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万里幻譚  作者: ケルビン
13/27

第13章:逃げても逃げきれない

エヴァーミアの松林


目の前で繰り広げられている戦いを一言で表すとしたら、シラスの頭に浮かぶ言葉は二つだけだった。


めちゃくちゃだ!


松林の中では魔法が絶え間なく激突し、色とりどりの光が霧の中で明滅しては消えていく。木々の幹が揺れ、枯れ葉が宙へと巻き上げられ、地面に散らばった岩は攻撃の衝撃を受けて次々と砕けていた。


エヴリン・アシュフォードと、エデヴェインから来た少女が松林の中央で激しく交戦していた。


どちらも一歩も引かない。


エヴリンが杖を振るうと、鋭い風の刃が空気を切り裂いた。エデヴェインの少女は身を傾けてそれをかわすと同時に、左側に分身を生み出して反撃する。


しかし、エヴリンはその動きを予測していたかのようだった。


彼女は手首をひねり、魔法の軌道を途中で変える。相手は後退を余儀なくされた。


一つの攻撃が終わる前に、次の攻撃が始まる。


無駄な動きはない。


長々とした口上もない。


一歩一歩の踏み込み、身体の回転、さらには杖を持ち上げる動作に至るまで、すべてに明確な目的があった。


シラスはカラムが作り出した石の障害物の後ろに立ち、その戦いを見つめながら、頭皮がぞわりとするのを感じていた。


彼はこれまでにも、驚くべき威力の魔法を使う魔術師たちを目にしてきた。自分の雷法符を完全に防ぎきるほど強固な結界を張るキングスフィールドの学生たちも見たことがある。


だが、これほどの水準で戦う二人を目の当たりにしたのは初めてだった。


最も恐ろしいのは、攻撃の威力ではない。


その制御力だった。


エヴリンは必要以上の法力を決して放出しない。一つ一つの攻撃は、相手に回避を強いるか、防御のためにエネルギーを消費させるよう計算されていた。


死角から分身が現れれば、即座に攻撃の方向を変え、対処する必要のない標的に時間を浪費することもない。


エデヴェインの少女も負けてはいなかった。


彼女の分身たちは、ほとんど完璧と言えるほど連携していた。


一体が相手の注意を引きつけ、別の一体が退路を塞ぎ、三体目が相手の重心が移動した瞬間を狙って攻撃を仕掛ける。


それは、強力な魔法で相手を圧倒することしか知らない学生たちの、ありふれた戦い方とはまったく違っていた。


彼女たちは法力のわずかな消費、わずかな隙、そして相手の小さな失敗さえも利用していた。


攻撃は、必ずしも最も強力である必要はない。


ただ、適切な瞬間に放たれればいい。


結界も、絶対に破られないほど強固である必要はない。


致命的な一撃を避けるために必要な時間だけ、持ちこたえればいいのだ。


シラスが最も驚いたのは、二人とも法力を過剰に消費することなく、その戦闘状態を長時間維持できているように見えることだった。


それは、今の彼にはまだ到達できない技術だった。


彼は高い破壊力を持つ符を使うことができる。しかし、発動するたびに一定量の道気を消費する。連続して攻撃を繰り出すには、タイミングを計り、事前に準備を整え、道気が尽きる危険を受け入れなければならない。


一方、目の前の二人は、戦闘中でさえ法力の量を自在に調整しているように見えた。


過不足なく、無駄なく。


その制御能力だけでも、彼には手の届かないほどの実力差があった。


隣に立つカラムも、似たようなものだった。


エヴリンの攻撃によって一体の分身が消滅するのを見て、すぐに別の分身たちがその隙間を埋める様子を見つめていた。


「……めちゃくちゃだな」


シラスが振り向く。


「君もそう思うか?」


「他に何がある?」


カラムはごくりと唾を飲み込んだ。


「自分では法力の制御がかなり得意だと思っていたんだけどな。あの二人の戦いを見ていると、そもそも自分が本当に魔法を使えているのか疑わしくなってくるよ」


「少なくとも、石を投げる技術はあるだろ」


「ありがとう。君の慰めのおかげで、僕の未来はまだ明るい気がしてきたよ」


爆発音が響き、二人はすぐに口を閉ざした。


エヴリンは背後からの攻撃をかわしながら身を翻し、接近してきた分身を弾き飛ばした。彼女はその結果を確認するために立ち止まることすらない。相手が体勢を崩した瞬間には、すでに別の分身へ攻撃を切り替えていた。


