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娯楽革命Ⅱ 〜熱狂はここに咲く〜  作者: 藤田 麓
第一幕 北西街代表選

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38 決勝のゆくえ


 準決勝の二試合目が終わり、決勝に進出するチームが決まった。決勝の相手は地元民の高位貴族チームだ。経験者と騎士が数人入っていて、一級も二人いる、どちらかというと攻撃が得意なチームのようだ。決勝は三十分あり、試合開始までは休憩も少し長めにとられている。

 控え室で作戦会議をしていると、相手チームのリーダーが挨拶に来た。ひょろりとした痩せ型の顔色の悪い男性だ。二十代半ばくらいに見える。

 

「同じ地元民ですが初めてお会いします、ディアナ様。トールス家のウマルといいます」

「初めまして、ですね。地元民の方には社交でお会いしたと思っていましたが」

「昨年の社交の期間は少し伏せっていまして、会うことができませんでした。シムディア・アイン大会に出場できて嬉しく思います」

「伏せっていたのに、シムディア・アインに? 大丈夫なのですか?」

 

 私が心配して聞くと、彼は蜂蜜色の目を細める。

 

「私は作戦を考えて指示を出すだけなので。他の選手は屈強なタイプが多いですし、心配いりません。決勝、楽しみにしています」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 互いに微笑み合って別れると、私は歳の近そうな双子とプルキンに彼のことを尋ねた。

 

「僕はあまり知らないなぁ。多分一級じゃないから学院でも共通点なかったと思う」

「僕もトグリと同じで知らない。社交でも見たことないかも」

「私は移住民なので特に接点はないですね。チームにいる騎士たちはよく知ってますが」

 

 プルキンが言うには、相手チームの騎士二人は王宮騎士団で、どちらも二級。声が大きく、派手で、よく目立つ二人らしい。エリートの王宮騎士団所属なので、双子やプルキン同様かなり強いのだろう。

 

「どういう繋がりでチームに入ったのか謎だね……」

 

 うちのように血縁関係でも、知り合いでもなさそうなメンバーに私は首を捻る。しかし彼らのこれまでの試合の様子を見ると、最初から連携が取れていて、落ち着いてプレーしていた。安定した強さで決勝まで勝ち残ってきたのだ。

 

 どんな風に戦おうかなぁ……。

 

 そう思っていると、選手控え室に会場の警護をお願いしていたクーンがやってきた。彼は私の方にやってくると、申し訳なさそうな顔になって口を開く。

 

「ディアナ様、少しよろしいでしょうか」

「はい。どうかしましたか?」

「先ほどクシュラサ様、アサビ様、アンビシア様から呼ばれまして、観客から少々不満が出ていると……」

「不満ですか? どのような?」

「準決勝の様子を見て、ディアナ様の圧倒的すぎる力に驚いた方々が、『主催者が他を寄せ付けぬ力で勝つのはどうなのか』……と」

「あ、ああー……」

「ルール違反ではないものの、ディアナ様は主催者であり、シムディア・アインの発案者でもあります。知識や経験がずば抜けている方がなんの制限もなく力を振るうことは、公平であるのかという意見が出まして……そこでアンビシア様が『それなら決勝戦だけでもハンデをつければいい』と」

 

 確かにさっきのように力技で相手を叩き潰す試合を見たら、そのような話が出るのは想像できる。

 

 相手選手の言葉にムカついて、やっちゃったからね……。しまったな。

 

「ハンデはどのようなものに?」

「クシュラサ様が、ディアナ様が使う力に制限をかけたらいいのではと仰ってました。フィールドの全ての石に留まる魔石術をかけることや、相手が動けなくなるほどの攻撃をすることを禁じるのはどうか、と」

「ええーでも、留まる魔石術は準決勝の相手も使ってたじゃない。決勝でディアナだけが制限されるなんておかしいよ。平等じゃない」


 クーンの説明にトグリが口を尖らせて文句を言う。

 彼の言う通り、そもそも使える魔石術の強さに階級の差があるのは当然のことだ。一級内であっても、結構差はある。特に私は一級の一番力の強いグループに属していたので、その力を振るうと誰も私の魔石術を崩すことができなくなる。普通の試合ならその力の差で勝つのは問題はない。けれど……。

 

「今回の大会は私が主催者ですもんね。それを思うと公平ではないという意見も間違いではありません。わかりました。クーンさん、運営側に私の魔石術は制限するとお伝えください。それを決勝前に観客に説明してくださると助かります、とも」

「は! かしこまりました」

 

