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万里幻譚  作者: ケルビン
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第22章:取り残された者たち

エヴリン・アシュフォードは大講堂前の広場を離れ、ヴァルドレン王立大学の正門へと続く石畳の道を歩いていた。


夕暮れの光が、ゴシック様式の尖塔を包み始めている。道の両側には整然と並ぶ街路樹が植えられ、長い影を地面に落としていた。試験を終えたばかりの受験者たちが何組ものグループを作り、楽しそうに結果について語り合う者もいれば、翌日に控えた学院選抜の儀式がどのように行われるのか、待ちきれない様子の者もいた。


エヴリンは、そんな話にほとんど関心を示さなかった。


ただ屋敷に戻り、湯浴みをして、楽な服に着替え、ゆっくり休みたかった。ここ十日間で、彼女は少なからぬ時間と労力を費やしていた。もっとも、その大半は当初の予定にはなかった出来事によるものだったが。


正門に近づいたとき、エヴリンは巨大な石像のそばに立つ見覚えのある人影に気づいた。


プラチナブロンドの髪。


それはヴァルクレスト家を象徴する髪色であり、人混みの中でも見間違えるはずのないものだった。


門のそばに立つ少女は、ほっそりとした体つきで、長い髪を丁寧に整えていた。夕日の光を受けた髪の一本一本が銀色に輝いている。上品な顔立ちに鋭い瞳、そして自信に満ちた立ち居振る舞いは、山で十日間の試験を終えたばかりの学生というより、名門貴族の令嬢そのものだった。


ヴィヴィアン・ヴァルクレスト。


エヴリンの最も親しい友人だった。


彼女はエヴリンを見つけると、すぐに眉を上げ、意味ありげな笑みを浮かべた。


「あらあら!」


腕を組み、わざとらしく声を引き延ばす。


「どうして忠実な子犬を捨ててきちゃったの? ルシアンを見ていたら、なんだかかわいそうになっちゃったわ!」


エヴリンは足を止めた。


数秒ヴィヴィアンを見つめ、それからため息をついた。


「あいつのことはもう言わないで」


「まあ? 思っていたより深刻そうね」


ヴィヴィアンは首を傾げた。まるで、とても面白い話を見つけたかのようだった。


「本当よ。さっき広場でのことを聞いたばかりなの。自分の従者に黒炎まで使ったんですって?」


「ただの教訓よ」


「教師に治療してもらうため、担架に寝かされるような教訓?」


「ヴィヴィアン」


「はいはい、わかったわ」


ヴィヴィアンは降参するように両手を上げた。


エヴリンは目の前の友人を見つめ、次第に真剣な表情になった。


「積もり積もったものが、ついに限界に達しただけよ」


彼女は、学生たちが行き交う正門の方へ目を向けた。


「あの子との関係については、かなり時間をかけて考えたわ。あの忌々しい従者を殺さずに済ませた理由なんて……おそらく、昔からの付き合いがあったということだけでしょうね」


そう言って、エヴリンは少し言葉を止めた。


それを認めること自体、彼女は好きではなかった。


実際、今の言葉を口にしたとき、自分自身が少し他人のように感じられた。単純に思える決断でも、実際に行動へ移すとなると、考えていたほど簡単ではなかったのだ。


彼女とルシアンは、共に育ってきた。


アシュフォード家の屋敷では、ほかの者たちが礼儀作法を守らなければならない時間でも、彼だけは彼女のそばにいることができた。彼は彼女がどんな本を好み、どんな料理を嫌い、時には本人でさえ忘れてしまうような些細な習慣まで覚えていた。


だが、その親しさこそが、ルシアンに一線を忘れさせたのだ。


エヴリンが怒っているのは、銀の滝での発言だけではなかった。


ミラーピークで過ごした間、彼女はそのことをずっと考えていた。ルシアンが自分を問い詰めたときのこと、目の前に立った彼の視線、そして自分と対等な立場にあるかのように話しかけてきた数々の場面を思い返していた。


