第2章:六つの紋章、一つの王冠
ヴァルドレン。
その名を聞くだけで、ノーマン帝国中の数え切れない人々が、一生に一度は訪れてみたいと夢見るほどの都である。
そこはアルドリック四世皇帝が君臨する場所。宮廷の決定が何百万もの人々の運命を左右し、法律が制定され、帝国最高峰の学者たちが魔法の本質について議論を交わす場所でもある。
もしアウレリアン・ポートが海によって築かれた富を象徴するのなら、ヴァルドレンは幾世代にもわたって積み重ねられてきた権力を象徴していた。
帝都は十の大区画に分けられている。中央に位置する古い要塞を起点として発展し、やがてヴェイル川の両岸から郊外へと広がっていった。灰色の石で築かれた城壁、広々とした石畳の大通り、そして川の両岸を結ぶ数々の橋。それらが、この街を西方でも屈指の壮大な都市へと変えていた。
しかし、シラス・バイにとって、それらはまだ紙の上にしか存在しないものだった。
彼は窓際の木製テーブルに座り、片手で頬杖をつきながら、もう片方の手で学校から配布された小冊子を持っていた。
表紙には、雲海の中から尖塔がそびえ立つ都市の絵が描かれている。その背後には、雪に覆われた山々が連なっていた。
彼は次のページをめくった。
そこには、ヴァルドレンの全景を描いた一枚の絵が広がっていた。
ゴシック様式の壮大な建築物が、ページいっぱいに描かれている。空へと伸びる鐘楼、幾重にも連なる石造りのアーチ、そして広大な川を横切る古い橋。その遠くには、白い煙を細くたなびかせながら、鉄道列車が谷間を走り抜けていた。
シラスはその絵に見入っていた。
父からは、東方にある大都市について聞いたことがある。屋根が優雅に反り上がった宮殿、賑やかな市場を横切る石畳の道、そして神々を祀るために建てられた古代の寺院。
また、西方の城塞都市を描いた絵も見たことがあった。城壁は高くそびえ立ち、その下に立つ者は、塔の頂上を見るために首を大きく反らさなければならないほどだった。
それでも、ヴァルドレンは彼の想像をはるかに超えていた。
そこは、単に人々の暮らしのために築かれた都市ではない。
まるで独立した一つの世界のようだった。巨大な建造物の一つ一つが、ここを訪れる者たちに、帝国の権力が彼らの生まれるずっと前から存在し、そして彼らが目を閉じた後も、なお長く続いていくのだと思い知らせるために建てられたかのようだった。
シラスは、絵の中の高くそびえる塔を指でなぞった。
行ってみたい。
灰色の石造りのアーチを自分の目で見てみたい。古めかしい回廊を歩いてみたい。そして、ノーマンで最も名高い学府の扉の向こうに何があるのかを知りたい。
何よりも、自分がこの広大な世界で、どこまで進めるのかを確かめたかった。
そのとき、不意に扉を叩く音が響いた。
コン! コン! コン!
シラスは驚き、小冊子を落としそうになった。
「今行く!」
彼は立ち上がり、居間を横切って玄関の扉を開けた。
そこには、カラム・マーロウが立っていた。
金色の髪は少し乱れ、上着のボタンもきちんと留められていない。片手には大きな封筒、もう片方の手には濃い青色の表紙をした本を持っていた。
シラスの顔を見るなり、カラムはまるで遠い航海から宝物を持ち帰ったかのような、晴れやかな笑みを浮かべた。
「やあ、ボー!」
シラスは友人の手にある書類の束を見た。
「花屋でも始めるつもりか?」
「何だよ、それ! 違うって! 校長先生に頼まれて、これをボーに届けに来たんだ」
カラムは封筒を掲げ、シラスの目の前でひらひらと揺らした。
「それに、一緒に読んだほうがいいと思ってさ!」
「明日渡してくれてもよかったのに」
「それじゃ駄目だ!」
カラムはあまりにも素早く答えたため、シラスは思わず眉を上げた。
「つまり……これは大事なことだろ! ヴァルドレン行きの列車の切符だぞ、シラス! 切符だ! それに王立大学からの招待状まであるんだ! ワクワクしないのか?」
シラスはしばらく彼を見つめ、それから小さく笑った。
「分かった、分かった。入れよ」
カラムは二度目の招待を待つことなく、すぐさま家の中へ入ってきた。
