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万里幻譚  作者: ケルビン
26/29

第26章:同じ部屋の友人たち

王立居住区。


またの名を、学生たちに親しまれている「学生寮」。


ヴァルドレン王立大学のキャンパス南東部に位置するこの居住区は、六印紋章広場からほどよい距離にあり、学生たちが講義棟まで歩いて通える一方で、休息に必要な静けさも保たれていた。


敷地全体は、低いゴシック様式の石壁に囲まれている。壁には鉄製の柵が交互に設けられ、王家の紋章で飾られた門がいくつも並んでいた。正門の上には、磨き上げられた青銅の銘板が掲げられ、そこには The Royal Residential Quarter と刻まれている。銘板は陽光を反射するほど美しく磨かれていた。


四棟の学生寮は、中央広場を囲むように弧を描いて配置されていた。それぞれ七階から九階建てで、屋根裏階や地下の付属施設はその数に含まれていない。


各棟は石畳の小道、屋根付きの回廊、そして寮専用の庭園によって結ばれている。中央には円形広場があり、噴水や石造りのベンチ、丁寧に手入れされた古木が並んでいた。


ここはヴァルドレン王立大学のキャンパス内でも、最大級の建築群の一つである。ノーマン帝国各地から集まる約五千人の学生を受け入れるために建設されたものだった。


一般的な学生寮が単に寝食の場として設けられているのに対し、ヴァルドレンの居住区は、小さな街そのものとして設計されていた。生活、学習、娯楽、休息に必要な設備が一通り揃っている。


ここは学生たちが暮らす場所であるだけではない。学院や出身地、社会的な身分の壁を越え、交流し、新たな友人を作り、さまざまな人間関係を築いていくための環境でもあった。


---


東棟――イースタン・ホール。


東棟は学生寮中央広場の東側に位置する、男子学生向けの二つの居住棟のうちの一つである。


濃い灰色の石材、青みがかった窓ガラス、そして高くそびえる尖塔を備えた、堂々たる建築物だった。正門のすぐ上には、ヴァルドレン王立大学の紋章が掲げられている。


東棟は八階建てで、収容人数は千人を下らない。また、訓練施設や屋外演習場へのアクセスにも優れていた。


そして、これから数年間、シラスたちが暮らすことになるのが、この場所だった。


三階、367号室。


部屋はかなり広く、小さなアパートのような造りになっていた。寝室、学習スペース、共有の生活空間に分かれており、それぞれに学習机と個人用の収納棚が用意されている。自分の荷物を置くためのスペースも十分に確保されていた。


