264 攻守交替
――訓練後半。
前半戦の攻撃訓練は終わり、後半戦の防御訓練に移行していた。
今度は、入校生たちが、直射日光の中、防御陣地を作成する番だ。
とはいえ、アリアたちは、ゆっくりできない。
交代交代で偵察などをして、休むことはできなさそうである。
「え? 君たち、ある程度、偵察はできるでしょう? それに、入校生たちには防御陣地を作成してもらわないといけないからね! 攻撃は、5日、経ってからにしたほうが良いかな! 今、攻撃したら、入校生が防御陣地を活かして戦えないでしょう?」
訓練の視察に来たミハイルによって、アリアの目論見は消え失せてしまう。
(くっ! 偵察の合間に、木陰で休めると思ったのに! まぁ、そう上手くはいかないか……)
アリアは、若干、ガッカリしていた。
エレノアに至っては、普通に表情に出てしまっている。
「それはそうですが。となると、5日が経つまでは、何もしないのですか? さすがに、時間の無駄になってしまうと思います」
エドワードは、至極当たり前の疑問を口にした。
訓練場で、集中的に訓練できる機会は限られている。
その時間を無駄にするのは、有り得ないことであった。
「もちろん、訓練をしてもらうよ! ちょうど、獅子軍団の人たちがいるからね! その訓練に混ぜてもらえるよう、お願いをしてきたところだよ!」
ミハイルは、笑顔である。
対して、一部の者は、対照的な顔だ。
(……もう、その時点で、嫌な予感しかしないのだけれど。まぁ、訓練だし、大丈夫でしょう、多分。獅子軍団が迫っている中、走って逃げろとか言われないハズ……)
アリアは、具体的な想像をしてしまう。
獅子軍団は、馬も兵士も重装甲をつけている。
そのため、通常の馬が駆ける速度よりは遅い。
とはいえ、馬は馬なので、人間が走るよりは、当然速いワケである。
つまり、アリアたちが頑張って走っても、いつかは追いつかれる定めだ。
「……ちなみに、どのような訓練を行う予定ですか?」
至極真面目なエドワードは、質問をする。
「歩兵の追い込みの訓練をしたいらしいよ? だから、君たちは、包囲環ができる前に頑張って逃げて! 普通の歩兵だったら、踏み潰される危険性もあるけど、君たちだったら、大丈夫でしょう?」
ミハイルは、いつも通りの笑顔であった。
対して、ステラ以外の面々の表情は、かなり渋くなっていた。
「団長! 無理を言わないでください! いくら重装甲の騎馬兵とはいえ、馬は馬です! 走って逃げられるものではありません!」
エドワードは、大きな声を上げてしまう。
「大丈夫、大丈夫! 本当に危なくなったら、止めてくれるから、多分!」
「多分は、困ります!」
「もう、そんな心配しないでよ! ちゃんと言っておくから! それじゃ、獅子軍団の人たちと合流しようか!」
ミハイルはそう言うと、スタスタと歩き出した。
(……これだったら、防御陣地の作成をしていたほうがマシだよ)
アリアは、げんなりとした表情になってしまう。
そんなことは関係ないとばかりに、アリアたち一行の頭上では、太陽が輝いていた。
訓練場を出たアリアたち一行。
獅子軍団が完全武装で動き回っているのが見えていた。
「それじゃ、頑張ってね! 影ながら、応援しているよ!」
到着するなり、ミハイルは消えてしまう。
「団長! ちゃんと説明しておいてくださいよ!」
エドワードの叫びが、空しく響き渡る。
そんな中、重装甲騎兵が一人近づいてきた。
「お、お前ら! 来たか! 今日は頼むぞ!」
顔の鎧を上に移動させると、バスクその人である。
汗まみれのため、見ているだけで暑くなるような状態だ。
「……なるべく、危なくないようにお願いします」
エドワードは、なんとか声を絞り出す。
「もちろん、分かっている! 部下たちにも、馬で踏み潰すのはやめろと言っているからな! あれだろ? 副校長が言うには、お前たちにとっては脚力強化の訓練らしいな? まぁ、大船に乗ったつもりで任せておけ! お互いにとって、実りのある訓練にしたいからな! ガッハッハッハ!」
バスクは、結構、楽観的なようだ。
対して、ステラ以外の面々の表情は優れない。
(……まぁ、バスク少佐も、分かってくれているだろう。獅子軍団の人たちは、ミハルーグ帝国の軍人の中でも、精鋭が集まっている。そこら辺のさじ加減も、きっとやってくれるハズだ)
アリアは、希望的観測を持ってしまっていた。
数分後には、早速、訓練が始める。
アリアたちは、全力で走り始めた。
もちろん、その後ろからは、獅子軍団の騎馬兵たちが迫ってくる。
「左! 左に行きますわよ! 真っ直ぐ走っていたら、すぐ追いつかれますわ!」
アリアたち一行の先頭を走っていたサラ。
進路を左側に変えようとする。
だが、そう上手くはいかないようだ。
「サラさん! 危ないですよ!」
後ろを一瞬見たアリアは、大きな声を出す。
「うわ! 水魔法ですの! 危ないですわ!」
サラの進路を塞ぐように、激流を思わせる水魔法が飛んでくる。
そんなことが起きている間にも、重装甲騎馬兵たちは、勢いをつけて進んできていた。
止まる気配は、まったくない。
(……あ、これ、マズいやつだ)
アリアの顔には、諦めの表情が浮かんでいた。




