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ある世界のおとぎ話  作者: 北沖
カイ・メイソン・ロゴノワ

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稲妻の憂鬱 2

「カイ様ぁ、王女様ってちゃんと王族してるんですか? なんか、しょっちゅうカイ様のところに来てません? それに、よくない噂も聞きますしねぇ」


フェリミカに会うため鍛錬場へ向かう道すがら、マドルクがいつもの軽口を叩いた。


この頃は、フェリミカと会うのは鍛錬場と決まっていた。

彼が持ち込む品を試すには、力を抑えられるか確かめるため、雷を全力で放出する必要がある。だが、それらは毎回のように破損する。そんなことを室内で続ければ危険でしかない。

そのため、自然と鍛錬場で行うようになった。何度も移動するのも面倒で、いつしか会う場所そのものが鍛錬場に落ち着いていた。


「マドルク、いい加減にしろ。不敬だぞ。しかも殿下の御前で、姉君であらせられるエレナ王女殿下を愚弄するとは、何を考えている。お前は正気か」


いつものように、ベルナールがマドルクを厳しく叱りつけた。


「そんなにカッカしないでくださいよ。俺たちの仲じゃないですかぁ。――それに、ベルナール様だって思うところはあるんじゃないですか。王城へ行くとぉ――」


「いい加減にしろ!」


今度はパトリックが怒鳴りつけた。

というより、マドルクの言葉を遮ったようにも見えた。


「ひぇぇ、モルディス兄弟は怖いなぁ。カイ様が二人を甘やかしすぎなんじゃないですか? ……って、あーあ、また無視ですか。俺、傷ついちゃいますよ」


マドルクの軽口など、いちいち相手にするだけ無駄だ。付き合えば疲れる。

だいたい、なぜ今のやり取りで、僕があの二人を甘やかしているという話になるのか、カイにはさっぱり理解できなかった。


けれど、姉様にまつわるよくない噂については、思い当たる節がある。

おそらくは、次期国王として担うべき実務のことだ。


この国において、王位継承とは単なる即位ではない。霊人となることそのものを指す。

現国王は、始祖より代々受け継がれてきた力を継承することで、人の身から霊人へと変わるのだ。


俄かには信じがたい話だが、現に父様は29歳で王位を継ぎ、そこから23年を経た今なお、その姿をほとんど変えていないという。

だからこそ父様は、姉様が20いや30歳と過ぎるまでは、継承を行わないと決めているらしかった。


だが、それまで気ままに過ごしていてよいはずがない。

次期国王として担うべき実務は山ほどある。力を御する訓練も、そのひとつだった。


それにもかかわらず、姉様はその大半を果たしていない。


もともと姉様は、周囲の言葉に従順な性格ではなかった。とはいえ、以前は次期継承者として相応の振る舞いはしていた。

だが、あの引きこもり騒動以降、少し怠けたところで誰も強く咎めはしないと知ってしまったのだろう。近頃では、実務はもちろん、力の制御訓練すら行わず、好きなように遊んで暮らしているらしい。


