悲劇の王子さま 2
姉様の祝福の儀は、どうだったのだろう。
火の加護は無事に授かっただろうか。何か怖いことは起きていないだろうか。父様は優しくしてくださっただろうか。
カイは祝宴会場の近くにある王族の控室で、ソファに座っていた。落ち着かない様子で足を揺らしながら、ポケットの中のものをそっと撫でている。
カイは、国王から祝福の儀への参列を許されなかった。
理由は、教えてもらえなかった。
どうせ母様の死と関係があるのだろうと、ぼんやり考えていた。
姉様の儀式に参列できないのは悲しかった。けれどそれ以上に、もし自分のせいで神聖な儀式に悪い影響が出たらと思うと、不安で何も言えなかった。
姉様は父様に怒ってくれた。
それでもカイは、どうしても自分のせいでと怖くなり、姉様にもこれでいいのだと言った。
けれど、そのとき姉様が泣きそうな顔をしていたことが、ずっと気にかかっていた。
王族の祝福の儀は、通常とは異なり、参列を許される者もごく限られている。
その儀は王城内の儀式の間にて執り行われ、立ち入ることを許されるのは、王族と神職者、そしてわずかな側近のみである。
だが、それが一国の後継者のための儀式であるならば、各国の王族が列席することもある。
「カイ、聞いて! 私、全身が燃え上がったみたいだったのよ。近年まれに見るほどの加護を授かったんですって。イフタリマ国王陛下にも褒めていただけたわ」
控室の扉を勢いよく開けて、満面の笑みを浮かべたエレナが駆け寄ってくる。
その後ろから、コリンナや供の者たちが慌てて追いかけてきた。
このあとの祝宴のためだろう。姉様は、いつにも増して美しかった。
いつもは下ろしている深い真紅の髪を、今日は高くまとめている。
白のふんわりとしたドレスには、桃色のレースとリボンがあしらわれていて、驚くほどよく似合っていた。
カイはポケットの中の贈り物に、急に自信が持てなくなった。
そのせいで、返事が一瞬遅れる。
返事をしようとした瞬間、扉の向こうから響いた声が、カイの言葉を喉の奥に押し戻した。
「エレナ。お前も10歳になったのだ。もう少し落ち着きを持ちなさい。だが、見事な儀式だった。今日だけは大目に見てやろう」
開け放たれた扉の先から、優しい笑顔の父ミゲルがゆっくり姿を現す。
その視線はエレナに向けられているのに、カイはそれだけで身を固くした。
ミゲルはエレナの肩に手を置き、目を細める。
「今日は、いつにも増して愛らしいな」
「ありがとうございます」と、姉様は照れながら礼を言った。
そのとき父ミゲルが、ほんのわずかに自分へ目を向けた気がした。
カイはソファから立ち上がり、父たちのもとへ駆け寄る。
だが父は何も言わず、ただ小さく頷いただけだった。
「では、行こうか。皆、お前を祝いたがっている」
父に促され、一行は会場へ向かった。
そのあともカイは、会場を後にするまで一言も声を発することはなかった。
かなり大規模な宴だった。
ベルナールは会場に足を踏み入れた瞬間、他国からの来賓や居並ぶ貴族たちの多さに圧倒される。
王女に近づく機会をうかがってはいたが、これでは難しい。
ベルナールは遠くから、半ば諦めたようにエレナ王女を見やった。
本来なら、その傍らに控えているのは見目麗しい騎士であってもおかしくない。
だがエレナについているのは、華やかな場にはやや不釣り合いな、屈強な護衛騎士が二人だった。
国王の命によるものだろうか。
同年代の男たちが話しかけようとしても、二人は一定の距離より内側へ入れまいとするように、さりげなく進路を塞いでいる。
これは父上が言っていたのも頷ける。
あんな面倒な相手は、関わらないに限る。
ベルナールはふと、王族席に座る一人の少年に気づいた。
あれが、噂の悲劇の王子さまか。
ああして俯いている姿は、とても王族には見えない。滑稽ですらある。
ちょうど国王がカイ王子に何かを告げる。
次の瞬間、カイは怯えたように肩をこわばらせ、そのまま会場を辞していった。
蔑ろにされているという話は、本当だったのだな。
これほど国内外の有力者が集う場で、王子にあのような態度を取るとは。
付け入る隙を、自ら衆目に晒しているようなものではないか。
あまりにも愚かだ。
ベルナールは、口元だけで歪に笑いながら、その光景を見つめていた。
「父上。先ほど席を立たれたのは、カイ王子殿下でしたか。従者も伴わずお一人とは、ずいぶん不用心に思えますが」
ベルナールは、さも案じているような口ぶりで父の反応をうかがった。
「ああ。護衛がついているなら、ひとまず問題はあるまい。大きな声では言えんが、陛下があの調子ではな。殿下の従者になど、誰も進んでなりたがらん。……しかも当の陛下が、そのことを気にかけておられるようにも見えん」
父グレルは苦いものでも噛んだような顔で、ベルナールにだけ聞こえる低さでそう言った。
「そうなのですね……」
ベルナールはひどく案じているような顔をつくり、静かに父へ向き直った。
「父上、どうかお聞きください。お話ししたいことがあります……」
話し始めると、父は難しい顔を崩さなかった。
だが隣の母は、目元ににじんだ涙をそっと拭いながら、ベルナールをうなずくように見つめていた。
ベルナールの中ではもう決まっていた。
あの哀れな幼き王子に、私が手を差し伸べるべきだと。
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