第27章:欠けた月の下の誓い
ウェストグレイヴ墓地――西の墓地。
ヴァルドレンの午後には、晩秋特有の穏やかな冷気が漂っていた。
街の西側。石畳の道が次第に古木の並ぶ小道へと変わり、苔に覆われた石壁が続くその場所に、ウェストグレイヴ墓地は淡い灰色の空の下、静かに佇んでいた。
ここは王都でも最も古い墓地の一つである。国境の地で命を落とした兵士たち、そして歴史書に名を残すこともなかった、ごく普通の人々が眠る場所だった。
白い大理石の墓石が、整然と列をなして並んでいる。青々とした苔に覆われた墓碑もあれば、何世紀にもわたって雨風にさらされ、片翼を失った天使の石像もあった。
さらに遠くからは、小さな礼拝堂の鐘の音が響いてくる。葉を落とした木々の間を、長い余韻が静かに通り抜けていった。
カラム・マーロウは、砂利の敷かれた小道をゆっくりと歩いていた。
その手には籐で編まれた籠がある。中には、丁寧に用意した品々が収められていた。大きなチョコレートの箱、アウレリアン・コーストの名産品であるレモネードの瓶が数本。そして、黒い布袋に分けて入れられた、一着の制服。
彼は以前にも、この道を歩いたことがある。
そして今日、再びここへ戻ってきた。
小道の突き当たり、古いニレの木の下に、見慣れた墓石が姿を現した。
エララ・ウィットモア。
石碑に刻まれた文字は、遠くからでも見分けられるほど、カラムの記憶に深く刻まれていた。
その名前の下には、生まれた日と亡くなった日が、小さな横線を挟んで記されている。
たった一本の横線。
しかし、その二つの日付の間には、一人の人間の人生すべてが詰まっていた。
カラムは足を止めた。
ここへ初めて来たときのように、泣き崩れることはなかった。ここ数日、彼は何度も自分に言い聞かせてきた。現実を受け入れなければならない。前へ進み、エララが望んでいたことを実現しなければならない、と。
それでも、こうして墓石の前に立つと、自分に言い聞かせてきた言葉のすべてが、ひどく小さく思えてしまう。
彼は墓の前に腰を下ろし、籠を草地の上へそっと置いた。
「エララ……」
カラムの声は少しかすれていた。
「今日はチョコレートをたくさん持ってきたんだ。それに、俺たちの故郷の名産品であるレモネードもあるよ。」
彼は品物を一つずつ取り出し、墓石の前にきちんと並べていった。チョコレートは光沢のある銀紙に包まれ、レモネードの瓶には、アウレリアン・ポートの小さな店で見慣れたラベルが貼られている。
「たぶん、今でもこの味が好きだよな? 昔、あの店の前を通るたびに、どうしても買ってくれって俺にせがんでいたのを覚えてるよ。」
カラムは小さく笑った。
ほんのかすかな笑い声だった。
「自分の分を全部飲み終えたあと、俺の分まで欲しがったこともあったよな。あれだけ飲んでおいて、まだ足りないって言い張るんだから。」
彼はレモネードの瓶を置き、首に結ばれたリボンを手で整えた。
「本当に、相変わらずだったよな。」
風が墓地を吹き抜け、道端に積もった枯れ葉をかさかさと揺らした。
カラムはしばらくその場に座っていたが、やがて隣に置いていた布袋のことを思い出した。
袋を開く。
中に入っていたのは、ヴェイルムーア学院の新しい制服だった。
学院を象徴する色の外套はきれいに畳まれ、胸元にはキメラの紋章が刺繍されている。襟元や袖口に沿って施された繊細な縫い取りが、上品でありながらも独特の存在感を放っていた。
カラムは制服を手に取った。
「ああ、そうだ。もう一つ、これも見せたかったんだ。」
彼は明るい声を保とうとした。
「俺、ヴェイルムーア学院に入れたんだ。」
制服を膝の上にそっと置き、小さな折り目を指先で伸ばす。そして墓石の前に掲げてみせた。
「ほら、どうだ? 格好いいだろ?」
彼は首を傾け、まるで誰かが隣に立っているかのように想像した。
「本当に君によく似合いそうだ。これを着たら、きっとすごく綺麗だと思う。」
不意に、一つの光景が心に浮かんだ。
ヴァルドレン王立大学の正門の前に立つエララ。風に揺れる髪。身にまとっているのはヴェイルムーア学院の制服で、胸元のキメラの紋章が陽光を受けて輝いている。
彼女はカラムの方を振り向き、いつもの笑顔を浮かべながら、自分の姿が似合っているか尋ねるのだ。
そしてカラムは、いつものように何か冗談を返すだろう。
二人で大きな門をくぐり、ゴシック様式の回廊を歩き、古い図書館や魔法の庭園を探検する。
最初の授業について、一緒にあれこれ言い合うかもしれない。
