第二章 『手紙』
あれから月日は簡単に過ぎ、すでに二ヶ月が経過した。木々には紅葉が見え始め秋の訪れを感じさせるようになっていた。
迷焦はクレオスとの戦い以降実力の無さに他人に嫉妬する事が無くなった。溜まっていたストレスが無くなったのもある。しかしそれだけではなく最大の宿敵ディオロスがなんと迷焦をライバルと認めてくれていた事だ。あの戦いの後クレオスがそう言ってくれたのだ。
自分の頑張りは無駄じゃない。そう思えるだけで不思議と迷焦は頑張れた。
そして現在パーティーでの戦闘訓練、ハンデは前より厳しく爆音寺は能力無し、栞は風魔法と火炎魔法だけでもちろん能力禁止、ノエルの攻撃魔法は光だけ、迷焦は同時に五個以上の物を作り出さない。また武器は創造魔法製の武器のみ。
と、かなり厳しく迷焦にもハンデがついているがそれが逆に誇らしい。ハンデとは強いと認められた事だから。迷焦は今日も頑張って剣を振るうのだ。
今回の敵は狼系ドリム《ポイズンハウンド》毒の牙が危険で動きも俊敏。焦げ茶の毛は火に耐性を持ち、狼特有の素早さを持つ。
さらに巨人型のドリム
《タイタンズソルジャー》青色の肌に軽装の鎧を着け、身の丈よりも長い槍を構えている。高さが三メートルくらいと巨人にしては小さいくひょろい体つきだが身長とはそれだけで武器であり、ドリムの中でも人型に近い奴ほど知能が高くなるので厄介だ。
この二体との同時戦闘となる。いまさらだがここもアルカディア学院の敷地内であり、本来ならドリムはいない。教師陣が危険を侵して森などから捕獲してくるらしい。迷焦はこれまでそんな事は気にも留めなかったが教師陣には感謝である。
それはさておき爆音寺が素手というのはいささか理不尽ではないか。なので迷焦は剣を生成してもしもの為にと爆音寺に持たせる。
作戦としては迷焦がポイズンハウンドを抑え、その間に三人がタイタンズソルジャーを撃ち取るのだ。栞は後衛からの魔法攻撃、ノエルは回復、支援を主に、爆音寺は格闘技でダメージを与える。これがとりあえずの戦術だ。
教師がハンデを設けたのもなにも実力セーブだけが目的ではない。爆音寺が格闘技を磨けばさらに上を目指せるし、栞は集中的に個々の魔法に専念出来る。ノエルは協調性、迷焦の場合は一つ一つの生成武器を集中させることで耐久力の維持などを保つなど試行錯誤のためらしい。
迷焦はポイズンハウンドの噛みつきを回避し生成した剣で弾く。これが愛剣のアクウィールなら斬り伏せていただろうが創造魔法製の武器はクオリティーが低い。動物となるとその肉質が固く深くまで斬れないのだ。
仕方ないので弓を生成し、氷属性の矢で畳がける。弓の利点は矢が属性魔法で作れる事だ。おかげで矢がきれる事も無ければ様々な属性の矢を放てる。迷焦は最近になってからアクウィールの補助無しでも氷魔法を使えるようになったのだ。
そして動きが厄介なのでまずは脚だ。
氷魔法の矢はポイズンハウンドの前脚に突き刺さるなりその部分が凍る。さらに矢を生成、即座に邪魔な牙に狙いを定め弦を引く。しかしポイズンハウンドは未だに良く動くため真っ正面から弓で撃つのには向かない。なので迷焦は弦を引く手にもう一本の矢を持ち、二発目がすぐに出来るようにする。
そしてまず一発目、放たれた矢はポイズンハウンドの少し左の地面に刺さり反射的にターゲットは右に動く。そこを狙いすぐに二発目を放ち、見事にポイズンハウンドの口内へと矢が突き刺さる。溢れ出る血を覆うように氷が埋め尽くし、ポイズンハウンド討伐完了となる。
グロいかもしれないが正々堂々と戦うだけましである。元の世界での家畜の殺し方に比べれば命の平等さがあるというものだ。
と、この世界に順応した迷焦はいい仕事をした的に額の汗を拭く。そして余裕が出たのか三人の戦いも見届ける。
「オラオラオラ!」
爆音寺の威勢のいい声と共に鉄拳とも思しきその腕がタイタンズソルジャーの足にめり込む。ビキビキと骨が折れる音が響きタイタンズソルジャーがふらつく。どうやら防御力は低いらしい。タイタンズソルジャーは爆音寺を標的とし、槍で二連続の突きをする。爆音寺はそれを右に左と体をそらし難なく回避、次のなぎはらいは蹴りで槍ごと折った。爆音寺のやる気に満ち溢れた自信が彼の力を底上げする。
武器を失ったタイタンズソルジャーは後ろによろける。栞はさらに風魔法の突風でよろけるタイタンズソルジャーを転ばす。そこにノエルが十字架の光を突き刺す。
こちらも終わったようだ。
死体の霧散が始まり爆音寺は迷焦に向けてVサインを送る。
「おう、そっちもお疲れ」
迷焦も同じくVサインを送った。
ここに来て早二ヶ月とちょっとが過ぎ、迷焦はだいぶ成長して来たと思う。早朝の自主トレに爆音寺も誘いガブリエル戦で使った能力の無効化を練習していた。自主トレの成果か徐々に迷焦の身体能力も上がっていった。