寝室には二段ベッドが二台と、シングルベッドが一台。さらに専用の浴室とトイレまで備わっている。


現在、五人の少年たちは荷物の整理に追われていた。


「やっと着いたー!」


カラムはスーツケースを床に下ろすと、すぐさま窓際に置かれたシングルベッドへと倒れ込んだ。


仰向けになり、両腕を大きく広げる。その顔には、満足げな笑みが浮かんでいた。


「シングルベッド! これは俺のだ!」


隣に立っていたフィニアンは、理解できないという表情でカラムを見た。


「たかがベッド一つだろ? そんなに嬉しいことか?」


「当たり前だ! これは勝利の証なんだからな!」


カラムは残りの四人を指さした。


「忘れるなよ。俺は正々堂々とじゃんけんに勝ったんだ!」


机に本を並べていたシラスは、その声を聞いて振り返った。


「一回勝っただけだろ、カラム。」


「一回だって勝ちは勝ちだ!」


「はいはい、おめでとう。」


シラスのからかうような口調にも、カラムはまったく気にする様子がなかった。むしろ、ますます得意げに笑っている。


ベッドの割り当ては、簡単なゲームで決められた。カラムが勝利してシングルベッドを獲得し、残る四人は二段ベッドを一台ずつ分け合うことになった。


シラスは部屋の左側にある二段ベッドの下段を選び、フィニアンが上段を使う。反対側ではローナンが上段、レオフリックが下段を選んだ。


レオフリックは服をクローゼットにしまいながら、ときおりローナンの様子をうかがっていた。


「なあ、手伝おうか?」


二段ベッドの上にスーツケースを持ち上げていたローナンは、首を横に振った。


「大丈夫。自分でできるよ。」


「無理するなよ。そのスーツケース、かなり重そうだぞ。」


「服が何着か入っているだけだよ。」


レオフリックは肩をすくめ、自分の荷物の整理に戻った。


その頃には、シラスも本や必要な道具を机の上に並べ終えていた。大きさごとに一冊ずつ丁寧に整え、最後に天眼を最も手に取りやすい場所へ置く。


それを見たカラムが声をかけた。


「そんなに本を持ってきたのか?」


「うん。先にいくつか資料を読んでおきたいんだ。」


「まだ授業も始まってないのに?」


「だからこそ、今のうちに時間があるんだよ。」


カラムはシラスの机に積まれた本の山を見てから、ほとんど開けていない自分のスーツケースへ視線を移した。


数秒間、沈黙が流れる。


「急に思ったんだけどさ。俺、こんな本の虫と同じ部屋を選んだのは間違いだったんじゃないか?」


シラスは顔も上げずに答えた。


「まだ部屋を変える機会はあるよ。」


「いや! 俺はもう決めたんだ。大学生活を満喫してやる!」


フィニアンが吹き出した。


「だったら、まずは自分の荷物を片付けるところから始めたらどうだ?」


カラムは自分のスーツケースを見た。


「……それは後でな。」


---


それからおよそ三十分後、部屋はようやく整然とした姿を取り戻した。


スーツケースは収納棚に収まり、服はきちんと掛けられ、それぞれの机にも基本的な道具が並んでいる。五人とも、ひとまず荷物の整理を終えたことで肩の力が抜けたようだった。


カラムはシングルベッドに寝転がり、両足をぶらぶらと揺らしていた。


「悪くないな。」


部屋を見回す。


「ベッドに机、専用の浴室まである。しかも窓から寮の庭園が見えるんだぞ。」


二段ベッドに腰掛けていたフィニアンは、マットレスの具合を確かめながら答えた。


「少なくとも、大学は住環境をケチっていないみたいだな。」


レオフリックは向かい側のベッドの下段に座り、小さな机の埃を拭き取りながら話した。


「寮には専用の食堂や読書室、共用ラウンジ、それに学生向けの娯楽室まであるらしいよ。」


カラムはすぐさま身を起こした。


「娯楽室?」


「うん。チェス盤やビリヤード台、それに魔法を使ったゲームもいくつか置いてあるって聞いた。」


「おお! それはいいな!」


カラムの顔が一気に明るくなる。


「絶対に行ってみようぜ!」


シラスが彼を見た。


「授業が始まってから考えればいいんじゃないか?」


「嫌だね。これから大量の課題に埋もれる前の、最後の自由時間なんだから。」


フィニアンも納得したように頷いた。


「それもそうだな。」


シラスは小さく息を吐いた。


どうやら、自分は考え方のよく似た三人と共同生活を送ることになるらしい。


そのとき、カラムがローナンの方へ振り向いた。


制服の受け取り場所で再会してから、カラムはローナンの様子が以前と違うことに気づいていた。ロウリーの話題になると質問を避け、学生寮へ向かう道中もほとんど自分から話そうとしなかったのだ。


カラムはベッドの上で身を起こし、片手をついた。


「なあ、ローナン。」


呼ばれたローナンは、二段ベッドの上から顔を向けた。


「ん? どうした?」


「ロウリーのこと、俺たちにも話してくれないか?」


部屋の空気が、ふっと静まった。


レオフリックの手が止まる。


フィニアンも顔を上げた。


シラスはローナンへ視線を向けたが、何も言わなかった。


ローナンは一人ずつ、そこにいる仲間たちの顔を見た。目元がわずかに伏せられ、膝に置かれた手が無意識のうちに握り締められる。


長い沈黙のあと、彼は小さく頷いた。


「……わかった。」


姿勢を整え、壁に背を預ける。


「起きたのは、選抜試験の九日目だった。」


---


「その日、俺とレオフリックは山頂までたどり着いていたんだ。」


ローナンは語り始めた。


「でも、そこにロウリーの姿はなかった。最初は、まだ山のどこかにいるんだと思っていたよ。俺たちと別行動を取ったのか、それとも遺跡を探し続けているのかもしれないって。」


