254 お金を求める戦い
――アリアたち一行が到着してから、数分後。
意外と時間を待たずに、エレノアの順番になった。
ほとんどの者が、1分も経たずに木剣を弾き飛ばされているためだ。
「よし! 待っていますの、10万ゴールド! ワタクシのお財布の一員になるのも、すぐですわ!」
エレノアは、闘志を燃やしていた。
準備運動もしており、いつでも戦える状況だ。
周囲にいる野次馬はというと、エレノアの登場に、少しどよめいていた。
貴族のような見た目の者が挑戦をする。
今までは、見るからに軍人のような人間ばかりであったので、異質に映っていた。
エレノアは、そんな周囲の様子を気にせず、ツカツカと歩いていく。
「というか、そもそも、軍人がこのようなことに参加しても良いのでしょうか? まぁ、今更ではありますが」
「なんか、微妙な気はしますよね。規則を隅々まで読めば、なんらかには引っかかりそうです」
「大丈夫ですわよ。周りにいるのは、ミハルーグ帝国の軍人っぽい人ばかりですの。それに、ワタクシたちが、誰かなんて、分かるワケありませんわ」
ステラとアリアの心配をよそに、サラは楽観視しているようだ。
そんなことを話している間に、エレノアは木剣を握って、素振りをしていた。
ブンブンと、手になじませるように軽く振っている。
周りの野次馬の一部は、その音を聞いて、表情を変えていた。
『おい、あいつ、マジか……』
『どこぞのご令嬢の火遊びかと思ったが、意外とやるかもな』
などという声が聞こえてくる。
そんな中、エレノアが口を開く。
「木剣を使う以外に、蹴りとかもアリですの? とりあえず、何でも攻撃を当てられたら、大丈夫ですわよね?」
勝利条件の確認をしていた。
対して、仮面の女性剣士は、黙ったまま、親指をグッとする。
どうやら、どんな攻撃でも大丈夫なようだ。
「グヘへ! それは、良かったですの!」
これまた、エレノアは邪悪な笑顔をしている。
(……絶対、悪巧みしている顔だよ。せめて、周囲の人に被害が出るようなことはしないでほしい。そうなったら、多分、巻き添えで私たちも大変なことになるからな)
アリアは、サラとエレノアの顔を見ていた。
渋い顔のサラ。
特に表情の変化がないステラ。
各人とも思うことはあるようだ。
アリアたち三人が見守る中、エレノアは、仮面の女性剣士に向けて剣を構えた。
相手も準備万端のようである。
隙のない構えを見せていた。
「それでは、いきますの!! チョイヤー!!」
二やついていたエレノアは、声とともに、左手をかざす。
すると、アリアたちの見慣れた魔法が飛んでいく。
(うわ! もしかしたらとは思っていたけど、本当にやったよ! 周囲の人に当たったら、どするのだ!?)
声には出さないが、驚くアリア。
「……やりやがったですの」
「やっぱり、エレノアはエレノアですね」
サラは、さらに渋い顔。
対して、ステラの表情に変化はない。
そんなことを言っている間にも、炎の球は、仮面の女性剣士に向かって飛んでいく。
少し驚いているのか、一瞬、動きが止まっていた。
ただ、すぐに木剣で斬り払う。
もちろん、木剣は燃えてしまっていた。
「隙アリですの!」
距離を詰めていたエレノアは、突きを放っている。
必要最小限の攻撃を当てるためであった。
ただ、手加減はなしである。
これが木剣ではなかったら、確実に大惨事であった。
戦場で放っていても、おかしくはない一撃である。
対して、仮面の女性剣士はというと、
「……」
特に感想はないようだ。
エレノアの突きを、燃えている木剣で叩き落とす。
「えっ!? ウソですわよね!?」
確実に決まったと思っていたエレノア。
なので、声が出るのも、しょうがない。
だが、さすがに近衛騎士団所属の士官。
木剣を放すことはなかった。
それどころか、返しの剣を当てようとしている。
闘志は、まだ尽きていなかった。
問題は、相手の行動である。
「……あ」
アリアは、思わず声を出してしまう。
返しの剣を振るよりも速く、蹴りが飛んできていたからだ。
しかも、普通の速度ではない。
明らかに、何かをやっている者の動きであった。
アリアたち三人には、かろうじて蹴りの始まりが見えるだけだ。
もちろん、そんな速度であるので、エレノアに何とかするのは無理である。
鎧のついた蹴りが、エレノアの顔面に吸い込まれていく。
アリアたちが、瞬きをする間もなく、勝負は決する。
帝国通りにつながる小道を、エレノアは矢のような速度で飛んでいった。
そのまま、露店の一つに激突してしまう。
『うわ! 何か、飛んで来たぞ!』
『何だ、何だ!?』
当然、騒ぎになってしまっている。
もちろん、アリアたちの周りにいる野次馬も、口々に大きな声を出していた。
「サラさん、ステラさん!」
アリアは、大きな声を出しつつ、すぐに走っていく。
二人も返事をすると、一緒に走り出す。
数秒後には、エレノアのもとに到着をしていた。
「顔! 顔! ワタクシの顔は、大丈夫ですの!?」
どうやら、エレノアは無事のようである。
埃やらなんやらがついた状態で、立ち上がり、顔をペタペタと触っていた。
その近くには、仮面の女性剣士もいる。
いつの間にか、移動してきたようだ。
(……あれ? 私たちのほうが、先に動いていたよな?)
エレノアの無事を確認したアリアは、そんなことを思ってしまう。