そしてなんといっても一番の進化は爆音寺が朝早くに起きた事だ。遅刻常駐犯だった彼も朝の自主トレと言ったら起きるようになり朝食にも間に合う事に成功したのだった。
と、学院生活に満足感が現れ迷焦は楽しみ出していた。
そんな矢先、迷焦の元に一通の手紙が届いたのだった。それは王立治安院からの手紙だった。身内の身に何か起きたのではと心配する迷焦は栞と共に手紙を読む事にした。
さらに悲報だったらやけ食いしてやると言う迷焦の意見でカフェで読むことにした。
「いいか、栞。もしも王立治安院からなぜか追放とかされたら僕は多分立ち直れないかも知れない。だから全財産を使ってやけ食いの準備するけどいい?」
青ざめた顔の迷焦はとりあえず水を飲み干す。震える手を栞は握る。
「メイメイそこはプラス思考で考えよう。大丈夫だよ。世界中の誰もがメイメイの敵だとしてもワタシはメイメイの隣で同じ道を歩むから」
「ありがとう。でもそれだと僕が道を違えたように聞こえちゃうんだけど」
「例えだよ。それに今ので緊張和らいだでしょ」
栞はいつものように微笑んだ。その笑顔はいつ見ても変わることのない無邪気であり、それを見て迷焦も微笑む。
「うん、もう大丈夫。よし、読みますか!」
そして迷焦は手紙を開く。
『先輩と栞さん。大変勝手ながら今すぐ和の国に向かってください。ヒサミ先輩の件でヒサミ先輩のお父様がお怒りになっていてユーリ先輩も一緒にと。なら旅行も兼ねてワタシたちも行きましょう。それからこれは後輩命令です。
そして先輩。この間のあれ、先輩なんですか? だとしても私は未だに信じられないです。だからちゃんと話し合いましょう。二人にはまだ言ってませんので。ちゃんときてください』
手紙を読み終えどうやらユーリ先輩がやらかした件で咲蓮家にその事が伝わってしまったのだろう。後半の内容はさっぱりわからないようだが。
「メイメイなにかやらかしたの?」
「やってないからね! この間とか書かれてるけど僕と栞外出の時はずっと一緒だったよね」
「冗談だよ。それよりこの学園離れなきゃ行けないの? 寂しいよ」
(そうだよな。栞はかなり友達作ってたからなぁ。そりゃ寂しいよな)
だったら、と迷焦は栞に提案する。
「栞は残る? 行っても旅行どころしゃ無いだろうし」
その提案に栞は横に首を振る。
「確かに寂しいけどメイメイと道を歩むって言ったばかりだよ。行こうよ和の国に」
「了解。ならさっさと卒業証書貰いに行こっか」
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この学院での卒業資格とは一定以上の魔法技術を教師陣に見せつければいい。
だから栞はラルに見せてもらったらしい灼熱の球体を宙に浮かべ、それから大地にへと叩き込む。栞の能力、魔法増加によって特大級となったそれはさながら隕石の衝突のように爆発的な熱風が周りを蹴散らし衝撃音が雷鳴のように轟く。そのあまりの凄まじさはクレーターを生み出し教師陣に驚愕の顔をさせるほど凄まじかった。
次に行う迷焦の魔法がしょぼく見えるほどに。栞の上達の速さがよくわかる一発だった。
迷焦は氷魔法で辺り一面を凍らせる。そして創造魔法で氷の波を作りそれを凝縮さして塔を作ったりとアート感覚で楽しんだ。もちろん対人戦に使える技術だ。
こうして無事二人は予定よりも二ヶ月ほど早く卒業する事となった。
馬車に積み荷を乗せ、パーティーの仲間やクレオスたちと別れの挨拶をする。
「栞たん元気なぁ。風邪とかひいたらあかんよ」
ノエルは栞の手を取り涙を流す。栞の事がかなり気に入っていたようだ。
「えっとじゃあ兄貴またな。次は剣帝試練とやらで会おうぜ。いつかは知らねえけど」
「もう一ヶ月もないぞ爆音寺殿」
爆音寺にクレオスも。人見知りな迷焦にしては良くここまでコミュニティを築いたものである。
それとだな、クレオスは迷焦の目を見て話をする。
「次の剣帝試練、どうやら兄上も出るそうなのだ。だから今度こそ迷焦殿の強さを示してやれ。私は出ないが応援には行く」
「おう、二連敗してるけど今度こそ勝つから」
それを聞いたクレオスは安心したのか拳を突き出す。
「ボルス教の本部にも立ち寄ってくれよ。迷焦殿が必ず必要となる事を教えてくれよう」
「わかったよ。それじゃあそれまではお別れです」
迷焦はクレオスの拳に自分の拳を重ねる。爆音寺もそれに参戦し、立場は違えど共にまた剣帝試練に会う事を誓って。
「兄貴は俺が倒すからな」
「負けないよ」
こうして迷焦と栞は魔法都市ソロモンを離れたのだった。
どうも。今回はなんか一気に話を進めてしまいました。
ラルたちを襲った謎の男。その事を知らない迷焦はこのあとどうなるのか。




