37 北西街シムディア・アイン大会 後編
私たちの試合に続いて、一回戦の他の試合が行われた。トーナメントの組み合わせは完全にランダムにしたため、まとまっているチーム対バラバラのチーム、高位貴族チーム対下位貴族チームなど優劣が簡単についてしまう試合もあったが、学院でシムディア・アインを経験していた選手がいるチームもいて、思った以上に盛り上がった。
やっぱり経験者がいるチームは強いね。ちゃんと作戦を考えてるし、動きが早い。
騎士が入っているチームも身体能力がずば抜けているので、アクロバティックな動きで敵を翻弄したり、石を大胆に使ったりしていて、見ていて面白い。
中にはうっかり反則を犯したり、悪どいことをして選手を貶めようとしていたチームもあったが、それには容赦なくクシュラサやアサビから警告が飛び、反発するチームには退場をしてもらった。
ちょっとした揉めごとはあったけど、無事に一回戦は終わったね。
そのことに少しホッとしつつ、私は見学していたフィールドから関係者通路に戻り、ルザとイシークと合流してそのままアンビシアが待機している個室へと向かう。
二回戦はお昼休憩のあとだ。今ごろ会場ではお客さんたちが自分たちで用意した昼食を食べているだろう。今回は客席で食べる人と、競技場内部に用意された休憩部屋で食事をとる人にわかれている。高位の人たちが部屋を使うことが多いのだが、彼らの食事スピードはゆっくりなため、おそらく二回戦の試合には間に合わない。
貴族の人たちが観客席で注文した料理を食べられるように準備したかったけど、さすがにそこまでは無理だったんだよねぇ。
今日は臨時で行われた大会だ。学院の時のように食事を用意したり、特等席を作るのは難しい。
「アンビシア様、大会の様子はいかがですか?」
関係者用の個室に入ると、アンビシアは窓から会場の様子を窺っていた。
「今のところ問題ないわ。試合の方はクシュラサ様とアサビ様が仕切ってくださっているし、観客も特に大騒ぎすることなく観てるわね。各々自由に休憩したり出入りしたりしているわ」
「地元民と移住民で衝突したりはなさそうですね」
「文句を言ったり、わざと聞こえるように野次を飛ばしたりする人はいるけどね。全く、貴族らしくないこと」
「アンビシア様も観客席の中にいたら言ってそうです」
「うるさいわね。その口強制的に閉じるわよ」
「うむむー!」
私が軽口を言うと、思いっきり指で口を挟まれた。側近二人が慌てるのを見て、彼女はすぐに手を離す。
「やっぱりアンビシア様をチームに入れなくて正解でした。すぐに手が出ちゃうんですから」
「貴女が余計なこと言うからでしょう? クヤンにも昔からそうして躾けてきたのよ。貴女もそうして欲しい?」
「いいです。遠慮します。もう軽口は言いません」
「よろしい。それで? 選手側の方はどうなの?」
「こちらも特に問題ないですよ。反則負けしたチームの人たちはなにやら文句を言っていたみたいですけど、笑顔で参加賞を渡してお帰りいただきました」
「貴女も強気ねぇ」
「ルールを守らない人たちには毅然とした態度でいないと、舐められますから」
それから二回戦以降の流れを確認し、個室を出て選手控え室に戻った。家族や劇団のみんなにも会いたかったが、二回戦の第一試合に出るので時間がない。控え室でチームメンバーと簡単な昼食をとりながら作戦会議をしているうちに、すぐに出番がやってきた。
「じゃあ二回戦以降も上手くやりましょう」
「任せて」
二回戦の相手は地元民の高位貴族と中位貴族の混在チームだった。バランスの取れたチームで、なかなか粘り強かったが、二点を守り抜いて勝つことができた。一級がもう少し向こうに多ければもっと苦戦していただろう。
その後も順調に試合が進み、昼食後の高位貴族たちが戻ってくるころにはベストフォーが決まった。残りは準決勝と決勝である。その準決勝の前に、ルザが控え室に戻ってきて私に耳打ちする。
「次の対戦相手は移住民の高位貴族のチームです。お気をつけください」
「クヤン、彼らの情報は持ってる?」
「……元々私たちと協力関係にあった家の人たちだよ」
「元々ってことは、今は仲良くないの?」
「今回の封鎖街の開発のことでちょっとあってね……今は離れてる」
「そっか……オプラーシャの家とは?」
「私の家は基本的に中立をとる家で……特別仲は悪くはないけれど、よくもないです」
その話を聞いて相手チームの方を見ると、そのうちの数人と目が合った。どうやら向こうもこちらの様子を窺っていたらしい。静かな視線を送ってくるが、親しげな雰囲気は微塵もない。
ちょっと、警戒しておいた方が良さそう。
時間になってフィールドに呼ばれ、準決勝が始まった。
その試合開始直後から、彼らは全力で攻めてきた。チームの中に経験者がいて、彼を中心に無駄のない動きで攻撃が始まる。衝撃や石が飛んでくるのを守備の三人で防ぎながら、こちらも攻撃の三人に向かってもらう。
石の配置は今回もシンプルで、今までの戦い方とあまり変わりはない。と、そう思ったところでフィールド全体に黄色い光がかかった。
「これは……」