シラスはその光景を見ながら、静かに結論を出した。


ここに留まり続ければ、直接戦闘に参加しなくても、いつ巻き込まれるか分からない。


それに、彼らにはまだ解決すべき最優先事項が残っていた。


フィニアンを見つけることだ。


二人は、ここで立ち止まって彼女たちの実力を見物しているわけにはいかない。


シラスは友人の方へわずかに顔を傾けた。


「なあ、カラム」


「ん?」


「フィニアンの箒が見えているな?」


カラムは遠くの松の枝を見上げた。箒はまだそこに引っかかっており、銀色の尾が枝に絡まっている。


「見えているけど、それがどうした?」


「念動術で下ろしてくれ。ここから逃げるぞ」


カラムはシラスを見た。


それから箒を見た。


最後に、目の前で繰り広げられている戦いへ視線を戻す。


「知ってるか? 僕はこういう、終わりがはっきりしている計画が大好きなんだ」


「だったら、早くやってくれ」


「ここから離れて、生き延びて、食べ物を探して、あの二匹の化け物のところには絶対に戻らない」


「そのとおり」


「ようやく、自分が尊重されていると感じられる計画に出会えたよ!」


カラムは手を掲げた。


法力が、枝に引っかかった箒を包み込む。枝が揺れ、乾いた葉が数枚落ちた。カラムはゆっくりと箒を自分の方へ引き寄せていく。


パキッ!


枝が一本、折れた。


箒は引っかかりから解放され、宙で一回転すると、まっすぐカラムのもとへ飛んできた。


彼はそれを手で受け止め、木の柄に残っていた葉を軽く払った。


「よし。フィニアンの所有物、回収完了」


シラスは箒を見て、それからカラムを見た。


「箒の操縦はできるのか?」


カラムの動きが止まった。


「……え?」


「つまり、乗りこなせるのかってことだ」


カラムは手にした箒を見つめ、それから目の前に広がる森を見た。


およそ三秒間、沈黙が続いた。


「なあ、シラス。今、素晴らしい考えを思いついたんだ」


「どんな考えだ?」


「僕は、君のような立派な親友に命を預けるつもりはない」


シラスは瞬きをした。


「それならよかった。俺も箒の操縦は知らない」


カラムは勢いよく振り返った。


「お前、今なんて言った!?」


「いや、少しは知っている」


「少しって、どれくらいだ?」


「魔法の箒が飛べることを知っている程度だ」


カラムは、感情の抜け落ちた目で彼を見つめた。


その瞬間、箒を地面に置き、森へ戻って別の道を探したいという衝動に駆られた。


だが、そのとき背後で法力が爆発した。


地面がかすかに揺れ、二人は戦闘の方へ視線を向けた。


エヴリンが結界の一層を破壊したところだった。エデヴェインの少女はすぐに分身を増やし、空いた場所を埋めていく。


カラムは深く息を吸い込んだ。


「よし、決めた」


彼は箒を地面に置き、その柄にまたがった。


シラスは困惑した顔で友人を見た。


「何をするつもりだ?」


「飛ぶ」


「でも、さっきは……」


「黙って後ろに乗れ、シラス! この兄弟分を信じろ!」


カラムは箒の柄を強く握った。


シラスは唾を飲み込み、ゆっくりと友人の後ろに腰を下ろした。両腕をカラムの腰に回し、足をどうにか安定する位置に置く。


「本当に大丈夫なのか?」


「分からない」


「……」


「でも、試さなければ走って逃げるしかないだろ。ここ二日間で、もう十分走ったんだ」


シラスは目を閉じた。


「それは説得力のある理由だな」


彼は記憶をたどり始めた。


試験に参加する前に読んだ本の中に、魔法の箒の使用方法を解説したものがあった。あのときは単なる好奇心から読んだだけで、まさかこんな危険な状況で、その知識を実際に使うことになるとは思ってもいなかった。


