は家族に内緒の借金がありまして、それをネタに脅されたのです」

「私は婚約者がいる身で他の女性と親しくしていた、ということを知られて……」

「私も借金です……」

「私も……」

 

 なにも聞いていないのに相手チームの人たちが次々と弱点を暴露し始めた。彼らの反応を見るに、あまり深刻には捉えてなさそうだ。そうでなければ今ごろもっとウマルにキツく当たっていたはずだから。

 それよりも私は彼の能力に興味を持った。

 

「だからウマル様は私や双子の弱点を知っていて、利用したんですね。もしかして、決勝までの試合でも相手選手のことを調べて?」

「ああ……そうだ。選手の情報を集めて、弱点を探った。試合中にその弱点を突く作戦を考えて実行していたのだ」

「今回出場していた選手って……九十人以上いますが。全員調べたのですか?」

「そうだが? ただ移住民の情報は集まりにくかったから、有益な情報は地元民の選手が多かった」

 

 その返事を聞いて私は目を瞬いた。出場者名簿は一応公開はしていたが、大々的に発表したものではなかったし、大会までそんなに時間もなかった。その中でここまで情報を集めていたとは。しかも表に出ずに。

 

「ウマル様はどのようにして情報を集めているのですか?」

「フンッ。言うわけないだろう。家族が気味悪がるくらいだ。褒められたやり方じゃない」

「優秀な側近がいるとか?」

「言わないと言っている」

「誰にも言えない能力を持っているとか?」

「……話を聞いているか?」

「使用人が暗躍してるとか?」

「聞いてないな」

 

 最後に発したウマルの声に、私の耳がピクリと反応した。

 

 少しだけ、声が上擦ったね。平民の使用人が情報を集めているのか……きっとまともな使用人じゃないんだろうな。

 

 私はそう判断すると、にこりと笑顔を作る。

 

「確かにウマル様の作戦は裏をかいたものが多かったですが、ルール違反ではありません。むしろルールの穴をついた見事な戦い方だったと思います。大会を運営する者として、今回はとても勉強になりました」

 

 その言葉にウマルが怪訝な顔を私に向ける。学生とは違い、大人の貴族たちが選手として戦うのだ。ウマルのように選手への攻撃と見做されないギリギリの戦い方をする人も現れるだろう。

 

「これからシムディア・アインを発展させていくのに、必要な体験だったと思います」

「……このような大会を、今後も開催していくのか?」

「はい。そのための準備段階として、今回の大会を企画したのです。ウマル様、シムディア・アインには興味がおありなんですよね?」

「……まあ、参加するくらいだからな」

「でしたら今後も協力してもらえませんか? ウマル様の情報力を今後の運営にも活かしていきたいのです」

 

 そう言ってニッと笑うと、ウマルは眉根を寄せたまま首を傾げた。

 

「ディアナ様は……思った以上に変な人なんだな。これは集めた情報にはなかった」

「ディアナ様は変ではない。偉大なお方だ!」

「変というか、面白いよね」

「あと怒ったら怖いよね」

 

 プルキンと双子が私の後ろからなにやら言っているが、ウマルはそれを無視して片眉を上げる。

 

「……まぁ、どうせこれからも家族からは認めてもらえないだろうし、暇だからいいよ。貴女とやりとりするうちに新たなアリム家の情報も手に入りそうだ」

「ではこれからもよろしくお願いします」

 

 その後、閉会式が始まり、私たちのチームは大歓声の中、優勝トロフィーをもらった。もちろんこれも事前に私が発注していたものだ。この世界には勲章はあるがトロフィーはなかったので、新しく作った。それを受け取って掲げると、お客さんから拍手が送られる。

 

 今度は優勝メダルとかも作りたいね。

 

 大会の進行を務めていたクシュラサから大会の感想が伝えられ、最後に私が台へ上がって挨拶をする。

 

「こうして、無事に大会を終えることができてホッとしています。盛り上げてくださった皆さま、ありがとうございました。楽しんでいただけたでしょうか?」

 

