第二章 『神が作りし湖』
迷焦たちが向かう和の国、通称“桃源郷”は東に位置する江戸の日本とかをイメージする国だ。四方を山に囲まれており春になると桜が綺麗だそうだ。
そして現在迷焦たちは魔法都市ソロモンを離れまだ間もない。転移場所を二回ほど使うらしいのだがまだ先は長い。只今ネフィリム湖と呼ばれる途方もなく大きい湖の横を通過中である。その大きさは以上で一日半ほど馬車を走らせているのだが未だ湖の地平線が見えてしまうほどだ。
既に二日目の正午に突入したらしく太陽が遥か上空でギラギラ照りつけている。
秋の訪れが始まったとはいえ暑いものは暑い。栞は湖の輝きを羨ましそうに馬車から眺めていた。
すると湖に突き出る何か大きな物が見えてくる。岩にしては上が丸っこい。石で出来た巨人のようなだ。
驚いた栞は迷焦の裾をさする。
「メイメイあのでかいの何? 近くで見たいよ」
「あれか。そうだなぁ確かにそろそろ昼だしな。なら一旦休憩って事で」
迷焦は馬車を湖の近くで留める。
そして創造魔法でボードを一艘作り巨大な何かの近くまで漕ぐ。オールを動かす度に聞こえる水の音は静かな辺りに響き、波紋を作りながらボートは進む。
次第に石の巨人みたいな物に近づいて行く。
それはどこか神聖っぽいような、大仏に似たオーラを漂わせる。
「あれは死せる巨人像って言われてる。ボルスが世界を作る際に作った巨人で役目を終えたのか今は石になったらしい。小耳に挟んだ程度だけど」
水面から顔を出しているのは上半身のみだがその前に二つ、同じ色の岩が顔を覗かせる。その岩も大きく、ボートが豆粒のように見えてしまうほどだ。
それを横切って漕いで行くと栞が声を荒げた。
「メイメイ下! 下!」
何事かと思い迷焦も水中を覗く。水の中には大きな岩があって魚たちが泳いでいる。それといって驚くべき事もない。
と、そこでボートが揺れた。巨大な魚でもいるのかと今度は水中に顔を沈める。
するといきなり水流が押し寄せる。
______湖に流れが?確かここに繋がる川は無かったはず。ならなぜ。
とにかくまともに目を開けられず何も見えない。迷焦はゴーグルを目に装着する。視界が開け、そして流れを作る正体を目にする。
腕だ。巨人像の巨大な腕がスクリューのように湖に流れを作っている。動きはそこまで速くはないがなにぶんあの大きさだ。動きは一定でどうやらずっとこうしているのかもしれない。
(腕はまだ動いてるんですか!!)
驚く迷焦は顔を水中から引き上げると圧巻の様子で水中を見返す。みるとさっきの岩、あれはなんというか不思議だ。水中から覗くと途中から岩が枝別れをしている。それはやはりどこか普通の岩じゃないようなまるで巨人像の部位のような。
そして枝別れした部分の一つはその後にそびえる巨人像に続くようにしてくっついている。
つまりだ。それも巨人の体の一部でありそして岩だと思った物は人間でいう膝の部分だったのだ。
でかい。あまりにもでかい。苔なども生えそれらは魚たちの住みかとなっている。魚たちは気持ちよさそうに泳ぎ周りそれだけで神秘的な絵図になる。
さながら本物の海のようだ。ならあの腕が作り出す流れは疑似海流なのだろうか。
この世界で迷焦は海を見たことが無い。神は海を作れなかったのだろうか。だからここを海に似せるためにこのような物を置いたのだろうか。
(まあ神の考える事だ。人間にはわからない事だろうけど)
とにかく、
「これがあんたが作り出した世界なら僕は感謝しなきゃですよね」
迷焦はプカプカと浮かぶボートでしみじみとした空気に浸っていた。神と呼ばれた者が何を考えていたのかは知らない。ただ迷焦は神が作り出した世界がどことなく気に入っていた。
ここのまま昼寝でもしようかなと体を落とす迷焦はふと栞の声を耳にする。
「メイメイ連れてきてくれてありがとう」
栞は突如振り返るなり笑顔を向ける。
「ああ、どういたしまして」
「あとね、出来たらワタシ海に行ってみたいの」
「行ったこと無いの?」
頷く栞を見て迷焦はそうかと微笑む。
「なら向こうで一緒に行くか。最終試練をクリアした時の打ち上げとして」
「絶対だよ!」
「おう、絶対に栞を連れて海に行く。約束するよ。だからこれからもよろしく栞」
「うん」
栞は小指を迷焦に差し出す。それを見て迷焦はその小指に自分の小指を絡める。
指切りだ。
この後は昼食をとり、すぐに馬車を走らせた。それから二つの転移装置で距離を縮め、三日後に和の国を囲っている切り立つ山が見え始める。元々他者を近づけまいとされた国だ。山にトンネルも無ければ転移装置も無い。仕方なく山を自力で登って行った。
そして山を下り始める頃には今は亡き日本の姿が見え始めた。木々の紅葉は燃えるように美しく長屋に枯れ葉が舞い落ちる。川の流れは清らかで遠くには温泉よ湯気も見える。
来たのだ。和の国に。
どうも。今回は短めです。
次回より投稿は三日に一回くらいにします。誠に勝手ながら第一章の編集も兼ねるためです。
『夢界交差のハルシオン』を読んでくださっている皆様に日頃からの感謝を。




