怪しい男
フリージアは薬の納品に教会を訪れ、メイへ家族が増えたことを話した。
「そうだったんですね…。何の力にもなれなくて、本当に申し訳ないです。
私はルクシアーナ様とガビス様にお仕えしている身なのに……恥ずかしくなってしまう」
メイは、視線を落としながらとても痛ましげな表情を浮かべる。
「そんなことないです!」
フリージアは、慌てて首を振った。
「カリンさんが言ってました。助けられる余裕がないと、みんな不幸になるって。
今の教会は、前よりずっと子どもが増えたみたい…。ロネスやロンみたいに困ってた子が、たくさん救われてます」
メイにこんな顔をさせたかったわけではないのに。
フリージアはあたふたしながら、今日も子どもたちの遊び相手になっているレオンの姿を見て、そう続けた。
「ふふ、ありがとうございます。フリージアさんのおかげで、元気になれました。
ところで、魔女様とご兄弟はどうされたんですか?ご挨拶しておきたかったのですが…」
メイはそう言いながら、きょろきょろとあたりを見回した。
「日用品とかいろいろ買いに行ってるんです。
私たちもギルドへの納品が終わったら、みんなと一緒に帰ることになってるんですよ!」
フリージアは、まるで旅の計画でも話すように、うれしそうに語った。
メイもつられて笑顔になり、
「そうでしたか。それでは、あまり引き止めてはいけませんね」
と、穏やかに二人を送り出してくれた。
メイはしばらく、二人の後ろ姿を見送っていた。
「あれって狼ですかね? 犬なわけないですよね。魔物はここに入れないはずですし、やっぱり狼だな!白銀だなんて珍しいですね」
声に振り向くと、いつの間にか男がすぐ隣に立っていた。
あまりに突然そこに現れたように感じて、メイは無意識のうちに一歩、後ずさった。
体格のいい大柄な男が、人懐っこそうな笑顔でメイを見下ろした。
「すみません、急に知らない男から話しかけられたら、女性は怖がりますよね。いつも叱られているのに……俺の悪い癖です。ナオヒといいます。ナオと呼んでください」
言葉とは裏腹に、全く悪びれた様子のないその男は、メイへと手を差し出す。握手を求めているのだろう。メイはためらいながらも、おずおずとその手に応えた。
「あの子たちって、昔からこの町にいるんですか?
それに、あんなに大きな狼がいても、誰も怖がらないんですね」
この男を前にすると、思わず気を許してしまいそうになる。
不思議な感覚だ。
だがレオンを悪く言われた気がして、メイは少しむっとしながら答えた。
「申し訳ありません、ナオ様でしたね。
今知り合ったばかりの方に、二人の素性をお話しするわけにはいきません。
それに、レオンを魔物だなんて。毛が黒いからって失礼です!
あの子は大人しくて、子供たちにも優しい子なんですよ。町の人たちも、みんな知っています」
ナオヒはぽかんとした表情のまま固まっていたが、はっとしたように瞬きをすると、またにかっと笑い、全く悪びれた様子もなく答えた。
「すみません、そうですよね。あんなに可愛いですもんね。失礼したのは俺の方でした」
「いえいえ……そんなに謝らないでください。でも、わかっていただけてうれしいです。ありがとうございます」
メイも、少し言い過ぎたかもしれないと感じて、どこか居心地悪そうに答えた。
「では、また寄らせてもらいます!」
そう言い残して、ナオヒは軽い足取りで去っていった。
メイは「なんだったんだろう」と首をかしげながら、子供たちのところへ戻っていった。
「旭燈、いるか?」
人通りのない裏路地で、ナオヒは誰にともなく声をかけた。
すると、すっと白狐の面をつけた青年が姿を現す。
「あの女を攫いますか?」
「アッハハハ! お前は相変わらず物騒で面白いな。そんなことをする必要はないし、しても無駄だ」
ナオヒは肩をすくめ、楽しそうに笑う。
「あの子は、狼の毛が白銀だと認識できていなかった。無意識のうちに、何か術をかけられているのだろう。
だが、あの子は巫女だ。私には影響されなかった。
その子に術がかかっているということは、相手は相当だ。藪を叩くようなことはしない方がいい」
アサヒは押し黙った。
ナオヒは幼子をあやすように、その頭をそっと撫でる。
「そんな顔をするな。お前の気持ちは、ちゃんと伝わっている。うれしいぞ。
ここは『当たり』だ。しばらくこの町に留まって探ろう。きっと見つけられる」
アサヒはうれしそうに顔を上げて、「はい! 宿をとりましょう!」と駆け出していった。
ナオヒはその背中を見送りながら、「待っていろ。必ず見つける」と、自分に言い聞かせるように呟いた。




