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第三章 『昨日の敵味方は入れ替わる』

 五階層にたどり着いた二人に多くの参加者が振り返る。

 どうやらまだクリア条件が達成されていないらしい。立ち止まっている。

 皆、広い大理石を削り取った空間で待機させられているのだ。その後も続々と参加者たちがこの部屋に集まる。

 静寂の空間に響くのは五階層に上がってくる者の足音と、時々聞こえてくる荒い呼吸音。

 皆、警戒している。

 既に五階層の脅威は始まっているのでは。

 いきなりトラップが作動するのでは、と。

 前回と同じだったら警戒せずに済んだのかもしれない。でも四階層で前回との違いを見せ付けられたのだ。

 それに最上階に行けるのは四名のみ。ならば強制的にでも誰かは落とされなければいけない。

 だから警戒する。迷焦も負けられないために無駄な行動は避ける。例え他の身内が視界に入っても。

 そんな静寂を切り裂くようにスピーカーから声が流れる。前までの声の主が違い、どこか違和感のある声音が全体を支配する。


『参加者の皆様、お疲れ様です。今回はなかなか手練れ揃いのようで何よりです」


 ただぁ、


『いささか多すぎるので数を減らしたいと思います。ルールは二人一組でトーナメント戦。残る二組がそのまま準決勝に参加、で、いいですよね。はい、ペア決め始め』


 投げやりな司会の声にしばらく参加者たちは立ち止まっていたが、一人が動けばその動きは全体へと伝わる。

 すぐに部屋中が騒がしくなった。

 人の波に合わせて迷焦と栞は身内の元に集まる。真っ先に二人に気づいたユーリが手を振る。


「後輩たちも順調そうみてえだな」


「そりゃまあ。一応前回準優勝ですし。ここまでなら余裕......では無かったですけど」


 爆音寺との二階層の思い出が頭をよぎる。

 頭を振り、迷焦は思考をペア決めへと移す。


「とにかくペア決めしますか」


「ああ、ただ問題があるんだよな。俺ら五人だし」


 迷焦はユーリの言葉で栞から始まりユーリ、ラル、ヒサミを見回す。

 二人一組のペアはこの中で二つ出来て一人余る。皆、実力は申し分ない。

 問題は誰が抜けるかだ。

 機動性なら迷焦が長けている。

 一撃の破壊力ならユーリ、技の精密さと速さならヒサミ、手札の多さならラル、魔法威力なら栞。

 誰がペアを組んで誰が相手になっても脅威になる事間違い無い。

 というか一人抜けて三組みになる場合、必ずどこか落ちてしまう。

 その事を承知か皆口が重い。しまいにはじゃんけんで決めようとユーリが言い出す。


「最下位が他のところに行く。んで、一々と二位が、三位と四位が組む。いいな。恨むなよ、いくぞ。最初はグー」


 しかしユーリの口から後の言葉は出て来なかった。横からごつい声が遮ったからだ。


「迷焦を借りるぞ」


 迷焦たちが声の方を振り向くと、ごつい体にどでかい巨剣を背負った、マッチョが異世界で戦士をやったらこんな感じ。が当てはまる人物が威圧的な顔で覗いていたのだ。

 その顔を見るや栞以外が警戒心を強める。

 なぜならば、その人物は迷焦たちにとって悪い意味で関わりがある人物であり、迷焦が超えるべき目標の一人でもあるのだから。

 

「ディオロス......」


 柄を握る手を強め、迷焦はこみ上げてくる怒りを抑える。

 以前、ディオロスは迷焦や身内を盛大に攻撃してくれたのだ。今のディオロスからは敵意が感じられないとはいえ、嫌悪感は迷焦の細胞内にまで行き渡っている。

 そんな迷焦がやすやすと許せるわけが無い。

 それを察してかディオロスは頭を下げる。

 堂々とした謝罪だった。


「あの時の事はすまなかったと思っている。力と正義感に溺れたと今ならわかる。すまなかった」


「えっ......」


 迷焦は「僕の身内にしたことを忘れるなよ」と言うつもりだったのだが、まさかディオロスから謝罪がくるとは思わなかったのだろう。目をぱちくりとしている。それは身内も同様だった。

 その後もディオロスは続ける。



「お前が俺を殺したいほど憎いのはわかりきっている。だから決勝まで俺と勝ち残り、再戦をしよう。勝てたなら観客の前でいたぶるなりしろ。だから今は協力してもらう」


 一言で表すなら誠意。二メートルはあろう巨漢のその猛々しい印象を被せるほどにディオロスは真面目だった。

 元々迷焦はディオロスの言葉をこんなにも聞いたことが無かった。ワイルドレジェンドとかの異名がしっくりきそうな外見に惑わされ気味だがディオロスはそれほど喋らない。それはガブリエルになってすぐの時でもだ。

 もしかしたら良い人なのかもしれない。怪物が花を好きな事がわかったと同じくらいにギャップがあるが案外そのようだ。

 

 迷焦は普段から人と関わらないからあまり実感しないだろうが話す事でその人の事が見えてくる。

 迷焦は気構えてたのが馬鹿らしくなり、柄を握っていた手をディオロスに差し出す。


「えっ、えーとその、お願いします」


 目を泳がせながら告げる迷焦の手をディオロスが握る。


「よろしく頼む」


 それからといってディオロスは迷焦にだけ聞こえる声で喋る。


「弟から話は聞いているな」


「えっ、暗殺者が実は他の世界の侵略者って話?」


「あれは俺の推測だ。そして、恐らくここに来ている」 


「なっ! 証拠は何かある? のですか」


「ここの人間とはオーラが違うと言うべきか。破綻者に近い黒色の感情粒子が犯行現場から確認されている。以前、ガブリエルの軍勢の行動が気になってディルムに尾行させた事があってな。結果は時空の裂け目みたいな所があって、その中には森や町が広がっていた。ただし戦争の跡地みたいだったらしい」