彼はこの家に何度訪れたか分からないほどだった。二人がまだ幼かった頃から、カラムは放課後になるとよくシラスを訪ねてきた。新しい玩具を自慢しに来ることもあれば、失敗した魔術実験について語りに来ることもあった。時には、家で自分の話を聞いてくれる人が誰もいないという理由だけで、やって来ることもあった。
グランド・キーズ、アンカー通り七番地にあるこの家は、いつしかカラムにとって第二の家のような存在になっていた。
居間は昔と変わらず、どこか古びた雰囲気を残していた。
誰かが歩くたびに床板がきしむ。窓際の木製テーブルにはいくつもの傷が刻まれ、壁に掛けられた時計は、ときおり実際の時刻より数分遅れていた。
部屋の隅には、二人が幼い頃から座っていた古いソファが置かれている。
張り地は色あせ、クッションは少しへたり、片側の肘掛けには茶色い糸で縫い直された小さな裂け目があった。商人がわざわざ金を払って買い替えるほどの価値もない、何の変哲もない家具だった。
だが、シラスとカラムにとって、そのソファには数え切れないほどの思い出が詰まっていた。
二人はかつてここに座り、オズウィンの本に登場するドラゴンが水棲魔獣に勝てるかどうかを議論したことがある。カラムが「絶対に安全だ」と断言した魔術を試そうとして、インク瓶をクッションにぶちまけたのもここだった。
そして、幼い頃から何度も、この場所で長い午後を過ごし、大人になったらどこへ行きたいかを語り合っていた。
あの頃、ヴァルドレンはただの遠い地名に過ぎなかった。
今、二人は本当にそこへ向かおうとしている。
「座れよ」とシラスが言った。
カラムはソファに身を投げ出し、古いクッションをいつも以上に深く沈ませた。封筒と本をテーブルに置くと、隣の空いた場所を軽く叩いた。
「ほら、こっちに来いよ。大事な仕事があるんだから」
シラスは隣に腰を下ろした。
「まるで帝国を救う準備でもしているみたいだな」
「そうなるかもしれないだろ!」
カラムはそう答え、封筒の封を破った。中から二枚の列車の切符と、厚手の紙に印刷された招待状を取り出す。
招待状の隅には、ヴァルドレン王立大学の紋章が刻まれた封蝋が押されていた。
六つの枝を囲むように、王冠が描かれた精巧な紋章だった。
カラムは口笛を吹いた。
「高そうな紙だな」
シラスは招待状を手に取った。
そこには、黒いインクで整然とした格式ある文章が記されていた。
ヴァルドレン王立大学は、帝国内の教育機関から推薦を受けた者に対し、入学選考試験への参加を正式に招待する。推薦を受けたことは、正式な入学を保証するものではない。すべての候補者は、選考委員会の前で自らの能力、知識、そして資質を証明しなければならない。
シラスは最後の一文をもう一度読み返した。
「つまり、まだ試験を受けなきゃいけないんだな」
「当然だろ!」とカラムが言った。「推薦状をもらっただけで、誰でも入学できると思ったのか?」
「列車を降りた直後に試験を受けさせられないことを祈るよ」
「うーん……それは考えてなかったな」
カラムは瞬きをした。途端に、その表情が真剣なものへと変わる。
「待てよ。もし本当に列車を降りた直後に試験があったらどうする? 何を準備しておけばいいんだ? 筆記試験? 実技? 魔術決闘? それとも魔獣の識別か? まさか試験会場にドラゴンを放つなんてことは……」
「カラム」
「何だ?」
「自分で自分を怖がらせているぞ」
カラムは口を閉じた。
数秒間シラスを見つめた後、まるで切符に試験会場でドラゴンが待ち構えているという警告でも書かれているかのように、列車の切符を確認し始めた。
シラスは笑いをこらえられなかった。そして招待状をテーブルに置く。
「それで、その本は何なんだ?」
カラムの目がぱっと輝いた。
「ああ! そうだった、忘れるところだった!」
彼は青い表紙の本を持ち上げ、存在しない埃を軽く払い落とすと、両手でシラスに差し出した。
「校長先生によると、これは大学の公式案内書らしい。キャンパスや各学院、図書館、学生寮なんかの情報が載っているんだってさ」
シラスは表紙に金色で刻まれた文字を見た。
VALDOREN ROYAL UNIVERSITY。
その下には、より小さな文字でこう記されている。
ヴァルドレン王立大学。
さらにその下には、細い書体で標語が印刷されていた。
Six Crests, Six Legacies, One Crown.