カラムが遅刻すれば、エララはきっと文句を言うだろう。
もしかしたら……。
「エララ……」
カラムの唇に浮かんでいた笑みが、ゆっくりと消えていった。
彼は俯き、制服を握り締めたまま、言葉を絞り出そうとした。
「俺……俺は……」
喉が詰まる。
いつの間にか、涙が手の甲に落ちていた。カラムは慌てて手で拭ったが、拭えば拭うほど、涙は止めどなく溢れてくる。
今日ここを訪れるにあたって、彼なりに心の準備をしてきた。
砕けた月亭の部屋で、彼は長い時間考え込んでいた。夜通し天井を見つめながら、昔の日々を思い返していた。悲しくなることもあった。怒りを覚えることもあった。そして、何気ない一言をふと思い出して、涙を流すこともあった。
もう少しずつ、受け入れられていると思っていた。
けれど、どうやら現実を受け入れることと、それに真正面から向き合うことは、まったく別のことらしい。
「エララ……」
彼は冷え切った墓石の縁に手を触れた。
「本当に……君に会いたいよ。」
返事はない。
聞こえるのは、葉を落とした木々の枝を通り抜ける風の音と、遠くの礼拝堂から響く鐘の音だけだった。
カラムはその場に長い間座り続けた。
やがて夕暮れの光が薄れ始めると、ようやく立ち上がり、外套に付いた枯れ葉を払い落とした。
もう一度、墓を振り返る。
「これからは、もっと頻繁に会いに来るよ。約束する。」
今度は、無理に笑おうとはしなかった。
ただ、長い間、深く頭を下げた。
そして、ゆっくりと背を向けて歩き出した。
砂利道の上を進む金髪の少年の姿は、やがて古木の並ぶ小道の向こうへと消えていった。
その背後では、贈り物が墓石のそばに整然と並んでいる。
まるで、まだ果たされていない約束のように。
---
砕けた月亭――旧市街。
ウェストグレイヴ墓地が、まるで時間の流れそのものが止まってしまったかのような場所だとすれば、砕けた月亭はまったく異なる世界だった。
部屋の隅から弦楽器の音色が流れ、客たちの笑い声や話し声と混ざり合っている。木の梁に吊るされたランタンが温かな黄金色の光を放ち、ガラスの杯やカウンターの後ろに整然と並ぶ酒瓶を照らしていた。
焼きたてのパン、ローストラム、香草の香りが店内いっぱいに広がっている。窓の外では、旧市街のゴシック様式の屋根の向こうに、月が姿を現し始めていた。
窓際に近い長いテーブルでは、五人の少年たちが集まっていた。
テーブルの上には、大皿に盛られたローストラム、黒パン、マッシュポテト、そして王都の名物料理がいくつか並んでいる。杯には酒が注がれ、カラムは片手をテーブルについて、顔を真っ赤にしていた。
「おい、おい!」
フィニアンが手のひらでテーブルを軽く叩いた。
「何だよ!?」
カラムは負けじと大声で返す。
レオフリックは額に手を当てた。
「二人とも、普通の声で話せないのか? ここは店のど真ん中だぞ。」
フィニアンはまるで気にしていなかった。
「義兄弟の契りを結ぼうぜ!」
彼は大いに盛り上がった様子で杯を掲げた。
「酒を飲んで、杯を叩き割るんだ! 東方の小説ではよくそうしているだろ!」
カラムはすぐにテーブルを叩いた。
「いい考えだ!」
「冗談だろ?」
レオフリックは慌ててフィニアンの腕をつかんだ。
「ここで杯を割ったら、店主に追い出されるぞ!」
「じゃあ、割らなきゃいい!」
カラムは少し考え込んでから、真剣な顔で頷いた。
「つまり、義兄弟の契りだけ結べばいいんだな!」
向かい側では、シラスがローストラムを味わっていた。
会話に加わろうとしていたものの、ふと給仕カウンターの方へ注意を奪われる。
飲み物の盆を運ぶ女性店員が、彼らのテーブルのそばを通りかかったのだ。
シラスは思わず背筋を伸ばした。
その様子を、カラムが見逃すはずもなかった。
彼の口元が、にやりと吊り上がる。
「なあ、シラス。」
「何?」
「お前、酒場で働く、気さくな女の子が好みなのか?」
シラスは危うく肉を喉に詰まらせるところだった。
「何を馬鹿なこと言ってるんだ?」
カラムは声を上げて笑った。
「おいおい! さっきからずっと彼女を見ていただろ!」
「周りの様子を確認していただけだよ!」
「周りを確認するのに、どうして視線がずっと同じ方向を向いているんだ?」
フィニアンもすぐに話に加わった。
「そうそう。向かいに座っている俺からも、はっきり見えていたぞ。」
シラスはナイフとフォークを置いた。
「お前たち、本当に暇なんだな?」