おそらく、彼女が最も不快に感じていたのは、無礼な態度そのものではない。


ルシアンが、本当に自分にはそんなことをする権利があると信じていたことだった。


「もう、そんな顔しないの」


ヴィヴィアンが近づき、肘で彼女の肩を軽くつついた。


「先祖代々の宝物でも失くしたみたいな顔をしないでよ」


「そんな顔はしていないわ」


「しているわよ。自分で古いおもちゃを捨てたくせに、昔は結構面白かったから少し惜しい、って顔ね」


エヴリンは彼女を横目で見た。


「本当に失礼な例えね」


「でも、当たっているでしょう?」


ヴィヴィアンは声を上げて笑った。


「大丈夫よ。新しい従者を何人か紹介してあげるわ。きっとあなたのことを女帝のように扱ってくれるわよ!」


「もう!」


エヴリンも、ついに笑みをこぼした。


その笑みは決して大きなものではなかったが、先ほどまで漂っていた緊張を和らげるには十分だった。


エヴリンにとって、ヴィヴィアンは自然体で話せる数少ない人物の一人だった。言葉を一つ一つ慎重に選ぶ必要もなければ、相手に誤解されることを心配する必要もない。


二人は幼い頃からの親友というだけではなかった。


アシュフォード家とヴァルクレスト家には、長年にわたる協力関係もあった。貴族の宴から商業や政治に関する取り決めまで、両家の交流は何世代にもわたって続いてきた。


そのため、エヴリンとヴィヴィアンには顔を合わせる機会が数多くあった。共に学び、共に訓練を受け、同じ環境の中で成長してきたのだ。


言ってみれば、ヴィヴィアンはエヴリンが心から信頼している数少ない人間の一人だった。


「あ、そうだ!」


ヴィヴィアンは突然、何かを思い出した。


「まだ聞いていないことがあったわ」


「何?」


「試験中、私はストームスパイアの山道を進んでいたから、あなたの方の状況を詳しく知らなかったの。でも、あなたが二匹の猿に負けたって噂を聞いたわよ?」


ヴィヴィアンの声には、少しからかうような響きがあった。


エヴリンはすぐに眉をひそめた。


「その話はしないで」


「じゃあ、本当なの?」


「ちょっと油断しただけよ!」


エヴリンは腕を組み、不機嫌そうな表情を浮かべた。


「あの二人はしばらく追いかけていたのよ。一度は捕まえかけたのに、セラフィナが現れて邪魔をした。明らかにあの女には問題があるわ!」


「セラフィナ?」


ヴィヴィアンは眉を上げた。


「あなたの家がかなり高く評価している、あの茶髪の少女?」


「そうよ」


エヴリンは歯を食いしばった。


「何を考えているのか、まったく理解できないわ。あれほどの力を持っているくせに、他人のことに首を突っ込むのが好きみたいね。あの女がいなければ、あの二人は逃げられなかったはずよ」


ヴィヴィアンはしばらく黙っていた。


それから、軽く肩をすくめた。


「残念ね。あなたなら完璧な試験を終えると思っていたのに」


「からかわないで」


「からかってなんかいないわ!」


ヴィヴィアンはくすくすと笑った。


「ただ、気になっただけよ。三百点以上も取れる人が、二人の受験者にそこまで腹を立てるなんて。よほど特別な相手だったんでしょうね」


エヴリンは答えなかった。


頭の中には、シラス・バイとカラム・マーロウの姿が浮かんでいた。


アウレリアン・コーストから来た二人。


一人は金色の紙切れを使った術を操り、もう一人はいつもふざけた口を利いていた。エヴリンは彼らと対峙したときの表情を今でもはっきり覚えている。特に、カラムのあの忌々しい自信満々な態度は忘れようがなかった。


忘れてなどいない。


そして、決して見逃すつもりもなかった。


「ひどいなあ……」


突然、背後から声が響いた。


「まさか、君がそんなふうに思っていたなんてね〜」


エヴリンはすぐに振り返った。


ヴィヴィアンも同じように後ろを向く。


そこには、セラフィナが立っていた。


彼女がいつからそこにいたのか、誰にもわからなかった。長い髪が風に揺れ、顔にはいつもの笑みが浮かんでいる。その表情からは、何を考えているのか読み取ることができなかった。


