第15章:遠隔追跡
フォルストヴェイル渓谷
フォルストヴェイルは、クラウンフェル山脈の奥深くに位置する人里離れた渓谷である。そびえ立つ灰色の断崖が、古い松林を両側から包み込むように連なっていた。
巨大な樹木と果てしなく広がる霧で知られるエヴァーミアとは異なり、フォルストヴェイルはより荒々しく、閉ざされた、険しい雰囲気を漂わせている。
松の木々は斜面に密集して生え、その根は岩の裂け目に深く食い込んでいた。冷たい小川が、緑の苔に覆われた岩の間を縫うように流れている。
渓谷へたどり着くには、普段使われている山道を離れ、山から流れ出る小川に沿って進まなければならない。木の根や砕けた岩が散乱する急斜面を越える必要もある。ほんの少しでも足を滑らせれば、草木に覆い隠された深い裂け目へ転落しかねない。
街の住民が、特別な用事もなくフォルストヴェイルを訪れることはほとんどなかった。
帝都からやって来る狩人にとって、ここは野生動物と清らかな水に恵まれた土地である。一方、冒険家たちにとっては、いまだ十分に調査されていない地域であり、公式の地図には載っていない洞窟や通路が数多く残されている場所だった。
また、昔から語り継がれてきた話の中で、フォルストヴェイルはしばしば、音だけが遠くまで響き渡るものの、その音を発した者が必ずしも近くにいるとは限らない場所として語られてきた。
時には、すぐ背後から足音が聞こえるのに、振り返っても静まり返った木々しか見えないことがある。
時には、断崖の向こうから誰かが名前を呼ぶ声が聞こえるのに、誰がどこに立っているのか、まったく特定できないこともある。
大半の狩人は、それを複雑な地形によって生じる反響現象だと考えていた。一方、一部の研究者たちは、渓谷の岩石構造が音や法力の伝わり方に影響を及ぼしている可能性を指摘している。
本当の原因が何であれ、こうした噂は、普通の人々をこの場所から遠ざけるには十分だった。
残念ながら、今の不安定な三人組には、あまり選択肢がなかった。
なぜなら、クラウンフェル試験の終了まで、あと四日しか残されていないからだ。
そして、三人の前にはまだ長い道のりが待っていた。
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霧の洞窟
渓谷の東斜面には、地元の狩人たちから「霧の洞窟」と呼ばれる天然の洞窟群が広がっている。
その名の由来は、早朝によく見られる現象にあった。山の奥深くから流れ出す冷たい空気が、地下水の流れから立ち上る水蒸気とぶつかると、湿気が凝結して白い霧となる。それはゆっくりと洞窟の入り口から溢れ出し、外にある岩肌を覆い尽くしていく。
洞窟群の通路には、いまだ調査が完了していない場所もある。内部の地形は複雑に入り組んでおり、大人でも頭を下げなければ通れないほど低い通路がいくつも存在する。岩の隙間から反響する音も、しばしば人々の方向感覚を狂わせていた。
そのため、狩人たちは休憩場所として入り口付近を利用することはあっても、地形に詳しい案内人がいない限り、奥深くまで進むことはほとんどなかった。
現在、その洞窟の一角は、シラス・バイ、カラム・マーロウ、そしてフィニアン・クロウの三人が休息場所として利用していた。
「……俺、この試験って優秀な魔術師を選ぶためのものじゃなくて、何も食べるものがない場所に十日間放り込まれて、誰が最後まで生き残れるかを見るためのものなんじゃないかって思い始めたよ」
岩の床に寝転がったフィニアンが、ぼやくように言った。
彼は仰向けになり、両手を頭の後ろで組み、灰色の洞窟の天井をじっと見つめている。
その姿は、まるで人生そのものに裏切られた人間のようだった。
「それはちょっと不公平な言い方じゃないか?」隣に座っていたカラムが、小枝を弄びながら答えた。「少なくとも、食料はまだあるだろ」
「残りは一食分だけだぞ」
「なら、その一食を最高に美味しく食べればいい」
「その後は?」
「その後は……飢えというものについて、深い人生経験を積むことになる」
フィニアンは目を閉じた。
「そんな経験はいらない」
少し離れた場所では、シラスが昨日乾かした護符の状態を確認していた。二人の会話を聞き、彼は小さくため息をつくだけだった。