カラムはフィニアンの肩を抱き、椅子から転げ落ちそうになるほど笑った。
「大変だ! 俺たちの愛しきシラスが、酒場の店員に心を奪われてしまったぞ!」
「黙れ、カラム!」
「どうだ? 俺が紹介してやろうか?」
「必要ない!」
「じゃあ、どんな女の子が好みなんだ?」
シラスは咳払いをして、どうにか平静を取り戻そうとした。
「俺は……自分と同じように、本を読むのが好きな女の子がいい。」
カラムはすぐに眉を上げた。
「つまり、恋愛小説が好きな子ってことか?」
レオフリックが吹き出した。フィニアンも飲み物を噴き出さないよう、慌てて顔を背ける。
シラスの顔が赤くなる。
「お前……!」
「おっと、心配するな! お前の秘密は誰にも言わないからさ!」
「カラム!」
テーブルを囲む全員が笑い出した。
シラスは仕方なくローストラムに向き直り、黙っているのが一番賢明だと判断した。
もっとも、ときおり視線が給仕カウンターの方へ向いてしまうのは、相変わらずだった。
カラムもそれに気づいていたが、今度はからかわなかった。
少なくとも、数分間は。
---
料理が片付けられると、テーブルの雰囲気はさらに賑やかになっていった。
フィニアンはまだ義兄弟の契りを結ぶという考えを捨てていなかった。五人はクラウンフェルの選抜試験を経験し、その後、イースタン・ホールで同じ部屋に暮らす仲間となったのだ。だからこそ、今日という日は記念にふさわしいと彼は考えていた。
レオフリックも賛成していた。
隣に座るローナンは、ほかの四人より口数こそ少なかったが、夕方に比べればずっと穏やかな表情をしていた。
シラスは、テーブルに並んだ五つの空の杯を見つめた。
「フィニアンが言っていた通りだ。」
彼はナプキンを置いた。
「義兄弟の契りを結ぼう。」
カラムがすぐに振り向く。
「本気か?」
シラスはすぐには答えず、通りかかった女性店員を呼び止めた。
「すみません。白い小さな杯を五つと、月欠け酒を一本お願いできますか?」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
ほどなくして、白い釉薬を施した陶器の杯が五つ、テーブルに運ばれてきた。
その後ろには、銀色のガラス瓶が続く。中には、湖面に映る月光のようにきらめく液体が入っていた。
月欠け酒。
砕けた月亭で特に有名な名物酒である。果実や香草、北部高原地方の特別な材料を調合して作られている。ほのかな香りと澄んだ甘み、そしてわずかな刺激が特徴で、常連客にも広く愛されていた。
シラスは瓶の栓を開け、一つずつの杯に適量を注いだ。
それから立ち上がる。
手にした杯を胸の高さまで掲げた。
「俺、シラス・バイは、ここに誓う!」
残る四人が一斉に彼へ注目した。
カラムはふざけるのをやめ、フィニアンは背筋を伸ばした。ローナンとレオフリックも杯を置き、言葉を待つ。
シラスは一度、深く息を吸った。
頭上のランタンからこぼれる黄金色の光が、彼の顔を照らしている。窓の向こうには、欠けた月がヴァルドレンの空に静かに浮かんでいた。
シラスは誓いの言葉を口にした。
「天には月、目の前には酒、隣には兄弟。
今日この場所で、欠けた月と飲み干される酒を前に、俺たちは自らの意志で義兄弟の契りを結ぶ。血筋のためでも、名声のためでも、利益のためでもない。
今夜より、俺たち五人は姓も違えば、故郷も違い、志す道も異なる。だが、一つの誓いを共有する。
一人が栄光の中に立つとき、残る四人も共に喜びを分かち合う。
一人が苦難に陥ったとき、残る四人は決して背を向けない。
一人が道に迷ったとき、残る者たちは手を差し伸べ、進むべき道を示す。
一人が倒れたとき、残る者たちは、その名が忘れ去られることを許さない。
俺たちは、あらゆる戦いに共に勝利するとは誓わない。これから先の道に、別れが訪れないとも約束しない。
だが、たとえいつの日か、それぞれが別の空の下を歩むことになろうとも。年月が移ろい、運命が俺たちを別々の道へ引き離そうとも、今夜交わした誓いだけは、決して変わらないと誓う。
酒は尽き、月は欠け、人生の道は五つに分かれることがあろうとも。
一度義兄弟となったなら、生涯その誓いに背かない!」
最後の言葉が響き渡ると、テーブルの周囲には、めったにないほど厳かな空気が満ちた。
最初に拍手を送ったのはレオフリックだった。
「素晴らしい!」
ローナンも興奮した様子で、何度も手を叩いた。
カラムは、まるでとんでもない秘密を発見したかのようにシラスを見つめた。