(六つの紋章、六つの遺産、ひとつの王冠。)
シラスは小さく声に出して読んだ。
「ずいぶんと格式のある標語だな」
「格式がある? 最高だろ! 六つもの学院があるんだぞ! それぞれに異なる伝統があるんだ。少し調べてみたけど、外部にはほとんど情報が出回っていなかったんだよ」
「じゃあ、読んでみてくれ」
「まさにそれをするつもりだったんだ」
カラムは咳払いをすると、大学の講義に立つ教授のような厳めしい表情を作り、背筋を伸ばした。
「紳士淑女の皆様! 本日はノーマン帝国で最も名高い教育機関についてご紹介いたしましょう!」
シラスは片手で顔を覆った。
「神様、どうか助けてくれ」
「聴衆の皆様、静粛にお願いします!」
「ここには二人しかいないぞ」
「そして、そのうち一人は講演者に対して失礼な態度を取っている」
シラスはクッションをカラムに投げつけた。
カラムはそれを受け止め、満面の笑みを浮かべると、ようやく本を開いた。
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ヴァルドレン王立大学
王家の後援を受けて数百年前に設立されたこの大学は、幾世紀にもわたる戦争、王朝の交代、そして数え切れないほどの歴史的変動を乗り越え、今日まで存続してきた。
ヴァルドレン帝都の北東、アウレリア山地に属する高原地帯に位置する大学の敷地は、いくつもの丘陵、谷間、そして古い森にまたがって広がっている。高所から見下ろせば、石造りの建物が巨大な建築群を形成し、城壁と首都へと続く石畳の道に囲まれている。
ゴシック様式の尖塔が霧の中から天へと伸びている。灰色の石造りのアーチは広大な広場に影を落とし、色鮮やかなステンドグラスの窓は、赤、青、黄色の光を古い回廊の床に映し出していた。
さらに遠くには、深い谷を横切る石橋が架けられ、大学の各区域を結んでいる。その光景は、まるで天と地の狭間に築かれた都市のようだった。
シラスは全景を描いた一枚の絵の前で手を止めた。
「本当にこんな場所があるのか?」
「今まさに、それを見ているだろ」
「分かってる。でも……」
彼は言葉を最後まで続けなかった。
オズウィンの語る物語の中では、世界はいつも人々の想像よりも広大だった。海の向こうには遠い大陸があり、山脈の向こうには誰も足を踏み入れたことのない王国があり、古い森の奥には熟練した魔術師でさえ軽々しく近づこうとしない生き物が棲んでいる。
だが、ヴァルドレンは彼に別の感覚を抱かせた。
それは単なる地図上の一地点ではない。
何百年もの間に積み重ねられた知識、権力、そして野心の結晶だった。建物の一つ一つ、塔の一つ一つ、道の一本一本が、それぞれ歴史の一部を宿しているかのように思えた。
シラスは、自分が正門の前に立ち、そびえ立つ石壁を見上げる姿を想像した。
そのとき、自分は今と同じように小さな存在だと感じるのだろうか。
「まさか、夢でも見ているんじゃないだろうな?」
カラムの声が、シラスを現実へと引き戻した。
「夢を見ちゃいけないのか?」
「別にいいさ。でも、せめて大学の紹介を読み終えてからにしてくれよ。俺はどこに一番うまい飯があるのか知りたいんだ」
シラスは友人を見た。
「食べ物のことしか考えていないのか?」
「いや、図書館のことも考えているぞ」
「本当か?」
「ああ。王立図書館には、帝国初期の時代に書かれた魔術研究の資料が保管されているらしい。その一部にでも触れることができれば、俺は……」
カラムは突然言葉を止めた。
「あっ、それからヴァルドレンの女の子たちのこともな」
シラスは目を閉じた。
カラムが五分以上真面目でいられると信じた自分が、あまりにも愚かだったと悟った。
カラムはそんなことなど気にも留めず、次のページをめくった。そこには、キャンパス内の主要な区域について説明されていた。
大学へ続く道は帝都から始まり、山腹と古い森を抜けていく。遠方の地方からやって来る学生たちは、列車で大学駅まで到着し、そこから馬車や魔力で動く乗り物に乗り換えることができる。大きな石橋が駅と正門を結び、霧に覆われた深い谷を横切っていた。
初めてヴァルドレンを訪れる者たちにとって、その道は、普通の生活とまったく異なる世界との境界線にたとえられている。
「想像できるか?」とカラムが尋ねた。「いつか俺たちも、この橋を渡るんだぞ」
シラスは挿絵を見つめた。
絵の中では、数人の学生が石橋を渡っていた。外套が風に揺れ、遠くには左右対称の塔を備えた巨大な正門がそびえている。門の頂上には王家の紋章が石に彫り込まれ、太陽の光を受けて鮮明に浮かび上がっていた。
「ああ」とシラスは答えた。「自分の目で見てみたい」
その声はとても小さかったが、今度はカラムもからかわなかった。
二人は読み進めた。
キャンパスの中心には、六つの紋章広場がある。明るい色の石板で舗装された広大な広場で、そこから六本の主要な道が放射状に伸び、それぞれ六つの学院へと続いている。
中央には古い噴水があり、その水流は数百年もの歴史を持つ魔術機構によって維持されていた。
伝えられるところによれば、新入生たちは入学の日にこの広場へ集まるという。輝かしい未来を願う者もいれば、入学選考試験をひそかに不安に思う者もいる。そして、自信に満ちた者たちは、どの学院こそが最も優れた魔術師を育てる場所なのかを議論するのだった。
