252 珍しい休日
――行進訓練の翌日。
今日は、土曜日である。
ハリル士官学校では、野外での訓練などがない場合、通常、土曜日と日曜日が休日であった。
そんなワケで、今日は休日である。
入校生は、私服に着替え、王都ハリルへと繰り出していた。
もちろん、アリアたち補助教官も、休日を満喫している。
今日も、アリア、サラ、ステラの三人で、出かける予定となっていた。
「とりあえず、エレノアのことを起こしに行きますか。そうでないと、お風呂をお湯にできませんから」
起床した三人は、エレノアの部屋に向かう。
ハリル士官学校では、お風呂に入れる時間が決まっている。
入校生は、その時間を考えて、日々、動かなければならなかった。
それは、休日でも一緒である。
だが、アリアたち補助教官は、別であった。
一応、決まった時間しかお湯にはならないが、冷めた水でよければ、いつでもお風呂に入ることは可能だ。
そんなワケで、エレノアを起こしに来た三人。
「エレノア。起きてください。お風呂の時間ですよ。100ゴールドがほしくはないのですか?」
ステラはそう言うと、ダンダンダンと扉を叩く。
それから、しばらくすると、エレノアが出てきた。
「……もう、朝ですのね。ワタクシも、今日は用事があるので、ちょうど良いですわ。ちょっと、待ってくださいまし」
凄い寝ぐせのエレノアはそう言うと、扉を閉めた。
「もしかして、一緒にお風呂に入るのですかね? 珍しいです」
「本当ですわね。いつも金欠のエレノアとは思えませんの」
アリアとサラは、キョトンとした顔をしている。
近衛騎士団は、軍隊内でも、そこそこの給料をもらえていた。
しかも、アリアたち補助教官には、海外赴任手当などの諸手当もついている。
そのため、物価の高いローマルク王国といえども、普通に休日に遊ぶくらいのお金は持っていた。
ただ、エレノアの場合、事情は違ってくる。
ミハイルから、毎月、1万ゴールドしかもらえないのだ。
休日に遊びに行こうものなら、すぐに消えてしまうくらいの金額である。
それもこれも、エドワードや学級委員長三人組から、お金を借りまくったせいだ。
そのため、給料の大部分は、強制的に貯金をさせられている。
身から出た錆と言えば、それまでだが。
必然、休日は、寮の自分の部屋でゴロゴロすることが多い。
だが、今日は、出かけるようであった。
「お待たせしましたの。お風呂に行きますわよ」
外出用の服を持ったエレノアは、お風呂場へ歩いていく。
アリアたち三人も、トコトコと後ろを追っていった。
――数分後。
エレノアの大火力によって、お風呂場の水は、すぐにお湯になっていた。
アリアたちは、早速、体やら、髪やらを洗い、お風呂を堪能する。
「エレノアさん。外出なんて、珍しいですね。欲しいものでもあるのですか?」
お風呂に浸かっているアリアは、隣のエレノアに質問をした。
「ありますわ! 今日は、それを手に入れにいきますの!」
エレノアは、完全に覚醒をしている。
いつも通りの元気な声を上げていた。
「お金がないのに、大丈夫ですの? 誰かから借りても、すぐにバレますわよ?」
サラは、心配している。
危なげな人からお金を借りた場合、補助教官全員が連帯責任を取らされる可能性があったからだ。
あとは、普通に金銭面での心配をしていた。
「そんなことはしませんわよ! 何回かバレて、コリゴリしましたの! 今日は、そのお金を稼ぎに行きますのよ!」
エレノアは、プンプンし出す。
「どこかに働きにでも行くのですか? 団長に許可を取らないと、ダメですよ?」
ステラは、一応、注意をしておく。
そもそも、アミーラ王国軍は、基本的に兼業を認めていない。
軍人としての職務に専念させるためだ。
ただ、申請をして認められれば、兼業も可能ではある。
ほとんど認められることはないが。
「分かっていますわ! 働きにいくワケではありませんの!」
「とすると、違法な薬草でも売りさばくのですか?」
ステラは、至極当然そうな顔をしている。
「どこの裏世界の話ですの!? そんなことをしたら、色々な人に命を狙われますわ! それに、違法な薬草なんて、どこで手に入れますの!?」
「カレンに頼めば、腐るほど持ってきてくれますよ」
「馬鹿ですの! 絶対、馬鹿ですの! そんな法に触れるような方法では、ありませんわ!」
「じゃあ、何ですか?」
ステラは、意味の分からないといった顔をしていた。
(……いくらエレノアさんでも、違法な薬草なんて、売らないだろう。でも、どうやって、お金を稼ぐつもりなのかな?)
アリアは、普通に興味が湧いてくる。
「なんでも、帝国通りで、一振りでも攻撃を当てられたら、10万ゴールドをくれる人がいるらしいですの! こんなチャンスを見逃すワケにはいきませんわ! ワタクシにとっては、落ちているお金を拾うようなものですの!」
帝国通り。
王都ハリルにある通りの名前であった。
通りの近くでは、ミハルーグ帝国の軍人が、たくさん住んでいる。
そのため、帝国軍人向けのお店が数多く存在していた。
海外で生活するミハルーグ帝国の軍人にとっては、ありがたい場所である。
王都ハリルの住人の中には、海外から来る人間を良く思わない人もいるためであった。
そんな場所に、エレノアの言っている人間がいるらしい。
(……なんだか、ウソ臭いな。一振り当てるだけで、10万ゴールドだろう? 普通に怪しい。何か、裏でもあるに違いない。でも、ちょっと面白そうかも)
アリアは、ちょっと興味のありそうな顔をしていた。




