260 防御陣地作成
作者名、変更しました。
夕霧ヨル→ヨル
――午後の始め。
昼食やら、諸々の準備を終えた入校生たちは、お馴染みの広場に整列をしていた。
お立ち台には、これまたお馴染みのバスクが立っている。
「よし! これから、攻撃訓練を開始する! お前たちには、偵察をした後、指定の場所を攻撃してもらう! 小隊長は、攻撃の時期と方法を、中隊長役の主任教官に説明しろ! その前に攻撃はするなよ! 分かったか?」
「ハイ!!」
バスクの確認に、入校生は大きな声で返事をした。
「あと、偵察は注意しろよ! 防御側も、偵察されたくないからな! 当然、偵察を捕まえるための人員を配置している! 当然、捕まったら、尋問やらをされるからな! しかも、攻撃の際の人員も少なくなる! そこら辺は、理解しておけよ!」
偵察で捕まった者は、中々、ツラいことになる。
尋問ならまだしも、拷問を受ける可能性も考えられた。
相手の陣地の状況も調べつつ、自分たちも捕まらないようにする。
かなり難しい役割りであった。
無論、訓練なので、拷問はない方向である。
入校生の返事を聞いた後、バスクは、言葉を続けていた。
「一応、尋問やらを担当する補助教官を紹介する。それぞれ、一言ずつ貰うから、しっかりと聞いておけ!」
バスクが言葉を言い終わると、入れ替わりで、お立ち台に二人の女性が現れる。
その瞬間、入校生の何人かは、渋い顔になってしまっていた。
「尋問を担当するステラ・ハリントン中尉です。自慢ではありませんが、尋問には自信があります。速やかに自白をさせたいと思いますので、よろしくお願いします」
ステラの表情は変わらない。
だが、入校生の表情は、さらに渋くなっていた。
もちろん、拍手はない。
(……やっぱり、入校生でも分かるのかな? ステラさんの尋問とか、シャレにならないよ。まぁ、肉体的損壊はない方向だから、大丈夫だとは思うけど。多分)
アリアは、自分の考えに自信を持てない。
そんなことを考えていると、もう一人の人間が声を出し始める。
「補助教官の一番星! エレノア・レッド中尉ですの! ワタクシ、尋問は初めてですわ! でも、魔法の力で、情報を引き出してみせますの! よろしくですわ!」
エレノアは、いつも通りの元気な様子だ。
(……心配しかないよ。『ワタクシ、尋問をやってみたいですの! 任せてくださいまし!』って、立候補をしていたけど。無茶苦茶しないと良いけどな)
お立ち台の近くにいるアリア。
凄く渋い顔であった。
サラ、エドワード、学級委員長三人組はというと、不安そうな顔である。
考えていることは、大体、一緒のようだ。
エレノアとステラは紹介が終わると、お立ち台を降りていった。
入れ替わりで、またもバスクが登場する。
「……知っている者もいると思うが、補助教官は、休日に120km行進訓練があったから、疲労がたまっている状態だ。その、なんだ……加減ができない可能性もあるからな。とりあえず、頑張れ」
バスクの歯切れは悪い。
比例するかのように、入校生の表情も悪くなっていく。
「心外ですね。どのような時でも、最善を尽くすつもりなのですが」
「加減くらいできますわ! それくらい分かりますの!」
バスクの言葉を聞いたステラとエレノア。
それぞれ、思うところがあるようだ。
(……まぁ、何とかなるでしょう、多分。とりあえず、防御陣地作成を頑張ろう)
アリアは、考えるのをやめていた。
――数十分後。
広場を解散した入校生たち。
今は森の中に隠れつつ、防御陣地の様子を伺っている。
そんな入校生たちの目線の先には、補助教官たちの姿があった。
(……暑い。もう、死ぬほど、暑い。土も、かなりついている。良い状況とは言えないだろう……)
防御陣地作成のために、ひたすらスコップを振るうアリア。
一応、補助教官に先んじて、獅子軍団の人たちが、防御陣地を少しは作ってくれていた。
ただ、本格的な作成は、補助教官がやらなければならない。
(獅子軍団の人たちは、ゴリゴリの野外訓練をしている。主任教官はというと、入校生たちの指導。私も、入校生の指導が良いな。森の中は涼しそうだし。少なくとも、この炎天下の中、防御陣地作成をするよりは、遥かにマシだろう)
主任教官たちは、全員、大尉以上。
翻って、アリアたちは、中尉である。
超えられない階級の壁があった。
しかも、獅子軍団はというと、練度を向上させるため、かなりしっかりとした訓練をしている。
必然、補助教官が、防御陣地作成のために駆り出されるというワケだ。
流れてくる汗を拭いつつ、アリアがスコップを振るっていると、エドワードがやってきた。
「エドワードさん。進捗の確認も良いですけど、ちゃんと防御陣地作成もやってくださいよ」
「やっているに決まっているだろう! この格好を見て、楽していると思えるのか!?」
もうドロドロである。
顔面にも、ふんだんに泥がついていた。
「……泥浴びでもしたのですか? 普通に穴掘りをしていたら、そうはならないと思うのですが」
「エレノアの水魔法のせいだ! まったく、ふざけている!」
エドワードは、プンプンと怒っている。
どうやら、エレノアとひと悶着あったようだ。
「まぁ、そんな怒らないでくださいよ。この暑さですからね。疲れるだけですよ。それより……」
アリアは、チラッと森の方に視線を向ける。
「分かっている。それにしても、近づき過ぎだな。誰が偵察に来ているか、丸分かりだ。昼間だから、良く見える」
エドワードは、視線すら向けない。
来る途中から気づいていたようだ。
「捕まるのも、時間の問題ですね」
「そうだな。まぁ、それはステラとエレノアがやることだ。僕たちは、ひたすら防御陣地作成だ」
エドワードは進捗を確認した後、他の補助教官のいる場所へ向かったようだ。
アリアは変わらず、スコップを振るっている。
変わったことと言えば、先ほどから、『コラ! 待ちますの! 逃げても無駄ですわ!』という声が聞こえてくるくらいだ。