彼女は片手を胸に当て、傷ついたふりをした。


「私はただ、みんなを助けたかっただけなのに」


「このクソ女!」


エヴリンの口から、思わず罵声が飛び出した。


隣にいたヴィヴィアンの表情も、すぐに変わった。彼女はセラフィナを頭の先から足元まで眺め、不快感を隠そうともしなかった。


まるでエヴリンが一度頷くだけで、今にも飛びかかりそうな様子だった。


セラフィナは二人を見つめ、さらに笑みを深めた。


「あら? 二人とも、私に会えて嬉しくないみたいね?」


エヴリンは軽く拳を握った。


一瞬、彼女は正門の前でそのままセラフィナと対峙したいという衝動に駆られた。だが、すぐに自分を抑えた。


ここはふさわしい場所ではない。


それに、無意味な口論で休日を台無しにするつもりもなかった。


エヴリンはヴィヴィアンに向き直り、小さく合図した。


「行きましょう」


ヴィヴィアンは彼女を見つめ、それから不本意そうに視線を引いた。


「ふん」


二人は背を向け、その場を離れていった。


セラフィナはその場に立ったまま、興味深そうに二人の後ろ姿を眺めていた。


「本当に冷たいんだから」


彼女は小さく呟いた。


そして、再び微笑んだ。


「でも、なかなか面白いわね」


---


広場の反対側では、ルシアンが学生用の長椅子に座っていた。


教師たちの治療を受けたあと、黒炎はようやく制御された。患部にはまだ痛みが残っており、彼は普通に立ち上がることさえできなかった。担当の教員からは、休息を取り、宿泊先へ戻る前に医療担当者による追加の診察を受けるよう勧められていた。


ルシアンには、ほかに選択肢がなかった。


彼は六印紋章広場に集まり始めた受験者たちを眺めていた。


ふと、不安が胸をよぎる。


そろそろ始まるのかもしれない。


案の定、それから数分もしないうちに、大講堂の大時計塔から大きな鐘の音が響いた。


ゴーン!


その音は大学の敷地全体へと広がり、周囲の会話を少しずつ静めていった。


受験者たちは次々と広場の方へ顔を向けた。


前方では、一人の年配の男性が、六印紋章広場の中央に設けられた石造りの壇上へと上がっていく。


ルシアンはすぐにその人物を見分けた。


試験初日、何千人もの受験者の前で演説を行った人物だった。


彼は銀灰色のローブをまとい、その縁には淡い金糸で複雑な模様が刺繍されていた。白い髪は後ろへと丁寧に撫でつけられ、高い額と深い眼差しがあらわになっている。長い髭は胸元近くまで伸びていたが、年配の術者らしい整った形に手入れされていた。


その手には、濃い色の木で作られた杖が握られていた。先端には青い宝石がはめ込まれ、柔らかな光を放っている。


彼はヴァルドレン王立大学の上級教員の一人であり、試験に関する決定事項を発表する役目を担っていた。


男は広場を見渡した。


集まっていた受験者たちは、すぐにそれぞれの位置へと落ち着いた。


ルシアンも周囲を見回した。


見覚えのある顔がいくつもあった。楽しそうに話している者もいれば、俯いて地面を見つめている者もいる。試験に落ちたという事実を、まだ受け入れられない者もいた。


彼らにとって、今日はおそらくつらい一日だったのだろう。


山で過ごした十日間。


数えきれないほどの試練や遭遇戦、そして危険な状況の中で下さなければならなかった数々の決断。


そのすべてが、試験からの強制転移という形で終わりを迎えたのだ。


壇上の男は杖を掲げた。


音声を拡大する術によって、彼の声が広場全体に響き渡った。


「受験者の皆さん、こんにちは!」


男は一度言葉を切り、自分に注目する者たちの顔を見渡した。


「特に、残念ながらクラウンピークの頂上に到達する前に試験から離脱することになった皆さんへ」


何人かの受験者が俯いた。


別の者たちは小さくため息をついた。


「試験に落ちることが、誰も望まない結果であることは理解している。皆さんは何年も準備を重ね、故郷での選抜を勝ち抜き、そして何千里もの道のりを越えてヴァルドレンまでやってきたのだ」


彼の声は決して厳しくなかったが、聞く者を自然と引きつける落ち着きがあった。


「通常、試験に合格できなかった受験者は、翌年まで再挑戦を待たなければならない。これは、ヴァルドレン王立大学が長年にわたって守ってきた規則だ」


男は少し間を置いた。


「しかし、今年は特別な年となった」


広場の受験者たちは互いに顔を見合わせ始めた。


「アルドリック四世陛下は、皆さんの試験の様子を見守っておられた。陛下は、たとえ試練を最後まで達成できなかったとしても、多くの者が粘り強さ、勇気、そして高く評価すべき適応能力を示したことに気づかれたのだ」