 ディオロスまでもが知らないとなるとガブリエルの中でも結構ブラックなものらしい。

 ガブリエルの進軍、そして戦争の跡地。

 ここから導き出される答えをディオロスは言う。


「そこではガブリエルたちによる侵略、いや、虐殺が行われていていたそうだ。しかし、死体はガブリエルたちのもあった」


「つまり向こう側の住人が力をつけてきて、今度はこっちを侵略しだいたって事か。だとして、ここに来たなら............」


「お前の仲間にも危害が及ぶだろうな。それにもう始まっているかもしれん。これまでに見ない奴がちらほらといる」


 迷焦の心臓が鷲掴みされたかのように痛み出す。ガブリエル以上の強さを持つ謎の襲撃者。

 そいつらの復讐だとしたらこの世界の住人も同じように虐殺されるかもしれない。

 もちろん迷焦の身内もその中に含まれる。


ーーーどちらにせよ身内に危害を及ぼすなら僕のやることは変わらない。


 迷焦は不安な気持ちを押しつぶしディオロスの方を再度向く。


「とにかく僕らが今やっているのは剣帝試練だ。勝てば問題無い。だよね」


「ああ、奴らも相手が弱ったところを狙うだろうから多分まだだな」


「なら、決まりです。ぶっ潰します」


 と、迷焦とディオロスが固い握手を結んでいるのを栞たちは遠目から見る。


「ねえねえ、あの人誰?」


「そういおば栞ちゃんは知らないんだっけ。あのごついおっさんは前回優勝者のディオロスさん。昨年、先輩の胴体を真っ二つにした人です。ぶっちゃけ敵です。ガブリエルです」


「でも、なんか仲良いみたいだね」


「なにがどうなっているんですかね......」


 ラルがユーリとヒサミの方を向くも二人もなぜ迷焦とディオロスの仲がよくなっているのかわからないようだった。


「つーわけで僕はディオロスと組むのでまた試合で」


 迷焦は皆が状況を呑み込めない中、一足早くトーナメント登録を済ませに行く。

 迷焦はディオロスだけに向けてさっきの続き話す。


「ディオロス勝つよ」


「当然だ」

 

 二人は前に歩き出した。勝利のために。

 そして、試合が始まった。


************



 一回戦はまさかのラルとヒサミだった。

 一回戦からまさかの身内。そんなのは嫌だ。

 でも、やらなきゃいけない。僕が身内を守るんだ。

 僕はその決意を胸に対戦相手となった二人を見る。いつも味方でいてくれた身内。

 隣には敵だったはずのディオロスが味方であるため不思議な気分だ。

 

「ディオロス。今回は手を出すなよ」

 

 気持ちを戦闘モードに切り替えた僕は試合開始の合図と共にそう告げる。 

 呼吸が荒い。身内を傷つけることへの躊躇いが僕の動きを制限する。 

 だから解すために身内と話す。


「ふたりとも降参してくれないですか。僕は傷つけたくないから」


 でも、二人の表情は変わらず武器を構える。


「迷焦君。気持ちは嬉しいですがこれ以上一人で背負い込まないでください」


「そうですよ先輩。話聞こえちゃってましたよ。先輩はいつも私たちのために死地へ向かってしまうので今回は私たちが変わりを勤めちゃいますよ」


 どうやらあんさつしゃの一件はきこえいたらしい。


「降参してくれないですか」


 僕の問いに二人は首を横に振る。

 二人はディオロスまでもを倒すつもりなのだろう。

 でも、二人は気づいていない。僕の戦いのスイッチはもう入っている事を。この会話が僕の緊張を解すためのものだということを。


「残念です」

 

 言葉を言い終える前に僕の体は地を蹴っていた。狙うはヒサミ先輩。

 僕がやったことは単純だ。 

 全速力でヒサミ先輩の背後に回り込むと峰打ち。ヒサミ先輩は反応が速い。すぐに刀で防ごうとするが間に合わない。とっさにヒサミ先輩の関節を僅かに凍らせているからだ。

 だからヒサミ先輩は簡単に崩れ落ちる。


 ヒサミ先輩が僕の攻撃の対処に遅れた理由はもう一つある。 

 それは僕が二人を傷つけられないと思っている事だ。例え頭では理解していても長年の付き合いでどうして僅かに思ってしまう。それが差となったのだ。


 現にラルも驚きを隠せていない。

 そんなラルに僕は敵意も向けずに歩む。一撃を加えるその一瞬だけでいい。


「僕はラルたちを傷つけたくないからここで負けてもらう」


 その瞳は多分冷徹なものとなっているだろう。僕が感情を押し殺している時の瞳だからだ。


「僕は優勝するよ。だから今は負けて欲しい」


 僕は大切な身内に剣を向けた。牙突の構えを取る。僕の心は最近温くなっている。

 その心を今一度凍らせる。 

 守るために傷つける。

 だから、


ーー今は眠って。


 僕は後輩に向けて最小限の攻撃を繰り出した。



 


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