34 最強のチーム作り
大砂嵐が終わってからすぐ、うちの家にとある五人が集まった。クィルガーの双子の弟のトグリとチャプ、ディアナ護衛隊のプルキン、先日の公演千穐楽に来てくれた元クラスメイトのオプラーシャ、そしてアンビシアの弟のクヤンである。
プルキン、オプラーシャ、クヤンの共通点は二つ。黄の魔石術が得意ということと、移住民ということだ。
玄関で五人を出迎えた私は、客用の応接室に案内して、早速本題に入った。
「今日は集まっていただき、ありがとうございます! 私のチームに入ってくださるということで、今からお互いの自己紹介と、訓練場で連携の確認もできたらなと思っています!」
「ちょ、ちょっと待ってディアナ。話が早すぎるよ。私はまだ状況についていけてないんだけど」
「あれ、送った手紙に書いたと思うんだけど? クヤン」
「急に参加を決めたディアナのチームに入ってほしいってことは聞いたけど、姉上が勝手に私の参加を決めちゃったんだよ」
「あ、そうだったの。じゃあ今から詳しく説明するね」
私はそこでこのチームを作った経緯を話す。地元民と移住民の混在チームを作って大会を盛り上げたいと言うと、すぐに双子たちが「面白そう!」と前のめりになった。その反応を見てオプラーシャとクヤンがビクリと肩を揺らす。
「あ、あの……トグリ様とチャプ様はいいのですか? 私たち移住民と同じチームになって……」
「え、なんで? ダメなの?」
「ディアナと一緒に面白いことができるんでしょ? それに学院でシムディア・アインを見た時から、いつかやってみたいって思ってたんだよね」
双子にそう返されて、クヤンが口を開けたまま固まった。それを見て私はくすりと笑う。
「おじい様からはなにか言われましたか? 反対されたりとか」
「父上が反対するはずないでしょ。『勝負事に負けることは許さぬ。全力でディアナを支えろ』ってすごい形相で睨まれたよ」
「多分だけど、父上も試合に出たかったんじゃない? 兄上だって我慢してるって聞いたし」
それを聞いて思わず吹き出してしまった。カラバッリとクィルガーは本当に似たもの親子である。なんとも呑気な双子の会話を聞いて、オプラーシャとクヤンは肩の力が抜けたようだ。
そこからみんなに自己紹介をしてもらう。
「僕はトグリ。王宮騎士団、遊隊所属。一級で特性は青だよ。スピードには自信があるから速攻とか任せて」
「僕はチャプ。王宮騎士団、遊隊所属。一級で特性は緑。すんごい強化とか欲しかったら言ってね」
「あれ、二人は学院騎士団所属から変わったんですか?」
「そ! 学院騎士団の任務は終わったよ!」
「今は遊隊! プルキンと同じだね。班は違うけど」
その言葉に私はプルキンに顔を向ける。
「プルキンさん、うちの双子とお知り合いなんですか?」
「ええ。実は同期なんです。私も騎士団に入った最初の二年間は学院騎士団にいました」
なんと、この三人は同級生だったのか。
プルキンは双子とは違って落ち着いた物腰の男性で、金髪に青い瞳のガタイがいいお兄ちゃんという感じの人だ。見た目はパワータイプの騎士である。
「私はプルキン。王宮騎士団、遊隊所属。二級なので特性はないが、黄の魔石術が得意だ。まさか尊敬するディアナ様と同じチームで試合ができるとは思っていなかったので、少々興奮している。ディアナ護衛隊の一員として恥ずかしくないよう、チームに貢献するつもりだ。よろしく頼む」
キビキビとした口調で言い切ったプルキンの言葉に、双子は「ディアナ護衛隊っ」「本当に存在したんだ……っ」と爆笑しているし、オプラーシャとクヤンは再び呆然としていた。
「プルキンさん……護衛隊のことはここでは言わなくていいです」
「なぜですか! 私がディアナ様を尊敬し、崇拝しているということをお伝えするにはディアナ護衛隊のことを話すのが一番かと……!」