 全ての石へ一斉に魔石術を使うことと、相手選手全員の動きを止める攻撃魔石術は禁止か。まあ他にも使える魔石術はたくさんあるし、なんとかなるかな。

 

 それから少し経って、両チームが呼ばれた。フィールドに入ると、たくさんの観客から声援が送られる。どうやらクシュラサが決勝でのルールを説明してくれたらしく、みんな納得した顔をしていた。前を歩くトグリがチラリと私を振り返る。

 

「本当にいいの? ディアナ」

「はい。この大会は楽しんでほしいっていうのが目的ですから。主催者である私がそれを邪魔することはできません」

「確かにみんな楽しそうだけど……じゃあディアナの目的はもう叶っちゃったってこと?」

「いえ、私の目的は一つではないのでまだ叶ってないです」

「え?」

「優勝ですよ。この最強チームで勝つことも目的ですから」

 

 フィールドに整列しながらトグリに言うと、彼はブハッと吹き出した。

 

「さっすがディアナ! それでこそアリム家の人間だよ」

「父上がディアナを可愛がるわけだ」

 

 横で話を聞いていたチャプもそう言って肩を震わせる。二人は「すっごいやる気出てきた」と肩をぐるぐる回し始めた。

 フィールドの石の配置はピラミッド型だった。学院の時にもやった懐かしの配置である。両チームの陣に一つずつ巨大なピラミッドが作られていて、その一番上にヴァキルが横を向いて設置してある。

 両チームの紹介と、リーダー同士の挨拶が行われたあと、選手たちはそのピラミッドを登っていく。えっちらおっちら登っていると、観客席と同じ高さになったようで、お客さんからの声援がより大きく聞こえてきた。

 

「ディアナー! がんばれー!」

 

 あ、今の声ラクスかな。……ん?

 

「姉上ー!」

「がんばえー!」

「ねねー!」

 

 多くの声援に混じってジャシュとアルトゥルとラズーリの声も聞こえてきた。石を登りながら私は思わず心の中で拳を握る。

 

 お姉様、頑張るよ!

 

 弟や妹たちに無様な姿は見せられない。今日一番の力がみなぎってきた。

 両チームがヴァキルの周囲で待機したのを確かめて、クシュラサが試合開始の銅鑼を鳴らした。

 試合の序盤は準決勝とは違って静かに始まった。互いに自陣のヴァキルを石で囲ったあと、じりじりと動き出す。ピラミッド型は直接攻撃しようとすると自陣のピラミッドをまず降りて、そこから相手側のピラミッドを登らなくてはならない。攻める手間が今までと全く違うのだ。

 そしてピラミッドを降りなければ、魔石術での攻撃を考えているとバレバレだ。故に相手側の出方を窺いながら構える時間が長くなるのである。

 

 攻撃型のチームって聞いてたからすぐに動くと思ったけど……違うんだ。

 

 私はさっき挨拶したウマルをじっと見る。彼はヴァキルの斜め前に立ったまま、特に武器を構えることなく立っている。今までの試合でもそうだった。かといって大声で指示を出すわけでもない。

 

 やっぱり不思議だよね。どうやってチームをまとめているんだろう。

 

 長い待ちに焦らされた双子が、痺れを切らして衝撃の魔石術を撃ち始めた。それを相手の一級選手が衝撃で防いでいく。その衝突をきっかけに互いの攻撃選手たちが動き出した。こちらからは双子だけがピラミッドの階段を駆け降りていく。

 スピードがあるトグリが転がるように下まで降りると、すぐにピラミッドのサイドに走り込んでいった。それに気付いた相手選手が彼の進路を邪魔するように石を移動させる。


「プルキンさん、クヤン、行くよ!」

「はっ!」

「わかった!」

 

 私の合図でこちらから一斉に移動の魔石術を唱える。三人から飛んだ黄色い光が相手側のピラミッドの石にそれぞれ届くと、それらを選手全員の前に積んでいく。とある石に飛び乗ろうとしていた攻撃選手は、私の魔石術で足元の石がずらされ、その穴に落ちていった。

 

「おおお! 一斉に動けなくしたぞ!」

「チームワークが素晴らしいですわ!」

 

 相手選手は目の前に積み上がった石を慌てて魔石術で動かしていくが、その間に私とプルキン、敵陣の下にいるチャプが衝撃の魔石術を放つ。相手選手がそのうち何個か防ぐが、逃した衝撃がヴァキルを守っていた石に当たった。バコオオンッという音がして、積まれた六割が砕け、ヴァキルが露わになる。