あと四日。
クラウンフェル試験の終了まで、残された時間はわずか四日だった。
現時点で、三人の得点はいずれも百点には遠く及ばない。道中で得点源となっていた魔物たちも、すでに他の学生に倒されているか、山林のあちこちに痕跡を残すだけとなっていた。
クラウンフェル山脈の奥へ進むほど、得点を稼ぐ機会は減っていく。
通行しやすい道は、たいてい誰かが先に通っていた。危険な生物の痕跡がある場所は、険しい崖や深さの分からない洞窟へと続いていることが多かった。
一方、他の学生を探して勝負を挑むにしても、相手が本当に危険を冒す価値のある人物なのか、慎重に判断しなければならない。
必要のない戦闘は、貴重な法力を失う原因になりかねない。最悪の場合、首飾りを起動して試験を終える羽目になる可能性さえあった。
シラスは運任せの賭けを好まなかった。
だが、時間は刻一刻と減っていた。
「いつまでもここに座っているわけにはいかないよ」
彼が口を開いた。
フィニアンは目を開けることなく、片手を持ち上げた。
「あと十分だけ休むことを提案する」
「君はもう一時間近く寝転がっているだろ」
「なら、あと十分くらい大したことない」
カラムもすぐにうなずいた。
「実に説得力のある意見だ。俺も賛成」
シラスは二人を見つめた。
「向上心にあふれた学生たちと行動を共にできて、本当に光栄だよ」
「ありがとう」カラムは即座に答えた。「君が俺たちを高く評価してくれているのは知っているよ」
シラスは、これ以上無意味な会話を続けることを諦めた。
確認を終えた護符を袋にしまい、代わりに手帳を取り出す。そこには、山の麓で自分たちが仮に描いた地図が記されていた。洞窟の中央に置かれた発光石の弱い光が、黒いインクで描かれた線を照らしている。
このまま北へ進めば、クラウンピークへ続く斜面に近づくことができる。
しかし、他の学生を探すのであれば、残っているチームの移動経路と交差する可能性が高い道を選ぶ必要があった。
それほど複雑な問題ではない。
ただし、今の彼らには判断材料があまりにも不足していた。
「あ、そうだ!」
カラムが突然、上半身を起こした。
シラスはすぐに顔を上げ、心の中にわずかな期待を抱いた。
「得点を稼ぐ方法を思いついたの?」
「いや、そういうわけじゃない」
「じゃあ、何?」
カラムは小枝を置き、真剣な表情で二人の友人を見た。
「今、ものすごく重要なことを思いついたんだ」
フィニアンは片目だけを開けた。
「食べ物の話なら、洞窟の外へ放り出すぞ」
「違う。今回は女性についてだ」
シラスは黙り込んだ。
フィニアンは再び目を閉じた。
シラスの胸に芽生えかけた希望は、瞬く間に消え去った。
「続けてみてよ」彼は冷ややかに答えた。「今回の仮説がどれほどひどいものなのか、聞いてみたい」
カラムは、そんな態度にまったく気づいていなかった。
「二人とも、ちょっと考えてみてくれ。エヴリンって、確かに気が強くて、いつも不機嫌そうで、誰に会っても悪態をつくけど、もしかしたら、それは表向きの姿にすぎないんじゃないか?」
シラスはゆっくりと顔を向けた。
「……は?」
「つまり、外側は近づく者を片っ端から引っかく野良猫みたいだけど、内側には優しくて淑やかな乙女が隠れているのかもしれない。彼女を理解できるだけの忍耐力を持った人間が現れれば……」
「カラム」
「何?」
「彼女が俺たちを何と呼んだか覚えている?」
「海猿」
「それで、俺たちに何をしようとしていた?」
「たぶん、ぶん殴ること」
「違うよ」シラスは眼鏡を直した。「あの目つきを見る限り、彼女は俺たちを去勢して、痛いかどうか聞いてみたいと思っていたんじゃないかな」
カラムは手を振った。
「君には分からないんだよ。気が強い女の子ほど、本当は理解してくれる人を必要としているものなんだ」
「なら、君が彼女を理解してあげればいい」
「俺をそんな死地へ送り込むなよ!」
「じゃあ、どうして自分から行こうとしているんだ?」
カラムは一瞬言葉に詰まったが、すぐに別の話題へ切り替えた。
「分かった。エヴリンのことはひとまず置いておこう。俺たちには、まだあのエデヴェインの女の子がいる!」
フィニアンはすぐに両目を開いた。
「あの子か?」