「おい、シラス! ここへ来る前に暗記してきたのか?」
彼は杯を手に取り、隠しきれない感嘆を浮かべる。
「今ここで考えたんなら、すごすぎるだろ!」
シラスは席に戻り、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「義兄弟の契りを結ぶなら、ちゃんとした誓いの言葉が必要だと思っただけだよ。」
フィニアンも頷いた。
「その通りだ。杯を掲げて、適当な言葉を二、三言交わすだけじゃ駄目だからな。」
彼は杯を掲げる。
「それじゃあ、もう待つ必要はないな。」
カラムも勢いよく立ち上がった。
「誓うぞ!」
彼は一口で大きく飲み、杯をテーブルに置いた。
「次はお前たちだ!」
「誓う!」
フィニアンも応じた。
レオフリックが杯を掲げ、それにローナンが続く。シラスも自分の杯を手に取り、四人の仲間と共に義兄弟の儀式を終えた。
五つの杯が、ほとんど同時にテーブルへ置かれた。
窓の外では、欠けた月が古い屋根並みの上に静かに浮かんでいる。
カラムは椅子に座り直し、フィニアンの肩に腕を回した。
「これで今日から俺たちは兄弟だな!」
フィニアンは顔をしかめた。
「腕をどけろ。重いんだよ。」
「嫌だ! これが兄弟の絆だ!」
レオフリックが笑った。
「もう騒ぎを起こし始めているぞ。」
ローナンもつられて笑った。
彼はもともと感情を表に出すのが得意ではなかった。だが、この瞬間、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
ロウリーの身に起きたことを考えれば、今の彼にとって、新しい友人たちと一緒に過ごせる時間は、何より必要なものだったのかもしれない。
シラスは残る四人を見渡した。
一人はアウレリアン・コースト、一人はブラックウッド、そして二人はストームヘイヴンの出身だ。
彼らはかつてクラウンフェルの山腹で出会い、食べ物や飲み物を分け合い、話を交わし、互いをからかい合ってきた。
そして今、こうして同じテーブルを囲んでいる。
これから先の道は、決して平坦ではないだろう。
それでも少なくとも今夜からは、共に守るべき約束ができた。
---
宴はその後もしばらく続いた。
カラムとフィニアンは、どちらの方が話し上手なのかということで、相変わらず言い争っていた。レオフリックはときおり会話に口を挟み、シラスは二人の奇妙な発想に呆れながら首を横に振っていた。
ローナンも最初は会話に加わっていたが、やがて何度も欠伸をするようになった。
それに気づいたレオフリックが声をかける。
「ローナン、疲れたのか?」
「いや……まだ大丈夫だよ。」
ローナンは姿勢を正そうとしたが、まぶたはすでに重くなっていた。
「今日はちょっと疲れただけだと思う。」
レオフリックは笑い、隣に置いてあった外套を取って、ローナンの肩に掛けてやった。
「だったら、少し休んでおけよ。俺たちもそろそろ寮に戻らないといけないからな。」
ローナンは返事をしようとしたが、結局小さく頷くだけだった。
彼は椅子の背もたれに身体を預け、そのまま間もなく眠りに落ちた。
カラムはその様子を見てから、レオフリックへ顔を向けた。
「ローナン、寝ちゃったのか?」
レオフリックはため息をついた。
「ああ。もともと酒には弱いんだ。」
フィニアンが吹き出した。
「まさか、最初に宴から脱落するのがローナンとはな。」
「からかうなよ。」レオフリックはローナンの肩に掛けた外套を整えた。「今日はあいつにとって、簡単な一日じゃなかったんだから。」
カラムは笑うのをやめた。
眠っている友人を見つめ、それからシラスへ視線を向ける。
「そろそろ帰った方がよさそうだな。」
シラスは頷いた。
「そうだね。もう遅いし。」
レオフリックはローナンを慎重に支えて立ち上がらせた。カラムとフィニアンはテーブルに残った品々を片付け、シラスは会計を済ませる。
砕けた月亭を出る直前、カラムは一度振り返り、さっきまで座っていたテーブルを見た。
五つの杯が、今も並んで置かれている。
窓の外では、欠けた月が古都の上に静かに輝いていた。
カラムはふと、ある人物のことを思い出した。
かつて、自分と一緒にヴァルドレンの地を踏むことを望んでいた人。
彼は何も言わず、外套の襟を引き上げてから、外へと歩き出した。
今夜、彼には四人の新しい友人ができた。
そして、この街のどこかには、これから先も決して忘れることのない人がいる。
第27章・完




