第7章:帝国の魔導具
「雷霆、命に従え。電光、邪を打ち破れ。急ぎて行け!」
轟々と流れ落ちる滝の音に混じり、呪文が響き渡った。
シラスの手にある黄色い符が、たちまち強い光を放つ。紙面に描かれた深紅の符文は、徐々に青白い色へと変化していった。一つひとつの文字が稲妻によって照らされたかのように輝き、紙の縁から眩い電光が迸る。それらは瞬く間に小さな雷へと集束し、キングスフィールドから来た二人へ向かって一直線に放たれた。
ドォン!
爆音が響き、煙と土埃が渦を巻きながら、滝の近く一帯を覆い尽くした。
カラムはすぐに数歩後退した。彼の周囲に浮かんでいた岩も、空中で動きを止めている。
「当たったよな?」
シラスはすぐには答えなかった。目の前の煙をじっと見つめ、焦げた端を持つ符を二本の指でしっかりと挟んだままだった。
一秒。
二秒。
滝から吹きつける風が、煙をゆっくりと散らしていく。
そして、土埃の向こうに二つの人影が現れた。
目立った傷は一つもない。
キングスフィールドの青年は軽く袖を払い、服の状態を確認することさえしなかった。彼の身体の周囲には淡い光が流れている。まるで、目に見えない盾が攻撃の威力をすべて吸収したかのようだった。
隣に立つ少女は眉をひそめただけだった。靴に付着した土埃が気に入らないらしい。
「たったこれだけか?」
青年は嘲るように笑った。
「海辺の猿どもは、本当に見せ物しかできないんだな。お前の東方魔術には何か特別なものがあるのかと思っていたんだが!」
彼は顔を上げ、侮蔑に満ちた眼差しを向けた。
「雑種ども! お前たちをあの猿の住む海辺の土地へ送り返してやる!」
そう言い終えると、彼は杖を掲げた。
一筋の魔力が即座に放たれ、空気を切り裂きながらシラスへと一直線に向かっていく。
「危ない!」
カラムは叫びながら手を振ったが、魔力の奔流はあまりにも速かった。シラスは避けることができず、反射的に身体を傾けることしかできなかった。
ドォン!
淡い金色の光が、突然シラスの身体を包み込んだ。攻撃がその光に衝突し、波紋のような揺らぎを広げた後、消滅する。シラスの服の内側に隠されていた符は灰となり、黒く焦げた紙片が地面に落ちた。
護身符。
一枚の符が、彼を真正面からの攻撃から救ったのだ。
シラスは足元に落ちた紙片を見下ろした。表情に大きな変化はなかったが、その眼差しにはわずかな冷たさが宿っていた。
カラムは安堵の息を吐き、それから敵へと向き直った。
「おいおい、さっき口を開いたばかりなのに、いきなり不意打ちか? 少しくらい相手が返事をするのを待ったらどうなんだ!」
「黙れ、道化師!」
キングスフィールドの青年は顎を上げた。
「お前たちは俺たちと肩を並べる資格すらない。分かったら自分からペンダントを引きちぎって、さっさと消えろ。そうすれば、最後の面目くらいは保たせてやってもいい」
カラムは彼をしばらく見つめた後、突然笑みを浮かべた。
「おお、貴族様のご厚意に感謝します。でも残念ながら、俺はもう少し滝を眺めていたいんですよね」
彼は首を傾け、軽い口調で続けた。
「こういうのはどうだ? 二人ともそこでじっとしていてくれ。俺が黙るまで石を投げ続けてやるよ。なかなか公平な提案だろ?」
「この野郎!」
キングスフィールドの少女が杖を掲げたが、カラムのほうが速かった。
地面に散らばっていた無数の岩が浮かび上がり、装填された弾丸のように彼の周囲を旋回する。カラムが手を一振りすると、それらは一斉に二人へと襲いかかった。
ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!
