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ある世界のおとぎ話  作者: 北沖
カイ・メイソン・ロゴノワ

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商人

夫人から紹介されたのは、ミキラオから来た商人だった。

フェリミカと名乗る男は、加護の力に関する品を商っているという。

いかにも商人らしい、人当たりのよさそうな笑みを浮かべていた。ロゴノワ出身らしく、茶色の髪と瞳を持つ、これといって目立つところのない中年男だった。


「初めまして、カイ王子殿下。このような商人にお目通りの機会を賜り、恐れ入ります。加護に関する品にご興味がおありとうかがい、いくつかお持ちいたしました」


ロゴノワではカビス様の火の加護を授かるように、ミキラオではミズメ様の水の加護を授かる。

だがミキラオでは、獣人が水以外の加護を授かることも多いらしい。

そのような話は聞いたことがなかったが、ミキラオは獣人を国の外へ出したがらない。こちらが知らないだけで、獣人のあいだでは常識なのかもしれなかった。

そうした加護を授かった者が力を制御するための魔導具が、ミキラオでは発展してきたのだという。


色々と品があった。

腕輪や指輪のように身につけるものもあれば、札のようなものや置物もある。


フェリミカはそれらを一つひとつ説明し、ときには自ら実演してみせた。

それを見て一気に興味を引かれた。


正直、力を制御する品にはあまり惹かれなかった。

それよりも、この力そのものを出したくない。封じ込めてしまえる品が欲しかったのだ。


その思いを伝えると、フェリミカは一瞬だけ目を見開いた。

だが、すぐに商人らしい笑みに戻り、いくつかの品を紹介してくれた。


早速試してみようと手を伸ばしかけたところで、パトリックに制された。

「殿下。まずは私が試してもよろしいでしょうか」


そうか、むやみに手を出すものではなかったのか。

あとでベルナールに小言を言われそうだと思い、そっと彼のほうを見る。表情は変わらない。だが、あれは怒っているのだとすぐにわかった。


夫人までが、何がそんなに嬉しいのか、にこにこと笑いながら言った。

「そうですよ、殿下。まずは息子たちに試してくださいませ」

恥ずかしくはあったが、私はおとなしくそれに従うことにした。


パトリックが紹介された品を一通り試したところ、加護は本当に封じられていた。

モルディス公爵家の中でもとりわけ力の強いパトリックが、炎をまったく出せなくなったのだ。


これには、フェリミカを除くその場の全員が驚きを隠せなかった。


「これはすごいですね。本当に炎が出せません。こんなことは、加護を授かって以来初めてです」


驚きを隠さないパトリックの表情を見て、胸に湧いた期待を抑えることができなかった。

次は自分の番だと、私は早速、目についた指輪に手を伸ばす。


いつも力を抑え込むときとは逆に、今度は雷を外へ放つようなイメージを向けた。


バチッ、バチ、バチチッ――パキッ。


次の瞬間、指輪は台座ごと砕け、壊れた欠片が足元へ落ちた。


一瞬、その場の誰もが呆気に取られ、声を失った。

重たい静寂が落ちる。

それを打ち破ったのは、場違いなほど大きな拍手だった。


「素晴らしい加護です。なんと見事なお力でしょう。これぞまさしく神の御業。殿下はこのうえなく尊い加護をお授かりになったのですね」


フェリミカは興奮を抑えきれぬらしく、頬を紅潮させ、甲高い声と鳴りやまぬ拍手で歓喜をあらわにしていた。


「この無礼者が!お前ごときの賛美など不要だ!殿下に粗悪な品を差し出すとは、貴様、万死に値するぞ!」


いつもは冷静なベルナールが、激しい怒気を隠そうともせず、今にも掴みかからんばかりの勢いでフェリミカを怒鳴りつけた。


その声に、はっと我に返った。

「ベルナール、大丈夫だ。私は何ともない。

私のために怒ってくれたのだね。ありがとう。


フェリミカ、と申したか。これはどういうことだ」


フェリミカも冷静さを取り戻したのか、初めに見せた商人らしい態度に戻っていた。


「これは殿下、誠に失礼いたしました。お見苦しいところをお見せしましたこと、どうかお許しください。

破損したのは、殿下の加護があまりにも強大であったためにございます。王族の方々が、血の継承により我らよりもはるかに強い加護を授かることは、広く知られております。そして、その力を抑え、制するためにこそ、先ほどの品がございます。

