第三章 『四階層 討伐』
四階層へとたどり着いた二人の前に広がるのは森だった。澄み切った青空に微かな雲がかかっている。木々から差し込める陽光は二人の肌を優しく暖め、そしてそよ風が髪を撫でる。
川から奏でられる水のせせらぎ、それを飲みにくる動物たちの足音、鳴き声が協奏曲となって辺りを包む。
これだけ聞くと普通の森だ。この世界に多々ある場所とそう変わりはしない場所なのだ。
しかし、前提として間違っている事がある。
ここは剣帝試練の会場、塔一角だという事だ。
陽光なんてありはしねえ。川なんてどっから流れてくるんですかと疑問点が沢山浮上してくる場所なのである。それに動物が生息出来るほど本来は広く無い。
でも日差しは暖かく、二人の周りにあるものはリアルだ。
つまりどうなっているのかと言うと、ここは外の世界と隔絶された空間だと言う事になる。
「結界か。それで狭いはずの塔の中に巨大な動物園でも作ったって事かな。前回よりもその手の技術が上がってる証拠だね」
迷焦は興味深そうに遠くを見ながら呟く。
逆に栞は不安そうに迷焦の袖を引っ張った。
「前回と違うって事はメイメイの教えてくれたクリア条件とも違うの? だとするとまずは情報を探すとこから始めないだよ」
前回のクリア条件なら実際に挑戦した迷焦が知っていた。これまで身内たちが何事も無くクリア出来ていたのは事前に迷焦からクリア条件を聞いていたからだ。
しかし、四階層は前回と違う。全くの未知からのスタートなのである。
未知の新世界を前にして、栞の鼓動は自然と早まる。
それを見かねた迷焦が栞の肩に手をおく。
「大丈夫だって。何事も一歩踏み出してみないと始まらないよ。だからまずは先に進もう。そうすれば他の参加者たちがクリア条件をまじかで見せてくれるかもよ」
笑ってから歩き出す迷焦を見て栞は不安になっているのが馬鹿らしくなり、彼の背中を追った。
次第に見えてきたのは黒のマントを羽織った男がドラゴンと戦っているところだった。傷だらけのドラゴンは体に眠る爆発的な量の感情粒子をエネルギーとし、火炎ブレスを視界一杯にばらまく。
ブレスは紅蓮の波となって辺りの芝を根こそぎ燃やし尽くす。それでも満足出来ないのか男の体を燃やさんと炎の渦が周囲一体の領域を包み込んだ。
それは傷だらけのドラゴンの怒りを体現したであろう憤怒の業火。それをまともに浴びた男が焼き尽くされるのはもはや確定である。
それを見た栞が思わず手で目を覆ってしまう。
と、その時。
ブオンッと何か空を斬る音が聞こえるや、紅蓮の業火が内側から張り裂けるようにして消え去った。
そして、その中から焼き尽くされたはずの男が剣を携え、そこに立っていた。
ドラゴンは「何故生きているのだ」と驚いており、同時に男が握る一振りの剣に視線を移す。
黄金色に煌めくその刀身は陽光を反射し、よりいっそう輝いている。威圧するかのようなあの重厚感。何人も我が剣は折れぬと王者たる威厳を剣が放つ。
そして、ラストはその剣の一閃を受けてドラゴンは崩れ落ちた。
「凄い」
「ああ、世界は広いって事だね。相当手練れだよ」
何よりもその剣の感情粒子の濃さは異常だった。
剣が持つ感情粒子は迷焦の持つ聖霊級のアクウィールよりも凄まじい。それが感情粒子をギュウギュウに固めた結晶だと言われれば納得してしまうほどなのだ。
つまりあれは、神獣級の武器だと言う事になる。
そしてそれは、男がガブリエルと同等以上の強さを持つ事を表している事に繋がる。
迷焦は更なる強敵がいる事への危惧を受け、唇を噛み締めた。
男は戦闘が終わるや黄金に輝く剣を背中の剣帯にしまい、死んだドラゴンの後には手に収まらないくらい大きな夢石を拾い上げるとその場を立ち去った。
男の進路が階段に続いているのを確認するや迷焦はクリア条件を悟る。
「クリア条件は大方、ドラゴンの夢石の回収かな。ドラゴン級ほどの大きな夢石なら偽造のしようが無いし」
「となるとメイメイとワタシで一匹ずつドラゴンを倒せばいいんだよね。なら、簡単だよ」
「簡単......ね。無理は駄目だよ。確かに栞は強くなっただろうけど、その油断が命取りなんだよ」
「ぶぅぅ...過保護」
「黙らっしゃい!」
栞は頬を膨らませただをこねるが迷焦は風船のように膨れたそれを手で潰す。
「そう言えば二階層で出現した氷の柱。あれメイメイの仕業?」
「こら、話を逸らすんじゃない」
「......あれ...メイメイなんか足音が」
「逸らすんじゃないって言ってる、よ、ね」
「これ本当だから! 後ろ、後ろ!」