彼は少し言葉を切った。


「でも、下山したときに一人の教官と出会ったんだ。その人から、ロウリーはすでに大学の大ホールへ転送されたと聞かされた。」


レオフリックが俯いた。


「あのとき、何かがおかしいって気づいたんだ。」


ローナンも頷いた。


「教官は、彼の容体がかなり悪いと言っていた。」


握り締めた手に、さらに力がこもる。


「手首を骨折していて、両脚も普通に歩けないほどひどい怪我を負っていた。顔にも痣が広がっていて、ほとんど見分けがつかないほどだったらしい。」


誰も口を開かなかった。


ローナンは自分の手元へ目を落とす。


「幸い、生命術を専門とする教官が三人、一日中かけて治療にあたってくれた。もしそうでなかったら……」


彼は最後まで言わなかった。


カラムは足を揺らすのをやめた。


シラスも眉を寄せる。


選抜試験の最中、シラスは幾度も戦闘を目にしてきた。だが、ローナンの話す状態は、普通の試合で負う怪我の範囲を明らかに超えていた。


「知らせを聞いた俺とレオフリックは、すぐに医務室へ駆けつけた。」


ローナンの声が少しずつ小さくなる。


「扉を開けたときの光景は、今でも覚えているよ……」


彼の視線は部屋の扉へ向けられた。まるで、あの日の光景が今も目の前に浮かんでいるかのようだった。


「ロウリーはベッドに横たわっていた。身体中に包帯が巻かれていて、教官たちが絶えず治癒魔法をかけていたんだ。ひどく苦しそうだったのに、それでも意識を保とうとしていた。」


ローナンは俯いた。


「あのとき、俺は本当にどうすればいいのかわからなかった。」


無理に笑おうとしたのか、口元がわずかに動く。しかし、それ以上の表情は作れなかった。


「……あの人は、俺の兄なんだ。」


部屋に沈黙が落ちた。


「兄さんがあんな姿になっているのを見て……本当に、胸が痛かった。」


ローナンは手を上げて目元を拭った。


そのときになって初めて、自分がいつの間にか涙を流していたことに気づいた。


レオフリックは友人を見つめていたが、すぐに言葉をかけようとはしなかった。


ローナンがずっと感情を押し殺してきたことを、彼は知っていたからだ。


ローナンは深く息を吸い、話を続けた。


「兄さんは、そのあと少しだけ意識を取り戻したんだ。そして、最初に俺へ言ったのは、ヴィヴィアンという名前の少女に気をつけろ、ということだった。」


シラスがわずかに顔を上げた。


「ヴィヴィアン?」


ローナンは頷いた。


「あの女は残酷だって。……本当に、ひどく残酷だって言っていた。」


彼は言葉を探すように、少し間を置いた。


「他人を苦しめるための手段をいくつも持っているらしい。ただ相手を倒すだけじゃない。相手がもう抵抗できなくなってからも、わざと戦いを長引かせるんだそうだ。」


ローナンの目に暗い影が差す。


「兄さんは、絶対にあいつの手に落ちるなと言っていた。」


シラスは数秒間、黙り込んだ。


その名前を聞いて、ある人物の姿が脳裏に浮かぶ。


エヴリン・アシュフォードの隣をよく歩いていた、あの白銀の髪の少女だ。


選抜式の前に一度顔を合わせた際、エヴリンが彼女の名前を口にしていた。あのときシラスが気に留めたのは二人の態度だけだったが、まさか彼女がこれほど深刻な事件に関わっているとは思わなかった。