「ディアナ! 石が動かない!」
クヤンが焦った顔でそう叫ぶ。どうやらフィールドにある石全てに留まる魔石術をかけたらしい。相手の一級の選手だろう。開始直後から攻撃されていたのもあって、まだこちらのヴァキルの前に防御の石は積んでおらず、敵から丸見えだ。
「よし今だ! 一気に攻めるぞ!」
相手の攻撃選手がそう叫んで、各々衝撃の魔石術や武器でこちらのヴァキルを狙ってきた。
「攻撃の数が多いよ! ディアナどうする⁉」
「……ここは任せて。『キジル』衝撃の盾を」
自陣ヴァキルの斜め前に立っていた私はそう唱えて、目の前に広範囲の赤い光を盾のように広げ、それらの攻撃を一斉に弾く。
「な! なんだあれは」
「見たことのない魔石術だぞ⁉」
この魔石術は目の前にマギアの膜を張り、前からの複数の攻撃を衝撃で弾くものだ。結界の魔石術や砂の大移動の魔石術を参考にして私が新しく作った。シムディア・アイン用に作ったので、威力は弱めだ。
これ、決勝まで取っておきたかったんだけどな。まあいいや。それよりまずこっちだね。
クヤンとオプラーシャに守備を任せると、私は石全体にかかった黄色い光を見つめて口を開く。
「トグリ、チャプ! 二人は連携して進んで! プルキンさんはそのまま突撃!」
「わかった!」
「御意に!」
私の指示に攻撃の三人がスピードを上げた。石を動かせないということは、攻撃選手への石での妨害もできないということである。それに気づいた向こうの一級の選手が、留まる魔石術を自陣の半分解除した。再び動かせるようになった石を仲間の選手たちが動かして防御し始める。
その間に相手の攻撃選手たちがこちらのヴァキルにかなり近づいてきた。選手は選手を攻撃できないため、石を動かせない状態で接近されると、止めることができない。
「クヤン! どけ!」
「行かせない!」
クヤンは相手選手を邪魔しようとその進路を防ぐように立ち塞がる。
「いつも姉の影に隠れているお前になにができる!」
「貴方だけは行かせないっ。移住民の結束を破った人からは逃げない!」
「お前にうちの事情はわからぬ! 頑なにいることだけが正解ではない!」
「だからと言って騙すようなやり方で寝返っていいわけがない!」
「うるさい。どけ!」
相手選手はそう言ってクヤンを手で押そうとするが、それをすると反則だ。彼はグッと我慢してクヤンと並走して走る。その時、反対側でオプラーシャの悲鳴が上がった。
「ディアナ! そっちへ二人が!」
見るとオプラーシャの方から攻撃選手が二人走ってくる。遠くから攻撃しても私に弾かれるとわかったため、ヴァキルを直接鳴らすつもりなのだろう。
私は左右の状況を確かめて、スッと両手を掲げる。
「『サリク』石をこちらに」
私から放たれた黄の光が自陣のヴァキルの周りにあった石を包み込む。
「石の移動はできないぞ!」
「こちらの留まる魔石術はまだ有効だ!」
……甘いね。
私は口の端を上げると、魔石術の威力を上げた。一級の上限ギリギリまで上げた力をかけると、石はふわりと浮き上がった。そしてそのまま複数の石をヴァキルの周りに積み上げていく。
「な……!」
「くそ……! 私の力が負けている!」
私の魔石術を見て相手の一級選手が悔しそうな声を上げた。
魔石術は強い力を持つ者の方が有効になる。相手の一級より私の方が力は上なので、向こうの魔石術を無効化できるのである。
ヴァキルが完全に石で覆われると、私はそれに強化の魔石術もかけた。これで誰が攻撃してもこの石は崩せない。
「く……どうすれば」
「慌てるな! 強化の魔石術は長時間もたない。効果が切れたら一斉に攻撃すればいい!」
その言葉に私はハッとした顔をして、相手選手を見つめる。
「そんなことにも気づかなかったのか? この競技を作った者のくせに!」
彼が言っていることには反応せず黙っていると、相手選手たちが足を止めて怪訝な顔をし始めた。
「なんだ? 言い返さないのか?」
「なぜ黙っている?」
「……ふふ。これも作戦のうちだから、ですよ。今は試合中です。油断してはダメですよ、皆さん。こうして短時間を確保するだけでうちのチームにとっては十分なんですから」
「なに⁉️」
相手選手が私の言葉に目を見開いた瞬間、フィールドの向こう側からカァァァアンッという音が聞こえた。ワァァ! と観客たちが声を上げる。
私が攻撃選手たちを引きつけている間に、トグリが向こうのヴァキルを鳴らしたのだ。
それを知った相手選手が唖然とした顔をしたあと、私をギロリと睨む。
「さっきの表情は俺たちの動きを止めるためにわざとしたのか……思っていた以上に小賢しい真似をするのだな」
「少し演技したくらいで小賢しいと言われても困りますね」
「……フンッ。どうせ我ら移住民たちのことを見下しているのだろう? 本気で戦う相手ではない、と」
その言葉に私は思わず眉を少し寄せる。本気を出していないのはその通りだが、相手が移住民だからというわけではない。
「見下してはいませんよ」
「どうだか。アリム家は代々優秀な騎士を輩出してきたと聞いたが、相手を騙すような真似をするとは……その程度の家柄だったのだな」
なんですと?
