第三章 『英雄』
身内の二人を倒した迷焦はその後も順調に勝ち上がって行き、早くも残り四組みとなっていた。
ユーリと栞のペアがなんとその中に含まれている。二人の実力も充分剣帝試練で戦えるレベルになっているようだ。
また、ガブリエルの二人も勝ち上がってきている。そこはさすがと言うべきだろう。
迷焦的にはガブリエルと戦うのは避けたいと祈っているところだと思うが、考えようによってはガブリエルより強い相手がいなくて良かったと言うべきところだろう。
この二組が戦うらしい。
そして最後の組みは迷焦の予想を大きく裏切る事となった。
迷焦は前方で対戦相手二人を驚き混じりの表情で捉える。
一人は四階層で姿を見せた漆黒のマントを羽織った男。やる気の無い瞳は何を見ているのかわからない。
さっきと違うのは背中にさしてある剣だ。
以前のように黄金の剣では無くシンプルで、初心者が使うような味気ない物だった。
クオリティーは高くないように思える。
そしてもう一人。迷焦に手を振る白髪の子供が一人。
「やーやーどうも。お兄ちゃんお久しぶりなのです。子供な僕が相手なのでよろしく」
ファンタジーな世界での王族服に身を包んだ碧眼の子供。王子よりは人形と思える独特な雰囲気に腰にさした二本の短剣。
大会前に迷焦とぶつかったリオンと言う子供だ。
大会前はすぐにリタイヤしようと笑いながまら言っていたが、ここまで上り詰めた実力がそれが嘘だったと物語る。
子供としか思えない外見とは裏腹に力を内包していたらしい。
「ああ。まさか君が勝ち上がってくるとは思わなかったよ」
「そりゃぁ、子供な僕は勝つために悪知恵を働かせたんですからね。実は強かったのです。なんて。とにかく精一杯頑張ろうねお兄ちゃん」
「うん。......もう一人も気になるけどとこだけど」
「あはは...内緒」
リオンはそう言って所定の位置へと走っていく。その背をを目で追いかける迷焦はディオロスと作戦の事を含め話しかける。
「ディオロスはどっちを狙う?」
「俺は子供を斬らん」
(意外な新発見。ディオロスは子供に優しい)
ディオロスの事をまた一つ知ることとなった迷焦。しかし、すぐに興味を無くしたように脳裏から排除する。
「ならあの男をよろしく。僕は子供の方を倒すから。ちなみにあの男の人。四階層では黄金の剣を持っていたから気をつけて」
「了解した。にしてもいいのか。もう一方の試合」
ディオロスが指差した先、ユーリと栞の二人の戦いが丁度始まっていた。
相手はガブリエルの二人。時を操る白銀の騎士ラズワイトと緑色の鎧と純白の剣を携えるディルムなのだ。
一人一人が超ド級。それが二人。
明らかに戦力差がある。勝ち目なんて決まっているようなものなのだ。
特に異世界転移者である二人にガブリエルが手加減する必要は無い。かなり残酷にやられるかもしれない。それをディオロスは危惧したのだ。
しかし、迷焦は慌てる様子無く二人の戦いを見届ける。
「大丈夫です。そんなに二人は弱くないですよ。むしろあなたがお仲間の心配したらどうですか?」
迷焦は身内を信頼しているのだ。確かに勝ち目は低い。でも0では無い。
それだけで迷焦が信じるのには充分だ。
「僕の身内は強いですから」
迷焦はおもちゃを買ってもらった子供のような笑顔を見せるのだった。
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ハンマーの軌跡は導かれるようにディルムへと走る。ユーリの腕からは血管が浮き上がり、物凄い力を込めているのがわかる。
さらに遠心力を利用したその攻撃は巨人の拳を連想させる破壊力を持っていた。
しかし、ディルムはそれを剣でいなす。無駄の無い動きで自身へのダメージを最小限にする。
そこから反撃に転じたディルムは強い。純白の閃光を放ちながら繰り出す連続的な剣技は隙のないものだった。
流れるように動き、針の穴を通すような精密さでユーリの防御をかいくぐっていく。
ユーリのハンマーの破壊力は凄いがディルムの剣技がその破壊力を打ち消す。
「やっぱガブリエルさん超つえーな。ぶっちゃけ技術じゃ勝てねーわ」
「なら降参して欲しいのだが」
「んーそれは無理だな。なぜなら俺は後輩に格好いい先輩の姿を見せる義務があるからな」