「もう今ので十分わかりましたから! じゃあ、次はオプラーシャね」
「えっあ、はい!」
私に急に振られてオプラーシャが慌てて自己紹介を始める。
「オプラーシャといいます。去年学院を卒業したばかりで、経理担当の執務官をしています。二級で、黄の魔石術が得意です。突然のお誘いに驚きましたが……実はシムディア・アインは学院で観てからずっと気になっていた競技なので、思いきって参加を決めました。よろしくお願いします」
大人しめな彼女の挨拶に年上の三人が微笑ましい視線を向ける。と、ただ一人クヤンだけが心配そうな顔を私に向けた。
「彼女のような淑女を競技に出すの? ディアナ」
「ふふふ、侮ってもらっちゃ困るよ。クヤン。彼女は大人しいだけじゃないんだから。オプラーシャ、あれ見せてくれる?」
「は、はい」
私に言われてオプラーシャが鞄から厚みのある紙束を出してローテーブルの上に置いた。そこには「シムディア・アイン 試合の記録」と書かれてある。
「試合の記録? もしかして学院の時の?」
「そうです。あの……私、昔から戦略とか作戦を考えるのが好きで……試合などを観て分析するのが趣味なんです。ただ親がいい顔をしないもので今まではこっそりやってただけなんですけど」
「へえ……うわ! すごい細かい。こんなの僕見ても全然わかんないよ!」
「オプラーシャは頭がいいんだね!」
双子の反応に私も頷く。彼女をチームに誘ったのは黄の選択授業を受けていて、成績も良かったからなのだが、正直試合に出てくれるかは全くわからなかった。そこに、実はシムディア・アインが好きで毎年試合をチェックして分析していたという返事がきたのだ。こんなに嬉しいことはない。
どうやら彼女の中では演劇よりもシムディア・アインの方が興味があったらしく、二つ返事で参加を決めてくれた。
思いがけず、頭脳担当の選手が入ってくれたよ。やったね!
最後はクヤンだ。彼はこの中では一番困ったような、戸惑った表情をして自己紹介をする。
「クヤンです。総務担当の執務官です。二級で一応、黄の魔石術が得意です。その……本当は姉上に話があったんですけど、彼女は試合に出さない方がいいということで、なぜか私が出ることになりました。あまり自信はありませんが、よろしくお願いします」
「姉上というのは……アンビシア様のことか?」
「そうです、プルキン様。ディアナは最初、姉上に参加を打診していたんです」
クヤンの言う通り、私は初めアンビシアに私のチームに参加しないかと誘っていた。彼女は意外にもすぐに「いいわよ」と返事をくれたのだが、よくよく話を聞くと、「試合で地元民と戦えるなんて、こんなに嬉しいことはないわ。偶然を装って物理的にボコボコにしてやる」という意気込みで試合に出ようとしているのがわかったのである。試合というより戦に挑む気満々の彼女を参加させると、勝手に角材とかを投げかねない。
アンビシアの参加は危険だと判断した私は、彼女の弟に参加をお願いしたのである。
「クヤンも建築業の家に育っただけあって、黄の魔石術は得意なんだよね」
「でも私は試合なんて無縁のところで生きてきたし……大丈夫かな」
「大丈夫。攻撃の方は騎士の三人に任せるし、オプラーシャとクヤンは防御や補助に回ってもらおうと思ってるから」
そこに双子がにゅっと彼の前に一歩踏みだす。
「心配しないで、クヤン。学院でディアナが試合してるとこ観てたでしょ? 彼女がみんなに指示出してくれるから、それに従っていればいいんだよ」
「そうそう! ディアナは優秀な指揮官だからね」
「その通りだ! ディアナ様は類まれな武の才能をお持ちだからな。その指揮下で戦えることに、きっとクヤンも喜びを覚えるようになるだろう!」
「そんな喜びは覚えなくていいよ……」
「は、はあ……よくわかりませんが、頑張ります……」