それぞれ異なる目的を胸に抱いていても、全員が同じ広場からその歩みを始める。
「六つの学院か」とシラスが読んだ。「それぞれに独自の紋章があるんだな」
「そして、どこも自分たちが一番優秀だと思っている学生たちがいるんだろうな」とカラムが付け加えた。
「まだ数行しか読んでいないのに、もうそんな結論を出したのか?」
「人間の心理ってものが分かっていないな。六つのチームがあれば、どこが一番強いかで言い争う奴が必ず出てくるんだよ」
シラスは少し考えた。
「それも一理あるな」
カラムは、まるで魔術の重要な法則を証明したかのように、得意げにうなずいた。
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キャンパスで最も目立つ建造物は、グレート・スパイア――大本部塔である。
六階建ての塔は中央広場の近くに建ち、灰色の石造りの屋根が連なる建物群の中でもひときわ目を引いていた。壁には古代の装飾文様が彫られ、細長い高窓が塔の外壁に沿って並び、淡い光の帯を石の上に映し出している。
ここには学長室、各学院評議会の会議室、そして大学の事務部門が置かれている。
入学者の選抜、資源の配分、教員の任命、研究計画の管理に関わる重要な決定は、すべてこの場所で審議される。
最上階は特別研究のために確保されており、一部の資料や魔術装置は、評議会の許可がなければ使用することができない。
カラムは挿絵をじっと見つめた。
「中には何があるんだろうな?」
「事務室や会議室、研究資料だろ。本に書いてあるじゃないか」
「俺が聞きたいのは、本に書かれていないものだよ」
シラスは彼を横目で見た。
「そこに忍び込むつもりか?」
「未来の魔術師に対して失礼なことを言うな!」
「じゃあ、どうするんだ?」
カラムは腕を組み、天井を見上げた。まるで重大な問題について考え込んでいるかのようだった。
「いつか、招待されるほど重要な人物になればいいんじゃないか」
シラスは笑った。
「今日初めて、まともな将来設計を聞いた気がするよ」
「ありがとう。自分でも頭がいいと思っている」
「調子に乗るなよ」
カラムは鼻を鳴らし、次のページをめくった。
大本部塔の隣には、大学と同じほど古い歴史を持つ王立図書館がある。何層にも連なる書架には、魔術、歴史、神秘生物、そして滅び去った文明に関する研究資料が収められている。中には、専門の研究者でなければ解読できない古代言語で書かれた資料も存在する。
図書館のほかにも、天体の動きを観測し、空に現れる奇妙な現象を記録する天文塔、魔力を持つ植物を栽培する実験植物園、そして魔術や剣術、その他の戦闘技術を実践するために設けられた訓練区域がある。
キャンパスの東側には光明教会が建っている。色鮮やかなステンドグラスには、人類文明の黎明期にまつわる伝説が描かれており、一年を通して灯される蝋燭の光が、大学のほかの場所とは異なる静寂を生み出していた。
学生寮は中庭や小さな庭園を囲むように配置されている。講義棟から移動しやすい距離にありながら、長い授業を終えた学生たちが休息を取れるよう、適度に離れた場所に設けられていた。
ヴァルドレンは、単なる学びの場ではない。
そこは一つの小さな都市だった。道があり、庭園があり、古い建造物があり、独自の生活の営みがある。図書館で一日中過ごす者もいれば、闘技場で疲れ果てるまで鍛錬する者もいる。あるいは、地図に記されていない隠された場所を探し求め、回廊を歩き回る者もいるだろう。
シラスは一度、本を閉じた。
「これだけのものが、全部同じ敷地内にあるなんて信じられないな」
カラムは彼を見た。
「最高なのは何だと思う?」
「食事が無料で食べられることか?」
「違う!」
「じゃあ、分からないな」
「俺たちがそこで学ぶことになるんだぞ!」
カラムは興奮した声で言った。まるで既に大学生になったかのように、ソファから飛び上がりそうな勢いだった。
シラスは思わず笑った。
「まだ手に入れたのは列車の切符と選考試験への招待状だけだぞ」
「細かいことはいいんだ!」
「それが一番重要なことなんだけどな」
「この感動を台無しにしないでくれよ、シラス!」
カラムは再びソファに腰を下ろし、本を胸に抱えた。
シラスは親友を眺めながら、自分の中にも期待が少しずつ膨らんでいるのを感じていた。
あと二週間。
たった二週間後には、二人はアウレリアン・ポートを離れ、ヴァルドレンへ向かうことになる。
まだ足を踏み入れたことのない土地を目にし、見知らぬ人々と出会い、二人ともよく知らない環境へと飛び込んでいくのだ。
成功するかもしれない。
あるいは、最初の選考試験で失敗するかもしれない。
それでも、目の前には確かな機会がある。
二人とも、それを逃したくはなかった。
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「よし、いよいよ一番大事なところだ!」
カラムは本を開き直し、何ページかを素早くめくってから、六つの学院の紹介欄で手を止めた。
シラスはクッションを引き寄せた。
「どうせ、どの学院の食堂が一番うまいか調べたいんだろ?」
「食べ物のことだけで俺を評価するのはやめてくれないか?」