 

「よし、もらった!」

 

 ちょうどサイドに回り込んでいたトグリが続けてヴァキルに衝撃を放とうとするが、その途中で急に耳を押さえてしゃがみ込んだ。

 

「トグリ⁉」

「イタタタタタ! なにこれ頭痛い!」

「うわぁ! 忌み笛だ!」

 

 トグリに続いてチャプまで耳を塞いで倒れ込む。それを見てプルキンが「しまった!」と声を上げた。

 

「ディアナ様! 忌み笛が鳴っているようです!」

「なにそれ?」

「魔物や魔獣が多い場所に行く時に使う笛です。魔物や魔獣だけに聞こえる嫌な音を出し、近づけなくする道具なのです! たまにその音が聞こえる人間がいるのですが、トグリとチャプもあれが苦手で……!」

 

 ええ! なにそれ! 魔物たちを退ける音にあの二人もやられてるってこと⁉

 

「あれは反則ではないのですか?」

「特殊な道具の使用は今回は特に禁止されていないはずですが」

「確かに特になにも禁止してないけど……あんな道具があるなんて」

 

 一体誰が笛を……と思っていると、オプラーシャが声を上げた。

 

「ウマル様が口元になにかをあてています!」

「オプラーシャ、ウマル様を穴に落として!」

「はい!」

 

 黄の魔石術の使い方が上手いオプラーシャにそう頼むと、私は双子に癒しの魔石術を飛ばす。足元の石をずらされたウマルは笛を中断し、咄嗟に隣の石に飛び乗った。

 

「……! ディアナ、彼がなにか周りにサインのようなものを出してます!」

「……⁉」

 

 事前の作戦でオプラーシャにはウマルの動きを見ているようにお願いした。その彼女から次々と警戒の言葉が飛び出す。

 

「『サリク』騎士たちを向こうへ」

 

 その時、相手の一級選手二人が同時に移動の魔石術を唱え、目の前にいた騎士二人が黄の光に包まれる。そしてそのまま騎士たちは浮くように空中に飛び出し、こちらのピラミッドに着地した。いきなり自陣のピラミッドの中腹に敵が現れて、私たちは目を見開く。

 

「人を移動させただと⁉」

「こんな高度な魔石術を使えるなんて!」

 

 物を移動させる以上に人や生物の移動は難しい。一級でも苦手な人が多い魔石術だ。私もちゃんと着地させることができるか不安で、あまり使ったことはない。

 

 それより、この戦法を今まで隠してたことがすごいよ。

 

 ピラミッドに着地した騎士二人は豪快に笑いながら、こちらのヴァキルを守っている石に衝撃を撃ち始める。近くから撃たれる魔石術に、私とプルキンが反応して対抗した。

 

「ははは、さて、戦闘に慣れている騎士が一人しかいなくて、いつまで持つかな!」

「プルキンがいなければすぐに突破できたのにな!」

 

 元気な声で吠える騎士たちを見て、クヤンとオプラーシャは後ずさる。彼らの圧に気圧されているようだ。

 

「クヤンとオプラーシャはトグリとチャプのフォローをして! こっちはなんとかするから!」

「え、でもこっちも危険だよディアナ!」

「大丈夫だから。プルキンさん、ちょっと下がってください!」

「……! は!」

 

 迫ってくる騎士たちに向かおうとしていたプルキンは、私の指示を受けてすぐに石を登ってこちらに戻ってくる。それを見て私は移動の魔石術を使った。

 相手の騎士二人が立っていた石を勢いよく縦三個分ずらすと、その穴に騎士たちが落ちていく。

 

「ぐわあああ! 早い!」

「しまった!」

 

 だが落ちた騎士たちは学生と違って、立ち直りが早い。すぐに衝撃斬を使って石を破壊し、横に飛び出してくる。

 

「ディアナ! トグリとチャプさんの様子がおかしいです!」

「……!」

 

 衝撃斬の揺れに耐えていると、相手チームを見ていたオプラーシャが声を荒げる。そちらに目をやると、双子がなぜか相手陣のピラミッドの石を一つ一つ衝撃で壊していた。

 

「なにやってるの??」

「さっきからまた忌み笛を使われているんです! 私がウマル様の邪魔をしようとしてるんですが、うまくいかなくて……!」

「もしかして、石が砕ける音で忌み笛の音を相殺しようとしてる?」

「そうだと思います!」

 

 すごい、なんてアナログなやり方……。

 