「……ヴィヴィアン。」


シラスは小さく呟いた。


カラムがすぐに振り向く。


「知ってるのか?」


「詳しくは知らないよ。ただ、エヴリンが彼女の名前を呼んでいたのを聞いたことがある。」


少し考えてから、シラスは続けた。


「確か、いつもエヴリンの隣にいた白銀の髪の少女じゃなかったか?」


「ああ!」


カラムも思い出したようだった。


「あの、肩くらいまでの短い白銀髪の子か?」


彼は頬杖をつき、残念そうな顔をした。


「まさか、あんなに綺麗で、しかも魅力的な黒いストッキングまで履いている女の子が、あそこまで容赦なく人を痛めつけるなんてな。」


フィニアンが即座に振り向いた。


「お前、いい加減に人のストッキングのことを考えるのをやめたらどうだ?」


「外見について感想を言っただけだろ!」


「お前の感想はいつもどこかおかしいんだよ。」


フィニアンは首を横に振り、今度はシラスへ顔を向けた。


「エヴリンは俺たちのような出自の人間を狙ってくるし、セラフィナは明らかに頭がおかしい。で、今度はヴィヴィアンか……」


彼は一度言葉を切り、妙に真剣な顔になった。


「間違いなく精神的に問題がある。誰か医者を呼んでくれ。」


カラムも大きく頷いた。


「そうだな。そういう連中のために、大学は専用の診療所を作るべきだ。」


「二人とも、いい加減にしろ。」


シラスが声を上げた。大きな声ではなかったが、二人を黙らせるには十分だった。


彼はローナンへ視線を戻す。


「まずはローナンの話を最後まで聞こう。」


カラムはすぐに口を閉じた。フィニアンも肩をすくめ、座り直す。


ローナンは小さく頷き、礼を言うように彼らを見た。


「兄さんは、もう一つ話してくれたことがある。」


彼は少し間を置いた。


「選抜試験の最終日、脱落した学生たちは全員アイアンマーチへ送られて、特別訓練プログラムに参加することになるらしい。」


「アイアンマーチ?」


フィニアンが眉をひそめた。


ローナンは続ける。


「そこでの訓練成績が優秀だった者は、ヴァルドレン王立大学への特別入学を認められる可能性があるそうだ。」


部屋に数秒の沈黙が流れた。


そのあと、フィニアンが乾いた笑いを漏らした。


「アイアンマーチだって?」


彼は腕を組む。


「あそこは今、かなり荒れているんじゃないのか? 戦闘が絶えず、国境地帯には魔物まで出没している。学生をあんな場所で訓練させるなんて、的にするために送り込むようなものだろ。」


シラスは反論しなかった。


彼は以前読んだアイアンマーチに関する資料を思い出していた。そこはノーマン帝国東部の国境州であり、王国軍は外部からの脅威に対抗するため、常に一定の兵力を維持しなければならない土地だった。


イーストウォール要塞をはじめとする軍事拠点や前哨基地は、決して安全な場所とは見なされていない。


数か月に及ぶ訓練プログラムが、決して簡単なものではないことは明らかだった。


カラムは首を傾げ、フィニアンを見た。


「お前、反逆罪で告発されて流刑にされるのが怖くないのか?」


フィニアンは勢いよく振り向いた。


「はあ?」


「いや、今のは大学の決定を公然と批判したってことだろ?」


カラムは片目をつむる。


「誰かに聞かれていたらどうするんだ?」


フィニアンは数秒間カラムを見つめたあと、鼻で笑った。


「ブラックウッド州は、昔から帝国に優遇されているわけじゃない。」


彼はベッドの背もたれに身体を預けた。


「州の面積の七割は原生林だ。集落はあちこちに点在しているし、道も通りにくい。商業だって、平野部や沿岸部の州ほど発展していない。王都の貴族たちは、ブラックウッド出身の人間を『山猿』と呼ぶことさえある。」


フィニアンの声には、少なからぬ不満が滲んでいた。


「だったら、帝国に納める税金だって大した額にはならないだろ? 彼らにとっては、ブラックウッド出身の学生をアイアンマーチへ送ることも、予算を節約する方法の一つなのかもしれないな。」


部屋の空気が少し重くなった。


シラスはフィニアンを見つめた。


彼は何と返せばいいのかわからなかった。フィニアンの言葉には、ヴァルドレンへ来る以前から彼が経験してきたことが反映されているのかもしれない。


ローナンが静かに口を開いた。


「アイアンマーチにいる人たちが、みんな学生をひどく扱うつもりだとは限らないと思う。」


フィニアンは彼を見た。


「わかってる。兵士たちのことを言っているんじゃない。」


彼はため息をつく。


「ただ、大学の決め方が気に入らないんだ。どのみち、彼らは選抜試験に落ちたばかりの学生たちだろ。そんな人たちを危険な国境地帯へ送るなんて……罰を与えているようにしか聞こえない。」


