261 偵察は難しい
――エレノアが入校生を追いかけに行ってから、数分後。
「ああああああ! 誰か、助けてくださいまし! 捕まりますのおおおお!」
アリアから目と鼻の先にある森から、声が聞こえてきた。
と同時に、燃えるような赤髪の女性が、作成中の防御陣地に向かって突撃をしてくる。
その後ろには、5人の入校生が迫ってきていた。
(……なるほど。あの丸見えだった人たちは、囮か。多分、森の中で、待ち伏せにあったのだろう。さすがに、5対1は、エレノアさんでも無理かな)
アリアはスコップを振るうのをやめて、様子を眺めている。
そんなところに、またも声が聞こえてきた。
「ちょっと! アリア、サラ! 見ていないで、助けてくださいましいいい! このままだと、捕まりますわあああ!」
かなり事態は切迫しているようだ。
まだ、防御陣地までは距離がある。
今、捕まってしまえば、アリアたちが追いつく前に、森に逃げられる可能性があった。
(……多分、捕まっても、捕縛されるだけだから大丈夫だろう。教官としての威厳は失墜するけど。さすがにマズいか、捕まったら。足が痛いから、走りたくないのだけど……しょうがない、ちょっと頑張るか)
スコップを置いたアリアは、剣を抜き、塹壕から這い出る。
もう、眼前では、サラがエレノアに向かって走っているのが見えた。
もちろん、アリアも、その後を追う。
結果、それほど時間が経たないうちに、エレノアと合流することができた。
入校生たちはというと、さすがに無理だと判断したのか、森の中へ撤退している。
いかに5人といえども、アリア、サラ、エレノアの三人に勝つのは難しい。
賢明な判断である。
「おーっほっほっほ! 策が上手くいかなくて、残念ですわ! あと少しで、一網打尽にできましたのに!」
アリア、サラと合流したエレノア。
森の中にいる入校生に聞こえるよう、大きな声で主張する。
そういう体にしたいようだ。
(……ここで突っ込んだら、エレノアさんが無策だったのがバレるからな。エレノアさんも、『ここは合わせてくださいまし!』的な目線を送ってきているし。しょうがない、合わせてあげるか)
アリアは、サラに視線を向ける。
それだけで、考えていることは伝わったようだ。
「残念でしたわね、エレノア! さぁ、穴掘りに戻りますの!」
「惜しかったですよ、エレノアさん! 中々、良い策でしたね!」
サラとアリアは、必要以上に大きな声を出す。
まるで、何かを訴えかけているようだ。
「本当ですわ! おーっほっほっほ!」
そんな声を上げた後、エレノアは、さっさと防御陣地のほうに走っていってしまった。
サラとアリアは、顔を見合わせてしまう。
――エレノアが捕まりそうになってから、数時間後。
(……やっと、日差しがなくなってきたよ。とはいえ、夜でも暑いものは暑いからな。水分補給は、しっかりとしないと。そうでないと、脱水症状になってしまうよ)
アリアはスコップを置き、塹壕の中で座ると水筒に口をつける。
凄まじくぬるい水が、喉を通過していく。
日中の暑さのせいで、水の温度も上がってしまっていた。
もちろん、味は、中々のマズさである。
ただ、アリアにとっては、どうでも良いことであった。
炎天下の中の穴掘り。
疲れていないワケがなかった。
そんなこんなで少し休憩していると、エドワードがやってくる。
辺りはもう暗いが、夜に目が慣れているため、すぐに判別することができた。
「アリア、調子はどうだ?」
「ボチボチですね。進捗の確認をしに来たのですか?」
「まぁ、それもあるが、夕食が来たのを伝えに来た。交代交代で食べているから、アリアも行ってくれ」
「分かりました」
アリアは返事をすると、塹壕から這い出る。
防御陣地の本部は、中心部に位置していた。
アリアがいた位置からは、2,3分といったところである。
そんなこんなで、暗い道を進んでいると、良い香りがしてきた。
ほどなくして、防御陣地の本部に到着する。
そして、設営されていた天幕の中に入った。
「アリアさんの分も用意しておきましたよ。食べましょうか」
「ありがとうございます、ステラさん」
アリアはお礼を言うと、ステラの隣に座る。
目の前には、良い感じに温かいスープと美味しそうなパンがあった。
いつもの堅い干し肉とパンとは違う。
まごうことなき、生きている食べ物であった。
パンをほおばった後、温かいスープに口をつけるアリア。
「はぁ~! 生き返りますね! 本当に最高です!」
「しっかりと調理された食事は、貴重ですからね。士気にも大きく影響しますよ」
手が止まらないアリアとステラ。
疲れ切った体に、生きている食べ物たちが染み渡っていく。
「あ、そういえば、あそこにいる人たちって、ステラさんが捕まえた入校生ですか?」
食事をしつつ、アリアは質問をする。
そんな目線の先には、捕虜らしき入校生が三名。
いずれも、手と足を縄で縛られた上、麻袋で顔を覆われている。
その状態で、体育座りをしていた。
「そうですね。あまりにも防御陣地に近づき過ぎていたので、捕まえました。昼間なので、こんなものでしょう。夜は、防御陣地に侵入してくる者も多くなると思うので、結構、捕まえられるハズです」
「もう、尋問はしたのですか?」
「いえ、まだですね。私に割り当てられた分がありましたので、そちらに集中していました。食事が終わったら、始めようかと思っています」
ステラは、特に気負うこともなく、いつも通りであった。
声が聞こえた捕虜三人はというと、少し身じろぎをしている。
色々と想像しているようだ。