「プルキンさん、クヤンは騎士たちの進路を阻んで! 下の方まで落ちたからさっきよりは邪魔しやすいはず」

「はっ!」

「わ、わかった!」

 

 私は指示を出して冷静に相手陣の状況を確かめる。石を手当たり次第壊していく双子に、相手の一級選手たちが対策を打ちだした。双子の周りの石に強化の魔石術をかけたのだ。両者の力は拮抗しているらしく、衝撃を当てても石は崩れないままだ。その状況に双子のイライラが揃って頂点に達した。

 

「もおおお! 忌み笛だけでも鬱陶しいのに邪魔しないでよ!」

「むぎいいいい! あ! イタタタタタ!」

 

 キレてるところに忌み笛を使われたのだろう。二人ともまた頭を押さえて唸り声を上げた。そこで私は素早く衝撃の魔石術を唱える。

 ヴァキルに向かって鋭く飛んでいく赤い光を見て、相手の選手たちが全員そちらに注目した。双子を止めていた一級の選手たちは間に合わず、ヴァキルに近いウマルが笛を口から離して衝撃を放つ。

 二つの衝撃がぶつかって激しい音を鳴らしている間に、私はもう一つ魔石術を唱えた。

 

「『サリク』笛をこちらに」

 

 一級の最大の力で命じると、私から高速の黄の光が飛び出し、ウマルの持っていた笛にぶつかる。

 

「……!」

 

 彼がそれに気付いた時には、笛は大きな弧を描いて飛び出し、空中を移動して私の手にスポッと収まった。

 

 これで邪魔なアイテムはなくなった。あとは双子がヴァキルを鳴らしてくれれば……!

 

 そう思って双子に視線を移すと、なぜか二人ともその場から動かない。よく見ると彼らは一級の選手たちと衝撃と強化の力比べを続行していた。

 

「なんで⁉」

「ムカつくムカつくムカつく! ここにある石全部壊してやる!」

「邪魔しないでよ! 僕たちの方が力は上なんだから!」

「ぐ……! なんて力だ!」

 

 双子渾身の衝撃が相手選手の力を上回ったらしい。彼らの周りにある石が派手に砕けていく。

 

「なにやってんの! 破壊するんじゃなくてヴァキル鳴らさないと!」

「忌み笛の攻撃にキレて我を忘れてしまったのではないですか?」

「そんな馬鹿な……!」

「有り得ます! ディアナ様、彼らは魔石術の力は強いですが興奮するとよく暴走するのです!」

 

 オプラーシャの分析にプルキンがそう答える。これまで双子とは何度か戦闘をともにしたが、こんな状態になったのは初めてだ。しかし、彼らの性格を考えるとよく暴走する、という可能性は十分に考えられる。

 

 ……まさか、双子がこうなることも知っててこの作戦にしたんじゃ……。

 

 思わずウマルを見るが、彼は相変わらず突っ立ったまま、状況を見つめている。と、その時オプラーシャが後ろを振り返って叫んだ。


「ディアナ! 裏に敵が!」

「……!」

 

 彼女の言葉に急いで裏側に回ると、ピラミッドの裏側の中段に相手選手が身を潜めていた。私たちに見つかったと気付いた選手は衝撃の魔石術を繰り出す。

 

「『ヤシル』強化を!」

 

 私はすぐにヴァキルを守っている石の壁に強化をかけ、それを紙一重で防いだ。

 

「うおおおお! 危ねぇぇ」

「冷や冷やしたぞ」

 

 選手がこっそり潜んでいたことに気付いていたらしい観客からドッと声が漏れる。

 

 ……これも、ウマル様の作戦か。

 

 おそらく派手な攻撃を騎士たちにさせ、双子を忌み笛の攻撃でキレさせ、周りが騒がしくなっている間に最後の選手をこちらの裏に送り込んだのだろう。

 騎士たちや裏からの選手に狙われる状況になって、クヤンが焦った声を出す。


「ど、どうするの? このままじゃ力で押し切られて……!」

「……大丈夫。プルキンさん、クヤン、オプラーシャ、なんとかヴァキルを守って」

「そんなに時間はもたないよ⁉」

「わかってる、クヤン。すぐに終わらせるから」

 

 私はそう言って相手の陣地を見据える。下の方で双子と一級の選手たちがやり合っているが、ウマルは高い位置からこちらを見ていた。

 

 そっちが使った技、使わせてもらうね。

 

 私は一つ深呼吸すると、スッと目を細めて集中する。頭の中で釣り糸のイメージを膨らませて、手を前に掲げた。

 

