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ある世界のおとぎ話  作者: 北沖
カイ・メイソン・ロゴノワ

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ベルナールの変化

陛下の対応は、驚くほど迅速だった。

カイ殿下の祝福の儀が終わるや否や、殿下に何ひとつ咎められることなどないが、自室での謹慎を命じられた。

さらにその一週間後には、王城から遠く離れた離宮が殿下の住まいとして定められた。

授かった加護を御し、雷を操れるようになるまで、王城へ赴くことも、エレナ王女殿下との面会も禁じられた。


それはもはや、罪人に命じられる蟄居と変わらなかった。



あの祝福の儀から、まもなく二年が過ぎようとしていた。


「殿下。おはようございます」


部屋へ入ると、カイ殿下はすでに支度を済ませ、眠たげな表情のまま窓の外を見つめていた。


「ああ。おはよう、ベルナール」


そう返して、こちらを見た殿下は、ぎこちなく口元だけをほころばせる。


あの頃よりは、だいぶましになった。

ベルナールは胸の内で、静かにひと息ついた。


この離宮に来たばかりの頃、殿下が受け入れたのは私だけだった。

もっとも、殿下の雷を恐れて、誰ひとりとして近寄ろうとはしなかったのだが…。



メイドも教師も近づきたがらなかった。

そのため、身の回りの世話から授業に至るまで、すべてベルナールが担っていた。


カイがベルナールに協力的だったこともあり、どうにか暮らしは回っていた。

だが、傍目には、離宮で10歳の王族と16歳の貴族の少年が、たった二人で生活しているようにしか見えない。

異常というほかなかった。


当初、皆はカイを恐れ、遠巻きにしていた。

だが次第に、人々の目は、幼い王子とその王子を献身的に支える従者へと向かっていった。そこに宿ったのは、畏れではなく同情だった。


決定的だったのは、何もかも一人で担っていたベルナールが倒れたことだ。

王城から届けられた食事を受け取る折、ベルナールはその場に崩れ落ちた。


とりわけ三男のベルナールを可愛がっていたマリー夫人は、その報せを聞くや王城へ乗り込もうとしたという。だが、夫であるモルディス公爵と長男ゲイルが、どうにかそれを押しとどめたらしい。


この一件はたちまち社交界に広がり、さらに貴族に仕える者たちのあいだを巡って、やがて平民の耳にまで届いた。


当然のように、陛下とエレナ王女へ向けられる非難もまた、静かに、けれど確実に広がっていった。

そしてその非難は、皮肉にも、カイとベルナールをいっそう哀れな被害者として人々の目に焼きつけることになった。


それ以後、陛下のご意向という名目のもと、モルディス公爵夫人を筆頭として、カイ殿下の身の回りの世話を担う者と教師陣の補充が進められた。

それにより、二人の生活は目に見えて改善された。


加えて、殿下に同情的な公爵夫人は定期的に離宮へ足を運び、親身に世話を焼くようになった。

そのため殿下は、いつしかモルディス公爵家を後ろ盾とする立場となっていた。


離宮に勤める者たちの多くは、殿下とベルナールに深く心を寄せていた。

そもそも人選の段階で、公爵夫人はカイ殿下に同情的であり、なおかつ息子ベルナールを殊のほか可愛がっていたため、二人に対して格別に献身的な者たちが集められていた。


加えて、殿下はベルナールとの生活をともにした時期があったぶん、幼いながらも生活のこまごまとしたことをよく心得ていた。

新たに仕える者たちに対しても、殿下は日々ぎこちないながらも素直に感謝を示し、王族の身でありながら礼を欠くことがなかった。


そうして殿下は離宮の者たちの人気を集めていった。

そして、その殿下が最も信頼するベルナールに尊敬が集まるのは、むしろ当然の成り行きであった。


ベルナールは、ふとこれまでのことを思い返していた。

離宮の者たちに囲まれるうち、殿下は少しずつ笑顔を取り戻しつつあった。


ただ、陛下より課されたご自身の加護の習得については、難航していた。

これまで雷の加護を授かった者はおらず、手探りで進めるほかなかったのである。


あの日、式に列席しておられたイフタリマ国王陛下は、殿下のことを気にかけてくださっていた。

そして折に触れては、イフタリマへの留学をお勧めくださっていた。


カイ殿下は、ご自身の加護が周囲を傷つけることを恐れておられる。

ご自身の存在そのものが禍なのではないかと、誰よりもご自身を恐れておいでなのだ。


その恐れを克服するには、イフタリマで力の制御を学ぶため、数年ほど留学なさるのがよいのだろう。

あの国は加護を御する術に長けている。現に、暴走しかけたカイ殿下の力を難なく抑え込んでみせた。


そう考えれば、何ひとつ対処できなかったロゴノワに留まるより、イフタリマで学ばれるほうが、よほど望ましいはずだった。


だが、ロゴノワ国王陛下がそれをお許しになることはない。

ベルナールは小さく息をついた。


不敬であることは承知している。

それでもベルナールには、陛下がご自分の息子を目の届かぬ場所へ追いやり、他国の王族と関わることすら禁じているようにしか思えなかった。

それは愚策としか言いようのないものだった。


「ベルナール、どうした? また無理をしているんじゃないのか?」


カイは眉間に皺を寄せたまま黙り込んでいた従者に駆け寄り、案じるように声をかけた。


ベルナールは、何でもないというようにかぶりを振ると、眼鏡をぐいと押し上げる。

「ご心配をおかけして申し訳ございません。体調は万全です。このあと殿下が真面目に授業へ取り組んでくださるのであれば、さらに良くなりそうですが」


カイは頬をふくらませ、唇を尖らせた。そんな子どもっぽい仕草を見せるのは、ベルナールの前だけだった。


「はいはい、わかったよ。今日は歴史だろう? あれは眠くなるんだ」


ベルナールは苦笑を浮かべ、それでもきちんとたしなめる。


「殿下。お返事は一度で十分です。それと、大したことではないのですが、また母が伺うようです。にぎやかな人ですから、ご迷惑であればお断りいたしますが」


「本当か。夫人に会うのは好きだ。楽しいし、それを聞いたら授業も頑張れそうだな」


「それは何よりです。では、そのように伝えておきます」


無邪気な笑顔につられるように、ベルナールの口元もやわらいだ。

その笑顔を引き出せたことに、思いのほか胸を撫で下ろしている自分を、ベルナールはまだ認めたくなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

更新遅くなり申し訳ございません。

これからもよろしくお願いします。

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