カラムは彼をにらんだが、本気で怒っている様子はなかった。
「よく聞けよ。六つの学院は、単なる教育上の区分じゃない。それぞれに独自の歴史があり、かつて学院の礎を築いた学者や魔術師、偉人たちの思想に基づいている。創設者たちの伝統は、今でも学院の教育方針に影響を与え続けているらしい」
彼は最初の項目に指を置いた。
ブラックソーン学院
ブラックソーンは、知性、規律、そして戦略を重んじる学院である。
ここに所属する学生たちは、分析能力、歴史研究、魔術現象の解読、そして複雑な状況下での意思決定能力を鍛えられる。多くの人々にとって、ブラックソーンは冷静な頭脳を持ち、行動する前にあらゆる可能性を慎重に考慮する者たちのための場所だった。
その紋章は、炭のような黒と冷たい銀色を基調としている。
黒は静寂、知識の深淵、そして闇に隠された秘密を象徴する。一方、銀は鋭い理性、正確さ、そして規律を表していた。
「本を読むのが好きで、何でも計算するような人間に向いていそうだな」とシラスが感想を述べた。
カラムはすぐさま彼を指差した。
「今、まさに自分のことを説明していただろ!」
「自分がそこまで冷静だとは思わないけどな」
「そうだな。お前はただ、何でも自分の思い通りになっているように振る舞うのが好きなだけだ」
シラスは再びクッションをカラムの顔に投げつけた。
カラムは大笑いしながら身をかわし、続きを読み始めた。
ドレイケンホール学院
ブラックソーンが知性と戦略を重んじるのなら、ドレイケンホールは戦闘の伝統で知られている。
この学院では、過酷な環境下でも魔術を制御できる魔術師を育成し、魔法と戦闘技術、そしてチームワークを組み合わせた訓練を行っている。ドレイケンホールの訓練施設は厳格なことで有名であり、卒業生の多くは帝国の魔術部隊に採用される。
紋章の色は、深紅と焼き銅色。
深紅は意志、勇気、そして試練を通じて鍛えられる力を象徴する。焼き銅色は情熱、戦闘精神、そして不屈の精神を表していた。
カラムは口笛を吹いた。
「ここは面白そうだな」
「戦闘魔術師になりたいのか?」
「そうかもしれない。もし身長三メートルの魔獣と戦うことになったら、どうすれば追いかけてこなくなるのか知っておきたいからな」
「もっと速く走ればいいんじゃないか?」
「お前は本当に人を励ます方法を知らないな」
シラスは笑ったが、何も答えなかった。
シルバーメア学院
シルバーメアは、医術の知識を守り、魔術生物学を研究する学院である。
ここに所属する学生たちは、生体の仕組み、魔術によって引き起こされる病、薬草、そして魔力を利用した治療法について学ぶ。さらに、再生能力を持つ生物や、特殊な生物学的特性を備えた魔獣の研究にも携わっている。
紋章は真珠のような白と淡い青を基調としている。
真珠白は純粋さ、慈愛、そして癒やしの力を象徴し、淡い青は冷静さ、均衡、そして安定した生命の流れを表していた。
シラスは説明を二度読み返した。
「ここも面白そうだな」
「医者になるつもりか?」
「まだ分からない。でも、人体と魔術がどのように機能しているのかを理解できれば、いろいろなことを解き明かせるかもしれない」
カラムはうなずいた。今度はからかわなかった。
アッシュボーン学院
アッシュボーンは、魔術と工学の融合を追求する学院である。
最も優れた発明家、技術者、そして職人たちの多くが、ここから輩出されている。彼らは魔術装置、自動機構、魔法兵器、さらには人々の移動や生活のあり方を変える可能性を持つ乗り物などを研究している。
紋章の色は、琥珀色と鋼鉄の灰色。
琥珀色は創造性、活力、そして発明の炎を象徴し、鋼鉄の灰色は技術、耐久性、そして製作における正確さを表していた。
カラムは本に顔を近づけるほど身を乗り出した。
「待てよ。聞いたか? 魔術装置、自動機構、魔力で動く乗り物……。もしこういうものに触れられるなら、食堂で並ばなくて済む装置を作れるかもしれない!」
シラスは信じられないという顔で彼を見た。
「考えられる発明がいくらでもあるのに、食事の問題を解決することしか思いつかないのか?」
「それは差し迫った問題だからな!」
「お前にとっては、そうだろうな」
カラムは反論する気もないようだった。
ヴェイルムーア学院
ヴェイルムーアは、自然の神秘、神秘生物、そして未解明の現象を研究する学院である。
学生たちはしばしば野外調査に参加し、魔力を帯びた生態系を研究したり、古い伝説を調べたりすることで、どこまでが単なる作り話で、どこからが実際の出来事の痕跡なのかを見極めようとする。
その紋章は、深緑と紫を基調としている。
深緑は古い森、神秘生物、そして野生の生命力を表し、紫は神秘、変化、そして自然の限界を超えたものを象徴していた。
この項目に差し掛かると、シラスは本当に興味深そうに読み始めた。
彼はオズウィンの店で過ごした午後を思い出していた。ドラゴンや妖精、文明の境界の外に生息する生き物について、彼が語ってくれた話だ。
ある話はユーモラスな口調で語られ、子供たちは腹を抱えて笑った。しかし、オズウィンでさえあまり詳しく語りたがらない話もあった。
鳥の声が聞こえない森。
別の空を映し出す湖。
月のない夜の海で目撃され、誰かがその存在を確かめる前に姿を消してしまう生き物たち。