シラスは小さく頷いた。


「少なくとも、その訓練プログラムが具体的にどんなものなのか、まだわかっていないよ。」


彼は残りの仲間たちを見回した。


「正式な発表があるまでは、判断を保留しておこう。」


フィニアンは肩をすくめた。


「そうだな。ただ、そこへ送られる人たちが無事に帰ってこられることを願うよ。」


ローナンは何も言わなかった。


彼は手元を見つめたまま、兄のことを思い出しているのか、まだ重い表情を浮かべていた。


その様子に気づいたレオフリックが立ち上がった。


二段ベッドの上段へよじ登り、ローナンの隣に腰を下ろす。


「もうあまり考え込むなよ。」


レオフリックは友人の肩を軽く叩いた。


「ロウリーは教官たちに治療してもらったんだ。きっと大丈夫だよ。」


ローナンは頷いた。


「うん。」


「ロウリーほどの実力があれば、アイアンマーチでも簡単には倒れないさ。」


「……うん。」


レオフリックはそれ以上何も言わず、しばらく彼の隣に座っていた。


その様子を見ていたカラムは、小さく息を吐いた。


「まあ、その話はひとまず置いておこうぜ。」


彼は起き上がり、思い切り背伸びをした。


「来週には授業が始まるんだ。それまでは休んで、勉強に追われる前の最後の自由時間を楽しもうぜ。」


フィニアンが彼を見た。


「まるで一生勉強し続けるみたいな言い方だな。」


「実際そうなるんじゃないか? 六つの学院に、山ほどの授業、課題、試験、実習……考えただけで疲れてくるよ。」


シラスが笑った。


「さっきは大学生活を満喫するって言ってなかったか?」


「もちろん! でも、楽しむにしても計画は必要だろ?」


カラムは片目をつむった。


「そして、俺たちの最初の計画は……」


彼はわざとらしく言葉を切った。


「今夜、砕けた月亭に行かないか? へへっ!」


フィニアンはすぐに手を挙げた。


「賛成。」


レオフリックはローナンを見た。


「行くか?」


ローナンは目元を拭い、かすかに微笑んだ。


「うん。俺も少し外に出たい。」


カラムはシラスへ振り向く。


「お前はどうする?」


シラスは仲間たちを見渡した。


本当は今夜、資料を読んで過ごすつもりだった。しかし、期待に満ちたカラムの顔を見て、そしてつい先ほどまで辛い一日を過ごしていたローナンの様子を思い返し、手にしていた本を閉じることにした。


「いいよ。」


カラムはすぐさま飛び起きた。


「よし!」


まるで大勝利を収めたかのように、両手を高く掲げる。


「五人全員だ! 今夜は絶対に行くぞ!」


フィニアンは首を横に振った。


「そんなに大声を出すなよ。隣の部屋の連中に、祭りでも始めたのかと思われるぞ。」


「だったら、そう思わせておけばいい!」


シラスはカラムを見た。


「もう少し声を小さくできないのか?」


「わかった、わかった。」


カラムはベッドに座り直したが、その笑顔は消えなかった。


窓の外では、夕暮れの陽光が少しずつ淡い橙色へと変わっていた。廊下に設置された魔法灯が灯り始め、東棟の灰色の石壁を柔らかく照らしている。


学生寮の中央広場には、学生たちの足音や談笑が絶え間なく響いていた。キャンパスの見学を終えて部屋へ戻る者もいれば、噴水のそばに集まり、新しい友人との交流を楽しむ者たちもいる。


367号室の五人の少年たちもまた、ヴァルドレンでの生活に向けて、最初の計画を立てていた。


彼らはそれぞれ異なる州からやって来た。


所属する学院も違う。


そして、一人ひとりが自分だけの物語を背負っている。


だが少なくとも、この小さな部屋の中では、彼らには一つの共通点があった。


長い授業のあとに帰ってこられる場所。


何気ない話や笑い声を交わし、ときには簡単には口にできない悲しみさえ分かち合える場所。


カラムは壁掛け時計に目をやると、すぐにベッドから飛び降りた。


「さあ! 準備して行こうぜ!」


フィニアンが顔を上げる。


「もう今から行くつもりか?」


「もちろん。遅くなったら店が混むだろ!」


シラスは時計を見た。


「まだ早いと思うけど。」


「砕けた月亭に行くのに、早すぎるなんてことはない!」


レオフリックが吹き出した。


ローナンも、つられるように小さく微笑んだ。


こうして、ヴァルドレンの学生寮で過ごす五人の最初の夜が始まった。


第26章・完

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