 私がそう問うと、客席から再び拍手が湧き起こる。

 

「シムディア・アインという競技を披露できて嬉しいです。今回は臨時で開催しましたが、できればこれからも大会を続けていきたいと思っています。よければ今日見た試合の感想を、周りの方々に広めてください」

「おお、これからも開催されるのか」

「今日来れなかった者たちにも話さなければ」

 

 それから私は、今回の優勝賞金のうち、私の取り分を次回の大会に繰り越すことを伝え、改めて競技場を提供してくれたアルサイ家にお礼を伝える。閉会式にはアンビシアも参列し、父親のケルディの隣で無言で笑顔を作っていた。

 

 黙っていれば本当に、美人で妖艶なお姉様だね。

 

 そして最後に劇団の宣伝もしっかり入れた。今日たくさん集まった貴族男性にはまだまだ劇団の存在は知られてないと思ったので、自然と熱が入ってしまったが、私の思いは伝わったと思う。

 閉会式が終わって、お客さんの退場が始まり、私は撤収の様子を見守るためにチームのみんなと別れて観客席上部の部屋に向かった。ルザとイシークが「やっとお側にいられます」と言って付いてくる。

 部屋の中に入ると、先に戻っていたアンビシアがなぜかため息をついて眉間を揉んでいた。

 

「アンビシア様、どうかされたのですか?」

「……別に、なんでもないわ。さっきちょっと変な男に絡まれただけ」

「え! 大丈夫なのですか? なにか酷いこと言われたのですか?」

「そういうのじゃないわよ。はあ……疲れた」

 

 アンビシアの答えにオロオロしていると、父親のケルディが眉をハの字にして苦笑する。

 

「閉会式が終わってこの部屋に戻る途中で、観客席から関係者通路に無理に入ろうとしてる男性がいてね。おや、と思っていると、その男性が制止を振り切ってこちらへ駆けてきて、アンビシアの前で跪いたんだよ。『貴女の美しさに心を奪われました。私と結婚してください』って言って……」

「えええ! きゅ、求婚ですか⁉ いきなり?」

「ええ……私も驚きました。閉会式に出席したアンビシアを見初めたようで……」

「それはなんというか……怖いもの知らずですね」

「私もそう思います」

 

 ケルディとそう言い合っていると、アンビシアから「ちょっと」と鋭いツッコミが入る。

 

「それでどうしたのですか?」

「アンビシアが『嫌です』とすぐに断ってしまってね。男性もめげずに言葉をかけようとしたのだけど、この子がそれを無視して歩き出してしまって……」

「どこの誰かもわからないのに、まともに相手なんてしてられないわ。それなのに私の足元にまとわりついてきて……撒くのが面倒だった」

 

 この世界では見知らぬ男女がいきなり触れ合うことはない。腕を掴んだりするのも基本的にはマナー違反なのだ。そのため男性は彼女に引き離されまいと頑張って付いていっていたようだが、結局アルサイ家の人たちに阻まれ、断念したようだ。

 

 世の中、変わった人もいるもんだね。

 

 そんな迷惑そうな人は確かに嫌だろうなと思っていたが、ケルディはそこそこ乗り気だった。彼女の結婚に関しては半分諦めていたそうで、「この際、家柄が釣り合っていれば結婚も有りかと。アンビシアを気に入ってくれる男性などそういないのですから……!」と力説していた。

 その後、撤収を見守りつつ、大会のことを話している間に帰る時間になった。今日起こった問題や、観客の詳しい反応についてはまた後日まとめることとなり、私たちは家路につく。

 

 ふう。とにかく無事に終わってよかった。初めての大会として大成功だったね。

 

 

 

ウマルのやり方に苦戦しましたが、何とか優勝することができました。

ウマルの事情。なかなか曲者です。

優勝トロフィーをもらって無事に大会が終わりました。


次は 見たい光景、です。

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