シラスは、それらは何世代にもわたって誇張されてきた伝説に過ぎないと思っていた。
しかし、ヴェイルムーアが本当にそうしたものを研究しているのなら、もしかすると答えを見つけられるかもしれない。
「この学院が気に入ったのか?」とカラムが尋ねた。
「たぶんな」
「神秘生物が好きだからか?」
「それもある。それに、僕たちがまだ理解できていないものにも興味があるんだ」
カラムはしばらく彼を見つめ、それから微笑んだ。
「そうか。お前には合っていると思うよ」
シラスは少し驚いた。
「からかわないのか?」
「真面目に言ってるんだぞ」
「珍しいな」
「失礼な感想をありがとう」
二人は一緒に笑った。
そして、カラムは最後の六番目の学院のページをめくった。
グリフィンハースト学院
グリフィンハーストは、指導者、戦略家、そして外交官を育成する学院である。
学生たちは政治史、法律、交渉術、そして大規模な組織を運営するための原則について学ぶ。卒業生の多くは王室の官僚、貴族の顧問、あるいは帝国の統治機構に影響力を持つ人物となっている。
紋章は王家の黄金色と帝国の青を基調としている。
黄金は名誉、権威、そして高みを目指す志を象徴し、青は忠誠、安定、そして指導者としての伝統を表していた。
カラムは読み終えると、満足げにうなずいた。
「よし。もし将来お前が皇帝の顧問になったら、この古いソファで一緒にパンを食べた親友のことを忘れるなよ」
シラスは笑った。
「まだ入学できるかどうかも分からないのに、もう皇帝の顧問になる話をしているのか?」
「遠い未来を見据えることは大事だろ!」
「じゃあ、お前はどうするんだ?」
「俺は、自動で料理を作って、洗濯をして、宿題までやってくれる機械を発明する!」
「帝国で最も怠け者になるつもりか」
「違う! 俺は帝国で最も忙しい人間になるんだ。みんなが俺の発明を欲しがるからな!」
シラスは首を横に振った。
カラムが冗談を言っているのか、それとも本気で自分の言葉を信じているのか、判断するのは難しかった。
おそらく、その両方なのだろう。
シラスはページの下部に印刷された六つの紋章を見つめた。
それぞれが異なる形と色を持ち、独自の価値観を表している。どの紋章も似てはいない。それでも、すべてが同じ標語の下に並んでいた。
六つの紋章、六つの遺産、ひとつの王冠。
シラスは、この大学が単に教育の都合で学生を六つの集団に分けているわけではないことに気づいた。
それぞれの学院が、世界に対する異なる見方を象徴しているのだ。
知識こそが力だと信じる者がいる。力は行動によって証明されるべきだと考える者もいる。傷ついたものを癒やすために一生を捧げる者がいれば、まだ存在しないものを生み出そうとする者もいる。自然の謎を追い求める者もいれば、権力と正しい決断によって世界を変えようとする者もいる。
六つの異なる道。
そして、一度その道を選べば、どこまで進めるかは自分自身で証明しなければならない。
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「なあ、シラス」
カラムの声が、不意に真剣なものへと変わった。
シラスは本から顔を上げた。
「何だ?」
「自分がどの学院に入ると思う?」
その質問に、部屋は一瞬静まり返った。
シラスは六つの紋章を見下ろした。
招待状を受け取ったときから、そのことについて考えていた。神秘生物を研究する場所を選ぶこともできるし、魔術の知識を深く掘り下げる学院を選ぶこともできる。あるいは、戦闘魔術師を育成する学院という選択肢もある。
だが、自分の能力を十分に理解しているわけではない。ましてや、選考委員会がどのような基準で自分を評価するのかも分からなかった。
自分の特異な素質は、有利に働くかもしれない。
しかし、その血筋の違いこそが、ほかの人々にはない困難をもたらす可能性もあった。
「まだ分からないよ」とシラスは正直に答えた。「そんな難しいことを聞かないでくれ」
カラムはうなずいたが、まだ考え込んでいる様子だった。
「それもそうだな。まだ選考試験を受けていないんだから」
「その通り」
「でも、俺はドレイケンホールかアッシュボーンに入れる可能性があると思う」
「どうしてだ?」
「魔術が好きだし、物を作るのも好きだし、奇妙なものを研究するのも好きだからな。それに……」
カラムは言葉を切り、突然意味ありげな表情を浮かべた。
「ヴァルドレンの学生は、舞踏会に参加する機会がたくさんあるって聞いたんだ」
シラスは彼を見つめた。
「それが本当の理由だろ?」
「いや、そうとは限らない!」
「カラム」
「分かったよ、少しはそうだ」
シラスはため息をつき、ソファにもたれかかった。
やはり、こうなることは分かっていた。
カラムは魔術の研究に何時間も費やすことができる。しかし、貴族の令嬢たちが参加する舞踏会の話を聞いた途端、彼の集中力は朝霧が太陽の光に溶けるように消え去ってしまうのだった。
そして、そのことからシラスが聞きたくもない話題へとつながっていく。
「なあ、ヴァルドレンの女の子たちがどれだけ美人か知ってるか?」
シラスはゆっくりと顔を向けた。
「知らない」
「帝都には、由緒ある貴族の家に生まれた娘がたくさんいるらしい。幼い頃から教育を受けていて、楽器も弾けるし、踊りもできる。それに、普通の人間には真似できないような上品な話し方をするんだってさ」
