表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
251/316

251 訓練終わりの楽しみ

 ――行進訓練終了から、2時間後。


 辺りは、すっかり暗くなっていた。

 ただ、校庭に集う入校生たちの雰囲気は明るい。


 これから、訓練お疲れ様会を行うためだ。

 端的に言うと、打ち上げである。

 教官陣も、準備段階から参加していた。


 とりあえず、最低限の装備の泥落としをした入校生は、松明の明かりの中、校庭で忙しそうに動いている。

 多少乾いた地面の上に、バーベキュー用の設備が置かれていく。

 もちろん、炭も中に入れていた。


「何で、ワタクシが火付けをしないといけませんの!? おかしいですわ! 絶対、入校生の仕事ですの!」


「良いじゃないですか、別に。エレノアの本領を発揮できる場ですよ? もっと、喜びなさい」


「ワタクシの高貴な魔法は、炭に火をつけるために使うには、勿体ないですわ! 相手を一撃で焼き尽くすために使うものですの!」


 エレノアとステラは、バーベキューの準備をしつつ、言い争いをしていた。

 とはいえ、二人で協力して、手早く準備をしている。


「……エレノアは、何を言っているのだ。さっきの行軍で、手を乾かすために魔法を使っていただろう。まったく、意味が分からない」


 エレノアの声が、エドワードには聞こえていた。

 近くにいる学級委員長三人組はというと、苦笑をしている。


「ははは……」


 とりあえず、アリアは、愛想笑いをしておいた。


 なんだかんだと、あまり時間が経たずに、バーベキューの準備は終了をする。

 軍隊生活のせいで、入校生も、教官陣もテキパキと動くのが染みついてしまっていた。


「よし! グラスは持ったか!? カンパイ!」


 お立ち台に立ったバスクの声で、打ち上げは始まる。

 すぐに、辺りには、お肉の焼く匂いが広まっていく。

 と同時に、入校生、教官陣を問わず、楽しそうな声が聞こえてくる。


「あ! ステラ! ワタクシの育てていたお肉を取りましたわね! ふざけるんじゃありませんわよ!」


「何を言っているのか、分かりませんね。見間違いでは?」


 ステラはそう言いつつ、エレノアの焼いていたお肉を奪取していた。


「コラ! また、取りましたわね! これでは、キリがありませんの!」


 エレノアは、自分でお肉を焼くのをやめてしまう。

 代わりに、エドワードに目をつけた。


「おーっほっほっほ! エドワード! ワタクシに肉を献上するという栄えある役割りを与えますの! 泣いて、感謝しなさい!」


「僕の肉は、僕のモノだ! 断じて、エレノアのモノではない! そんなに食べたいのなら、自分の魔法で焼け!」


 エドワードは、エレノアにお肉を奪取されないよう、細心の注意を払っている。

 フォークでの攻撃を、お肉を焼くトングで防御し続けていた。

 その様子を、学級委員長三人組は、苦笑しながら、見ている。


「キー! エドワードの癖に生意気ですわね! それだと、燃え尽きてしまいますわ! くっ! 何か、方法はありませんの?」


 自分で焼けば、ステラに奪われる。

 かといって、エドワードから、お肉を奪えない。

 そんなエレノアの眼に、お肉の草原が入ってくる。


 決心は早かった。

 近くにあったトングを持つと、突撃を敢行しようとする。


 だが、寸でのところで、作戦を中止した。


 サラが真顔で、エレノアの顔を見ていたからだ。

 何も言葉は発さない。

 ただ、表情が雄弁に物語っていた。


『お肉に手を出したら、戦争だ』


 その意思を読み取ったエレノアは、トングを静かに戻す。


「おほほ……サラのお肉でしたのね。ワタクシ、他の人のお肉と勘違いしていましたわ」


 エレノアは、暗に、他の人のお肉であれば奪取していたことを白状した。


(……あの顔は恐いよ。まぁ、サラさんは、いつお肉を一杯食べているからな。それに手を出したら、戦いになってしまうよ)


