3話 わたしのお姫さま
【ギイゼラside】
ギイゼラはカオス教会で高い地位にいる。上から二番目だ。今は姫さまの世話係をしている。
あの日、空が赤く染まった。蝕、という。神々の住む向こうの世界と、こちらの世界がつながったのだ。
そして神が肉体を手に入れた。
ギイゼラはまさか自分がその神を育てる仕事ができるとは思わなかった。思いもよらない幸運に、息もできないほどだった。
教会は約五十年前の戦争の結果によって、表だっての活動を禁止されている。そのため、冒険者ギルドという建前をとって活動している。
冒険者ギルド「夢のきざはし」はかなりの利益を上げている。今日も冒険者たちがパーティーを組んで、大穴「ルイナ」へ潜っていた。
姫さまはとても美しい姿をしている。ギイゼラは眼が見えない。それでも、その美しさを感じることができる。姫さまは人であって人でないから、普通ではない力があるのだ。
姫さまはあちこちいろんなところへ行きたがる。彼女のための大きな部屋は、彼女にとっては小さくて窮屈のようだ。だが外へ簡単に出すことはできない。わたしは何があっても、彼女を守らないといけないから。
ある日、ギイゼラが姫さまを抱っこして屋敷の一階まで降りたことがあった。好奇心旺盛な姫さまのことだから、そうすれば喜ぶと思ったのだ。
そして姫さまは大喜びした。嬉しそうに、手をばんばんとさせてあちこちを叩く。窓の外の光景を楽しそうに眺めていた。
だがギイゼラは姫さまを外には出さない。外は危険がいっぱいだ。まだ、その時ではない。それどころか、外からの侵入者を防がなければならない。何者かがこの屋敷を探っている気配がする。
それは不思議な事ではなかった。この屋敷は常に誰かが見張っているのだ。ギイゼラたちには敵が多い。
★
姫さまが生まれてから一年が経とうとする頃、姫さまが歩いた。
「すごい!」
わたしは叫んだ。それを聞きつけてメイドたちが集まってくる。すごい、やった、とみんなが言う。姫さまは照れてしまって、あちこちを恥ずかしそうに見まわしていた。
それを教会で一番偉いロドルフに伝えると、彼も嬉しそうにした。
そして次の週の最後の日の夜、教会関係者を集めてパーティが開かれた。場所は屋敷の一階、広い食堂だ。
ロドルフが仕切る。
「みんな、いつもご苦労さま。今日はわれらの希望、われらの支配者が立ち上がったことを記念する宴だ。みんな、存分に飲んでくれ!」
ギイゼラはその言葉を、食堂の扉の外から聞いていた。食堂前の廊下の窓辺で姫様を抱き、前庭の花を見せている。青い月が光っている。月の光が姫さまの白い肌を照らす。
ギイゼラが食堂に入ると、みんなが息をのんだ。日頃、姫さまを見ているものはごく少数だ。みんなが姫さまの美しさと威厳に圧倒されている。
ギイゼラは姫さまを腕に抱きながら、彼らが囲む大きなテーブルに近づいた。そして、姫さまの両脇に手を添え、高く掲げる。
ロドルフが姫さまに向かって、まるで敬礼するように手先を伸ばした。それを合図にみんなが乾杯をする。その声で食堂が揺れたような気が、ギイゼラにはした。