「『サリク』双子をあちらへ」

 

 そう命じると、黄色い光が魔石から二手にわかれて飛んでいき、大暴れしている双子にぶつかった。私は二人をむんず、と捕まえるイメージで掴むと、ぐいっと上へと引っ張った。

 ビョーンと跳ねるように弧を描いて移動した双子は、ピラミッドの一番上にあるヴァキルを覆う壁の左右にズドンと着地する。勢い余ってかなりの強さで着地させてしまったが、キレている双子にはあまり影響はない。

 一瞬の出来事に相手チームの選手は目を見開いて固まっている。

 

「トグリ! チャプ! 目の前にある壁を崩してヴァキルを鳴らして!」

 

 私がそう叫ぶと、目が据わったままだった双子がクワッと目を開いて剣を構え、目の前にある石の壁をぶち壊した。

 

「壁、邪魔!」

「ヴァキルどこ! あった!」

 

 勢いそのまま崩れた壁に突っ込んでいった双子は、中にあったヴァキルに左右から同時に剣を振り下ろした。

 カアアアアアン‼ という大きな音が会場に響き渡る。そしてそのあと、私の後ろにあった壁が衝撃で壊された。

 

「うおおおおお! ギリギリだ!」

「くうう! もう少しだったのに!」

 

 ちょっとのタイミングの差でこちらがヴァキルを鳴らせたことに、観客たちから歓声が上がる。

 

 ふう……危なかった。

 

「あと一歩だったのにな!」

「残念だ!」

「……チッ」

 

 こちらに攻め込んでいた騎士二人と選手一人が一つため息をついて自陣に戻っていく。それを見て「た、助かったぁ」とクヤンがその場にしゃがみ込んだ。

 

「さすがです、ディアナ様。あの移動の魔石術を使ってトグリとチャプを利用するとは」

「二人の人間を動かすのは初めてやったので、緊張しましたけどね。さて、あとはあの二人だね……」

 

 私はそう言って再び魔石術を使い、ヴァキルを鳴らしたあともプンプン怒っている双子をこちらに移動させ、有無を言わさず鎮静の魔石術をかけた。

 冷たい水をザバッと浴びるように青の光の食らった双子は、動きを止めたまま、目をパチパチと瞬かせる。そんな彼らに私はにこりと笑みを作った。

 

「……二人とも、さっきまでなにをしていたのか覚えていますか?」

「……え、あれ……」

「……僕たちなんでここに?」

 

 その答えに私はさらに笑みを深める。

 

「試合中に暴走したこと、覚えていないのですか?」

「え……あ……」

「ディアナ、顔が怖い……」

「覚えてないのですか?」

「ヒッ……覚えてないけど今思い出しました」

「なんかちょっと暴れちゃった気がする……っ」

「ちょっとではありません。大事な試合中に我を忘れるなんて、していいと思っているのですか?」

「……お、思っていません」

「ご、ごめんなさい!」

「アリム家の騎士たるお二人が、そんなことをするなんて思ってませんでした」

「すみませんもうしません!」

「許してください!」

 

 どんどんと声が低くなる私にひぃぃぃんと泣きそうな顔をして、双子が謝り倒す。その姿を見て私は表情を緩め、ほう、と頬に手を当ててため息を吐く。

 

「今日の試合はおじい様もおばあ様も、お父様も見ているのですよ? お忘れですか?」

 

 その一言に二人はサッと顔色をなくした。そして「マズい……」「このままだと最大級に叱られる」とカタカタと震え出す。

 

「ディ、ディアナ助けて……!」

「ぼ、僕たちの命を救って!」

「もうやってしまったことは仕方ありません。けれど、このあとの残り時間トグリとチャプがきちんと動くことができれば、挽回できるかもしれません。私からお二人の活躍があって良かったとおじい様やおばあ様に伝えることはできますよ」

「ちゃんとやる! 言うこと聞く!」

「もう暴走は絶対しないから! 誓います!」

 

 二人の必死の宣言に私は肩の力を抜いて、眉を下げた。

 

「その言葉、忘れないでくださいね。では、残りの時間、この一点を大事に守っていきましょう」

「はい!」

「どんなことがあっても守ります!」

 

 話が終わったとこで、オプラーシャがボソリと呟いた。

 

「ディアナは、魔獣使いの才能があるようですね。素晴らしいです」

 

 

 

 

地元民の高位貴族チームに翻弄されましたが、

何とか一点を先取。

勝手に暴走した双子にディアナが静かにキレました。


次は 大会の閉会式、です。

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