「そうだ!」
カラムは指を一本立て、まるで学術評議会で重要な発見を発表するかのような真剣な表情を浮かべた。
「彼女の髪型を思い出してみてくれ。上品な黒いストッキングに、思わず目を離せなくなるほど美しい脚。それに、世界のすべてが自分の掌の上にあるとでも言いたげな、あの落ち着いた雰囲気。間違いない。彼女にはヴァルドレン王立大学でも屈指の美女になる素質がある!」
シラスは信じられないという目でカラムを見た。
「箒で逃げなきゃならないほど彼女に脅かされたばかりなのに、まだそんなことを考えているの?」
「だからこそ、ますます尊敬しているんだ!」
「それは尊敬じゃない。研究が必要な問題だよ」
カラムは気にも留めなかった。
「とにかく、俺は絶対に百点を取る。そして彼女と同じ学院に入るんだ。そうすれば、また会える機会があるだろ?」
シラスは眉をひそめた。
ひとつの不安な考えが、彼の頭をよぎる。
「なあ、カラム」
「ん?」
「ストックホルム症候群って知っている?」
カラムは瞬きをした。
「え? もちろん知っているよ! でも、俺は変態なんかじゃないぞ!」
「それならよかった。今の発言は、その主張と完全に矛盾していたからね」
「シラス! 俺を信じてくれ!」
「もちろん、信じないよ!」
フィニアンは声を上げて笑った。
ほんのひととき、試験が続く中で積み重なった重苦しい空気が和らいだ。少なくとも、カラムがこんな馬鹿げたことを口にできるうちは、フィニアンも自分たちの旅が完全な悪夢になったわけではないと感じられた。
しかし、そのとき彼はふと思い出したことがあった。
「あ、そうだ」
フィニアンは上半身を起こし、少し真剣な表情になった。
「二人にまだ話していないことがある」
シラスが顔を上げた。
「何?」
「あのエデヴェインの女の子だ。俺が二人に助けられる前、彼女は二人がスカイシャドウ湖の近くにいるって言っていた」
シラスの手が、手帳の上で止まった。
「何だって?」
「彼女は二人の名前を知っていた。それに、二人がどの辺りにいるのかも正確に知っていたんだ」
洞窟の中が静まり返った。
カラムの笑みも消えた。
シラスはゆっくりと手帳を置いた。背筋に、再び冷たい感覚が走る。
彼は以前から、彼女が何らかの魔術を使って自分たちを追跡している可能性を考えていた。
しかしそのときは、彼女が二人の逃げた方向を偶然目撃したか、地形から推測しただけだろうと考えていた。
だが、フィニアンの話を聞くと、そうした単純な仮説では説明がつかなくなる。
二人は、彼女がエヴリンと戦っている間に逃げ出した。
両者の距離は決して近くなかった。森の木々は密集し、地形も複雑だった。さらに二人は、スカイシャドウ湖へ向かう前に、わざと移動方向を変えていた。
それなのに、セラフィナは二人の居場所を知っていた。
それだけではない。彼女はフィニアンに、二人が助けに戻ってくるとまで告げていた。
つまり、彼女は二人の行動をあらかじめ予測していたことになる。
あるいは、もっと厄介な可能性もある。
彼女は最初から、二人を監視していたのかもしれない。
シラスは無意識に拳を握りしめた。
脳裏に、あのエデヴェインの少女の穏やかな笑顔が浮かんだ。脅威を感じさせない笑みだったはずなのに、思い返すほど不快感が増していく。
まるで、どこへ逃げても相手には見えているのだと、告げられているようだった。
「大丈夫か?」
カラムが尋ねた。
シラスはすぐには答えなかった。
彼は立ち上がり、洞窟の入り口へと歩いていった。外では雪がさらに激しく降り始めていた。小さな雪片が風に煽られて斜めに流れ、入り口の前にある冷たい岩に張りついている。
今日、山道を進むのはほとんど不可能だった。
この天候の中で休息場所を離れれば、厳しい寒さに耐えるために余分な法力を消費しなければならない。しかも視界は大きく制限される。
標高が上がるほど、吹雪は危険になる。
あと四日。
このまま足踏みを続ければ、目標を達成することはできない。
しかし、セラフィナに遠くから追跡されているのなら、その術の仕組みを理解しないまま移動することは、相手の支配下へ自ら足を踏み入れるようなものだった。
彼女がどのようにして自分たちを追跡したのか、知る必要がある。