「それは同感だ。だが内の後輩は復讐しか見ていないようでな。少々残念なのだよ。あれではアンゴルモア様の恥曝しとなってしまう。なんとかしないとな」
「お宅の事情はわかんねえけどそっちも苦労してるんだな。なんかガブリエルも普通の人間みてーのようで安心した」
「ほざけ。我らは神の使徒だぞ。設定ではな」
「そこ設定って言っちまう辺り神を信じてねーのかよ」
と、会話をしながら打ち合う二人。ユーリは汗をかきながら必死で食らいつく。
対して栞は白銀の騎士に魔法を撃ちまくって能力の発動をさせないようにしている。
雷、風などの速攻魔法を複数撃つ事でラズワイトは剣を使ってそれを防ぐ。さらに簡単に避けられないよう、地面から岩を突き出したり、強風を吹かせる。
さらにその岩をわざと砕いて落石、強風の中に鎌鼬を混ぜたりとラズワイトに攻撃の機会を与えない。
魔法を連発する栞の周りには音魔法の盾を張り、もしも白銀の騎士が分子運動を停止させても強制的に盾が動かすという仕組みだ。
対策ならば直接戦った爆音寺が教えてくれている。
抜かりなしなのだ。
そこまでしても白銀の騎士は倒れない。
眩しく光り輝く数々の閃光を切り裂き、爆発させていく。さながら咲き誇る花を愛でる者のようだ。
ラズワイトの剣技は舞い。
優雅に剣を操る演舞の騎士。
ただし、ただ見せるだけの剣技とは違う。
実戦で繰り出す技の極地なのだ。熟練の剣士の技は踊りのように美しいと言われるがラズワイトは一撃一撃がそれに当たる。
呼吸を乱さず栞の攻撃を切り裂いていく。型にはまった正確な動き。呼吸をするのと同じように繰り返してきた型の数々。
だからこそラズワイトは信じて剣を振るえる。
それこそがラズワイトの強さなのだから。
だからラズワイトは揺るがない。栞の猛攻が不満なのか苛立ちげに喋る。
「して、チート能力者。小細工はそれだけか」
どうやら白銀のガブリエルにとって栞の攻撃は退屈の一言で終わるものらしい。
実際、栞が繰り出す魔法の威力一つ一つは弱い。雨を降らせるかのように魔法を撃つとなると威力を弱めなければいけない。継続して放つために最小限の威力にしてそれを魔法増加で補っているのだ。
それでも少しずつ栞の体力を奪う。疲労の色を見せながらも栞は無理やりに笑顔を作る。
「まだまだだよ。ワタシはチート能力者だからね。この調子で最終試練もクリアしちゃうんだよ」
「黙れ腐れチート。お前らのような奴がいるから。私はッッ!!」
突如として怒り迫ってくるラズワイトは魔法の雨をいとも簡単に弾き、栞との距離を脅威の速さで詰める。
それを見て栞はかかったと心の中で呟く。
ラズワイトは過去の因縁のためチート能力者に対して異常な殺意を抱いており、暴走しやすいようだ。
だからこそ、その時を狙い栞は温存していた力を詰め込み、強烈な魔法の準備を終える。
使う魔法は風魔法。空気をありったけ凝縮して球体にする。
巨大な爆弾のように一気に爆裂する超ディザスターボールだ。
(ちなみに何故空気を圧縮させてもプラズマが発生しないのはイメージの力なのか雷魔法の特権なのかはわからないが)
「いっちゃえスーパーブラスター」
栞の放った球体の正体に気づかないラズワイトは斬り伏せる。
そこで球体が爆発した。閉じこめられていた空気が弾け飛び、ラズワイトを呑み込んで周囲に烈風と真空波を刻みながら栞の五感を奪う。
それはもはや爆弾の衝撃と同等。もしくはそれ以上の力が空間をねじ伏せる。
「やったのかな......」
肩で息をする栞はまだ戦闘体勢のままだ。ガブリエルを侮ってはいけないと本能が訴えてくるからだ。
実際、ガブリエルはまだ剣を握っている。鎧の大部分にはひびが入り、裂傷も多い。ラズワイト自身の額からは鮮血が流れ出る。
それでも立ち上がってくる。
「調子に乗るなよ腐れチート風情が。お前らの......お前らのせいで私の家族は!」
ボロボロになりながらも栞に迫る。鬼気迫るなんて生ぬるい。もはや憎しみという呪いに取り付かれた狂戦士。
「だああああああっっっ!!」
叫べばそれだけで口から血が流れる。体は限界のようだ。それでも止まらない。
ラズワイトはガブリエル内でも有数のチート能力者嫌いだ。それは人間とゴキブリの関係に留まらない。
