第4章:クラウンフェルの試練
朝の涼やかな海風が吹く中、列車の汽笛が長く鳴り響き、やがて空気の中へと溶けていった。
鉄道列車はゆっくりと速度を落としていく。車輪が線路を軋ませ、甲高く重々しい音を響かせながら、列車はついに停車した。機関車から立ち上る蒸気が白い雲となって広がり、遠くの建物の屋根を覆い隠していく。
長い旅路の末、彼らはついに目的地へと到着した。
ヴァルドレン学院駅。
窓の外では、王家の紋章を掲げた旗が風にはためいていた。ホームの両側には巨大な石柱が二列に並び、その頂には翼を持つ獅子とノーマンの王冠が刻まれている。その向こうには灰色の石造りの建物が立ち並び、尖塔の屋根が淡い青空へと伸びていた。荘厳でありながら、圧倒されるほどの光景だった。
シラスは窓の外を眺め、驚きを隠せずにいた。
アウレリアン・ポートの駅も十分に広いと思っていたが、ここは想像をはるかに超えている。ホームは幾重にも連なり、各地からやって来た列車が次々と到着していた。駅の外では、数千人もの学生たちが教員の誘導に従って集まっている。
彼らはノーマン帝国のあらゆる地方からやって来た者たちだ。
異なる制服、異なる州の紋章、そして見知らぬ顔が人混みの中に入り交じっている。自信満々に談笑する者もいれば、黙って周囲を観察する者もいる。これから始まる出来事について、熱心に議論を交わしている者たちもいた。
しかし、彼らには共通の目的があった。
ヴァルドレン王立大学への入学。
「おい! おい、シラス!」
突然、カラムが友人の肩を叩いた。
「あそこを見ろよ! 向こうの女の子、すごく可愛いぞ! それにあっちの子も! うわ、まさに俺の好みだ!」
シラスは隣を振り返った。
カラムは窓の外の人混みに釘付けになっていた。その顔は、まるで海の真ん中で宝の山を見つけた商人のように輝いている。
「その目つきで人を見るの、やめてくれないか?」
「どんな目つきだよ?」
「まるで相手を丸ごと買い取って家に連れて帰ろうとしているような目つきだ」
カラムはすぐさま抗議した。
「おいおい、俺はただ人類の美しさを鑑賞しているだけだぞ! 何が悪いんだ?」
「悪くはない。でも、そんなにじろじろ見つめなくても鑑賞はできるだろ」
「お前には芸術というものが分かっていないな!」
シラスはため息をつき、荷物棚からスーツケースを引き下ろした。
「はいはい、芸術家さん。もう降りよう。お前が女の子を眺めるのに夢中になっているせいで、ここに置いていかれるのはごめんだからな」
カラムはまだ窓の外から目を離そうとしなかった。
「ちょっと待て! まだ全部見終わってないんだ!」
シラスは客室の扉を開けた。
「へえ、そんなに帝都の美少女たちに会いたいのか?」
振り返ったシラスは、意味ありげな笑みを浮かべた。
「へへ……」
カラムの動きが止まった。
「お前、今の声は何だ?」
「別に?」
「そんな顔で笑うな! お前が何を考えているか分かってるぞ!」
シラスはスーツケースを引きながら廊下へ出た。
「それならよかった。説明する手間が省ける」
「シラス!」
カラムの叫び声が、駅の賑やかな喧騒に混じって響いた。
---
二人は大勢の乗客に交じって列車を降りた。
ホームに足を踏み入れた瞬間、シラスはこの場所の空気がまるで違うことに気づいた。アウレリアン・ポートには潮の香りと波の音があったが、ここには冷たい石の匂いと列車の煙、そして壁の向こうに広がる庭園から漂うほのかな花の香りが満ちていた。
アウレリアン・コースト州から推薦された五十人の学生は、出口近くに一団となって集まっていた。互いに顔を見合わせ、いくつか言葉を交わしてはいるものの、誰一人として本当に落ち着いているようには見えない。
彼らの目の前には、シラスの視界に収まりきらないほどの大群衆が広がっていた。
シラスはスーツケースを脇に寄せ、頭上ではためく旗に目を向けた。
暗い赤地に一本の剣が垂直に描かれた旗は、帝国東部の国境に位置するアイアンマーチ州のものだ。その近くには、銀色の星々に囲まれた見張り塔を描いた濃紺の旗がある。雪山と氷に覆われた北方の地、ノースウォッチ州の旗だった。