笑顔を作りながら私の心の怒りスイッチが少しだけ入る。自分のことならまだしも、アリム家のことを言われると冷静ではいられない。
私たちのやりとりに、相手選手の一人が焦った顔で止めに入った。
「おい、止めろ。本人はともかく、アリム家に喧嘩を売るな」
「本当のことを言ったまでだ。忠義心の強い家の人間ならば、もっと正々堂々と戦ったらどうだ?」
「やめろって!」
彼の言葉にムカムカとした気持ちが湧き上がるが、私は少し考えたあと、ニコリと笑みを深めた。
「わかりました。なにをもって正々堂々とした戦い方なのかはわかりませんが、そこまで言うのならここから先は全力でいくことにします」
「……む?」
「アリム家の人間として恥ずかしくない戦い方をいたしましょう。それでいいですか?」
私のドス黒い笑顔に選手の二人が少し後ずさる。そこに攻撃から帰ってきたプルキンと双子が近づいてきた。
「なにかあったのですか? ディアナ様」
「どうしたの? ディアナ」
「いいえ、なんでもありません。さあ、試合を続けましょう。まだ一点しか入れていませんから」
私の笑顔を見て、三人は顔を見合わせた。私の後ろで青くなってるクヤンとオプラーシャに、私は黙っているように口元に人差し指を当てる。
アリム家に喧嘩を売ったらどうなるか、その身で体験してもらわなきゃね。
そしてそこから私は全力を出した。といっても一級の上限の力で、だが。
まずフィールド内にある石を全て浮かせ、自陣に積み上げ、留まる魔石術をかけた。相手はこちらの石に攻撃はできるが動かすことは不可能になり、そして自分たちのヴァキルを守る術がなくなる。
そこに私以外のチームメンバー全員が攻撃を仕掛けてあっさりとヴァキルを鳴らした。
次はチーム全体で一斉に攻撃し、私は衝撃の魔石術と弓の複射を連続で放っていく。向こうは防御しかできなくなり、力尽きたところで私の矢がヴァキルを鳴らした。その次も、さらに次も、相手が手も足も出ないようなやり方でヴァキルを鳴らしていく。
そうして私は完膚なきまでに相手を叩き潰した。スコアは十二対〇、圧勝である。
試合後、項垂れる相手選手に私はニコリと笑いかける。
「これで、アリム家の正々堂々が伝わったでしょうか?」
「う……」
相手はなにか言いたそうにしていたが、私の後ろに控えているプルキンを見て、何も言わずに去っていった。
「なんだか……すごい試合でしたわね……」
「今までの戦い方と全く違うではないか」
「おお……学院のころより強くなっている……凄まじい」
圧倒的な勝ち方にどよめく会場をあとにしながら、プルキンが後ろを振り返って口を開く。
「ディアナ様、もしや彼らからなにか嫌なことを言われたのですか?」
「大したことないから大丈夫ですよ。これまでうちとやり取りがなかった人たちに、アリム家を知ってもらうことができたみたいで、よかったです」
「は、はぁ……」
私はそう言って通路を歩く。事情を知っているクヤンとオプラーシャは、なんとも言えない顔をしていたが、気にしない。
さあ、残るは決勝だけだよ。
準決勝で移住民に家族のことを言われ、やってしまいました。
こういうところは学生の頃から変わってないディアナ。
次は 決勝のゆくえ、です。




