町での様子
カリンさんの薬は、教会とギルドに売りに行く。
薬を作る薬師は、ふつう自分の店で、自分の作った薬を販売する。教会やギルドにもいくらかは卸すが、あくまで自店での販売が中心だ。 だからこそ、教会やギルドにとっては、カリンのように、定期的に安定した量を卸してくれる存在はとてもありがたいのである。
今日もいつものように教会への納品を終えたとき、フリージアは前から気になっていたことを尋ねてみた。
ちなみにレオンは、教会に併設された孤児院の子どもたちに、すっかりオモチャにされている。
「最近、ケガをしている人が多い気がするんですが……町の人が言っていた『内戦』のせいなんですか?」
教会の神職であるメイは、少し悲しそうな表情を浮かべて答えてくれた。
「フリージアさんは、町をよく見ていますね。この国のことは、前にお話ししましたよね?」
フリージアは、無言でうなずいた。
ここはルシエナ島にある四つの国のうちの一つ、ロゴノワ王国。
王都から少し離れた、ルドルフという町である。
「現在の国王様に対して、王太子殿下が謀反を起こしたんです。あっ、んー、なんというか……国王様に『王子様と代わってください!』って、戦いを挑んだんです。それに賛同する方と、国王様をお守りする方も大勢いて……内戦になったんです。そのケガをした方たちは、もう戦えないから、お家に帰ってきた人たちなんですよ」
メイは、子どものフリージアにも分かりやすいように、丁寧に話してくれる。いつも誤魔化したり、面倒くさがったりせずに向き合ってくれるので、フリージアはメイのことが大好きだ。
「そうなんですね。でも、王太子殿下は国王様の息子ですよね? そんなことをしなくても、いずれは国王様になれたんじゃないんですか?」
メイは驚いたように目を見開き、それから、少し困ったような、どこか悲しげな笑みを浮かべて答えた。
「フリージアさんは聡明ですね。王太子殿下には、次期国王になることを約束されたお姉様がいらっしゃるんです。とても大きな火の力を操れる、エレナ王女様という方が。
ただ、そのエレナ様が行方不明になってしまいまして……。国王様は今も、エレナ様がご存命だと信じておられるのですが、数か月たっても見つからず、国政もおろそかになってしまい……。
そこで痺れを切らしたカイ王太子殿下が、謀反を起こしたのだと言われているのです」
メイは「あまり他の人には話してはいけませんよ」と、小声でそっと教えてくれた。
フリージアは町からの帰り道、レオンに話しかけるでもなく、独り言のようにぽつりとつぶやいた。
「親子喧嘩に国民を巻き込むなんて、あんまりだわ……」
八百屋の店先では、息子さんが女将さんの用意した椅子に、無気力そうに腰かけていた。
「外に出てルクシアーナ様の光を浴びないと、元気になれないからね!」
と、女将さんは無理ににかっと笑ってみせた。
息子さんの片足の膝から下には、棒のような義足がついている。
その光景と、メイの話が、フリージアの頭から離れなかった。
ふっと目線を上げると、森の入り口にある石の鳥居の上に、いつもの大きな烏がとまっていた。
――私、昔あの子に会ったことがある気がするな。