さらに遠くには、緑の地に黄金色の麦束を描いたウェスターミア州の旗が見えた。帝国西部に広がる広大な平原と、肥沃な農地を象徴するものだ。
シラスはそのほかにも、アウレリアン・コースト州の南に位置する沿岸州、ストームヘイヴンの紋章や、地理の本でしか見たことのなかった地方の旗をいくつも見つけた。
それぞれの旗は異なる土地を象徴している。歴史も、伝統も、そしてまったく異なる環境の中で育った人々も。
そして今日、そのすべてがここに集まっている。
シラスはふと、あることに気づいた。
アウレリアン・コースト州から来た五十人など、今回の試験に参加する者たち全体から見れば、ほんの一部に過ぎないのだ。
「うわ……」
シラスは小さく声を漏らした。
「本当に多いな」
隣に立つカラムも周囲を見回していたが、すぐに別の場所へと注意を向けた。
「なあ、あっちの集団を見てみろよ!」
シラスはそちらへ目を向けた。
駅の東側には、金属製の柵で囲まれた広大な区域があった。そこでは数百人もの学生が、キングスフィールド州の紋章を掲げた旗の下に、それぞれの集団を作って立っていた。遠目には、まるで一つの学校が丸ごとここへ移動してきたかのように見える。
カラムは目を細め、人数を数えようとした。
「少なくとも千人はいるんじゃないか? さすがは王室のお気に入りだな!」
シラスはしばらくその様子を観察した。
キングスフィールドは帝国中央部に広がる平原地帯で、広大な荘園や騎兵訓練学校、そして帝都へと直結する軍用道路網で知られている。
何世代にもわたり、この地の貴族たちは教育と戦闘訓練に多額の資金を投じてきた。地方の訓練学校は軍隊と密接な関係を築いており、貴族の子弟は遠方の州に暮らす学生たちにはなかなか手の届かない指導者や資料に触れる機会を得ていた。
しかし、ここ十年ほどでキングスフィールドは大きな再編を経験している。
魔術師を育成する訓練学校が次々と設立され、教育課程が拡充された。さらに裕福な家々も、神秘術の研究へと以前にも増して投資するようになった。
シラスが読んだ新聞によれば、キングスフィールドから推薦される学生の数は、年を追うごとに大幅に増加しているという。
その中でも特に優秀な者たちの多くは、王室に仕える人材や戦略家、統治者の育成で名高いブラックソーン学院とグリフィンハースト学院を志望していた。
「なるほど、あれだけ多いわけだ」
シラスは小さくつぶやいた。
カラムは肩をすくめた。
「金もある、優秀な学校もある、そのうえ帝都にも近い。俺がキングスフィールド生まれだったら、今頃は有名な魔術師になっていたかもしれないな」
シラスは横目で彼を見た。
「それとも、金を持て余した怠け者になっていたかもしれないぞ?」
「それも十分にあり得るな」
「少なくとも、自分のことはよく分かっているようだ」
カラムはにやりと笑った。
シラスは再び周囲を見回した。
帝都に近い地方ほど、学生の数が多いことに気づいた。首都周辺の州は、交通の便や資源、そして古くから続く神秘術の教育施設へのアクセスという点で、明らかな優位性を持っている。
一方、アウレリアン・コーストやストームヘイヴンのような沿岸地域は、商業、航海、経済活動で知られていた。
だからといって、沿岸地方の人々に才能がないわけではない。
しかし、幼い頃から著名な魔術師や神秘術の図書館、名門の教育機関に囲まれて育った子供と、商人や船乗り、交易船が行き交う港町で育った子供とでは、魔法に触れる機会が異なるのは当然だった。
素質そのものは生まれ持ったものかもしれない。
だが、その素質を伸ばす道のりには、さまざまな要素が関わってくる。
シラスはキングスフィールドの旗の下に立つ学生たちを眺めた後、ゆっくりと視線を戻した。
自分の出自を嘆くつもりはなかった。
彼らに優位性があるのなら、自分は自分にできることを通じて、その差を埋める方法を見つければいい。
ただ、それだけのことだ。