父様もそのことは把握しているはずだ。

もとより姉様には甘い方だったが、あの騒動ののちは、唯一の継承者に再び引きこもられてはならないと、強く出られずにいる。


そのため、姉様が担うべき実務のほとんどは、弟である僕のところへ回ってきていた。


もともと、姉様が国王になられたあかつきには、そばで支えるつもりだった。だから、それ自体を苦に思ったことはない。


まぁ、マドルクの口にした姉様のよくない噂というのは、結局こういうことなのだろう。


考えた途端、カイはひどく気疲れを覚えた。


「殿下! お久しぶりです!」


先に鍛錬場で待っていたフェリミカは、カイの姿を認めると駆け寄ってきた。


その様子に、ふと小さな違和感が胸をかすめる。

だが、カイは気のせいだろうと深く考えなかった。


「久しいな。また、がらくたを持ってきたのか?」


「また殿下は、そのような意地の悪いことを。ですが、今回は少し違いますよ。さあ、どうぞ」


フェリミカは胡散臭い笑みを浮かべ、指輪を差し出した。


カイは慣れた手つきでそれを指にはめ、力を流し込む。

ベルナールとパトリックには、いつものように距離を取ってもらっていた。


今回も、どうせすぐ壊れる。そう思っていた。

けれど次の瞬間、何かがおかしいと気づく。力が外へ抜けていかず、指輪に押し留められているような、不快な感覚があった。


気味の悪さに眉をひそめながら、さらに力を強める。

指輪はかすかに粘るような抵抗を見せたが、やがて耐えきれず、いつものように砕けた。


「これでも駄目でしたか……。ふふ、さすがは殿下の雷ですな。

ですが、今回ので糸口は掴めました。次こそは、ご希望のものを用意してみせましょう」


フェリミカが向けていたのは、いつもの胡散臭い笑みではなかった。

初めて会った時に見せた、あの高揚に満ちた笑顔だった。


「フェリミカ様、またですか? もう、本当に次こそはちゃんとしたものを持ってきてくれるんですか?」


「マドルク、待たせてすまない。だが、次こそは大丈夫だ。ふふ、期待していてくれ」


この二人を見ていると、何というか、親子のようだとカイは思う。

エルフであるマドルクの方が、おそらくフェリミカよりよほど年上なのだろうが、不思議と息子のように見えるのはなぜだろ。


まあ、そんなことはどうでもいいか。


ベルナールとパトリックが離れた隙を見計らって、カイは先ほど遮られた話をマドルクに問いただした。


「先ほど、パトリックが遮った話だ。ベルナールが王城へ行くと、何だという」


「あー……いや、その……これ、話しても俺、あとで怒られたりしません?」


先ほどまで好き放題に喋っていた男とは思えない口ぶりだった。

カイは怪訝に思ったが、ひとまず小さく頷いて先を促した。


「いや、だってカイ様って、王女様が好き勝手していられるように、王様にうまく使われてるじゃないですか。で、そのカイ様のお付きがベルナール様でしょう? そりゃあ王城じゃ、みんなベルナール様を軽く見ますよ。都合のいい仕事は押しつけるし、ベルナール様だって、カイ様の立場があるから強くは出られないし……って、あれ。……まさか、本当に知らなかったんですか?」


マドルクはいつもの調子でへらへら笑いながら、ひどく無造作に言ってのけた。

けれど、カイが何も言わずにいると、さすがにまずいことを口にしたと気づいたのか、目に見えてばつの悪そうな顔をした。


「って、カイ様! バチバチしてる! 稲妻、漏れてますよ!」


マドルクの声に、カイははっと我に返った。


「もう、気をつけてくださいよ。またベルナール様が心配するじゃないですか」


「あ……ああ」


それだけ答えるのが精一杯だった。

カイは二人に背を向け、その場をあとにする。心配そうなベルナールとパトリックが、そのあとを追った。



「おいおい。刺激しすぎじゃないか?」


いつものようにフェリミカを見送る体で離宮を出たマドルクに、フェリミカがわずかに怪訝そうな目を向ける。


「デニス様は、まだまだ、わかってないですねー」


「フェリミカ、だ。うっかりぼろが出るとまずいからな」


「はいはい。フェリミカ様、ですね。

あの王子様、自分のことはどうでもいいみたいなんですよ。諦めちゃってるのかな?

ご自身のことで揺さぶっても、まるで堪えない。けれど、身内のことになると、どうにも我慢が利かないみたいなんです。特にベルナール様のこととなると……ふふ。それが姉ではないというのだから、傑作ですよね」


先ほどのカイの表情を思い返しているのか、マドルクは口元に底意地の悪い笑みを浮かべた。


「ふむ。それなら、計画はおおむね順調だな。お前を離宮にやったのは正解だった。今回のコレで、ようやく糸口が掴めた。

だが、それを確かなものにするには、少し時間がかかりそうだ。すまんが、それまで引き続き揺さぶってくれ」


フェリミカは、先ほどカイが砕いた指輪をしげしげと見つめていたが、やがて顔を上げてマドルクを見た。


「別に構いませんよ。今回のかなり良かったじゃないですか?

もしかして、それのせいでフェリミカ様の中身、何か妙な具合になってたりするんですか?」


「やはり、お前も気づいたか。あの王子も勘づいてはいるようだが、まあ問題あるまい。

ああ、実に楽しみだ。うまく運べば、王子の雷だけではない。王女の炎まで手に入る」


「本当ですか!いやあ、それは楽しみですね!俺、そのためならいくらでも頑張れますよ」


デニスは愉快げに口元をゆがめ、砕けた指輪をそっと握り込んだ。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

更新遅れてすみません。

これからもよろしくお願いいたします。

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