「いいか、俺の言うことを聞け」


カラムは少し顔を傾けた。


「何でも言ってくれ。今、僕は自分の命のすべてを懸けて聞いている」


「まず、箒の柄に刻まれた符文の仕組みに、少量の法力を流し込むんだ。入れすぎるな。そうすると速度が急激に上がる」


「少量って、どれくらい?」


「分からない」


「シラス!」


「少しずつ試せばいい!」


カラムは深く息を吸い込んだ。


柄に手を置き、黒い木材に刻まれた符文へ適量の法力を流し込む。


最初は何も起こらなかった。


やがて、刻まれた紋様が淡く光り始める。


箒の尾を、そよ風が包み込んだ。


そして、箒はゆっくりと地面から浮かび上がった。


カラムは目を見開いた。


「おお! 本当に動いた!」


シラスはすぐさま彼にしがみついた。


「喜ぶな! まずはバランスを保て!」


カラムは試しに、身体を少しだけ前へ傾けた。


箒が一気に加速する。


ヒュンッ!


「うわあああああ!」


二人の叫び声が松林に響き渡った。


わずか数秒で箒は開けた場所から飛び出し、木々の間にある狭い小道へと突っ込んでいった。


カラムは慌てて箒の柄を引き上げようとしたが、今度は左へ傾いてしまった。彼は急いで重心を右へ移す。すると二人は突然進行方向を変え、大きな松の幹すれすれをかすめて飛んでいった。


シラスは心臓が飛び出しそうだった。


箒が方向を変えるたび、彼はカラムにしがみつき、振り落とされないよう両足で友人の身体を挟み込んだ。


「カラム! いったい何を操縦しているんだ!?」


「僕だって知りたいよ!」


「飛行方向を制御しろ!」


「今、必死にやってるんだ!」


カラムが左へ身体を傾ける。


箒はすぐに右へ曲がった。


驚いたカラムは右へ傾け直した。


すると箒は急降下し、茂みの上をかすめ、巨大な松の根に衝突する寸前で通り過ぎた。


シラスは後ろへ大きくのけぞった。


その瞬間、木々の枝に切り取られた空を見上げながら、彼の心は妙に穏やかになった。


もしかすると、今日が自分の最後の日なのかもしれない。


彼は祈り始めた。


父から聞かされた東方の信仰に登場する神々から、ノーマン帝国の教会で人々が唱える祈りまで。正気を失ったように森を飛び回る二人の愚か者を救ってくれるかもしれない神々を、知っている限りすべて思い出そうとした。


しかし、どの神も介入するつもりはないらしい。


箒は飛び続けた。


カラムは冷静さを保とうとしたが、その声はすでに恐怖で完全に裏返っていた。


「僕はまだ死にたくないんだ!」


一本の木を避けたかと思えば、次の木にぶつかりそうになる。


「シラス! 僕より先に死ぬなよ!」


シラスは目を開け、必死に身体を起こした。


「箒を操縦しているのはお前だろ! どうして俺に先に死ぬなって言うんだ!?」


「道案内が必要なんだよ!」


「それなら最初から言え!」


カラムは風に煽られながら、大声で叫んだ。涙が風圧で目から流れ落ちる。


「僕はまだ王都で美人の女の子たちとデートしたいんだ! 有名なレストランだって全部回れていない! それに、まだ……」


「遺言は後にしてくれないか!?」


シラスはどうにか姿勢を保とうとしたが、箒が方向を変えるたびに身体が後ろへと持っていかれる。


その間も、カラムは左右に身体を傾け、密集する松の木々の間をどうにかすり抜けようとしていた。


一本の枝が彼の髪をかすめた。


別の木の幹が、表面の樹皮に刻まれた溝まではっきり見えるほど近くを通り過ぎる。


これほどまでに、自分の命が一度も読んだことのない説明書に左右されるとは、カラムも思っていなかった。


「シラス! 続きを教えてくれ!」


シラスは必死に本の内容を思い出した。


魔法の箒は意志を持つ生き物ではなく、操縦者の法力に反応する魔導具である。柄に刻まれた符文の仕組みがエネルギーを受け取り、それを浮力へと変換する。さらに、操縦者の重心の変化に応じて移動方向を調整するのだ。