目にするならば殺したい衝動に刈られるが、ガブリエルという立ち位置がそれを抑えていた。
この世界の平和を守るため。これ異常身勝手なチート能力者たちが異世界無双だのなんので人々が犠牲にならないように。
それが彼の唯一の願いであり、衝動を抑えるストッパーだった。でも今は頭に血が上りそれどころじゃ無くなっている。
今彼が能力を使えば栞は無残に惨殺されることだ。
「死ね! 糞チートがっ!!」
吠えるラズワイトが一瞬で栞との距離を詰め、剣を振るうその一歩手前。
ラズワイトの体は途中で固い何かに遮られた。
「がはっ......」
ユーリの巨大なハンマーが勢いよく走っていたラズワイトの胸に深々とめり込む。
鎧が砕け、地を吹きだしたラズワイトの意識が一瞬飛ぶ。
ラズワイトの眼前でハンマーに力を入れるユーリは彼の憎しみを理解するかのように呼応する。
「あんたは子供の頃、ゲーム何かかと勘違いしたチート能力者に街を燃やされ、ドリムのように躊躇い無く家族を殺されたそうだな。あんたのお仲間に聞いたぜ」
ピクッとラズワイトの頬が動く。
気にせずユーリは続ける。
「その怒りはすげーわかる。俺だって身内殺されたらあんたのように怒り狂っちまうよ。あんま語るの向いて無いから手短に言うけど俺はよぉ、あんたの事を尊敬する」
相手にも理由があるのが当たり前と割り切っている迷焦ならこうして話したりはしないだろう。
でもユーリは話す。話してしまうのだ。例え相手がガブリエルでも。それが戦いの最中でも。
「殺したいほど俺たちが憎いあんたは、でも、チート能力者を身勝手には殺していない。それが素直にすげよ。ガブリエルのルールを守るその律儀さ。それにこれ以上被害者を出さないよう行動していた事もすげえ。憎しみに燃えながらも耐えるその強さ。俺には出来ねえ。まさしく英雄だよ」
これまで怒りに身を任せることなく人々を救い、任務を全うさせてきたラズワイトはまさしく英雄なのだろう。
この世界での英雄はチート能力を振りかざすよそから来た異世界転移者では決してない。
この世界で生まれ育ったら彼らガブリエルこそが英雄なのだ。
「黙れ! 腐れチートの分際で私を語るなぁー!」
「怒っても俺は屁じゃねえよ。嫌ってくれて結構。元々ガブリエルとチート能力者の関係はそんなもんだからな。迷焦とディオロスの方が異常だ。でも、頼むから」
ラズワイトの進撃を必死に悔いとどめるユーリの顔に余裕は無い。それでも止まらない。
尊敬した者に向けてユーリは立ち止まらない。
「頼むから修羅に墜ちるな。あんたは英雄だ。あんたがこれまでに救った人たちのために英雄であり続けてくれ」
そして小さく「すまねえ迷焦。お前に誓った事破っちまうよ」と誰にも聞こえない声で囁いた。
直後ラズワイトにめり込んだハンマーに電気の光が生じる。
それはユーリの体も同じく、上昇した力でユーリはラズワイトの胸を貫き、そして打ち上げた。
その時、ラズワイトが何を考えていたのかはわからない。それでも熱く滴るものが一つ。落ちるのだった。
落雷のような衝撃にラズワイトの意識は宙に放り出された時点で落ち、地面にたたき落とされた白銀のガブリエルは一度死んだ。
彼の体を形成してあた感情粒子は吸い込まれるようにして上に流れていく。治療班の蘇生はもう始まっているからひとまず安心だ。
それを見届けるなり、膝をついてハンマーの持ち手部分で体をやっとの事で支えるユーリは苦しそうだが満足げでもあった。
そんなユーリの元に無傷のディルムが歩いてくる。
「ラズワイトに言葉をかけていただき感謝する。あれで治るとは思えないが響くものはあったはずだ」
「そのせいで俺今ボロボロなんだけど」
「こちらはガブリエルが公式戦で敗北したという屈辱を味あわされたのだ。それくらい安いものだろう」
「ガブリエルってのはどいつも傲慢な野郎だぜ全く」
立ち上がる事も出来ないユーリを庇うべき栞は魔法を放つがディルムに当たる前に魔法は消える。
息が荒い二人にとどめをさすべくディルムは迷焦がよく使っている方法で、氷の剣や槍を生成、そして、暴雨のごとく降り注いだ。
「否定はせんよ」
その言葉を最後、辺りの音という音がディルムの攻撃によってかき消された。
先に塔の最上階への切符を手にしたのはガブリエルの二人だった。




