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5話 教会

 鏡の前で腰に手を当て、ポーズをとる美人で、かわいくて、愛嬌のある女の子がいる。そう、わたしである。


 衣装係のメイドがわたしの髪飾りを直そうとした。


「姫さま、どうかうごかないでくださいませ」


「はーい」


 わたしはにっこりと笑って、鏡の中の自分を見た。わたしは真っ白なお人形さんだった。眼がまるまるとしていて、とてもかわいらしい。


 わたしの名前はアデル。街を裏から(半分くらい、らしい)牛耳る悪の宗教、カオス教会のトップだ。教会の中にはランクがあって、わたしはその一番上の「教母」というランクだ。つまり、わたしが一番偉いのだ!


(あはっはっはっ~!)


 わたしは声を立てずに大笑いをした。笑い終えて、眼を開けると、メイドがなんとも言えない顔でわたしをみていた。


(……す、すみません)


 カオス教会にはいろいろと問題があるらしい。闇の多い組織なのだ。というか、実際に闇の組織そのものだ。後で説明するが、カオス教会は本当は存在してはいけないことになっている。


 メイドたちがわたしにドレスを着せたり、飾りを付けたりしている間、わたしはカルトの定義を思い出していた。わたしはこう見えて前世では読書好きだったのだ。


(つまり、カルトとは、不安を煽って信者を獲得し、指導者へ絶対の服従を強い、信者から金銭や労働力の搾取を行い、信者を社会から孤立させ、脱会の自由を認めない集団のことだー!)


 じつはカオス教会はこの全てに当てはまっている。


(やばい……逃げなきゃ!)


 衣装室の扉が開かれ、ギイゼラが姿を現した。


「姫さま、信者たちが待っています」


 メイドたちの作業も終わったようだ。みんながわたしから手を離した。


 わたしは両腕を伸ばし、鏡の前でくるりと一回転した。


「わかった!」


 屋敷の二階には広間がある。そこが教会の集会場だった。わたしが部屋に入ると、すでに信者たちが立ってわたしを待っていた。部屋の一方の壁際には、数段の階段のついた壇がある。わたしはそこへ登って、信者たちを見た。ギイゼラとロドルフは壇横でならんでいる。


 わたしは深呼吸した。


(これいつやってもめっちゃ緊張する――)


 わたしは声をあげた。


「すべては統合される」


 信者たちが一斉に返した。


「すべてを一つにせよ」


 わたしが声を上げた。


「死は機会に過ぎない」


 信者たちが一斉に返した。


「死が我らを次へ導く」


 わたしはさらに声を上げた。


「ミセリクナディアに栄光あれ」


 信者たちが一斉に、さらに声を上げた。


「ミセリクナディアに栄光あれ」


 信者たちのその大声が静まると、わたしは壇から降りて、そのまま部屋を出る。ロドルフとギイゼラがわたしの後に続いた。ロドルフはわたしが生まれた時に、初めて取り上げてくれた人でもあり、教会で二番目に偉い人だ。


「もうすっかり様になっておられましたよ」


 ロドルフが後ろからわたしに言ってくれた。


 わたしは執務室へ向かう。カオス教会は表向き、冒険者ギルドの体裁を取っている。わたしはギルド長でもある。だからギルドの仕事は別にあるのだ。ギイゼラやロドルフといった教会関係者も、ギルドに役職がある。ギルドの人間が全員カルト教会の関係者というわけではないが、その逆は絶対だった。


 この執務室はわたしの仕事場でもあり、勉強部屋でもある。


(文字とか、歴史とか、いろんなこと覚えないとだめだ~!)


 わたしはいつもそうやって泣きごとを言っている。だってしかたないもん! 勉強すること多すぎだよ~。前世で八歳っていったら、わたし何してた!?


 ギイゼラがわたしのデスクの前に立っている。


「さっそくですが、霧深村から報告がありました。我らのギルドに属する冒険者パーティが、他のギルドのものともめたようです」


 霧深村はルイナの第二層にある。そこはわたしたちのギルドが実質的に支配している、ダンジョン内にある村だ。


 ルイナは街の真ん中にある巨大な縦穴で、地下には様々な魔物がいる。人はルイナを、その環境の違いで区分した。第一層は深い森の区画である。続く第二層はその森の根からなる、空中を木の根が縦横無尽に行きかう迷路の区画だ。


「それで、わたしはどうしょりすばいいの?」


「すでにわたしの方で処理を終えています。報告だけをしました」


「うむ、それでよろしい~」


 わたしは最近、仕事も勉強もさぼりすぎている。初めこそ、馬鹿だと思われてみんなに嫌われたくなかったから、一生懸命にしてたけど、最近はみんなのやさしさに甘えて努力を完全に怠っていた。


 ……わつしはまだ外へは出してもらえていない。教会関係者ばかりと顔を合わせていて、ギルドの関係者ともまだほとんどあったことがない。ギルドの本部や街の他の場所にあるらしい。


 わたしはため息をついて、デスクの上の本の山から、一冊を取り出した。


 ロドルフは部屋を出て、ギイゼラがアデルの隣に椅子を持ってきて座った。


 ギイゼラはまだわたしの勉強に付き添ってくれる。


(ああ、優しいお姉さん……すき)

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