つまり、操縦者は法力の流れを制御しながら、同時に姿勢も調整しなければならない。


そして、カラムはその両方をひどく下手にこなしていた。


シラスは歯を食いしばった。


「身体を大きく傾けすぎるな! 重心を少し変えるだけでいい! 法力の量を安定させろ!」


「安定させようとしてるよ!」


「だったら法力を追加するな!」


「でも、追加しなければ落ちるだろ!」


シラスはあることを思い出した。


箒は、速度を維持するために法力の量を絶えず増やす必要はない。エネルギーの供給を止めれば、符文の仕組みは浮力を失い、箒は慣性に従って落下し始める。


安全な着陸方法とは言えない。


だが、少なくとも落下地点を選ぶことはできる。


シラスは木々の間から前方を見渡し、開けた場所を探した。


見当たらない。


あるのは、古い松の木々と、木の根が張り巡らされた斜面ばかりだった。


そのとき、突然、前方に広い空が見えた。


太陽の光を反射する水面。


スカイシャドウ湖だ!


シラスの頭に、すぐさま一つの考えが浮かんだ。


「カラム! 北へ向かえ!」


「北ってどっちだ!?」


「湖の方を見ろ!」


「もっと早く言ってくれよ!」


カラムは身体を傾け、湖の方へ進路を変えようとした。


箒はすぐに松林から飛び出し、開けた地面の上を通過して、スカイシャドウ湖の岸へ向かっていく。


水面がどんどん近づいてくる。


さざ波や岸辺に転がる岩、湖の周囲に生い茂る低木まで、はっきりと見えるようになった。


「よし! もうすぐだ!」


シラスは水面を見下ろし、それから岸までの距離を確認した。


十メートル。


岸辺の岩を避けるには、十分な距離かもしれない。


「カラム、準備しろ!」


「何の準備だ!?」


「法力を切るんだ!」


「冗談だろ!?」


「早くやれ!」


カラムは歯を食いしばった。


箒が湖面まであと十メートルほどに迫ったとき、彼は柄に流し込んでいた法力を一気に遮断した。


箒に刻まれた符文が暗くなる。


浮力が失われた。


しかし、箒は慣性によって前方へ飛び続け、水面の上を低く弧を描きながら進んでいく。


一瞬、二人の身体は空中に浮かんでいた。


シラスは最後に一言だけ叫んだ。


「神々よ、どうか……!」


バシャァン!


二人はそのままスカイシャドウ湖へと落下した。


冷たい水が全身を包み込む。


カラムは必死にもがきながら水面へ浮かび上がろうとし、シラスは激しく咳き込みながら方向を探った。数秒間の混乱の末、二人はようやく水面に顔を出し、最も近い岸へ向かって泳いでいった。


