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4話 文字の練習

 わたしは三歳になった。わたしは世界のいろいろな事をわかるようになった。


 まず、わたしには両親がいない。お父さんもお母さんもいなかった。わたしは前世では何も持っていなかった。お金も才能もなかった。それでも、実家へ帰れば口うるさいお父さんと、優しいお母さんがいた。


 わたしはこの世界ではいろいろなものを持っている。けれども、普通の人がもっている大切なものを、もっていないみたい。それはわたしにとってすごく悲しいことだった。


 わたしはお姉さんに聞いた。


「お父さんと、お母さんはどこ?」


 ギイゼラは表情を変えずにわたしに言った。


「姫さまには、お父さんもお母さんも必要なかったのですよ」


 ギイゼラはわたしが特別だという。だから、両親は必要なかったのだと。でもそれはわたしにとって、心に少しの穴があいたようなものなの――。


 ギイゼラが言うには、わたしはある秘密の儀式によって生まれたらしい。ギイゼラはわたしが聞くたびにそのことを話してくれるけど、わたしにはよくわからなかった。わたしはまだ子供で、うまく理解ができないのだ。


「そうなんだー」と、つい子供らしく相槌を打ってしまう。何もわかってないんだけど、仕方がない。話のノリでそう頷いてしまうのだ。


 最近はお姉さんと文字の練習をしている。子供の手はけっこう動かしずらい。まず鉛筆を持つのも難しい。わたしは椅子にクッションをしいて座り、その隣にお姉さんが座る。お姉さんはわたしを傍で見守るのだった。(お姉さんは勉強にはすごく厳しい!)


 お姉さんは眼がみえないから、わたしの文字の間違いに気づけない。わたしは自分で間違いに気づかないといけない。勉強方法は、本の模写だった。わたしは紙いっぱいに一つの文字や、文章を一通り書いた後、参考元の本で見直しをするのだ。


 この世界の言葉は、曲がりくねった曲線が多くてすごくわかりづらい。前の世界の英語のような簡単な文字にしてくれればいいのに、といつも思っちゃう!


★


 もう話言葉はたいていのことならわかるようになった。でも、難しい単語は、耳で聞こえても頭に入ってこない。わたしが子供だからだろう。


 鏡に映るわたしは、まるでお人形さんのようだった。わたしの髪は雪のように白く、肌も同じように白い。眼は赤く宝石のように光っている。まるであの時、どこか遠くで出会った少女のようだった。


 わたしはギイゼラに笑いながら、抱き着きながら聞いた。


「わたしってかわいい?」


 ギイゼラは微笑みながら、わたしの頭をなでながら言った。


「はい。姫さまはとてもかわいらしいですよ」


 ギイゼラは眼がみえないから、わからないはずなのに、それでもわたしは聞いてみたくなったのだ。やっぱりかわいいって誰かに言われると自信がつくよね!


 わたしはぎゅっとギイゼラを抱きしめながら、彼女のことを考えた。やさしいお姉さんは、謎が多い。そもそもどうしてわたしのお世話をしてくれるのだろう。


「どうして、ギイゼラは眼がみえないの?」


「どうしてでしょうか。たぶん、少しでも信じる者に近づきたかったからだと思います」


 わたしはギイゼラの過去を想像すると、悲しい気持ちになった。ギイゼラは過去を詳しく話してくれない。


「悲しくないの?」


「今、姫さまのおそばでこうしてお仕えできているのに、どうして悲しく思うのでしょうか?」


 ギイゼラは変わらず頭をなで続けてくれている。わたしは立ち上がって、ギイゼラを見た。


「今度お外へいこ? おねーさんと一緒に買いものに行きたいよ」


「わたしのことは、ギイゼラとお呼びください。……姫さまがわたしに親しみを寄せるのは、わたしには分不相応な幸福ですから。――外はまだいけません。外には危険がたくさんるのです」


 ギイゼラは窓の方を見た。ギイゼラは美人だ。彼女が微笑むと、全てが許されるような気がする。今、ギイゼラは微笑んでいる。


★


 わたしはずっと文字を書く練習を続けた。馬鹿だなーって思われるのは嫌だったから、すごく頑張った。


 白紙の紙に何度も何度も同じ文字を書いた。


 本を読む練習もしたのだが、この世界に絵本はなくて、どれも難しいものばかりだったから、よくわからない。


 ギイゼラによく読み聞かせてもらっているのだが、内容が難しすぎて頭に入ってこない。


(わたし、馬鹿? いや、違う、違うよー!)


 魔法の勉強はまださせてもらえていない。


「ギイゼラ、わたしもギイゼラみたいに炎や水を魔法でだしてみたいよう」


「姫さまならすぐにできるようになりますよ。でも、今は文字のお勉強です」


「がっくしーー」


「がっくし?」


「あ、いや、ええと、なんでもないー」


 ギイゼラが首をかしげる。


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