ですが、ご覧のとおりでございます。

殿下は、その品の及ぶ力さえ超えておいでだということです」


フェリミカは、もはや一介の商人とは思えぬほど、まっすぐに、そして堂々と僕に告げた。


「試しに、こちらもお使いになってみてください。おそらく、同じ結果になるかと」


フェリミカは己の言を裏づけたいのではなく、ただもう一度、僕の力が現れるところを見たがっているようだった。


「いや、よい。同じことになるのなら無意味だ。それより、私の力を抑えられる品はないということか」


「左様でございますか……。

お持ちした品が、殿下のお役に立てず、まことに申し訳ございません」


口では悔やむように言いながらも、その残念そうな色は、品が役に立たなかったためというより、僕が試みを断ったことへ向けられているように見えた。


「ですが、殿下。魔導具では叶わずとも、魔法の力を宿す魔法具であれば、あるいは殿下のお望みに添えるやもしれません。その品には心当たりがございます。今しばらくのお時間を賜ることにはなりますが、必ずやお持ちいたします。どうか、その役目を私にお命じいただけませんでしょうか」


落胆していた僕は、フェリミカの思いがけない申し出に、思わずその顔を見返した。


だが、どうにもこの男は信用できない。どうしたものかと思案していると、夫人に続き、パトリック、さらにはベルナールまでもが、肯定的な意見を口にした。


「殿下。せっかくの申し出です。お命じになってみてはいかがでしょう」


「ええ。母のおっしゃるとおりです。持って参った品をご覧になってから、お決めになればよいのですから」


「私も、母と兄のご意見に賛成です。この無礼者に、一度機会をお与えになってはいかがでしょう」


信頼している三人にそう言われては、疑わしく思いながらも、この男の申し出に乗ってみようかという気にさせられた。


「では、フェリミカ。その品、用意してみせよ」




フェリミカは、王都をひとり歩いていた。

人通りの少ない脇道へ入ると、モルディス公爵家の追手二人を幻術で惑わす。

「デニス様。どうでしたか?」

ロゴノワでは珍しいエルフの男が、どこからともなく姿を現した。

悪戯を思いついた子どものような、無邪気で底意地の悪い笑みを浮かべて、そう尋ねる。


「マドルクか。次からはお前も同行させることになる。状況は把握しておけ。あの王子には私の幻術は効かない。だが、周囲の者には問題なく通じている。その点は心配いらん。王子は側近たちを信用しきっているからな…」

「違いますよ!そんな話じゃなくて!噂の雷です!どうだったんです?」


マドルクは、そんなことには興味がないと言わんばかりにデニスの説明を遮り、自分の知りたいことだけを尋ねた。


デニスは、マドルクとよく似た、底意地の悪い笑みを口元に浮かべた。

いや、似ているのではない。あの笑みは、もともとデニスのものだったのかもしれない。


その表情を見て、マドルクは愉快そうに目を細める。

「早くお聞かせください」と、先を促した。


「あの王子は予想以上だったよ。いや、私のような凡俗の物差しで測っていい力ではない。初めは王女の炎に心を惹かれた。だが、あの稲妻を目にした瞬間、そんなものはどうでもよくなった。あれを手に入れなければならない。ああ、今すぐにでも、あれを私のものにしたい」


デニスは心ここにあらずといった高揚した顔で、その想いを口にする。

まるで恋に落ちた者の告白だった。


だが、その顔は、離宮にいた茶色の髪と瞳の中年男のものではない。

そこにあったのは、深い黄金の髪と、濃い茶の切れ長の瞳を持つ男の顔だった。


「ちょと、デニス様。顔、戻ってますよ」


呆れたように、マドルクは主人へ声をかけた。


「おっと、すまない。つい興奮してしまった。

いや、しかしな。私の手持ちの品では、まるで太刀打ちできなかったのだよ。ああ、今すぐにでも王子を手に入れたい。こんな気持ちは、あの愛しい甥以来だよ」


そう言いながら、デニスは自分の顔を両手でもみほぐす。

すると、そこには再び、離宮にいたあの中年男の顔があった。


「さあ、こうしてはおれん。すぐに動くぞ。ほら、マドルク、行くぞ」


そう言い捨てると、デニス――いや、フェリミカは、エルフの男を伴ってその場から姿を消した。

読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

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