岩が次々と法力の防御壁に衝突し、重々しい音を響かせる。岩が一つぶつかるたびに、二人を包む光が一瞬揺らぐ。しかし、防御膜はすぐに安定を取り戻した。
カラムは攻撃の速度を緩めなかった。
一つの岩が弾き返されると、すぐに次の岩が飛んでいく。まっすぐ飛ぶものもあれば、途中で軌道を変えるものもある。さらには背後へ回り込み、別の角度から攻撃しようとする岩まであった。
しかし、そのすべてが無駄だった。
キングスフィールドの二人は、避けようとさえしなかった。
幾度も繰り返される攻撃の中で、ただ立ち尽くし、下手な見世物でも眺めるかのようにカラムを見ていた。
「本当に弱いな」
少女は笑った。
「その程度の実力しかないのなら、さっさと自分たちの野蛮な土地へ帰ったらどう? 王都の空気を汚さないでちょうだい!」
彼女はシラスを侮蔑の眼差しで見つめた。
彼女にとって、目の前の二人は単に実力の劣る対戦相手ではなかった。沿岸地方の出身であり、異なる血筋を持っているというだけで、彼らを低級な存在とみなし、対等に扱う価値すらないと考えていたのだ。
シラスには、その言葉が一つ残らず聞こえていた。
符を握る手に、さらに力がこもる。
カラムの笑みは消えていなかったが、その眼差しは冷たくなっていた。
「お嬢さん、そんなにひどいことを言わなくてもいいじゃないですか~~~」
「黙りなさい!」
少女は即座に杖を振った。
淡い青色の光がシラスに向かって放たれる。彼はまだうつむき、符筆で新しい符に最後の線を書き込んでいた。まるで、迫り来る攻撃にまったく気づいていないかのようだった。
カラムはぎょっとした。
「シラス!」
彼はすぐに近くの岩を操り、光の奔流へ向けて飛ばそうとした。しかし、間に合わなかった。
ドォン!
再び金色の光がシラスを包み込んだ。
攻撃は完全に阻まれた。彼の服の内側に隠されていた護身符には、小さなひびが残るだけだった。
カラムは動きを止めた。
一瞬驚いた後、額の汗を手で拭い、安堵の息を吐く。
そうだった。
友人がクラウンフェルへ入る前に、どれだけの護身符を準備していたのか、すっかり忘れていた。
一枚の符が攻撃を一度防げるのなら、シラスはまるで何十層もの防御を重ねた、目に見えない鎧を身につけているようなものだ。
カラムはその用意周到さに安心すべきなのか、それとも心配すべきなのか分からなかった。
おそらく、その両方だろう。
「お前、本当に動く要塞だな、シラス!」
「話は後だ。もう少し時間をくれ」
シラスの声は相変わらず落ち着いていた。
カラムはすぐに、友人が重要な何かを準備しているのだと理解した。
それ以上は何も尋ねなかった。
代わりに、カラムは深く息を吸い、両手を前へと突き出した。滝の周辺に散らばっていた岩が震え始め、次々と空中へ浮かび上がっていく。
「おい、そこの二人!」
カラムは顔を上げ、いつものふざけた笑みを浮かべた。
「自分たちが、とんでもない間違いを犯したことに気づいているか?」
キングスフィールドの青年は眉を上げた。
「何の間違いだ?」
「喧嘩を売る相手を間違えたってことさ!」
カラムが手を振った。
数十個もの岩が一斉に飛び出し、密集した石の雨となって二人へ襲いかかる。攻撃は依然として防御壁を貫けなかったが、少なくとも二人に法力を維持させることはできた。
カラムはすぐに二人を倒そうとしているわけではなかった。
ただ、相手の足を止めておく。
そして、シラスに時間を与える。
---
「玄光、界を照らし、真意、虚を打ち破れ。
万障ことごとく開き、禁域は無へと帰す。
破!」
連続する衝突音の向こうから、シラスの声が響いた。
彼は完成したばかりの符を顔の前に掲げた。黄色い紙に描かれた朱墨の線が光を放ち、やがて銀白色の符文へと変わっていく。
周囲の空気がわずかに震えた。
シラスは符を二人に向かって投げた。
符は空中で回転しながら光を放ち、突然姿を消した。その瞬間、目に見えない衝撃波が周囲へと広がった。ただし、その波は二人の身体を直接狙うものではない。彼らを包み込む法力の構造そのものへと集中していた。
金髪の青年と少女の身体を取り巻く光の線が、ちらつき始める。
一本。
二本。
やがて、魔力をつなぎ合わせていた無数の線に、次々と亀裂が走った。
パキッ!
