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第二章 『咲蓮家直接対面~ユーリの選択~』2

「(......で、ヒサミ先輩の父上とは一体どんな人なんですか?)」


 両者の話し合いが行われる前、迷焦は咲蓮刀八を良く知るであろうヒサミに耳打ちする。


「(......一言でいえば武の達人。ほらあそこにある刀を見てみろ)」


 ヒサミが指差した先には咲蓮刀八の手元に置かれている刀がある。

 

「(......あれは当家の宝、鬼斬りの剣だ。切れ味は絶大。あれのおかげで咲蓮家は別名“鬼斬りの家系”とも言われている)」


「(......なるほど鬼をたくさん斬ったと。ていうか僕らがドリムに遭遇しなかったのってまさか......)」


 青ざめる迷焦だが真相はわからなかった。ただ視界に映る刀はどこか妖気が漂っているような......。

 

************


 世界共通の恒例行事から話し合いは行われる。

 まずは最初の挨拶だ。ここで怖じ気ついては舐められる。そうなれば話は円滑には進まないだろう。だからユーリは堂々と、強気に、そして目を向けて咲蓮刀八に会釈する。


「この度は俺、百合和也に咲蓮家党首殿との話し合いの場を設けさせて頂いたこと感謝します」


 そして後ろでは驚きの声が小さく上がる。


「(......えっ、ユーリ先輩って本名あれなの? 知らなかったぁ)」


「(......ユーリ君、男の癖に名字が百合ですから。そりゃ言いたくも無いでしょう)」


「(......確かに言いたくは無い名前ですね)」


「(......でもメイメイだって無道とか人生終わりみたいで人の事言えない気が)」


「(......栞ちゃん、先輩の無道は道が無限にあるって意味だから大丈夫です。たぶん)」


 そのヒソヒソ声は咲蓮刀八の睨みによって抑えられる。

 

「では和也君。さっそくだが君は娘をどう思っているのかな。返答次第ではどうなるかはわかるだろうね」


 ここで下手な事を言えばアウトだ。かといって愛してると言っても状況は悪くなるばかりだろう。ユーリはすでに彼女がいるため二股する事になってしまう。

 だからこそ言葉一つ一つを慎重に選ぶ必要がある。

 

「ヒサミは俺にとって大切な家族同然です。後ろに座る皆それは同じです」


「なるほど。では君はその家族を汚したと言うのだな」


「その件については謝罪の他ありません。その事が許せないのでしたら俺を殺すなりなんなりしてください」


 ユーリは一歩も引かない。その態度を見て咲蓮刀八は満足そうに頷く。


「なるほど、肝は据わっているようだな。まあ起きたことを今更掘り返す事はしまい。

 わしが気になっているのはだな、やはり責任の方なのだよ。娘と今後どうなるのか。これからも仲間として道を歩むのかそれ以上になるのか」


 やはりここが問題だ。本来の形で責任をとるならヒサミとユーリは結婚。しかし彼女のいるユーリにとってそれは厳しかろう。

 助け船を出すべくヒサミが前に出る。


「父上、私はユーリ君とこれからも仲良く」


「ヒサミは黙っとれ! これはお前がしゃしゃり出てくる場所ではない」


 ヒサミの介入をはねのけ咲蓮刀八は立ち上がる。今ので頭に血が上ってしまったのか顔が赤い。愛する娘が父の敵になった事がショックだったのかいきなり機嫌が悪くなる咲蓮刀八。


「どうせ答えられぬのだろう。ならば衛兵たちが引導を渡してくれよう」


 パチンと咲蓮刀八が指を鳴らす。すると迷焦たち同様に座っていた侍たちが一斉に立ち上がり抜刀の構えをする。


「元々咲蓮家に弱者はいらぬ。わしとの話し合いの時間が欲しいのであれば衛兵たちに勝ち、生き残って見せよ」


 咲蓮刀八は今にもユーリを衛兵たちに襲わせる気だ。しかし肝心のユーリは武器を持ってきていない。衛兵の数は実に二十を越している。

 焦るユーリ、刀を構えるヒサミ。

 そして、

 迷焦は一瞬と呼べる速さで咲蓮刀八の前に来ると置いてある刀を引き抜き、首もとに突きつける。

 そして殺意もなく怒りも無くほんのりと笑みを含ませた顔で迷焦は言う。


「あなたも生き残る準備をしたほうが良いですよ」


「なっ! 貴様は」


 さすがの咲蓮刀八も不意打ちをされると思わなかったのだろう。さらに言えば迷焦の今の速度はこの世界でも出せる者は少ない。身体能力で言えば迷焦はこの世界トップクラスなのだから。