勢いのいい騎士三人に呆れつつ、私は彼らを訓練場へと案内した。そこで、シムディア・アインの今回のルールを確認し、あらかじめ用意していたアクハク石を使って各自の能力を確かめる。そこで私が考えていたいくつかの作戦も伝え、詳細をオプラーシャと詰めていった。
この六人が集まれるのは今日しかないため、みんな集中して練習に励む。オプラーシャとクヤンも体力はある方らしく、運動神経も悪くない。体の動かし方や魔石術のタイミングなどを騎士三人から教わって、短時間のうちに身につけていく。
いいね。思った以上にいいチームになりそう。
まずまずの手応えに私の口角も自然と上がる。双子も性格は奔放だが、真剣な練習と言えば指示通りに動いてくれた。その辺りの切り替えは、さすが王宮騎士団所属である。
六人の連携を何度も確認して、最初で最後の練習日は終わった。
五人を見送って家の中に戻ると、側近の二人が沈んだ顔をして肩を落とす。
「どうしたの? 二人とも」
「あの方々が羨ましいです。ディアナ様とともに戦う機会を与えられるなんて……」
「ディアナ様を補佐することができず、フィールド外で見ているだけというのは、側近としては辛すぎます」
イシークとルザはそう言って同じように眉を下げる。その情けない顔に、私は少し笑ってしまう。
「笑い事ではありません、ディアナ様」
「わかってるよ、ルザ。学院でのシムディア・アインでは二人にも出てもらってたからね。でも、今回は他に二人にお願いしたいことがあるんだけど」
「お願い、ですか?」
「なにか任務ですか⁉ 喜んでやります!」
廊下を歩きながら、私は二人に小声で伝える。
「私が当日試合に集中している間、二人には北西街の貴族たちの様子をチェックしてもらいたいの」
「貴族たちの様子ですか? どのような……」
「地元民の私と、移住民のアンビシアが協力して開催するイベントだもん。きっと私たちの関係を探りたい貴族たちもたくさん来ると思うんだよね。移住民と地元民関係なく」
北西街の代表選をしようという時期になぜこのようなイベントをするのか、アリム家の孫娘と移住民のアンビシアがなぜ一緒なのか、なにか思惑があるのではないか。そう考えて大会にやってくる貴族はいるだろう。
アンビシアとクヤンのやり取りを見ると、どうやら移住民の方も意見がまとまっているわけではなさそうだ。私も他の地元民とまだ交流は持っていない。そのため、誰がどんな開発案を持っていて、味方がどれだけいるのか把握している人はいないと思われる。
そんな中で私たちが大会を開くんだもん。探りを入れようとする人は絶対にいるはず。
「会場の人たちの様子はアンビシア様に見てもらうように頼んでるんだけど、二人にも貴族たちの様子を見てほしい。特に、アリム家とは仲良くない人たちの言動をチェックして」
「……かしこまりました。イシークが動くと目立つため、私が調べます」
「お願い、ルザ。じゃあイシークは試合に参加する選手たちの動きを見てくれる?」
「は! 御意に」
二人の返事に頷いていると、ふとルザが首を傾げた。
「ところで、ディアナ様。観客たちに理想とするチームのお手本を見せると仰っていましたが、どのくらい勝ち進めるおつもりですか?」
その問いに私は目をパチパチとさせて、同じように首を傾げた。
「どこまでって……そんなの、優勝しか考えてないけど」
「……」
やるからには優勝である。それ以外は考えていない。
「さて、当日の試合はどんな感じになるかな。楽しみだね」
私はそう言ってにこりと笑った。
ディアナが集めた5人。チーム構成は1級が3人に黄の魔石術が得意な者が4人。かなり本気のチームができあがりました。久しぶりのプルキンは前作の六年生の章の「私の護衛隊と作戦の開始」で名前が出ています。
次は シムディア・アイン大会当日、です。