乾いた音が響いた。まるでガラスが割れるような音だった。
それまで強固だった防御壁は、一瞬にして無数の光の粒となって崩れ、空中へと消えていった。
キングスフィールドの青年の笑みが凍りついた。
少女も目を見開き、自分たちの防御が消え去ったことを信じられない様子で見つめていた。
「何だと!?」
シラスは手を下ろし、息を吐いた。
界破神符。
今の彼が使用できる符の中でも、特に製作が難しいものの一つだった。雷法符のように巨大な破壊力を生み出すわけでもなく、護身符のように強固な防御を築くわけでもない。
その代わり、魔法の構造そのものを狙い、結界や防御壁を維持するためのつながりを破壊する。
魔力の盾に大きく依存する相手に対しては、非常に有効な対抗手段だった。
しかし、シラス自身も、今の術でかなりの道気を消費したことを理解していた。
連続して使えるものではない。
「何をしているの!?」少女が叫んだ。
キングスフィールドの青年ははっと我に返り、すぐに杖を持ち上げた。杖の先端には魔法の紋様が浮かび始める。
だが、シラスはすでに次の符を用意していた。
「天地を界とし、玄律を鎖とす。
霊脈に禁を刻み、万法ことごとく休せよ。
封!」
符がシラスの手を離れた。
今度は光を放って爆発するのではなく、黒と金の符文が網のように広がっていく。複雑に絡み合う線が空中に巨大な網を形成し、キングスフィールドの二人へと覆いかぶさった。
青年は慌てて後退したが、すでに遅かった。
符文の網は二人の身体を包み込むように閉じた。黒と金の文字が服にまとわりつき、手足へと広がりながら、まばゆい光を放つ。
二人は同時に異変を感じ取った。
体内の魔力が消えたわけではない。
しかし、それを動かそうとした途端、滑らかに流れていたエネルギーの流れが、目に見えない力によって遮られていることに気づいた。発動しかけていた魔法は、完成する前に次々と崩れていく。
禁霊絶法符。
この符は相手の法力を完全に消し去るものではない。しかし、一時的に魔力の操作と誘導を妨げることで、術者が通常どおり魔法を発動できない状態にすることができる。
シラスはそれ以上待たなかった。
「カラム!」
「分かってる!」
カラムは即座に手を振った。
周囲に浮かんでいた岩が方向を変え、二人の足元へと一斉に落下する。
ドォン!
土と石が飛び散った。
二人はバランスを崩して地面に倒れた。さらに別の岩が退路を塞ぎ、立ち上がることも、自由に動くことも難しくなった。
カラムは手を下ろし、肩についた埃を軽く払った。
「これで二人とも、まな板の上の魚みたいなもんだな」
彼はシラスのほうを向き、得意げに笑った。
「大手柄だぞ! この二点は間違いなく俺たちのものだ!」
シラスはすぐには答えなかった。
彼は符文の網の中でもがく二人の敵を見つめていた。表情こそ落ち着いていたが、胸の内にはわずかな不快感が残っていた。
彼らが強かったからではない。
先ほど口にした言葉のせいだった。
シラスはアウレリアン・ポートで育った。交易船や船乗りたち、そして海の向こうにある土地についての話に囲まれて過ごしてきた。彼は二つの文明の血を受け継いでいるが、それを恥ずべきことだと思ったことは一度もない。
父は東方から来た。
母はノーマンで生まれ、暮らし、働いてきた。
二人とも、彼のために一生懸命に家庭を築いてくれたのだ。
それなのに今、自分について何も知らない者たちから、出自が違うというだけで雑種と呼ばれた。
シラスは彼らと言い争うつもりはなかった。
結果をもって、すべてを語らせればいい。
「よし」彼はもう一枚の符を取り出した。「これで終わりにしよう」
カラムは符を見てから、二人の敵に目を向けた。
「また雷法符を使うのか?」
シラスはうなずいた。
「今度はもっと慎重にやる」
彼は符を掲げた。
「九天に雷動し、神廷の命に従え。
金光、邪を打ち破り、万の災いをことごとく滅せよ。
急急如律令!」
符がシラスの手を離れた。
その瞬間、深紅の符文が青白い光を放った。空気中の魔力が変化していくのを感じ取り、カラムの背筋に冷たいものが走った。
風が止まった。
滝壺の水面さえ、一瞬だけ動きを遅くしたかのようだった。
空には灰色の雲が集まり始め、クラウンフェル山脈を黄金色に染めていた夕陽を覆い隠していく。黒い雲が幾重にも渦巻き、雲の層の間で光が明滅した。まるで空の上で何かが目覚めようとしているかのようだった。
カラムは顔を上げた。
「おお……今度は前よりもずっと大規模だな!」
雷鳴が轟いた。
ドォォォン!!!!!
