第二章 『咲蓮家直接対面~ユーリの選択~』1
桃源郷と呼ばれるこの国は咲蓮家が統治している和を重んじた場所であり、人々は皆和服で腰に刀をさしている。
迷焦たちは咲蓮家名義で馬車を駐車場らしき場所に止めさせてもらう。
ラルたちと待ち合わせの場所はわからない。
手紙に書いていなかったのだ。普段ならばそんな記入漏れなどあるはずがないのだがどうやらかなり慌てているらしい。
なので迷焦たちは徒歩で散策する事にした。
歩く度に和服民族の人々が迷焦たちに視線を向ける。洋服がそんなに珍しいのだろうか?
じろじろと視線が集中し、迷焦たちは歩きづらそうだ。
「メイメイその。服が違うだけでこんなに目立っちゃうの?」
「かもしれない。日本は昔から周りが認めた物しか認めない暗黙の精神と言う奴があるからな」
「日本ってそんなところなの? 日本は楽園だって昔聞いたけど」
頬に人差し指を当て首を傾げる栞の言葉を聞いて迷焦は「あれ、てっきり日本人なのかと思った」と内心驚いていた。
(だって言葉のフレーズとか違和感無さすぎだし。銀髪なのはこの世界だからとか勝手に思ってたけど............そっかぁ、外人さんだったのか。向こうに帰ったら英語覚えないとなぁ)
と、早くも再開の時を考える迷焦だが横から聞こえてきた声に反応したためにその思考はふいっとどこかに消えてった。
声の方向に体を向けるとそこには眼鏡をかけたいかにも真面目そうな男の人がいた。
「ヒサミ様のご友人ですね。案内します」
その男の人は咲蓮家の手のものだった。案内すると言われたので大人しく迷焦たちは男の人の後をついて行く。歩くに連れて周りの建物のグレードがだんだんと上がり遂にはお城の前まで来てしまった。
迷焦はお城をテレビの中に出てくる別世界としか思っていない。
それがまさか目の前に、さらに殿様にも会えるらしいのだ。向こうの世界では体験出来ない事をこれから体験するのだ。異世界様々だ。
お城を目の前にして目を輝かせる迷焦。
「すげー。これからリアルサムライに会えるのか!」
そんな迷焦を見て栞が笑う。
「サムライに反応するってやっぱりメイメイも男の子なんだね」
「ま、まあそりゃ刀とサムライは男のロマンだから。ああ......そういや中学の修学旅行行けなかったな......新撰組のあれ欲しかったのに。なんだがこの世界に来て初めて後悔したかも」
と、途中から迷焦は遠い目をする。
そんな迷焦の背中を押して栞は城の中へと入ってゆく。
中はもちろん和式づくりで長い廊下。反対側は植物と石などを見事に使った庭園があり、それを鑑賞しながら廊下を渡り終え案内された部屋の前に立つ。ここが迷焦たちの待合室でラルたちがいるらしい。
ひさしぶりに会う身内の顔を見たい一心で迷焦は襖をバタンと開ける。
すると何かが直進してくる。それはロケットのような物凄い速さで迷焦に接近、衝突をした。
何が、
茶色のショートヘアの迷焦の後輩、ラルが襖が開くと同時に迷焦にいきよいよく突っ込み、そのまま庭園まで吹っ飛んだ。
ラルを上に、迷焦の背が下となり庭園の敷き詰められた小石の元で荒げな着陸が行われる。
悲しいかな。この世界でもなぜか痛みは逃れられない運命のようにつきまとう。
じゃりっと小石同士が擦れる音が聞こえると共に迷焦の背に激痛が走る。
ただ迷焦はその痛みを正しく認識出来なかった。そりゃ痛いだろう。しかし痛みが緩和されている。頭の神経がなにか別の方に使われている。何に。
このおかしい状況にだ。
なんでラルが突っ込んでくる?
ラルってこんな格闘技出来たっけ?
新手の技?
