第2話
従者の一人が皇子を探し回っているところを見つけると、皇子は「おーい」と声をかける。従者はこちらを見て、安堵したような顔をした。
「ああ、あなたが皇子を。ありがとうございます」
「いや、違うんです」
私は拾われたんです。と、言うと、従者はぽかんとした。しかし、皇子がすぐに「拾ったんだ」と言った。
「この子を僕の侍女にするんだ」
「皇子、この方にはこの方の人生があります。そうむやみに拾う、なんてことしてはいけません」
しっかりと注意をうける皇子に、私は思わず笑いそうになった。
やはり皇子と言え、まだ子供。ちゃんと注意してくれる従者がいるだけいいところなのだろう。
「でも、蓮華もいいって」
「蓮華? ああ、お嬢様のお名前ですね。蓮華さま、本当によろしいのでしょうか」
「はい。ああ、でも、住み込みですよね? 今住んでいるところから荷物をまとめてこなければいけませんが」
「……本当によろしいのですか?」
「はい。でも、その、そちらは困りますよね」
「いいえ。実は……この皇子は好き嫌いが激しく、今までの侍女をやめさせてしまうことが多くありまして……できれば、皇子が気に入ったあなた様をぜひ、侍女にしたいと思っております」
「ああ、本当ですか。それなら、ぜひ」
「では、1週間後、改めてお伺いしますので、今日は家におかえりください。皇子もそれでいいですね。お嬢様も荷物をまとめなければいけませんから」
「うん。でも、1週間後に来なかったらまた探しにいくよ」
「探す必要はありません。必ず迎えに行きます。迎えに行くとき、皇子にも同行してもらいましょう」
「やったあ!」と無邪気に喜ぶ皇子を見ていると、自然と笑みがこぼれる。
「では、他のものに家まで送り届けますので、皇子と私はこれで」
「私は一人で帰れますから大丈夫ですよ。ありがとうございます。それでは、1週間後に」
「お姉ちゃんばいばい」
「うん、ばいばい」
そう言って手を振って私は借りている宿へと向かった。
正直、宿を間借りして住んでいるので、荷物は散らばっていないし、すぐ出る準備はできている。1週間も猶予をもらったのは有難いけれど、それほどいらないと内心思っていた。
しかし、宿の主人はきっと悲しむだろう。私のことを実の娘かと勘違いしてしまいそうになるほどかわいがってくれたからこそ、寂しがるはずだ。
なんて言おうか。別れの言葉を切り出すのは、どうしても苦手だった。
宿にやってくると、丁度受付のところに主人がいた。主人は老婆の姿をしている。私は意を決して「ただいま」と言った。
「おかえりなさい」
「あのね、仕事が見つかったんだ。それで、住み込みで働けることになったから、ここを出ていくことになった」
「そうかい……寂しくなるね。でも、どこで勤めるんだい?」
「実を言うと……」と言って、受付の向こう側に身を乗り出して老婆に耳打ちした。
「すごいじゃないか! 大出世だよ! お祝いしないと!」
「いいよ、いいよ。気持ちだけでうれしいから」
「ダメだ。明日はお祝いだよ。あ、いつ行くんだ?」
「1週間後」
「明日はお祝い。分かった?」
問答言わせない圧力に負け、私はこくりと頷いた。
そこまで言うなら、言葉に甘えるしかないのだ。
そして、また次会える時が来るまでに、たくさんの思い出を作っておこう。
私は主人に「ありがとう」と伝えた。