その音は山々の岩壁に反響し、下方の森にまで広がっていった。鳥たちは驚いて木々から飛び立ち、滝の近くにある湖面には無数の波紋が広がった。
青白い光が雲の中に集まっていく。
シラスは地面に封じられた二人を見つめた。これ以上時間を無駄にはできない。符術によって相手を傷つけても、戦闘を終わらせられなければ、自分の立場はさらに不利になる。
彼は拳を握りしめた。
「恨むなよ」
稲妻が落ちた。
巨大な光の柱が空を切り裂き、二人の敵へと一直線に降り注ぐ。眩い光が滝の周辺を覆い尽くし、辺り一帯が青白い輝きに染まった。
ドォォォン!!!!
天地を揺るがす爆音が響いた。
地面が震え、小石が跳ね上がる。銀の滝から立ち上る水蒸気は、熱を帯びた衝撃によって吹き飛ばされ、白い幕となって空中へ広がった。
カラムは口を大きく開けた。
「うわっ! すごい威力だな!」
シラスの東方魔術には、常識では測れないものがある。もし将来、シラスがこれほどの符を長い準備なしで使えるようになったら、彼を敵に回したいと思う者はいなくなるかもしれない。
カラムは腕を組み、渦巻く煙を見つめた。
「今度こそ終わったよな?」
シラスは答えなかった。
彼は前方を見つめ、攻撃の結果を感じ取ろうとしていた。
一秒が過ぎた。
そして二秒。
雷鳴が次第に遠のき、再び銀の滝が流れ落ちる音だけが残った。
そのとき、薄い煙の中に突然、魔法陣が浮かび上がった。
銀色の光が地面へと広がり、その中央に立つ二つの人影を包み込む。複雑な紋様が回転し、透明な結界を形成していた。それは、先ほどの雷撃を受けてもなお、完全な形を保っていた。
カラムはゆっくりと両手を下ろした。
「……え?」
シラスは目を見開いた。
キングスフィールドの二人は、まだそこに立っていた。
生きているだけではない。深刻な傷を負った様子さえなかった。
青年は肩についた埃を払い、それからゆっくりと拍手を始めた。
パチ、パチ、パチ。
「見事だ」
彼は皮肉めいた笑みを浮かべた。
「眼鏡をかけた猿の攻撃にしては、なかなかの威力だったな。少なくとも、お前の実力を過小評価していたことは認めてやろう」
彼は首を傾け、ほとんど興味深そうな目でシラスを見た。
「だが残念だな。多少の才能があったところで、お前は所詮、混血の人間に過ぎない」
隣の少女も笑い声を漏らした。
「奇妙な魔術ね。こんな魔力の使い方は見たことがないわ」
彼女の声色は変化していた。先ほどまでの侮蔑一色ではなく、そこには新しい玩具を見つけたかのような、わずかな好奇心が混じっていた。
「その符文は、私がこれまで学んできたどの術式とも異なっているようね。別の原理に基づいているのかしら」
「その通りだ」
青年は右手を掲げた。
彼の指には、暗い銀色の指輪がはめられていた。指輪の表面には透明な宝石が埋め込まれており、その内部では細い光の筋が水の流れのように動いている。
彼は指輪を回し、口元に笑みを浮かべた。
「ノーマンのような場所で、東方から伝わった魔術を見ることになるとはな。珍しいし、なかなか興味深い」
彼は指輪を回転させた。
「だが残念ながら、そんな小細工では帝国の魔導具には勝てない」
シラスはその指輪を見つめ、表情を引き締めた。
ノーマンの魔導具については聞いたことがある。
魔導具とは、魔法素材と魔力、そしてあらかじめ刻み込まれた神秘術の構造を組み合わせて作られた道具だ。単に魔法を補助するだけのものもあれば、高度なものになると、結界を自動的に展開したり、エネルギーを吸収したり、特定の攻撃に反応したりすることさえできる。
しかし、入学試験に参加している学生が、これほど強力な雷法を防げる魔導具を持っているとは思わなかった。
キングスフィールドの青年は、シラスの表情を見て満足そうに笑った。
「この指輪には、攻撃が触れた際に魔法エネルギーの一部を吸収し、それを結界の維持に必要なエネルギーへと変換する能力がある。さっきの雷撃も、その威力の大部分を吸収させてもらった」
彼は指を高く掲げ、指輪の宝石に夕方の光を反射させた。
「それから、さっきの二枚の符はどうだ? 一枚は防御を破壊し、もう一枚は魔力の操作を妨げる。なかなか賢い手だ。だが残念なことに、この指輪の結界は通常の魔法とは異なる仕組みで作動している」
彼は嘲るように笑った。
「独自の構造を持つ魔導具だ。自分でも理解していないものを、そんな小細工で破壊できると思うな」
シラスは黙っていた。