---
低く重々しい鐘の音が前方から響いた。
ざわめきが徐々に静まっていく。
駅舎の間にある広場には、大きな石造りの演壇が設置されていた。その背後にはノーマン王家の旗が掲げられ、両脇には黒いローブをまとった魔術師たちが整然と並んでいる。頭上には魔法の紋章がいくつも浮かび、淡い光を放っていた。
一人の老人が演壇へと上がった。
彼は銀灰色のローブをまとい、その縁には複雑な模様が刺繍されている。白い髪は後ろへときれいに撫でつけられ、長い髭は胸元近くまで伸びていた。手には暗い色の木で作られた杖を持ち、その先端には青く輝く宝石が取り付けられている。
背後に控える魔術師たちが恭しく頭を下げる様子を見れば、彼がただの講師ではないことは明らかだった。
老人は広場全体を見渡した。
「ノーマン帝国各地から集まった三千人の学生諸君、ようこそ!」
その声は広場の隅々まで明瞭に響き渡った。音を増幅する魔法を使っている様子もない。
「私は今年の入学試験を統括するよう、入学審査委員会から任命された者である。これから十日間、私と大魔術師、そして教員たちが諸君の能力を観察し、ヴァルドレン王立大学の門をくぐるにふさわしい者を決定する」
群衆は静まり返った。
三千人。
シラスは周囲を見回し、その数字が今まで以上に現実味を帯びて感じられた。
三千人もの人々が地方での選抜を突破し、ここまでやって来たのだ。それぞれが夢と野心を抱き、家族や教師、そして故郷から寄せられた期待を背負っている。
しかし、大学の門は全員に開かれるわけではない。
老人は続けた。
「今年は特別な年である。ここ最近、帝国各地で数多くの異常な神秘現象が確認されている。いくつかの地域では、発生源不明の魔力変動が観測された。正体不明の生物に関する報告も大幅に増加している。さらに、これまで安全とされていた場所でも、説明のつかない異変が記録され始めている」
その言葉に、群衆の間でざわめきが起こった。
シラスは思わず、オズウィンが語っていた話を思い出した。鳥の声が一切聞こえない森や、月のない夜にだけ姿を現す生き物の話だ。
以前は、何世代にもわたって語り継がれてきた伝説に過ぎないと思っていた。
だが、同じような現象が帝国全土で起きているのなら、世界の外側では本当に何かが変わり始めているのかもしれない。
「こうした事情から、アルドリック四世陛下は今年の試験を自ら視察されることとなった」
広場全体にどよめきが広がった。
カラムでさえ、目を大きく見開いている。
「待てよ……皇帝陛下が本当にここにいるのか?」
シラスは答えなかった。
演壇の背後にある建物へと目を向け、皇帝が滞在していることを示す何かがないか探してみた。しかし、今いる場所から見えるのは高い壁と、風にはためく王家の旗だけだった。
帝国の頂点に立つ人物が試験を自ら視察する。
その事実だけで、事態の重大さが一段と増したように思えた。
これは、もはや単なる大学の入学試験ではない。
少なくとも、今年に限っては。
老人は群衆が再び静まるのを待ってから、話を続けた。
「それでは、試験の規則について説明しよう。よく聞いておくように。試験が始まれば、諸君が改めて質問する時間はほとんどない」
老人は振り返り、杖を大学の敷地の背後にそびえる山脈へと向けた。
「あれがクラウンフェル山脈である」
学生たちは一斉に老人の指し示す方向を見た。
巨大な山脈が地平線の彼方まで広がっている。切り立った山腹には深い森が生い茂り、灰色の岩壁が雲海の中から突き出していた。そして最も高い峰の頂には、鋭く尖った山頂がそびえ、年間を通じて白い霧に包まれている。
あれがクラウンピークだ。
遠く離れた場所に立っているにもかかわらず、シラスはその雄大さを感じずにはいられなかった。
山頂は空に届きそうなほど高く、雲が山腹を流れては、切り立った岩壁を覆い隠したり、再び姿を現したりしている。場所によっては、数百メートルもの高さから白い滝が流れ落ち、下方に広がる深い森の中へと消えていった。