 一部始終を目撃していたアリアは、エレノアに自分が焼いたお肉を分け与える。


「ありがとうですの、アリア! ステラとエドワードとは、大違いですわ!」


 エレノアはお肉を受けとると、すぐさま、食べ始めた。


「アリアさん。エレノアに情けは不要です。すぐに調子に乗るので」


「そうだぞ、アリア。エレノアに対して、優しさはいらない。厳しいくらいが、ちょうど良い」


 ステラとエドワードは、二人ともモグモグしながら、注意をする。


「いや、何となく不憫に思えてしまったので。思いがけず、お肉を渡してしまいました」


 アリアは、本心を偽らず、言葉にしていた。






 ――打ち上げが始まってから、2時間後。


 最初は、別れていた入校生と教官陣。

 だが、時間も経ってきたため、その垣根はなくなりつつあった。


 教官陣は、入校生の間を移動し、談笑をしている。


「アリア中尉! お時間、よろしいでしょうか?」


「大丈夫ですよ。あと、そんなにかしこまらないでも、良いです」


 残ったお肉を食べていたアリア。

 そんな折、ゲオルクが話しかけてくる。


「いえ、そういうワケにはいきません! いくら打ち上げとはいえ、礼儀を弁えなければいけません!」


「まぁ、ゲオルクがそれで良いなら大丈夫ですけど。さっきの行軍では、結構、頑張っていましたね」


「あれくらい、当然です! 仲間を見捨てるような者は、士官になれないと思いますので!」


 ゲオルクの言葉には、一層、力がこもっていた。


(……仲間を見捨てるような者か。ローマルク王国の兵士には多そうだよ。ローマルク王国防衛戦の時に、指揮官が逃げ出したとか、何回も聞いたからな。末端の兵士が、我先に逃げ出しても、おかしくはない)



 アリアは、当時のことを思い出していた。


 そもそも、ローマルク王国がエンバニア帝国軍に押されまくっていたのも、上に立つ者たちのせいである。


 もちろん、ローマルク王国軍の中にも、優秀な指揮官と士気の高い兵士はいた。

 事実、ある程度は、エンバニア帝国軍を食い止めていた。

 兵士不足、物資不足、無茶な命令の中で、である。


 ただ、エンバニア帝国軍の猛攻を前に、優秀な指揮官と士気の高い兵士は消えていった。

 残ったのは、自分のことばかりの指揮官と士気の低い兵士たちであった。


 あまつさえ、戦争指導者の多くは、ミハルーグ帝国からの支援物資を横領している状況下であった。


 端的に言って、勝てるワケがなかった。

 末期には、エンバニア帝国軍が近づくだけで、指揮官が我先に逃げてしまう状況だ。


 自分が率いている兵士たちを置いて、である。


「一人が逃げ始めると、一気に伝染していきますからね。そこを、何とかするのが、指揮官の役目でもありますけど」


「まともな指揮官であれば、そうだと思います。ただ……」


 ゲオルクは、口ごもってしまう。

 それだけで、彼が最前線で経験したことを、アリアは察してしまう。


「別に言わなくても大丈夫ですよ。それにしても、よく士官になろうなんて思いましたね? そんな経験をしたら、軍隊自体が嫌になりそうですけど」


「もちろん、嫌になりました。ただ、同時に、気付いてもしまいました。一兵士のままでは、どうすることもできない現状というものに。国が荒れているのに、上の者たちは動かない。あまつさえ、自分たちのことばかりを考えている」


 ゲオルクは、一度、言葉を区切る。


「それなら、自分が士官になって、少しでも国を良くしたいと思いまして。もちろん、現実的に難しいことは、百も承知です。ただ、可能性がないワケではありません。どんなに可能性が低くても、つかみとってみせます!」


 決意の固さが、話しているアリアに伝わってきた。


(いや、凄いな! 『士官になったら、最前線に行かなくても済むかな?』とか考えている人間とは大違いだ! もう、眩しくて見ることができないよ!)


 アリアは、素直に感心してしまう。

 と同時に、一瞬、顔を背けてしまった。


「どうされましたか、アリア中尉? もしかして、お肉が生でしたか?」


「いえ、少し、ゲオルクのことが直視できなかっただけなので、大丈夫です」


「? どういうことですか?」


 疑問顔のゲオルク。

 だが、アリアが答えるよりも早く、声が聞こえる。


「ゲオルク! 私は、感動をした! まさか、ここまで志高い同期がいるとは!」


 ピンク色の髪の女性は、ゲオルクの手をつかむと、ブンブンし出す。


「ちょ! ペトラ! いきなり、どうした!?」


 ゲオルクは、いきなり現れたペトラに戸惑っている。


「いや、済まない! この国を想うゲオルクの気持ちが伝わってきてな! さぁ、あちらで、この国の未来について語り合おうではないか!」


 ペトラはそう言うと、ゲオルクをどこかへ連行し始めた。


「待てって! 俺は、アリア中尉と話をしたい! おい! 聞いているのか!?」


 ゲオルクは抵抗をしていたが、そのまま、引きずられていってしまう。


(ふぅ~! 助かった! これ以上、ゲオルクと話すと、色々とボロが出そうだったからな! ペトラの乱入は助かった! よし! 今のうちに、サラさんとステラさんに合流しておこう!)


 アリアは焼いたお肉を持って、二人を探し始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