シラスは茶色の髪を軽くかき上げ、これまで本で読んだ知識や、セント・オーレリアスで受けた授業、そして難解すぎて覚える必要はないと思っていた玄術の用語を思い返した。
そのとき、ひとつの考えが閃いた。
自分は間違いを犯していた。
クラウンフェル試験が始まって以来、シラスは常に相手の年齢や戦闘経験、そして同年代の学生が使えるであろう魔術を基準に、相手を分析してきた。
彼はルシアンに対してもそうした。
エヴリンに対しても。
そして、セラフィナに対しても。
彼らが名門一族の出身だと知っていながら、無意識のうちに、年齢に見合うと自分が考える知識の範囲内で、彼らの能力を評価してしまっていたのだ。
それは便利な判断基準だった。
同時に、極めて主観的な判断でもあった。
もし十七歳の学生が、通常なら上級課程でしか扱われない魔術を使えるのなら、自分の実力を超えているという理由だけで、それを不可能だと決めつけてはいけない。
「まさか……」
シラスは小さくつぶやいた。
彼は勢いよく振り返り、洞窟の壁際に置いてあったスーツケースへ歩み寄ると、留め具を外した。
カラムはその様子を見て、すぐに何かに気づいた。
「何か見つけたのか?」
「まだ分からない」
シラスは何冊かの本を探り、記録用紙や小さなインク壺を脇へ押しやった。やがて、何度も使われて背表紙が擦り切れた、濃い青色の本を取り出した。
表紙には銀色の文字で、こう記されていた。
『予見術概論――感知から遠隔幻視まで』
シラスは最初の数ページを素早くめくり、法力感知や初歩的な予測術についての説明を飛ばした。そして、本の後半近くにある章で手を止める。そこには水晶玉の挿絵とともに、通常より小さな文字が印刷されていた。
「これだ」
カラムがすぐに隣へ寄った。
フィニアンも、先ほどまでの疲れを忘れたかのように近づいてきた。
シラスは指先を文章の上に置いた。
「遠隔追跡術」
彼は一文字ずつ、ゆっくりと読み上げた。
「予見術に属する魔術。法力の媒介を通じて、遠方にいる対象を観察することを可能にする。媒介としては、導体、刻印、あるいは記録された法力の残滓などが用いられる。術者の力量によっては、対象の姿を視認するだけでなく、おおよその位置を特定し、さらには対象のいる場所の音声を受け取ることも可能となる……」
カラムが眉を上げた。
「待ってくれ。つまり、あの子はどこかに座ったまま、俺たちが何をしているのか見られるってことか?」
「理論上は、そうだね」
シラスは次のページをめくった。
「でも、この魔術は単に窓越しに覗くようなものじゃない。対象を特定するための接続点が必要だし、映像を安定させ続けなければならない。距離が遠くなるほど、地形が複雑になるほど、あるいは周囲に法力の乱れが多いほど、追跡は難しくなる」
フィニアンは眉をひそめた。
「じゃあ、彼女は前もって俺たちに刻印をつけていたのか?」
「その可能性はある」
シラスは断言しなかった。
「あるいは、別の媒介を持っているのかもしれない。今の情報だけでは判断できないよ」
カラムはページをじっと見つめた。普段はあまり見せないほど真剣な表情だった。
「それなら、俺たちの名前を知っていたことはどう説明する?」
「いくつか考えられる。十分な時間をかけて観察していれば、誰かが俺たちの名前を呼ぶ声を聞くこともできる。特別な媒介を持っているなら、対象を特定することはもっと簡単なのかもしれない」
シラスは本を半分ほど閉じた。
「ただ、ひとつ気になることがある」
「何だ?」
「遠隔追跡術は、高度な魔術に分類される。術者は対象との接続を維持しながら、不要な映像や音声を選別しなければならない。同時に複数の人間を追跡するとなれば、必要な法力も集中力も大幅に増えるはずだ」
フィニアンが彼を見た。
「つまり、彼女は俺たち三人全員を監視しているってことか?」
「いや。僕が言いたいのは、もし彼女がこの魔術を使っているのなら、無制限に使えると考えるべきではない、ということだよ」
シラスは本の文章へ視線を戻した。
「どんな魔術にも弱点はある。それを見つければいい」
カラムは岩壁に背中を預け、しばらく黙っていた。それから、ようやく口を開いた。