美しく、そして恐ろしい光景だった。
老人が口を開いた。
「諸君には十日間の猶予が与えられる。その間にクラウンピークの頂上を目指してもらう。道中、大魔術師と教員たちが諸君の行動を監視し、戦闘能力、応用力、戦術的思考、そして危険に直面した際の対応力を評価する」
カラムはごくりと唾を飲み込んだ。
「十日間? あそこに登るのに十日しかないのか?」
シラスは山脈を見つめた。
「そうらしいな」
「あの山頂が見えるか? 登るだけで足が動かなくなりそうなんだが!」
「だったら、今から運動を始めたほうがいい」
「頼むから、役に立たない助言をするのはやめてくれないか?」
シラスは小さく笑ったが、意識は依然としてクラウンピークに向けられていた。
単に山を登るだけなら、十分な訓練を受けた者たちにとって、それほど難しい試験ではないかもしれない。
しかし、これはまだ始まりに過ぎない。
シラスには、そんな予感があった。
そして案の定、老人はすぐにそれを裏付ける説明を始めた。
「道中には、大学側が用意した数々の試練や特殊な状況が待ち受けている。諸君は自ら進む道を探し、資源を管理し、山脈に生息する生物たちと向き合わなければならない。そのすべてが危険なわけではないが、見た目だけで生き物を侮ることのないように」
老人は一度言葉を切った。
「目的地に到達することに加え、諸君はほかの学生たちと競い合い、得点を獲得することになる。学生を一人倒すごとに一点が加算される。また、試験対象として認定された生物を一体倒すごとに、五点が加算される」
群衆の間に再びざわめきが広がった。
学生たちは互いに視線を交わし、すでに戦術を考え始めている者もいた。得点を稼ぐ機会に興奮する者がいる一方で、対戦相手が山に棲む生物だけではないと気づき、眉をひそめる者もいた。
シラスは黙って考え込んだ。
学生一人につき一点。
生物一体につき五点。
つまり、どの相手を選ぶかによって得点を獲得する速度は大きく変わる。しかし、クラウンフェルに棲む生物が自分たちの手に負えないほど強ければ、たとえ報酬が大きくても意味はない。
行動方針を決める前に、まずは周囲の環境について調べる必要がある。
「そして、もう一つ重要なことがある」
老人は杖を持ち上げた。
「大学側は、全学生に護身用のペンダントを支給する。諸君が深刻な危険に直面し、これ以上試験を続けることができないと判断した場合は、そのペンダントを首から引きちぎるように。刻まれた魔法が即座に発動し、諸君を大学の中央ホールへと転送する」
何人かの学生が安堵の息を漏らした。
「ただし、忘れないように。ペンダントを使用した時点で、諸君は試験失格となる。例外は一切認められない」
老人は広場全体に視線を巡らせた。
「通常の試練から逃れるための道具だと思ってはならない。本当に安全に続行できないと判断したときにのみ使用するように」
シラスは小さくうなずいた。
このような保護措置があれば、犠牲者を減らすことはできるだろう。同時に、そこには明確な境界線も設けられている。いつまで挑戦を続け、いつ撤退すべきなのか。それを自分自身で判断しなければならないのだ。
これは単なる力の試験ではない。
判断力を試す試験でもある。
「百点以上を獲得した学生には、特別な権利が与えられる」
老人は続けた。
「正式な配属先が決定される前に、自らが希望する学院を選択することができるのだ。ただし、得点を満たしたからといって、すべての希望が認められるわけではない。審査委員会には、各志願者の能力と適性を評価する権限がある」
カラムはすぐにシラスの耳元へ顔を寄せた。
「聞いたか? 百点だ! そこまで稼げば、自分の好きな学院を選べるんだぞ!」
「その前に、まずは試験を突破することを考えたらどうだ?」
「もちろんだ! でも、目標は必要だろ!」
シラスは小さく首を振った。
その特権が重要な理由は理解できた。ブラックソーンやグリフィンハーストのような学院には、間違いなく多くの優秀な志願者が集まるだろう。早い段階で選択権を獲得できれば、自分の将来をより主体的に決められる。