岸辺の岩に足をつけると、カラムはすぐに地面へ倒れ込み、荒い息を吐いた。


シラスもその隣に膝をついた。髪はずぶ濡れで、眼鏡は鼻筋から今にもずり落ちそうになっていた。


二人は黙り込んだ。


しばらくの間。


やがて、カラムがゆっくりとシラスの方を向いた。


「……僕たち、生きてるな」


シラスは空を見上げた。


「神々は、まだ俺たちを迎え入れるつもりがないらしい」


カラムは仰向けになり、両腕を大きく広げた。


「誓って言うよ。これからは、説明書を読まずに箒に乗ることは絶対にしない」


シラスは彼を見た。


「今まさに、それをやっただろ」


「だから、これからはしないって言ってるんだ!」


シラスは思わず笑った。しかし、その笑いはすぐにため息へと変わった。


彼はずぶ濡れになった服を見下ろし、符を入れていた鞄のことを思い出した。


「しまった……」


カラムは勢いよく上半身を起こした。


「今度は何だ?」


「俺の符だ」


シラスは慌てて鞄を開け、油紙に包んでいた符を取り出した。できる限り守ろうとはしたものの、湖の水は鞄の一部にまで染み込んでいた。黄色い紙はふやけ、一部の朱砂の文字は滲んでしまっている。


シラスは痛ましそうな顔でそれを見つめた。


「そんな……」


カラムは符の束を見てから、友人の顔を見た。


「少なくとも、僕たちはまだ生きてる」


「その言葉で慰めるのは、もうやめてくれないか?」


「でも、本当のことだろ!」


シラスはため息をつき、無事な符を慎重に乾いた岩の上へ広げた。


「暗くなる前に、休める場所を探さないと」


カラムはうなずいた。


今度は反対しなかった。


---


スカイシャドウ湖畔での休息


湖岸を離れた二人は、水辺から数十歩ほど離れた場所にある、茂みの生い茂った一角を見つけた。茂みの後ろには大きな松の木があり、地面も比較的乾いていた。ひとまず休むには十分な場所だった。