男は杖の先を石壇に軽く打ちつけた。


「そこで、皇帝陛下のご意向により、ヴァルドレン王立大学は皆さんにもう一度機会を与えることになった」


広場が静まり返った。


「今回の試験から脱落した受験者全員を、アイアンマーチ州へ派遣し、特別訓練プログラムに参加させる」


ざわめきが起こった。


「アイアンマーチ?」


「東部の国境地帯じゃないか?」


「どうしてそんな場所へ?」


男は話を続けた。


「皆さんはアイアンマーチで半年間の訓練を受けることになる。その期間中、実際の環境に身を置き、軍の監督下で行われる訓練や、経験豊富な術者たちによる教育プログラムに参加してもらう」


彼は広場全体に視線を向けた。


「半年間の訓練を終えた後、最も優秀な成績を収めた二十名が推薦され、ヴァルドレン王立大学への入学を正式に認められることになる」


その瞬間、広場は静まり返った。


そして次の瞬間、歓声が一斉に沸き起こった。


「本当ですか!?」


「まだチャンスがあるんだ!」


「上位二十人に入ればいいんですよね?」


一人の若い受験者が両手を高く掲げた。あまりの嬉しさに、まだ自分の耳を疑っているようだった。


先ほどまで失望に沈んでいた者たちも、互いにまったく違う眼差しを向け始めた。友人と抱き合う者もいれば、早くも今後の訓練計画について話し合う者もいた。


彼らにとって、アイアンマーチは見知らぬ危険な土地かもしれない。


それでも、王立大学へ続く扉は、まだ完全には閉ざされていなかった。


半年間。


二十の枠。


自分の力を証明する機会。


壇上の男は歓声が落ち着くのを待ってから、再び口を開いた。


「皆さんには、この訓練が休暇ではないことを理解してもらいたい。アイアンマーチは帝国の軍事国境地帯であり、駐屯部隊は常に外部からの脅威に直面している場所だ」


「訓練には厳格な規律が設けられる。皆さんは協力すること、命令に従うこと、そして自分の判断に責任を持つことを学ばなければならない」


彼は最後の言葉を少し強調した。


「これは機会であって、合格を保証するものではない」


歓声が徐々に小さくなっていく。


「訓練を乗り越えるだけの能力がある者は、入学候補として審査される。要求を満たせない者は、故郷へ戻ることになる」


彼は杖を下ろした。


「皇帝陛下から与えられたこの機会を、決して無駄にしないよう願っている」


発表はそこで終わった。


広場は再び騒がしくなった。


多くの受験者がアイアンマーチや国境の要塞、軍事訓練プログラムについて語り始めた。期待に胸を膨らませる者もいれば、不安を隠せない者もいた。それでも、大半の者は新たに目指すべき目標を見つけたようだった。


ただ一人、ルシアンだけは違った。


彼は長椅子に座ったまま、周囲の楽しそうな顔を眺めていた。


アイアンマーチ。


その名を聞いただけで、頭が痛くなるような気がした。


ルシアンは、その土地に美しいものなど何もないことを知っていた。


そこは、ノーマン軍が国境を守るため、常に部隊を駐留させなければならない場所だ。町の人々はいつも警戒を怠らず、要塞を結ぶ軍用道路には、頻繁に兵士たちが巡回している。


危険な魔物、不意に起こる衝突、そして過酷な環境。


それらの理由から、アイアンマーチは帝国でも特に暮らしにくい土地の一つとされていた。


そこで半年間の訓練を受ける?


ルシアンには想像もできなかった。


彼は俯き、自分の足を見つめた。


治療を受けた部分には、まだ鈍い痛みが残っている。ほんの数時間前まで、彼はエヴリン・アシュフォードの従者だった。幼い頃から仕えてきた、あの令嬢の。


だが今や、その立場を失ってしまった。


アシュフォード家は、もう彼と関わりたくないだろう。セラフィナも、自分が誰なのかさえ認めようとしなかった。


そして今度は、アイアンマーチへ行かなければならない。


ルシアンは顔を上げ、空を見つめた。


口から、深いため息が漏れた。


「はあ……」


彼は額に手を当てた。


「俺の人生、どうしてこんなに不幸なんだ!」


遠くでは、皇帝から与えられた再挑戦の機会について、ほかの受験者たちがまだ喜びながら話し合っていた。


一方のルシアンは、ただそこに座り、ヴァルドレン王立大学の高い尖塔を見つめることしかできなかった。


長い一日は、まだ終わっていない。


そして彼にとって、本当に苦しい日々は、ようやく始まったばかりなのかもしれなかった。


第22章・完

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