262 夜の攻防
夕食を食べ終えたステラ。
食器などを片づけた後、尋問の準備に入っていた。
その様子を、アリアは食事をしながら見ている。
だが、ステラが水の入った桶を持ってきたことで中断しなければならなくなった。
「……ステラさん? 尋問に、その水の入った桶は必要なのですか?」
「はい、必要です。後の訓練に支障がないよう、肉体的損傷はなしとのことでしたので」
ステラは、特に疑問がないようだ。
対して、アリアは、疑問が尽きない。
「……ちなみに、どんな感じで尋問をするつもりなのですか?」
「今、捕虜の入校生は、麻袋を被っていますよね? それを脱いで、顔を水につけてもらおうと思いまして。息ができないので、嫌でも自白したくなりますよ」
ステラにとっては、普通のことのようだ。
(……たしかに、肉体的損傷はないけども。下手したら、死ぬだろう。これは、やめさせないとダメだ)
アリアの眼には、捕虜になってしまった入校生三人が見えている。
いずれも、何かを主張しようと、体を激しく動かしていた。
ただ、口にも布を巻かれているのか、意味のある言葉を発することができない。
「ステラさん、普通に尋問をしませんか? 多分、ペラペラ答えてくれますよ」
アリアは、ステラを見た後、入校生三人に目を向ける。
首がもげそうなほど、うなずいていた。
どうやら、水の入った桶に、顔をつけるのは嫌なようだ。
「いえ、それではいけません。将来的に、彼らが捕虜になることもあるでしょう。その時に、拷問慣れをしていないと、すぐ軍事機密を話す可能性があります。なので、経験といった意味でも、体験をしたほうが良いと思います」
ステラなりに考えてはいるようだ。
ただ、溺死をする可能性があるので、アリアとしては許容できない。
「ステラさんの言い分も理解できます。ただ、事故が恐いので、別の方法にしましょう。なるべく危険ではない方法が良いと思います」
「一応、慣れてはいるので大丈夫だとは思いますが……分かりました。それでは、放置することにします。この暑さの中、飲まず食わずでの放置。それなりのツラさはあるでしょう。少し物足りない気もしますが、どうでしょうか?」
ステラは、代替の案を提示する。
先ほどよりは、危なくないハズ。
ただ、脱水症状などが進むと、死の危険性があった。
(……ステラさん的には、楽なほうの部類なんだ。やっぱり、もっとヤバい方法とかもあるのかな。正直、恐いもの見たさはある)
アリアの思考能力は低下している。
120kmの行進訓練の疲れに加え、炎天下の中の防御陣地作成。
疲労によって、いつもより考える能力が落ちていた。
アリアは、『もう、それでも良いかな』的な空気をかもしてしまう。
捕虜になった入校生三人にとっては、困難極まりない選択が、今、なされようとしていた。
だが、運命の女神は彼らを見捨ててはいないようだ。
「敵襲! 敵襲! 各自、持ち場で迎撃せよ!」
外から、エドワードの声が聞こえてくる。
と同時に、銅鑼の音が鳴り響く。
「とりあえず、尋問は後回しですね。どのくらいの規模かは分かりませんけど、撃退しないといけません」
「はぁ……せめて、食事が終わった後に来てほしかったですよ……」
アリアは、泣く泣く食器を机に置くと、ステラの後を追って、天幕を出ていった。
(なんか、結構いる感じがするな。というか、これ、もしかして、全員で攻めてきていないか?)
当初から決められていた持ち場についたアリア。
塹壕を越えて、攻撃をしてくるのを撃退する役割りだ。
隣には、サラもいる。
すでに、防御陣地の左翼では、戦闘が始まっているのか、鉄の打ちつけ合う音やら、怒号などが聞こえてきていた。
それなりの規模であることが、容易に推測できる。
翻って、アリアの眼前。
何十人かの人影が、塹壕を越えて来ているのが見える。
「左翼が陽動で、こっちが本命ですかね?」
「分かりませんわ。とりあえず、迎撃するしかありませんの」
「動きですけど、私が左から、サラさんが右からで良いですか?」
「挟み撃ちですわね。それで、良いですわよ」
サラは肩を少し回した後、一気に走り出した。
もちろん、アリアも剣を抜き、入校生たちに肉薄していく。
(たしかに、防御陣地ができる前に攻撃するのはアリだ。しかも、夜襲であれば、効果も期待できる。とはいえ、相手の規模、防御陣地の解明もできていないのに、攻撃するのは、結構、危険性があるよな)
アリアの眼前に、入校生たちの姿が見えてくる。
混乱しながらも、塹壕から這い出ようと頑張っているようだ。
予想外の位置に塹壕があり、戸惑っているのが伝わってきた。
(……もう、隙だらけだよ。実戦だったら、矢も魔法も飛んで来るのに。まぁ、訓練では限界があるのも事実だからな。厳しくし過ぎると、ケガ人が続出するし、中々、難しい問題だよ)
アリアは、塹壕の中に下りると、無防備な入校生たちに攻撃を加える。
反対側からも、悲鳴や怒号が聞こえてきていた。
どうやら、サラが暴れているようだ。
塹壕から脱出しようとしているところでの、挟み撃ち。
しかも、夜であまり視界が効かない。
入校生たちは、統制されていない、ただの個人の集まりになってしまっていた。