思考を巡らせるものの、とにかくずっと倒れたままだといけないので起き上がろうと上体を起こそうとする。
(この体勢は前に夢で見たあれか? 嬉しいようででも攻撃されたのは悲しきかな)
なんでラルが突っ込んで来たのかは後だ。そんなものは後で聞こう。迷焦のそんな考えはラルの声によってすぐに消し去った。
ラルは迷焦の上で下にしていた顔を少し上げる。覗き込むようにラルの顔が迷焦の顔と距離が縮まり、その今にも泣き出しそうな顔を迷焦は見た。
「先輩、信じてました。必ず来てくれるって」
涙を浮かべたラルの瞳は赤い。今出来た物じゃない。やはり何かがあったのだ。
安心させるために迷焦はラルの肩を手で支え微笑みかける。
「身内のために命を捧げるのが僕だよ。来るに決まってるじゃん」
「そうですよね。先輩が私たちを襲うわけないですよね。あれは別人ですよね」
瞳に貯めた涙を拭き取りラルは安心しきったように迷焦の上に頭を乗せる。
迷焦は状況が呑み込めずに頬を赤くする。
「な、なあ。その別人って? 襲うって? ラルたちの身に何があったの?」
迷焦は驚愕の表情で迫るのでラルは最近出没した暗殺者に襲われた事、その顔が迷焦とそっくりだった事、その事を他の人には話していない事を話した。
話を聞いた迷焦は一言呟いた。
「そいつ殺す」
「今回は本当に殺して構わないです。ですが先輩。その男凄い強いです」
「そうだね。三人がまとめてやられたとなると相当だな。クレオスが言っていたガブリエルを殺す野郎はそいつで間違い無さそうだ」
迷焦はぐぬぬと握り拳に力を込め溢れ出る殺意をセーブする。
「あれ?」
それを見たラルはふと疑問に思ったのか迷焦に聞く。
「先輩何か変わりましたか?」
迷焦の瞳な変わっていた。前ならば敵を殺そうと言い出す時、迷焦は必ず冷徹と呼べるほど冷たい瞳になるのだ。他人を人として見ていない証。しかし今の迷焦は怒りこそ顔に出すもには熱が籠もっていた。
そんな迷焦はその変化に気づいていないのか首を傾げるだけだ。
だからラルはその変化を自分の中だけに閉じ込め、満点の笑顔を浮かべる。
「やっぱりなんでも無いです」
その光景を少し離れたところから見る栞は不機嫌そうに頬を膨らませ、待合室で座っているであろうヒサミとユーリはただただ微笑んだ。
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さて、ラルとの一件も解決?したので咲蓮家の城に来た本来の目的を思い出そう。
時は今から二ヶ月以上も前、童貞サバイバルデスマッチと呼ばれる狂気の大会のさいに女ったらしのユーリが酒に酔った勢いでヒサミ咲蓮を襲うという悲劇の事態が起きたのだ。
そしてその事に激怒したらしい和の国の統治家、咲蓮家が話を付けるためにユーリとヒサミ、そしてその他が呼ばれたのだ。
ぶっちゃけ犯罪者のユーリを裁けば良いのだがそれでは次期党首のヒサミと咲蓮家に泥を塗る事になってしまう。だから咲蓮家としてはユーリとヒサミにくっついてもらう他無いと考えている。
だがユーリにはすでに彼女がいるためそう言った事を踏まえて話し合いが行われるのだ。
現在、大罪人ユーリ他一同は待合室で咲蓮家の殿様(ヒサミの父親)との話し合いに備え身構えているのだ。
迷焦は畳の上で寝っ転がるなりユーリの緊張した顔を見てか声をかける。
「でもこの状況どう切り抜けるんですかユーリ先輩? 相手はお偉いさんですよ」
「そりゃお前、誠意を見せるしかないだろ。多分それくらいしか手がないからな」
男前に構えるユーリも手足が震え顔が青い。やはり緊張しているのだろう。人間とは過ちを犯す者だが短な人が犯してしまうと実にめんどくさい。
迷焦は手元にいる猫と猫じゃらしで戯れ、それに釣られた栞も一緒になる。
「皆猫ならいいのに。そうすりゃユーリ先輩みたく問題も起こらずモフモフ天国なのに」
「迷焦お前は俺らに会わない間に何があった!? 前ならなりふり構わず助けただろうに。と言うかその猫どっから来たんだ!」
喚くユーリに迷焦はキラッと目を輝かせて言葉を放つ。
「見放す事からも学びはあるととある宗教団体から教わったんですよ」
相変わらずの寝っ転がる姿に貫禄は無く、ユーリは迷焦が丸くなったのだと悟った。身内のために全てを捨てるはずの男。その迷焦が他者を重んじるのだと。
「つうか迷焦のそのひん曲がった性格変えた奴すげーよ」