カラムは頬杖をつき、輝かしい未来を目にしているかのように遠くを見つめた。
「それに、舞踏会で一歩足を踏み入れただけで、誰もが振り返るほど美しいドレスもあるらしいぞ」
「大学の案内書を読んでいるのか、それとも舞踏会の本を読んでいるのか?」
「両方だ。魔術師には幅広い知識が必要だからな」
シラスは笑った。
「本当に恥知らずだな」
「恥ずかしがっていても、人と仲良くなる役には立たないだろ」
カラムは妙に真剣な口調でそう言ったが、すぐに色好みな笑みを浮かべ、台無しにしてしまった。
「本当だぞ。アウレリアン・ポートの女の子たちと、帝都の女の子たちがどう違うのか見てみたいんだ」
シラスは腕を組んだ。
「じゃあ、好きに声をかけてみればいいさ。ただし、断られて僕のところに泣きついてくるのはやめてくれよ」
「そんなことになるわけないだろ!」
「一週間で三回も振られたことがあるじゃないか」
「あれは特殊なケースだったんだ!」
「三回とも特殊だったのか?」
「その通り!」
シラスは笑いをこらえられず、顔をそむけた。
カラムは侮辱されたような顔をしたが、数秒後にはすっかり元気を取り戻していた。そして、好奇心に満ちた目で親友を見た。
「それで、お前は? どんな女の子が好きなんだ?」
シラスは固まった。
「何だって?」
「好きなタイプだよ。まさか、一度も考えたことがないなんて言わないよな?」
「今はそんなことを考えている場合じゃないと思うけど」
「つまり、いるんだな!」
「カラム!」
「いいじゃないか。俺たちは義兄弟みたいなものだろ? 親しい友人にちょっとした秘密を打ち明けるくらい、いいじゃないか」
カラムの期待に満ちた表情を見て、シラスは、答えなければ午後いっぱい同じ質問を聞かされることになると悟った。
「頭のいい女の子が好きだよ」
カラムは瞬きをした。
「頭がいい?」
「ああ。本を読むのが好きだったり、研究が好きだったり、自分なりの趣味を持っていたりする人かな。いろいろなことについて話し合える相手なら、きっと楽しいと思う」
カラムはまるで新種の生き物を発見したかのように、シラスを見つめた。
「待てよ。つまり、文学少女が好きなのか?」
「そう言ってもいいかもしれない」
「いつも本を抱えていて、分厚い眼鏡をかけていて、一日中図書館にこもっていられて、古代の本について三時間も議論できるような女の子か?」
シラスは少し考えた。
「それもなかなか面白そうだな」
カラムは口を大きく開けた。
「本気か?」
「ああ」
「本当にそれが面白いと思うのか?」
「何か問題でもあるか?」
カラムは額に手を当て、まるで若い世代の衰退を目の当たりにした老人のように首を横に振った。
「ああ、シラス。お前の好みがそんなに変わっているとは思わなかったよ」
「何が変なんだ?」
「帝都で最も美しい女の子たちに出会えるかもしれないんだぞ。舞踏会に入っただけで誰もが振り返るような令嬢たちがいるのに、お前は図書館に座って本の話をしたいのか?」
シラスは肩をすくめた。
「少なくとも、僕の興味があることについて話せるだろ」
カラムは黙り込んだ。
数秒間シラスを見つめ、それから、若者たちの未来を憂う老人のように深いため息をついた。
「分かったよ。お前の好みは尊重する」
「ありがとう」
「でも、もう少し外に出たほうがいいと思うぞ」
シラスはクッションを手に取った。
「まだ続けるか?」
「いやいや! ただ心からの助言をしているだけだ!」
「なら、自分のために取っておけよ」
カラムは笑いながら、飛んできたクッションを避けた。
部屋には再び笑い声が満ちた。
その瞬間、ヴァルドレンはまだ遠くにあった。試験も、新しい友人たちも、それぞれ異なる伝統を持つ学院も、そして二人を待ち受ける試練も、すべては紙の上に書かれた文字に過ぎなかった。
そこにいたのは、二人の友人と、古いソファ、そしてアウレリアン・ポートで過ごす穏やかな午後だけだった。
しかし、カラムは突然窓の外に目を向けた。太陽の光が、ゆっくりと橙色へ変わり始めていた。
「実はさ……」
彼は以前より少し小さな声で口を開いた。
「どうした?」とシラスが尋ねた。
「少し不安なんだ」
シラスは彼の方を向いた。
「何が?」
「俺たちが同じ学院に入れないかもしれないってことだよ」
今度は、シラスも笑わなかった。
カラムはうつむき、自分の両手を見つめた。
「俺たちの素質は違うし、能力も完全に同じじゃない。選考委員会が俺をある学院に、お前を別の学院に振り分けるかもしれない。そうなったら、今までみたいに頻繁には会えなくなるだろ」
彼は無理に笑顔を作った。
「俺たちは小さい頃からずっと一緒だった。だから……いつか、お前は別の道を歩いて、俺はまた別の道を進むことになるなんて、何だか変な感じがするんだ」
シラスは親友を見つめた。
カラムが冗談でごまかすことなく、自分の気持ちを口にするのは珍しかった。
彼自身も、そのことについて考えたことがあった。
アウレリアン・ポートでは、二人の生活はほとんど一つにつながっていた。同じ学校に通い、慣れ親しんだ道を歩き、オズウィンの店に立ち寄り、二人だけが面白いと思うようなことについて、自由な時間の大半を語り合って過ごしていた。
しかし、ヴァルドレンは別世界だ。