「理屈は分かる。でも、彼女が遠くから俺たちを見られるのなら、俺たちの計画はすべて見破られるんじゃないか?」
「それが問題なんだ」
シラスは本を閉じた。
「彼女がいつから追跡しているのか、どこまで音を聞き取れるのか、そして映像がどれほど鮮明なのか、僕たちには分からない。それが分かるまでは、軽率な行動はすべて見られている可能性があると考えたほうがいい」
フィニアンはため息をついた。
「それで、明日も山頂へ向かうつもりなのか?」
シラスは洞窟の入り口を見た。
吹雪はまだ収まる気配がなかった。雪片が二つの断崖の間を吹き抜け、白い帯となって渦を巻いている。
「それでも行く」
彼は答えた。
「ただし、移動方法は変える。同じ道を長く使わないこと。外にいる間は重要な話をできるだけ控えること。そして、必要になるまでは計画の全容を決して明かさないこと」
カラムが眉を上げた。
「俺たちを影の中で生きる人間にでもするつもりか?」
「違うよ。謎めいた女の子に、僕たちが暇つぶしの道具にされるのを避けたいだけだ」
「……それは確かにもっともだな」
フィニアンは立ち上がり、服についた埃を払った。
「なら、早く寝よう。明日は山を登らなきゃならない」
カラムはすぐに自分の上着の上へ横になった。
「ようやく、俺が全面的に賛成できる決定が出たな」
シラスは本をスーツケースにしまった。しかし蓋を閉じる前に、もう一度その文字を見つめた。
遠隔追跡術。
自分が知らないところで誰かに観察されているという感覚は、好きではなかった。
ましてや、相手が若すぎるという理由だけで、その能力を過小評価してしまったことは、なおさら気に入らなかった。
次は、同じ過ちを繰り返さない。
少なくとも、シラスはそう願っていた。
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クラウンピーク山腹
霧の洞窟から遠く離れた、雪に覆われたクラウンピークの山腹。
吹雪の中を、一つの人影がゆっくりと歩いていた。
冷たい風が岩の裂け目を吹き抜け、濃い雪煙を巻き上げている。雪面に刻まれた足跡は、できたそばから新たな雪に覆われ、後ろに続く道はほとんど消えかけていた。
しかし、セラフィナ・ヴェイクロフトは少しも急いでいなかった。
氷に覆われた岩を越え、首に巻いたマフラーを整えながら、彼女は目の前の空間に向かって微笑んだ。
そこには、淡い光の幕が空中に浮かんでいた。
その表面は水面のように揺らめき、内部には洞窟の光景と、会話を交わす三人の人影が映し出されている。
霧の洞窟。
シラス、カラム、フィニアン。
セラフィナは首を傾け、シラスの手にある本を注意深く観察した。映像は文字を一つひとつ読み取れるほど鮮明ではなかったが、彼が必要なものを見つけたときの真剣な表情は、はっきりと分かった。
「あら?」
彼女は小さく笑った。
「ようやく真面目に考え始めたのかな?」
強い風が山腹を吹き抜けると、光の幕に映る映像がわずかにぼやけた。セラフィナは指先を軽く持ち上げる。薄い法力の輪が光の幕を取り囲み、再び安定させた。
彼女は数秒間その光景を眺めた後、そっと手を閉じた。
映像は瞬く間に消えていった。
光の幕は細い線へと縮まり、やがて完全に消滅する。そこには、空中を舞い落ちる雪だけが残された。
セラフィナは袖を軽く払った。
そのとき、背後から低い声が響いた。
「君がセラフィナ・ヴェイクロフトだね?」
彼女は振り返った。
数歩離れた場所に、黒いローブをまとった男性が立っていた。暗い布地の胸元には、ヴァルドレン王立大学の紋章が輝いている。
彼はクラウンフェル試験の支援を担当する講師のひとりだった。
セラフィナは驚いた様子も見せなかった。ただ微笑み、礼儀正しく頭を下げた。
「あら、先生。こんにちは。何かご用でしょうか?」
男性はしばらく彼女を見つめた。
「君の名前は以前から聞いている。エデヴェインでも屈指の優秀な学生であり、ヴェイクロフト家の出身でもある。その実力なら、試験でもかなり目立った成績を残しているはずだ」
彼は一度言葉を切り、続けた。
「それなのに、なぜ君の得点はきれいさっぱりゼロのままなのかね?」
セラフィナは瞬きをした。
それから、少し困ったように首を傾け、微笑んだ。
