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ある世界のおとぎ話  作者: 北沖
祝福の儀

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祝福の儀3

フリージアとロネス、レオンは、教会の椅子に座るナオヒを見つけて足を止めた。

膝に抱かれた狐があまりにもふわふわで愛らしく、三人とも目を奪われる。

ナオヒがなぜここにいるのかという疑問さえ、狐の可愛さの前では後回しだった。


「よお。あれ、ロネスには弟がいるんだろ。一緒じゃないのか?……って、どうした?」

ナオヒは挨拶もほどほどに、こちらを見たまま動かないフリージアたちへ声をかけた。


「ロンは来たがってたんですが、まだ小さいので留守番です。………それより、その狐は?」

ロネスはナオヒを見ようともせず、狐から目を離さないまま答えた。


「そうよ、そうよ。どうしたの!?この可愛い子。昨日はいなかったじゃない。私も抱っこしたいわ」

フリージアは目を潤ませ、頬を赤くして狐を見つめていた。

その横で、レオンが少しむっとした顔になり、飛びつこうとするフリージアの服をくいと引っ張った。


「ほほう。この手があったか」

ナオヒがそうつぶやくと、狐はぎょっとしたように身をこわばらせた。

けれど

「こいつはアサヒっていうんだ。俺の可愛い子だよ」

と言われた瞬間、アサヒはたちまち上機嫌になる。


その様子を見ていたロネスは、たまらず尋ねた。

「アサヒも人の言葉がわかるんですね。触ってもいいですか」


「ああ。乱暴にするなよ」

フリージアとロネスはうなずき合い、そっとアサヒに手を伸ばした。

ふわりとした毛並みに触れた途端、二人の目がぱっと輝く。


そんな二人のもとへ、メイがやって来た。

楽しげに目を細めたメイは、くすくすと笑う。

「皆さん、おはようございます。もうアサヒの可愛さに夢中のようですね」


「おはようございます! はい、可愛いです。メイさんも撫でたんですか?」


フリージアは満面の笑みで答えた。

レオンは面白くなさそうに、「わぐぶく」と何かを言っている。


「ええ。本当に見事な金色の毛並みで、美しいくらいですよね」

「そうですよね」

ロネスも同意したが、フリージアは「あれ?」と首を傾げ、アサヒを見た。


「ん? さっきは白色だったと思ったのに……あれ、金色……気のせいかな?」

「なーに、ぶつぶつ言ってるんだよ?」

ロネスが尋ねると、フリージアは「何でもない」と答えた。


そのやり取りを、ナオヒとアサヒは冷や汗をにじませながら見つめていた。


「では、ロネスさん、参りましょうか」

メイはロネスの目線までしゃがみ込み、やさしく声をかけた。


ロネスは緊張した面持ちのまま、カリンにもらった首飾りを服の上からぎゅっと握りしめる。

「はい……」

そう返事をする声は、かすかに震えていた。

その様子に、レオンは心配そうに鼻先をロネスの腕へすり寄せた。


「大丈夫ですよ。ルクシアーナ様からの祝福です。何も怖いことはありませんよ」

いつものようにやさしく微笑むメイを見て、ロネスは少しだけ緊張がほぐれた気がした。


「ねえ。私たちも一緒に行っていい? ロネスしか入っちゃだめなの?」 フリージアとレオンが、メイのもとへ駆け寄る。


「もちろんですよ。ぜひご一緒してください。ルクシアーナ様とともに、ロネスさんをお祝いしましょう」

メイは嫌な顔ひとつせず、にっこりと微笑みながらフリージアの肩に手を置き、レオンの頭を撫でた。


「ロネス。お前がいいなら、俺たちも一緒に見学してもいいか?」

ナオヒがやさしい表情で尋ねてくる。その顔を見ると、なんだかひどく安心した。


「はい。嬉しいです。ナオさんもアサヒも来てください」


もう、ロネスに不安はなかった。



木の香りがした。

いつもの森の匂いとは違う。どこか眠気を誘うのに、同時に緊張も滲んでくる。気を抜けば呑まれそうなのに、背筋は自然と伸びていた。


通された部屋をロネスがきょろきょろと見回していると、同じように辺りを見回すフリージアが目に入り、ふっとおかしくなる。

いつもの石の教会の奥に、こんな部屋が隠れていたのかと、ロネスは目を丸くした。


扉を開いたときに感じた木の香りは、床も壁も天井も、この部屋のすべてが木で造られているためだった。


部屋の奥には、メイの腰ほどの高さの木の机が置かれている。

机の上には水差しと、白く小さな深めの皿がひとつあった。その傍らには、鈴が三段にいくつも連なった、杖のようなものが置かれている。


机のさらに奥には、一段高くなった場所があり、その上の、目線より少し高い位置に、人の胴ほどの高さの扉が据えられていた。


それもまた木でできており、固く閉ざされている。

扉の前には、壁から棚板が張り出していた。その上には、火の灯った白い蝋燭が左右に一対置かれ、そのあいだに桃と白い丸い団子のような供物、それに白磁の杯が供えられていた


普段はそれを隠すように簾が垂れているのだろう。今は扉が見えるよう、そこまで巻き上げられていた。

その手前、左右の高みに、大きな鈴を三つひと組にした飾りが掲げられている。そこから真っ白な太く長い布が、床につくほど垂れていた。

さらに簾の中央、最上部にも、ひときわ大きな鈴が吊るされていた。


とてもシンプルな部屋なのに、不思議と綺麗だと思った。


「この部屋の木材は、すべて迷いの森の木なんですよ。定期的に補修をしながら、代々受け継がれてきた神聖な部屋なんです。こういう場所って、なんだか緊張してしまいますよね」


メイは、ロネスの緊張を和らげるように、わざと少しおどけた口調で言った。


「私たちの近所の木があるかもね」


フリージアもそう言って話に乗り、ロネスの背中を押した。

「そうだな」

ロネスも応じてメイのもとへ向かい、机の前の椅子に座る。


「では、ロネスさん。始めてもよろしいですか」


メイはいつもの優しい表情のまま、けれど真剣な声でそう言った。

ロネスはただ頷く。

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