何千人もの学生、数え切れないほどの教員、そして独自の教育課程を持つ六つの学院。二人がこれからも同じ道を歩めるという保証は、どこにもなかった。
シラスはテーブルの上で開かれた本に目を落とした。
「同じ学院に入れないことはあるかもしれない。でも、それが友達じゃなくなる理由にはならないだろ」
カラムは顔を上げた。
シラスは続けた。
「お前は俺たちが義兄弟だって言っただろ? だったら、違う学院に入るかもしれないってだけで、永遠に別れるみたいに心配するなよ」
カラムはしばらく彼を見つめた。
やがて、いつもの笑顔が少しずつ戻ってきた。
「そうだな。お前の言う通りだ」
彼はシラスの肩を強く叩いた。
「それに、もし帝都で誰かがお前にちょっかいを出してきたら、俺に言えよ!」
シラスは眉を上げた。
「それで、お前は何をするつもりだ?」
「もちろん、お前を助ける!」
「どうやって?」
カラムは勢いよく立ち上がり、軍隊の前で誓いを立てる将軍のように拳を掲げた。
「俺の優れた魔術の腕でだ! 必要なら、そいつに生まれてきたことを後悔させてやる!」
シラスは信じられないという目で彼を見た。
「お前、自分が選考試験に合格できるかどうかもまだ分からないだろ」
「俺の演説を台無しにするな!」
「それに、僕は自分の身くらい自分で守れる」
「それでもいいさ。でも、お前が助けを必要とするときは、俺が必ずそばにいる」
カラムは、ごく自然にそう言った。それが世界で最も当たり前のことだとでもいうように。
シラスはすぐには答えなかった。
胸の奥に、温かなものが広がっていくのを感じた。それはカラムの大げさな宣言のせいではない。その馬鹿げた言葉の裏には、いつも変わらない誠実さがあったからだ。
カラムは口数が多く、ときには考えなしに行動し、単純な出来事でさえ長々とした芝居に変えてしまう。
それでも、友人を見捨てたことは一度もなかった。
「俺の実力を侮るなよ」とシラスは言い、口元にわずかな笑みを浮かべた。「誰かが問題を起こしてきても、お前が駆けつける前に僕が片付けているかもしれないぞ」
カラムは胸に手を当て、傷ついたふりをした。
「何て薄情な義兄弟なんだ!」
「何と言ってほしいんだ?」
「せめて、俺の助けが必要になるって言ってくれよ!」
「嫌だ」
「シラス!」
カラムの叫び声が居間いっぱいに響き、窓辺に止まっていた一羽の鳥が驚いて飛び立った。
シラスは声を上げて笑った。
カラムは不満そうな顔をしたが、やがて彼も我慢できなくなり、一緒に笑い始めた。
外では、太陽がアウレリアン・ポートの屋根の向こうへ沈みかけていた。
一日の終わりの光が窓から差し込み、テーブルの上に置かれた青い表紙の本と二枚の列車の切符を、柔らかな金色に染めていた。
二週間後、二人はこの場所を離れる。
列車は二人を見知らぬ土地へと運び、書物でしか知らなかった帝都へと導くだろう。そこで待ち受けるのは選考試験、新たな出会い、そして二人の未来を左右するかもしれない選択だった。
シラスは世界の謎を研究する魔術師になるかもしれない。カラムは帝国全土を驚かせるような魔術装置を発明するかもしれない。あるいは、二人とも最初の一歩で失敗し、別の道を探すことになるかもしれない。
誰にも、先のことは分からない。
それでも今、シラスは以前ほど不安を感じていなかった。
自分がどの学院に振り分けられるのかは、まだ分からない。ヴァルドレンの門の向こうで何が待っているのかも知らない。
だが、列車に乗ることだけは決めていた。
そして、たとえ二人の道が別々の場所へ続いていくとしても、交わした約束が簡単に忘れ去られることはないだろう。
「もう帰るよ」とカラムはあくびをしながら、古いソファの上で身体を伸ばした。「これ以上座っていたら、ここで寝てしまいそうだ」
「今まで何度もそうしてきただろ」
「それは昔の話だ!」
「先週のことだけどな」
カラムは聞こえなかったふりをして立ち上がり、本を手に取った。
「明日も来るよ。六つの学院について、もっと調べておかないとな。選考試験の準備に役立つ情報が見つかるかもしれない」
シラスはうなずいた。
「分かった」
カラムは玄関へ向かい、そして突然振り返った。
「ああ、シラス」
「今度は何だ?」
「忘れるなよ。ヴァルドレンに着いても、俺を置いていくなよ」
シラスは親友を見つめ、それから微笑んだ。
「先に道に迷うのは、お前の方だと思うけどな」
「そんなわけないだろ!」
二人の笑い声が響く中、カラムは扉を閉めた。
家の中には、いつもの静けさが戻ってきた。
シラスはソファに戻り、本を手に取って、ヴァルドレン王立大学の挿絵をもう一度眺めた。
六つの紋章、六つの遺産、ひとつの王冠。
自分がどの紋章を背負うことになるのか、まだ分からない。六つの学院に受け継がれてきた古い伝統が、自分の人生にどのような影響を与えるのかも知らない。
それでも、遠くの山々の向こう、霧に覆われたゴシック様式の尖塔の下では、ヴァルドレンの門が新たな学生たちを待ち続けている。
そして彼らと同じように、まだ語られたことのない物語たちもまた、始まりの日を待っていた。
シラスは本を閉じた。
あと二週間。
今度は、ただヴァルドレンを夢見るだけではない。
彼は、そこへ向かって歩き始めているのだ。
第2章・完




