255 仇討ち
――エレノアが瞬殺されてから、30分後。
アリアたちは、帝国通りにある飲食店で、昼食を食べていた。
日差しから解放されるため、暑さも、多少はマシになっている。
「いつまで、落ちこんでいるのですか? 人間、切り替えが重要ですよ?」
パンを食べながら、ステラはエレノアを見ている。
「ぐす……諦めきれませんわ。5千ゴールドは大金ですの。これから、給料日まで、どうやって生きていけば良いのか分かりませんわ。もう、32ゴールドしかありませんの……」
エレノアはというと、かなり落ち込んでいた。
「でも、露店の修理代は、さっきの人が出してくれたではないですか? 5千ゴールドで済まない金額を出してくれていましたよ?」
アリアは、エレノアが突っ込んだ露店を思い出す。
(露店のおじさん、カンカンに怒っていたな。仮面の人が、箱から無造作に5千ゴールド紙幣を一杯つかんで渡したおかげで、何とかはなったけど。あれで、騒ぎが大きくなっていたら、マズかった。団長の耳とかに入ったら、普通に怒られていただろうしな)
仮面の女性剣士のおかげで、なんとか、危機的状況を乗り切ることができていた。
ただ、エレノアは、きっちり5千ゴールドを払うことになってしまう。
負けは、負けということであった。
とはいえ、エレノアにとっては、諦めることができない金額である。
「ワタクシを蹴り飛ばしたのは、仮面の人ですの! そんなの当たり前ですわ! というか、おかしいですわよ、あの人! 絶対、いわくつきの人ですの! このワタクシが、手も足も出ないなんて、普通ではありませんわ!」
落ち込みから一転、エレノアはプンスカし出す。
「裏世界関連の人だったりするかもしれませんわね。だとしても、あの強さがあったら、別に稼ぐ方法とかありそうですけども」
「カレンだったら、何か、分かるかもしれませんね。まぁ、色々と、あの人も事情があるのでしょう」
サラの言葉に、ステラが答える。
少なくとも、アリアたち一行の誰が挑戦しても、勝てそうにない。
全員の共通認識であった。
「もう、こうなったら、ヤケ食いですわ! 給料日まで、食堂のご飯で我慢しますの!」
サラとステラの会話を無視して、エレノアは、ガツガツ食べ出す。
ちなみに、ここの食事代は、ステラ、サラ、アリアの三人が出すことになっている。
全財産32ゴールドのエレノアを不憫に思ったためであった。
「おや、珍しいですね。エレノア様が、お嬢様方といるとは」
アリアたち四人が、昼食を食べていると、いきなり声がする。
「カレンさんこそ、珍しいですね。こんな場所で遭遇するなんて」
冷たい野菜スープを堪能していたアリア。
別に驚きはない。
カレンは、いつの間にか現れる。
これまた、四人の共通認識であった。
「ステラお嬢様に手紙を持ってきまして」
「あ、別にいらないので、捨てておいて構いませんよ」
「……レナード様が、今の言葉を聞いたら、泣きますよ」
カレンは、食事中のステラに手紙を押し付ける。
凄く迷惑そうにしながら、受け取っていた。
その一部始終を見ていたエレノア。
なにか、閃いたのか、いきなり大きな声を出す。
「良いこと思いつきましたの! カレンさん、お願いがありますわ!」
エレノアは立ち上がると、カレンに近づく。
「何かは分かりませんが、お断りします。ロクでもなさそうなので」
「まだ何も言っていませんわよ! カレンさんなら、すぐ終わる話ですの! お願いだから、聞いてくださいですわ!」
エレノアは、メイド服の裾をつかんで離さない。
当然、カレンは面倒そうな顔をしている。
「何ですか? 聞くだけですよ?」
「仮面の人を倒してほしいですの! もちろん、ただとは言いませんわ!」
エレノアは、懐をガサゴソとして、財布を取りだす。
そして、手の平に全財産を落とす。
「ワタクシの全財産32ゴールドですの! これで、5千ゴールドの仇を取ってくださいまし!」
「……これでも、昔は、それなりの金額を稼いでいたのですが。さすがに、32ゴールドでは動けませんよ」
カレンは、何事もなく拒否をする。
だが、エレノアは、諦めきれない。
カレンのメイド服の裾をつかむと、駄々っ子攻撃をする。
「お願い、お願いしますの! これは、カレンさんにしか頼めませんわ! 人助けだと思って、引き受けてほしいですの!」
その後も、ひたすらお願いの言葉を述べるエレノア。
「……人前なので、やめてください。分かりました。エレノア様の願いを聞き届けましょう。32ゴールドはいらないので、しまってください」
ついに、カレンは折れてしまう。
もう、その頃には、アリア、サラ、ステラの三人は、昼食を食べ終えていた。
エレノアも、光の速さで昼食を食べる。
その後、上機嫌になったエレノアの先導のもと、アリアたち一行は、仮面の女性剣士がいた場所に向かう。
(……普通に面倒そうな顔をしている。まぁ、当たり前か。仮面の人も大変だな。カレンさんには勝てないだろうし。10万ゴールドを払うことになってしまうよ。とはいえ、あの箱の中には、5千ゴールド紙幣がたくさん入っていたし、そんなに大損害でもないのかな?)
アリアは、エレノアについていきながら、そんなことを思ってしまう。
夏を思わせる日差しが、アリアたち一行に降り注いでいた。