「僕はユーリ先輩のただの護衛です」


 未だ刀を咲蓮刀八に突きつけ淡々とした迷焦の動きっぷりに咲蓮家党首は度肝を抜かれる。


「気配を感じなかっただと......さらに迷いの無いその動き。ハハッ、まさか貴様の仲間にこれほどの者がいようとは......暗殺者として雇いたいな」


 言うなり衛兵の二人が後ろから迷焦に切りかかる。迷焦はヒサミの父親である咲蓮刀八を殺せない。それを見越して咲蓮刀八は衛兵に攻撃を仕掛けさしたのだ。

 だが迷焦の顔に焦りは無い。むしろ微笑んですらいる。その行動を読んでいたかのように。

 後ろを振り向いてから動き出すのではもう間に合わない。だから動き出してから敵を見る。

 敵が斜めに振り下ろす刀を気配で大まかに感じとるとしゃがんで回避、それから即座に方向転換し敵の真正面を向く。そして柄を次に迫る敵の手首に押し込み関節を砕く。

 最初に攻撃した敵は追撃を行おうと刀を全力で振り抜くが鬼斬りの切れ味は以上だ。攻めた向こうの刀が斬れる始末なのだから。

 

 ともかく最初の二人を無力化する。その間僅か数秒。たじろいだ侍たちを威圧するかの如く迷焦は刀を肩にかける。迷焦の歴戦の剣士としての風格が露わになる。


「人間なんてガブリエルや神獣と比べたら可愛いもんですね」


 静かな口調だったが侍たちはその言葉を聞いてさらにどよめきだす。

 ガブリエルや神獣を強さの例えに出すなんて本来なら禁忌の領域だ。その強さは絶対なのだから。しかし同時に彼らは思ったはずだ。最近噂にするガブリエルや神獣を狩る暗殺者を。

 それはつまり自分たちでは絶対に勝てない事を意味する。

 侍たちの大半は腕を通して刀がガタガタと震えている。あるものは尻込みをし、あるものは逃げ出す。

 恐怖とは人間の動きを鈍らせる。感情が強さとなるこの世界ではなおさらだ。

 迷焦はただ単純に戦った感想を述べただけだが侍たちはそうとは見ておらず噂の暗殺者だと思っている。結果的にはそれがプラスに働いたが殺人鬼と間違えられるとは迷焦の技量も怖いものだ。


 しかし侍たちも無様に逃げ出しては己のメンツにかける。何人かは臆さずに刀を構える。

 それを見て戦闘狂の血が騒ぐ迷焦は穏やかな表情を崩さずに座ったままのユーリに問う。


「無力化に留めます」


 じゃりん。刀を鞘にしまう迷焦。

 迷焦が言葉通りにするかはわからない。ユーリはそれを肌で感じながらも感謝の念を送る。

 迷焦は個人総合ならユーリよらも強い。冷静に物事を進める判断能力もある。しかしあえて戦闘狂の振る舞いをし、それを先輩と呼ばせているユーリも強いと咲蓮刀八に見せつけているのだ。

 

 「ああ......無力化する程度にな」


 

 その言葉が動きの合図にしていたのか迷焦は疾風のように敵へと近づき、そして蹴散らす。侍たちもさすがに手練ればかりで剣術の方は互角だったが身体能力は迷焦の方が明らかに上だ。さらにラルや栞も見ているだけでは満足出来ないらしく外で詠唱を開始する魔法使いの妨害に当たる。

 三人が侍を一掃している間、ヒサミがユーリに近づく。


「ユーリ君。迷焦君からの伝言でね、『何事も一歩先に踏み出さなきゃ始まらないですよ』ですって」


 それを聞いてユーリは思わず顔に笑みがこぼれるのを押さえられなかった。

 結局のところユーリはなんだかんだで緊張していたのだ。それを見抜いた迷焦はたまに口にしている自分を奮い立たせるための言葉をユーリに伝えたのだ。


「なんでもお見通しか。さすが身内依存者だ」


「これからが本番なんだから頑張ってくださいよユーリ君」


 ユーリは視線でわかったと告げる。それから戦いが終わったのはすぐの事だった。

 迷焦が最後の一人を峰打ちで気絶させるとづかづかと咲蓮家党首の前で宣言する。


「これだけの戦力があるなら弱者って呼べませんよね」


 わざとらしく迷焦は手を倒れた侍たちの方に向ける。これで咲蓮刀八が言う話し合いの場は設けられる事になる。さらに戦力はこちらが上と言う事も。

 再び皆座り直し話し合いが開始されるが迷焦はどうも不服だった。


(向こうは咲蓮家の奴一人も出して来なかったな。つまりは図られた。咲蓮家秘伝のカウンターが精密に当たるように)


 他にも強そうな輩を見つける迷焦だがさすがに彼らともやるのはこれからの関係上駄目なので素直に党首から奪った鬼斬りを返却する。

 その時に渡した奴の瞳が完全に獲物を狙う目になっていたので迷焦はため息をついて席に戻る。


「(......なんか二度目に戦う事になったら返り討ちにあいそうでなんか怖いですね)」


 ともかく話し合い再開である。



「力があるのは認めよう。ただ先も言ったようにこれから娘とどうなるのかじゃ」


 力を込めて発した咲蓮刀八の言葉は重くユーリにのしかかる。しかし彼は動じない。真剣にしかしどこか暑い物があるようにユーリは言葉を紡ぐ。


「ヒサミと結婚します」


 その宣言は広間全域に響き渡き、それぞれの耳屁と吸い込まれていった。

どうも。今回はユーリ主役の話なのにまたしても迷焦が活躍してますね。

 さあ、ユーリの頑張りはここからです!

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