だが、それは試験の競争をさらに激しくすることにもつながる。
百点は決して小さな数字ではない。
特に、学生を一人倒して得られる点数が一点だけなのだから。
「諸君は互いに協力するため、チームを組んでもよい。ただし、一つのチームにつき四人を超えてはならない。よく理解しておくように。これは個人試験であり、他人に頼ることのできる人間であると証明するための競技ではない」
老人は一度言葉を切り、その目つきを鋭くした。
「そして、これだけは肝に銘じておくように。学生が故意に自分のチームメイトを攻撃した場合、その者は即座に試験への参加資格を剥奪される。ヴァルドレンは、仲間を裏切るような者を認めない」
広場の空気が一気に引き締まった。
カラムは腕を組み、納得したようにうなずいた。
「それには賛成だな。チームを組む以上、互いを信頼しなきゃ意味がない」
シラスは彼を見た。
「お前がそんなことを言うと、思ったより説得力があるな」
「おい、俺の人間性を疑っているのか?」
「ほんの少しだけな」
カラムは言い返そうとしたが、結局笑い出した。
「分かったよ。もし俺たちがチームを組むなら、お前を裏切ったりしないさ」
シラスは微笑んだ。
「なら、失望させないでくれよ」
---
「よし!」
老人が手を叩いた。
その瞬間、空中に無数の光が現れた。
広場のあちこちから何千ものペンダントが浮かび上がり、小さな星々のように宙を漂い始める。それぞれのペンダントには銀色の金属製の飾りが付いており、その中央にはヴァルドレン王立大学の紋章が刻まれていた。
淡い光を放ちながら、それらは一つずつ学生たちのもとへ飛んでいく。
一つのペンダントがシラスの目の前で止まった。
彼が手を伸ばして受け取ろうとした瞬間、それは指先をすり抜け、首の後ろへと回り込んで自動的に留め具を閉じた。冷たい感触が肌をかすめ、シラスはわずかに身を震わせた。
カラムは自分のペンダントを覗き込んだ。
「面白いな。装着者を自動的に認識する魔法が組み込まれている。それに、何らかの転移陣とも連結しているのかもしれない」
シラスは彼を見た。
「どういう仕組みなのか分かるのか?」
「完全には分からない。でも、研究してみたいな」
「研究するために外したりするなよ」
カラムはすぐに胸に手を当てた。
「おいおい、俺をどんな人間だと思っているんだ?」
シラスは彼を見つめた。
カラムは数秒間、黙り込んだ。
「……分かった。外したりしないよ」
石造りの演壇では、老人が最後にもう一度杖を掲げた。
「試験開始から最初の三十分間、学生同士の攻撃は禁止する。この規則は、全員が準備を整えるための時間を確保し、相手の隙を狙った不意打ちを防ぐことを目的としている」
老人は広場全体を見渡した。
「三十分が経過した時点で、学生同士の対戦に関する制限は、先ほど説明した規則を除いてすべて解除される。その時間を利用して、周囲を観察し、仲間を探し、これからの旅路に備えるように」
老人は一歩後ろへ下がった。
「諸君の幸運を祈る」
演壇の背後から、大きな鐘の音が鳴り響いた。
王家の旗が風にはためき、クラウンフェル山脈の上では白い雲が切り立った岩壁の間を静かに流れていた。
シラスは顔を上げ、クラウンピークの頂を見つめた。
十日間。
三千人の学生。
学院を選ぶ権利を得るための百点。
そして、彼らの前には無数の未知なるものが待ち受けている。
カラムが隣へ歩み寄り、いつもの笑みを浮かべた。
「なあ、シラス」
「何だ?」
「俺たち、一緒にチームを組むんだよな?」
シラスは友人を見た。
「今さら聞くことか?」
カラムは満面の笑みを浮かべ、シラスの肩を軽く叩いた。
「よし! それじゃあ、二人で山頂まで登って、百点を稼いで、好きな学院を選ぼうぜ!」
シラスはもう一度、山脈を見つめた。
「そうだな」
彼は荷物の取っ手を握り直し、ゆっくりと息を吐いた。
ヴァルドレンへの旅は、まだ始まったばかりだ。
そして、本当の試練がついに幕を開けた。
第4章・完




