259 いざ、野外訓練へ
――月曜日の朝。
点呼が終わった後、入校生たちは、大急ぎで食堂へ向かう。
出発の時間までに、荷物を馬車に積まなければならない。
端的に言うと、余裕がなかった。
食堂で、慌ただしく朝食を食べる入校生たち。
そんな中、アリアたち補助教官一同は、ゆっくりと食事を食べていた。
「はぁ……もう一週間ぐらい休みたい気分ですの。全身が筋肉痛ですわ」
サラは、山盛りお肉を食べるのをやめ、ため息をついてしまう。
「実際、一日も休めませんでしたしね。装備品を洗ったり、野外訓練の準備とかをしていたら、昨日は終わっていましたよ」
「これが二泊三日だったら、休みなしで、すぐに野外訓練ですからね。ちょっとでも休めただけ、良しとしましょう」
アリアの発言を受け、ステラは、前向きな言葉をかける。
「……全然、良くありませんわ。もう、ちょっと体を動かすだけでも激痛ですの。そもそも、毎年、100kmも行進訓練するとか、近衛騎士団はおかしいですわ。はぁ……早く、魔法兵団に帰りたいですの……」
エレノアは、いつもの元気がない。
朝食をムシャムシャしつつ、ため息をついていた。
「愚痴を言っても、状況は変わらないぞ。ただ、エレノアの気持ちも分かる。毎年、夏に100kmも行進すると思うと、何とも言えない気持ちになるな。ただ、名誉がある部隊だ。普通の部隊と比べて、厳しいのは当然だろう。割り切るしかない」
エドワードも、ステラ同様、切り替えているようだ。
学級委員長三人組は、エレノアとサラを元気づけようと、色々と言葉をかけている。
ただ、あまり効果はないのが現実だ。
(……100kmも歩いた後、攻撃とかあったら、相当、キツイだろうな。場合によっては、そのまま撃滅されそう。疲れ過ぎて、体が動かないよ。まぁ、そんなことは言っても、敵は待ってくれないからな。戦うしかないのだけれど。できれば、疲労していない状態で、戦ったほうが良いな。当たり前だけど)
アリアは、朝食を堪能しながら、そんなことを思っていた。
――午前中。
王都ハリルの近くにある訓練場で、野外訓練が行われる。
そのため、移動自体は短い。
馬車の中で寝る時間は、さほどなかった。
とはいえ、体に染みついた習性というものがある。
端的に言えば、座ったら、すぐ寝てしまうというものだ。
講義中であろうと、馬車の中であろうと変わらない。
日々の生活だけで、疲れているためだ。
この習性は、入校生たちのものではない。
アリアたち補助教官も一緒である。
「一応、馬車で少し眠れましたけど、疲れはとれませんね。中々、キツイ訓練になりそうです」
アリアは、天幕を留める鉄の釘を、地面に打ちつけていた。
現在、入校生と同様、教官陣は、自分たちの天幕を設営していた。
アリア、サラ、ステラ、エレノアは同じ天幕である。
いつもの面子なので、何も言わなくても、役割り分担はできていた。
「しかも、最初、補助教官は防御ですからね。穴掘りとかを頑張らないといけません」
この野外訓練は、攻撃と防御で構成されている。
最初の一週間、入校生は、防御陣地を攻撃し奪取を目指す。
もちろん、一回ではなく、何回もである。
後半の一週間は、逆に、入校生が防御陣地を作らなければならない。
この炎天下の中、何日も穴掘りやらなんやらである。
中々、厳しい訓練だ。
「あああああ! もう、嫌ですわ! 涼しいところで、ゆっくり休みたいですの!」
エレノアは、暑さでおかしくなっているようだ。
半狂乱になりながら、ひたすら地面に鉄の釘を打っている。
「近衛騎士団は、結構、攻撃系の訓練が多いですわよね。防御系の訓練は、少ない気がしますの」
おかしくなったエレノアをよそに、サラは疑問を口にした。
「王族を守る最後の盾であり矛ですからね、近衛騎士団は。我々が動くということは、相当、切羽詰まった状況だと思います。防御陣地とかを作っている時間はないでしょう。文字通り、身を持って、攻撃を食い止めないといけないかと」
「そうなりますよね。基本は、攻撃をして敵の侵攻を遅らせる方針です。だから、普通の軍人よりも危険な場面で戦わなければいけません。ある程度、選抜された人員なのも納得です。そうでないと、守れませんよ」
ステラとアリアは、サラの言葉に応える。
そんなことを話しながらも、アリアたちは、テキパキと天幕を設営していた。
慣れたもので、数分後には天幕の中で、休むことができていた。
入校生たちが、全員、天幕を設営する間ではあるが。
ただ、天幕の中は、中々の暑さである。
直射日光をさえぎれるだけ、マシというものであった。
(……暑い。もう、それしか感想が出てこないよ。しかも、今だけだからな、天幕を使えるのも。前半の一週間は、日影で寝るのが精々だろう。早く夜になってくれないかな。直射日光を浴びながら、穴掘りはしんどいよ)
アリアは、簡易ベットの上に座っている。
ただ、休めているとはいえ、汗が止まらない。
それに、行進訓練の疲労もある。
気持ちが落ちてしまうのも、仕方がないことであった。