「ああ、そのことですか?」
彼女は胸に手を当て、まるで何でもない出来事について話すかのような、穏やかな口調で答えた。
「試験から脱落していく学生たちを見ると、少し可哀想になってしまって。だから、誰も脱落させないようにしていたんです」
講師は黙り込んだ。
彼は試験期間中、さまざまな言い訳を聞いてきた。
適切な対戦相手が見つからなかったと言う学生もいた。地形の調査に時間をかけすぎたと主張する者もいた。得点を稼ぐ実力がなかったことを隠すため、あれこれ理由を並べ立てる者もいた。
しかし、得点がゼロである理由を、対戦相手への同情だと説明した学生は、これが初めてだった。
「そうかね?」
「はい」
セラフィナはうなずいた。その表情はあまりにも誠実で、反論するのも難しいほどだった。
講師は小さく息を吐いた。
「では、渓谷にいた氷竜についてはどう説明するつもりだ?」
セラフィナの笑みは変わらなかった。
「氷竜ですか?」
「知らないふりをするな」
彼の声が少し真剣になる。
「調査隊が、北側の山腹にある洞窟で成体の氷竜を発見した。重傷を負っていたが、まだ生きていた。周囲に残された法力の痕跡から、魔術師が一人、あれと交戦したことが分かっている」
彼はセラフィナをまっすぐ見つめた。
「もし君が氷竜を倒し、規定に従って討伐を完了させていれば、得点を獲得できたはずだ。しかし、君はあれに重傷を負わせただけで、その場を立ち去った」
セラフィナは少し頬を膨らませた。
「ちょっと撫でてあげたかっただけなんです」
「……何だと?」
「竜だって命ある生き物でしょう? どれほど恐ろしい相手でも、殺すのは可哀想です」
講師は彼女を見つめた。
セラフィナも、澄んだ瞳で彼を見つめ返す。
二人の間を風が吹き抜け、薄い雪の帯が地面を横切っていった。
講師は、どう反応すればいいのか分からなくなった。
彼はヴェイクロフト家の才能について聞いたことがあり、同年代の学生を大きく上回る能力を持つ者たちについての報告書も読んだことがあった。
しかし、どれほど心の準備をしていても、目の前の少女の考え方だけは理解できそうになかった。
成体の氷竜。
普通の学生なら近づくことさえ避けるほど危険な生物であり、刺激すれば調査隊全体にとって脅威となりかねない存在だ。
それなのに、彼女は少し撫でてあげたかったと言っている。
講師はさらに数秒間、セラフィナを見つめた後、それ以上尋ねることを諦めた。
「分かった。これ以上、説明を求めるつもりはない」
「先生は本当にお優しいですね!」
「私は自分の任務を果たそうとしているだけだ」
男性は山頂を見上げた。雪煙の向こうでは、黒い雲が渦を巻いている。
「それにしても、おめでとう。今のペースなら、最も早く山頂へ到達する学生の一人になれるだろう」
セラフィナは微笑んだ。
「ありがとうございます」
「ただし、油断は禁物だ。上層部の危険度は、君がこれまで経験したものとは比べものにならない。吹雪はいつ方向を変えるか分からないし、山腹の地形も一人で進むには適していない」
「はい、気をつけます」
彼女は素直に答えた。
講師はうなずき、片手を掲げた。彼の足元に魔法陣が現れ、淡い光がその体を包み込んでいく。
「私は他の区域も確認しなければならない。危険に遭遇したら、試験用の首飾りを使いなさい。安全を犠牲にしてまで、自分の力を証明しようとする必要はない」
「分かりました」
光が閃いた。
男性の姿は、吹雪の中から消え去った。
セラフィナはしばらくその場に立ち、彼が消えた空間を見つめていた。
やがて、彼女は小さく笑った。
「最も早く山頂へ、ね?」
彼女は顔を上げ、雪に覆われた上り道を見つめた。
「それも面白そう」
セラフィナは再び歩き始めた。その姿は、周囲の吹雪など少しも気にしていないかのように、どこまでも悠然としていた。
茶色の髪に積もった雪は、すぐに溶けて消えていく。彼女の足元には、厚い雪の上に一歩ずつ足跡が刻まれ、クラウンピークの頂へと続いていた。
しかし、今度は遠隔幻視の幕を開くことはなかった。
少なくとも、今はまだ。
なぜなら、彼女はすでにシラスが何を見つけたのかを知っているからだ。
そして、彼が次に何をするのか、とても楽しみにしていた。
第15章・完