「えっ、(......これってアニメだとガチのパターンでなおかつ危険度高めの)」
言い終える前、二人のいた場所を巨大な緑竜が踏み抜いた。地震にも似た揺れをおこしながら、巨大な緑竜は森を覆うように翼を広げ、別の場所に飛び立とうと羽ばたかせる。
ドリムの思考は単純だ。人間がいれば襲う。だから次の標的を探すのだ。
しかし、実際には緑竜は別の場所に移動しなかった。
なぜならまだここから人間の声がしたからだ。
「でもね、栞。魔法使いなら感情粒子の流れは読めた方がいいよ。こんなので一々びびってたららちがあかないからね」
「メイメイなんか化け物じみてきてない?」
踏み潰したであろう人間の声。緑竜は今度こそ迷焦たちの息の根を止めようとその瞳に炎を灯す。
「ギャオオオオオオッッ!!」
その咆哮の意味は迷焦たちにはわからない。
この空間のドリムは他と少し違う。そうなるように飼育されたと言うべきか。
その咆哮は仲間を呼ぶ。集団行動はあっても統率は無いドリムたちとは違う。彼らは人間を潰すために戦力を増やす。絶対に殺せるように。例え型の違うドリムだとしても。
現れたのは天使型のドリムだった。天から召喚されたかのように徐々に下降し、やがて二人を見下ろす形で空中に留まる。人間の三倍はあろう体躯に純白な翼。体には模様のような物が浮かび上がり、それが顔などの形を見せる。
迷焦は天使型の方を見上げながら舌打ちをした。
「最悪だろ。二体目だと。これじゃあ一人一体で叩かないと」
「ならメイメイ、ワタシは天使の方を相手取るよ」
「なんで嬉しそうなのかは聞かないでおくけどむちゃはしないでよ」
「わかってるよ。子供じゃ無いんだから」
栞は火、水、空気、光、土の魔法球体をそれぞれ生成、魔法増加で強化しつつそれを凝縮、盾の形で自身の周囲に浮遊させる。
栞が考えた対魔法防壁。本来、相手の魔法の威力を殺すとなると相対属性の魔法で打ち消すのが魔法使い同士での戦いの基本だ。
でもそれだと後から出す分、防壁側が不利になる。だからこそ先に魔法の盾を作っておく事にしたのだ。
魔法の応用は迷焦たちの通ったアルカディア学院では上等からであり、初等だった迷焦には無い戦い方である。
「へ、へへん。優秀生の力見して上げる」
「なんか癪だ。まるで僕が劣等生みたいじゃないか」
と、初等だった劣等生迷焦がぶつぶつと呟きながらこちらも緑竜に攻めいる。
緑竜が迷焦を踏み抜こうと足を上げるがそれが命中する事は無かった。地面を蹴って、舞うように迷焦はかわす。
緑竜は動くだけで木々を破壊するが迷焦はお構いなしにかわしまくる。
そろを幾度となく続けると緑竜は苛立ちだし、空へと飛翔する。大地ごと焼き尽くすブレスを放つべく空中に停滞し、構えを取る。
しかし、そこでもまた迷焦の声がした。
「いやぁ高い高い」
なんと、迷焦は緑竜の背中に自ら引っ付いていたのだ。驚異的なバランス力と言うか無謀な空中戦を挑んだというか阿保らしい。
そんな緑竜の考えを迷焦は軽々と越えていく。
どんなに緑竜が振り落とそうとしても迷焦はしっかりとしがみついている。
そして、疲れたのか諦めたのか緑竜の動きが止まった隙に迷焦は腕よ、足よと体を駆け回りながら切り裂いていく。
あっという間に緑竜は倒され、死体と共に迷焦は落下する。
「ったく。僕の十八番は氷魔法じゃ無くて身体能力を生かした接近戦なんだからそのくらいじゃ勝てないって」
地面に激突する衝撃を避けるべく直前でジャンプし、無事着地を果たす迷焦。向こうも終わりそうだともう一つの戦況を見届ける。
天使が放つビームを光の盾で防ぐ。眼前から迫る驚異をものともせず栞は更なる工程に入る。
土魔法で砂鉄を集め、それを武器の形へと無理やりする。そして不格好な鉄の槍を、圧縮させた空気が押し出し天使の元へ解き放つ。
銃声に似た音を上げ槍は天使に突き刺さって行く。天使は口の無い体から絶叫を出し、栞は留めとばかりに天使の周りの空気を圧縮、そのまま押しつぶした。
戦い終えた栞は迷焦の方を向きVサインをした。純粋に喜ぶ屈託のない笑み。
それを見て迷しもお疲れと声をかける。
「意外にあっけなかったけど本当にこれだけでいいのかな?」
「メイメイは化け物クラスの実力だからそう言えるんだよ。はぁ......前まではワタシが支える側だったのに」
「それ、学院内限定。ほら、行こっか」
二人はそそくさと夢石を回収すると、破壊された森を後にした。
どうも。なんかぐだぐだ二なってきてしまいました。
気にせず読んでくれるとありがたいです。




