兄弟
二時間後、クラリスと二人で奮闘して、部屋は少なくとも清潔になっていた。そう、校長を呼べるぐらいには。
「さて、パーカー。マクシミリアン•フィッシャー君をこの部屋に案内したことについて、何か申し開きはあるかね」
シュヴァルツ校長は部屋の真ん中で仁王立ちしている。入学式で話が長かったおじさんだ。
シュヴァルツ校長の後ろには団長、俺の横にはクラリスとシモンがいる。
その前に跪いているのが、パーカー寮監。口うるさそうな痩せた中年男性で俺にこの部屋を割り当てた人らしい。
「こ、この歴史ある学校に妾の子が入ってくるなど、厚かましい。この部屋で充分でしょう」
俺が妾の子?
「私が入学式で言った言葉を覚えていますか」
校長が尋ねると、パーカー寮監は項垂れていた頭を勢いよく上げた。
「もちろんです」
「身分の差を問わずと言ったはずですが」
「は、そ、そうですが、こ、これは必要な処理だったんです。沈黙の貴公子をお迎えできた今、不快なものは目に映らないようにしないと」
不快なものねえ、俺、無茶苦茶言われてない?
「屋根裏部屋に追いやる嫌がらせを行い、追い出すつもりだったのか。沈黙の貴公子から頼まれたのか」
「い、いえ」
パーカー寮監は頭を床にこすりつける。
「私が勝手に気を遣っただけです」
「ふーん。じゃあ、これは何かな」
シモンが巾着をポンと投げる。ジャラッという音とともに金貨がこぼれ出た。
「こ、これは」
パーカー寮監は慌ててかき集めた。
「勝手に私の部屋に入ったのか」
「私が許可した。君は私の言うことを好きなように忘れるようだが、契約時に校内の施設、部屋は全て、必要に応じて監査することができるとしている」
校長の言葉にパーカー寮監が顔色を悪くする。
「特に書類はないようでした。証拠となるようなものは焼却しているのかもしれません。ただ、その巾着にフィッシャー家の紋章がついているんですよね」
シモンが言うと、パーカー寮監は巾着を懐に入れた。
「これは今回の件とは関係ない」
言い張るパーカー寮監の前に黙って後ろに控えていた団長がずいっと出た。
その圧力にパーカー寮監が震え出す。
「ここにいるマクシミリアンがフィッシャー家の嫡男だ」
「馬鹿な。フィッシャー家の嫡男は無詠唱魔法の天才、マクシミリアン様だ」
「彼の方が妾の子だよ。それに同じ年生まれだが、二ヶ月ほど年下だ」
つまり、あの派手な少年は俺の腹違いの弟なのか。それにしても、親父、最悪だな。あれだけ、俺を溺愛していたのに、妾との間にも子どもを作ってたのか。
「嘘だ」
「沈黙の貴公子という評判を高め、本物のマクシミリアンと入れ替えるつもりだったんだろう。改名届が半年前に出されている。ビル•フィッシャーからビル•マクシミリアン•フィッシャーになっている」
元の名前にミドルネームを追加したのか。微妙だな。
「妾の子にはこの部屋で充分だと言ったな。じゃあ、今から、マクシミリアンの部屋と交換してもらおうか」
「いや、その」
パーカー寮監に笑いかける団長が怖い。パーカーがジリジリと後ずさっている。
「すみません、パーカーはクビなので、部屋を交換する権限はありません」
「校長! クビってどういうことですか」
パーカー寮監、いや、元寮監が焦って声を上げた。
「学校の理念を理解せず、誰かから唆されたのか、賄賂を積まれたのか、生徒を差別する。ここまでしておいて、今まで通り働けると思っているんですか。今すぐ、出ていきなさい」
「ま、待ってください」
「どこかに落ち着いたら、連絡ください。荷物は送ってあげましょう」
「わ、私は騙されたんです」
「騙されたら、生徒を差別していいとでも。アストン辺境伯の忍耐が続いている内に出ていってください」
団長が剣に手をかける。露骨な脅しに震え上がり、パーカー元寮監は部屋を這いつくばるように出ていった。
それを見送ると、校長は俺の方に向き直り、頭を下げた。
「申し訳ありません。私の管理不行き届きでした」
「いや、別に構いませんよ」
全然、平気だ。
「すぐに別の部屋を用意させます。また、お詫びをしたいのですが」
「あ、じゃあ、この部屋、このまま,使わせてください」
せっかく、掃除したし、一人部屋だし、広いし。
「え? それでいいのですか。それでは、家具を持って来させます」
「いや、なくても大丈夫です」
寝袋があるしと思った俺の視線に気づいたクラリスが口をはさんだ。
「流石に机と椅子は入れてもらいなさい。寝るだけじゃなく、勉強だってあるんだからね」
「はい」
俺はクラリスには逆らわない。
「あの、家具を入れるのは当たり前でお詫びにならないのですが」
「じゃあ、校内では俺のことをマックスと呼ぶように統一してもらえませんか。先生たちも沈黙の貴公子と同じ名前の生徒がいるとめんどくさいでしょう」
団長が腕を組んだ。
「なぜ、お前の方が呼び名を変える?」
「辺境ではずっとマックスだったので、その方が自分の名前って感じがしますから」
「わかった」
団長はうなずいた。
「校長、聞いての通りだ。マックスの望むようにしてやってくれ」
「もちろんです。しかし、それだけでは許されないようなことをしたんです」
俺が気にしないと言っても、校長がなかなか納得しないので、屋根裏部屋に防音の魔法をかけるのだけ、頼んだ。これで部屋の中で訓練をやっても大丈夫。何だか得をした気分だった。




