祝福の儀1
どういうわけか、ナオヒも一緒に教会へ行くことになった。
「嬢ちゃんたちは、いくつなんだ?」
そんな何気ない問いかけから、会話は始まった。
「フリージアよ。特別に名前を呼んでもいいわ。でも、女性が年齢を気軽に答えると思わないでちょうだい」
「またお前は偉そうに……。俺はロネスです。9歳、いや、もう10歳…に、なった…な」
フリージアの返事にひやひやしながら、ロネスは慌ててナオヒに答えたが、ふと自分が10歳になっていたことに気付いた。
王都から逃げるので必死で、誕生日も忘れていた。
「まあ、そうだったの? ロネス、おめでとう! お祝いしないと。早く教会に行って帰らなくちゃ!打ち合わせが必要ね」
フリージアは嬉しそうに、あれこれと勝手に決めはじめた。
レオンも心なしか足取りが早くなっている。
ロネスはむずがゆいような、照れくさいような気持ちで頬を赤くしていた。
「それはめでたいな。ロネス、おめでとう。ルクシアーナ様の加護があらんことを。……ということは、祝福の儀もまだなのか?」
ナオヒはロネスの頭を撫でながら、祝いの言葉をかけた。
「そうだった。誕生日のことも含めて、すっかり忘れてた」
「じゃあ、このまま教会でしてもらえよ。教会に行くんだろ。俺もついて行ってやるよ」
こうして、ナオヒが同行することになった。
別に、来なくてもいいのに。
ルシエナ島の住民は、10歳になると必ずこの儀式を受ける。教会で無償で執り行われ、ルクシアーナ様の加護を授けられるのだ。
一般的には、その国の加護をごく微量に授かるにとどまる。ほとんどの場合、何かに作用するほどの力はなく、「子どもが健やかに育つように」と願うための慣習となっている。
しかし、稀に強い加護を授かる者がいる。そうした者は、ギルドや国の軍に所属することが多い。
また、王族は民に勝る加護を賜る。それが、そのまま王位継承権にも直結している。
そのため、もし民の中から王族に匹敵する加護を賜る者が現れれば、その者は王位継承権を得ることになる。だが、いまだそのような者は現れていない。それほどまでに、血の継承が大きな意味を持つのだ。
メイは、ナオヒとともにやって来たフリージアたちに驚きながらも、いつも通り薬を受け取った。
「お姉さん、ロネスが10歳になったんだ。まだ祝福の儀を受けていないから、受けさせてくれないか?」
ナオヒは、まるで大したことでもないような調子でメイに言った。
「ナオ様……。皆さんとお知り合いになられたのですね。
ロネスさん、おめでとうございます。
今ちょうど空きがありますので、すぐに行えますよ。
これからなさいますか。それとも、別の日がよろしいですか?」
メイはロネスに目線を合わせ、優しく問いかけた。
ロネスはしばらく視線をさまよわせていたが、やがて小さく頭を下げる。
「すみません。弟のロンに、このことを話してからにします。明日でもいいですか?」
メイは「もちろんですよ」と笑みを浮かべた。
フリージアたちは「また、明日」と手を振ってメイに別れを告げると、足早に家へ向かった。
一緒についてこようとするナオヒに、迷惑だと言わんばかりの勢いでフリージアが噛みつく。
「ナオさん、私たち急いでるの。もう、ついて来ないでよ」
「おいおい、そんな邪険にするなよ。寂しいじゃないか。家まで送っていくよ」
「フリージア、そんな言い方するなよ。ナオさん、ありがとうございます。でも、レオンもいるので大丈夫です」
ロネスはナオヒの返事を待たずに頭を下げると、フリージアたちとともに森へ向かっていった。
「そうか……。気をつけろよ。また明日、教会で待ってるよ」
そう呼びかけたものの、もうその背中はだいぶ遠く、声は届いていないだろうと思えた。
「直毘様。あの先は杜です。どういうことでしょう。あの子らは一体……」
いつの間にか直毘の背後に控えていた旭燈が、困惑した面持ちで問いかける。
「町でレオンたちのことを聞くと、皆、迷いの森に住む魔女のところの子だと、あまりにも当たり前のように口にする。
もっと怯え、疑っていてもおかしくないのに、町の人間は誰もが普通に接している。これは異常だ。違和感しかない。誰かが干渉している」
眉間に皺を寄せた直毘の顔に、笑みはなかった。
旭燈は独り言のように呟く。
「その魔女とは、それにあの狼は、一体なんなのでしょう」
「まあ、魔女についてはおおよそ見当がついている。
あの狼か…………。あれは……人間だ」