カラムはフィニアンの箒を木の幹に立てかけ、その隣に腰を下ろした。


シラスは濡れた符を清潔な布の上に広げ、一枚ずつ慎重に剥がし、互いにくっつかないようにしていた。


「乾かす方法はあるか?」と彼は尋ねた。


カラムは符の束を見つめた。


「基本的な風元素術を使えば、何とかなるかもしれない」


「風元素術が使えるのか?」


「得意じゃないけど、弱い風を起こすくらいなら難しくないよ」


彼は手を掲げ、符の上をそっと通り抜ける小さな風を操った。


空気が静かに流れ、紙の表面から湿気を運び去っていく。カラムは符が飛ばされないよう、慎重に風の強さを調整した。


しばらくすると、符は少しずつ乾き始めた。


シラスは一枚ずつ状態を確認し、使い物にならなくなったものを取り除いた。それから予備の黄色い紙と朱砂の墨を取り出し、必要な符を書き直していく。


彼は黙々と作業を続け、筆先を紙の上で滑らせていた。


新しい迷踪符を書き終えると、シラスは立ち上がり、休憩場所の周囲を歩いて、適切な位置に符を貼りつけていった。


一枚は木の根元に置き、もう一枚は岩の隙間に隠す。残りは草むらの間に分散させた。


それらは絶対的な結界を作り出すわけではないが、偶然通りかかった者の認識を乱すには十分だった。


作業を終えたシラスは、カラムのもとへ戻った。


「これで、少しは休めるな」


カラムは木々の枝を見上げた。


「フィニアンはどうする?」


彼の顔から、次第に笑みが消えていく。


「いつまでもあいつをあそこに放っておくわけにはいかない」


シラスはしばらく黙っていた。


「もちろんだ」


彼は隣に腰を下ろし、木の幹に立てかけられた魔法の箒を見つめた。


「必ず助けに戻る」


その声には、わずかな無力感が滲んでいた。


フィニアンを見捨てるわけにはいかない。それは分かっている。


エデヴェインの少女が、面白いと思った相手をすぐに脱落させるつもりはなさそうだということも理解していた。だが、それがフィニアンの安全を保証するわけではない。


特に、あの少女は何十もの分身を生み出し、予測の難しい方法で戦闘を支配することができるのだ。


カラムはうつむき、髪に残った水滴を手で拭った。


「あの子は、僕たちがここにいることを知っていると思うか?」


シラスは顔を向けた。


「エデヴェインの少女のことか?」


「ああ」


カラムは少し間を置き、続けた。


「さっき、箒で飛び去るときに後ろを振り返ったんだ」


シラスは眉をひそめた。


「それで?」


「エヴリンは、ほとんど僕たちのことを気にしていなかった。完全に戦いに集中していたよ。でも、エデヴェインの少女は……」


カラムはゆっくりと顔を上げた。


「こっちを向いていたんだ」


シラスは何も言わなかった。


「笑ったままだった。慌ててもいなければ、獲物に逃げられて怒っている様子もなかった」


カラムは友人をまっすぐ見つめた。


「まるで、僕たちがどこへ行くのか、最初から分かっていたみたいだった」


茂みの間を冷たい風が吹き抜けた。


シラスは背筋に冷たいものが走るのを感じた。


あの少女の笑顔。エヴリンと対峙したときの落ち着き。そして、状況がどう変わろうと決して自信を失わないように見えた態度。


何十もの分身を作り出せるだけでも、十分に厄介な相手だ。


その能力を持ちながら、どんな状況でも冷静さを保てるとなれば、なおさら恐ろしい。


「あいつが僕たちの居場所を把握していると思うか?」とカラムが尋ねた。


シラスはエヴァーミアの松林を見つめた。


答えられなかった。


もしエデヴェインの少女が何らかの方法で二人を追跡できるのなら、戦場から離れたところで時間を稼いだだけで、問題を解決したことにはならない。


仮に、単に逃走方向を予測しただけだったとしても、それは彼女の観察力が並外れていることを意味していた。


「分からない」と、シラスはようやく口を開いた。「でも、まずは少し休もう」


カラムはため息をつき、木の幹に背中を預けた。


「フィニアンは無事だと思うか?」


シラスは魔法の箒を見つめた。


「彼女の性格を考えると、フィニアンを簡単に脱落させるとは思えない。あいつは彼女にとって、まだ利用価値があるのかもしれない」


彼は一度言葉を切り、少し困ったような表情を浮かべた。


「それに、彼女がフィニアンに変なことをしていないかどうかは……正直、分からない」


カラムはすぐさま上半身を起こした。


「もしあいつがフィニアンに何かしたら、僕が代わりになってやる!」


シラスは友人を見た。


カラムは胸に手を当て、非常に真剣な表情を浮かべていた。


「だって、僕は友達思いだからね。僕たちの友情は何よりも大切なんだ!」


シラスは数秒間、彼を見つめた。


そして、目を細めた。


「そんなに真面目なふりをするな。何を考えているのか、分かっているぞ」


カラムは瞬きをした。


「……何のことだ?」


「敵に対してさえ、よからぬことを考えているだろ。もうお手上げだ」


カラムは笑い出した。もはや隠そうともしない。


「まあまあ! あの子は本当に美人だったんだから!」


シラスは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


「またそれか」


「髪の結び方が結構好きなんだ。きちんとまとめているのに、ちゃんと個性もある。それに、あの黒いストッキングも……」


「もういい!」


シラスは勢いよく立ち上がり、乾いた符を手に取った。


「俺は迷踪符を確認してくる。これ以上一言でも喋ったら、お前一人でフィニアンを探しに行かせるからな!」


カラムは腹を抱えて笑った。


「分かった、分かった! もう何も言わないよ!」


シラスは振り返ることなく歩き出した。


だが、茂みに近づいたところで、背後からカラムのつぶやきが聞こえてきた。


「……それにしても、本当に美人だったな」


シラスは拳を強く握りしめた。


次は、あいつだけ箒から落としてやった方がいいかもしれない。


スカイシャドウ湖の上では、夕暮れの光が少しずつ薄れていった。水面には小さな波紋が広がり、巨大な松の木々が影へと沈んでいく様子を映し出していた。


少し離れた場所では、エヴァーミアの松林が、まるで何事もなかったかのように静まり返っている。


だが、シラスには分かっていた。


この静寂が長く続くことはない。


二人は戦場から離れた。


束の間の休息も手に入れた。


しかし、フィニアンはまだあの場所にいる。


そして、エデヴェインから来た少女は、今も森のどこかで微笑んでいるのだった。


第13章・完

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