「なあー! ひん曲がった性格!! 聞き捨てなりませんな。僕だってあれから特訓したり負けたり泣いたりしたりと大変だったんですから」
寝っ転がったまま腕を上げる迷焦。なんというか感情表現が豊かになったらしい。身内としては嬉しい兆候だろう。
(正直出会った同時はアサシンかって思うくらい淡々とした奴だったからなぁ。成長したな迷焦)
「わかったわかった。まあ魂込めた言葉なら通じるもんもあるってもんだろ」
「ユーリ先輩甘いですよ。最近のおじ様たちはかなり頑固です。融通が聞かないんです。ですから剣で語るしかありません!」
なぜか嬉々として横から話すラルは確実にこの状況を楽しんでいる。しかも展開的にありえる事を言っているのだから正論だと認めざるを得ない。
「そっちの方が俺的には助かるな。ただ戦うといってもだな。相手はあの」
ユーリの言葉を遮ってヒサミが語る。
「カウンターを主軸とする対人戦特化の咲蓮家です。ならば一発の攻撃を重視したユーリ君には分が悪い」
「って言う訳だ。だからこそ言葉や態度で示さなきゃならない。まあ分かり切ってた事だけどな。準備なんかとうの昔に出来てるよ」
もと後言えばこれはユーリ本人の責任だ。だからこそそれを身内に背負わせたくない。だからこそ何気ない会話で少し協力して貰う事でその責任の意識を身内から取り除く。
それがユーリの狙いだった。普段はチャラいと言われているが実は影からなら誰よりも身内を支えている男なのだ。
サバイバルデスマッチの時は迷焦を逃がしたり、自ら危険な暗殺者の探索にも出向く。今回だってそうだ。
さらにその支えをあえて自分の都合のついでだとして動くことで身内に必要以上に気を使わせないようしている。チャラそうなのも案外そのためなのかも知れない。
だからこそあの事件で一番応えたのはユーリなのだ。これ以上身内に迷惑はかけるわけにはいかない。
身内への思いなら迷焦に劣る。身内をまとめ上げる統率力はヒサミに劣る。一途に誰かを思う心ならラルに劣る。
それでもユーリには誰かを思いやれ、それをさり気なく、もしくは何気なく思いやれる。
それがユーリと言う男だった。
「ヒサミ、お前ら。迷惑かけてすまねえな。俺は向こうがどうこようと受けて立つ。だからこそ邪魔する輩の排除頼む。俺はなんとしても将軍様を説得する」
ユーリは宣言し、その言葉に身内は顔を変えガッツポーズを送る。
「邪魔者の排除任されました。今日の僕はユーリ先輩の護衛であり忍者ですので。一瞬の突発力なら前に劣るつもりは無いです」
迷焦はブイマークを向け笑う。
ヒサミが心配そうにするもその目はユーリを信じている。
「ユーリ君。もとあと言えばあなたがしてがした事ですからご自分の力で頑張ってください。......まあ助言はしますけど」
最後の方はゴニョゴニョとして恥ずかしくなったヒサミは顔を背ける。被害者であるヒサミだが今はそんな事関係無かった。
とにかくこの場を切り抜けたい。そしてまた元の生活に戻りたかった。これが終われば何かが変わってしまうだろう。それでも構わない。
貴族に逆らって殺される例もある。ヒサミの父親だからそこまではしないだろうがやはり無事に切り抜けられる事に限る。
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そんなこんなでとうとう将軍(ヒサミの父親)との直接対面となった。
部屋の奥に構えるいかにも武人と思える渋い顔にヒサミと同じく黒い髪、真面目そうにキリッとしたその瞳。
咲蓮家現党首、咲蓮刀八は黒の和服に身を包み、手元に刀を置いたままユーリの前に座る。
その歴戦の猛者と思えしそのオーラは下手したらディオロスを越えている。
ユーリも負けじと威圧感を出そうとするが付け刃では研ぎ澄まされた刃には勝てるわけもない。とりあえず威圧ではユーリの負けである。
そして二人の会談を見守るべく囲うようにして侍が座り、迷焦たちはユーリの後ろ、部屋の端に座った。ヒサミはユーリの助言役と言うことで斜め後ろである。
ちなみにユーリ以外の人は咲蓮家との交戦意志が無い事を示すために和服を着せられる。
そして咲蓮刀八は渋い声を上げる。
「では始めよう。娘を汚した罪人よ」
開戦の狼煙が今上がった。
今回は前にやらかしたユーリの尻拭いとなります。ユーリの活躍はいかに。