彼は原因の一部をすでに推測していた。
界破神符は、結界を構成する魔力のつながりを破壊することができる。禁霊絶法符は、術者自身が法力を導く能力を妨げるものだ。
しかし、結界が独立した魔導具によって維持されている場合、その構造はまったく異なる可能性がある。
つまり、二枚の符はそれぞれ想定された対象には有効だったものの、相手は予想外の手段を持っていたのだ。
シラスは判断を急ぎすぎた。
彼はあの指輪の存在を知らなかった。
そして今、その情報不足の代償として、かなりの道気を消費してしまった。
青年はさらに嘲笑を続けた。
「ノーマン帝国最高峰の魔術師たちが作り上げた魔導具と、東方の猿どもが使うガラクタを比べること自体、間違っているんだよ!」
彼は指輪をさらに高く掲げた。
「これこそが、本当の力だ!」
カラムは眉をひそめた。
もはや笑っている場合ではなかった。
「なあ、シラス。こいつら、異常なくらい強いぞ」
シラスは指輪を見つめ、それから二人の周囲で薄れ始めた符文の網へと視線を移した。
「ああ……」
彼の声は低くなった。
「どうやら、かなり厄介な問題にぶつかったようだ」
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二人の少年が話している間に、キングスフィールドの少女が突然杖を掲げた。
「生命よ、我が呼びかけに応えよ。
血よ、流れを鎮めよ。
傷ついた肉と肌よ、元の姿を取り戻せ。
傷は閉じ、生命力は再び満ちよ!」
杖の先端から淡い緑色の光が広がった。
糸のように細い光が彼女の足元から伸び、隣に立つ青年の身体にも広がっていく。それらは石によって生じた傷の周囲に絡みつき、ゆっくりと肌の中へ溶け込んでいった。
ほんのわずかな時間で、青あざは薄くなり、小さな傷は塞がっていく。二人の動きを妨げていた痛みも、次第に消えていった。
生命術。
生命そのものや回復能力を扱い、生物の身体における生理的な働きを調整することに特化した神秘術の一派だ。
直接的な戦闘魔法のように派手な爆発を生み出すことは少ない。しかし、負傷した術者を再び戦闘に参加させることで、戦況そのものを変える力を持っている。
シラスはすぐにそれを理解した。
相手は強固な結界を持ち、さらに傷を回復する手段まで備えている。戦闘を長引かせれば、二人の状況は悪化する一方だ。
シラスはすでに道気を大量に消費していた。
カラムもまた、念動術を高い出力で使い続ければ、負担を避けられない。
一方、キングスフィールドの二人には、まだあの指輪が残っている。
少女は杖を下ろし、傲慢な表情で二人を見つめた。
「これで身分の差が分かったかしら? 下等な海辺の猿ども」
カラムは歯を食いしばった。
あの口に向かって岩を一つ投げつけてやりたいところだったが、理性がそれでは何の解決にもならないと告げていた。
彼はシラスへと目を向けた。
「なあ、シラス。そろそろ戦術を変えたほうがよさそうだ」
シラスはうなずいた。
「同感だ」
「何か手はあるか?」
シラスはすぐには答えなかった。
彼の視線は青年の指輪を通り過ぎ、少女の杖へと移る。それから二人の距離、周囲に散らばった岩、滝の下を流れる水、そして地面で徐々に消えていく符文の一つひとつを観察した。
シラスの頭の中で、いくつもの可能性がつながり始めていた。
これ以上、強力な攻撃を繰り返しても勝てない。
あの指輪はエネルギーを吸収できる。少女は傷を癒やすことができる。もう一度法力を封じようとしても、自分の道気をさらに消費するだけだ。
このまま同じ方法で戦い続ければ、敗北は時間の問題だった。
シラスは目を細めた。
別の方法が必要だ。
あの指輪では簡単に対処できない方法が。
カラムは友人を見つめ、返事を待っていた。
「なあ……何を考えているんだ?」
シラスはゆっくりと手をポケットへ入れ、残っている符に触れた。
「思いついた」
カラムはすぐに振り返った。
「何を?」
シラスは顔を上げ、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「方法がある」
カラムは期待に満ちた目で彼を見つめた。
「それは何だ……?」
シラスはすぐには答えなかった。ただ、向こう側に立つ二人をじっと見つめ、その眼差しには再び落ち着きが戻っていた。
この戦いは、まだ終わっていない。
そして今度は、相手に結末を決めさせるつもりはなかった。
第7章・完




