入学
制服は白いシャツに紺のフード付きマントとズボン。
「感謝しなさいよ。サイズ、ぴったりでしょ。母様からサイズを聞いて、私が手配したんだから」
クラリスは俺より一つ上でいつもお姉さん風を吹かしている。辺境では見たことがなかったスカート姿が似合っていた。
「ありがとうございます」
実は俺は平均よりちょっと小さい。ぶかぶかな制服だと小さいのが余計目立ちそうだから、ピッタリで助かった。
「じゃ、そろそろ行くか」
シモンの制服姿は俺と同じ制服を着ているとは思えないほど、かっこいい。しばらく会わないうちに背が伸びたからかもしれない。いや、俺だって、一年後には。
昨日の晩はシモンもクラリスも寮に外泊届を出して、団長の屋敷に泊まり、俺の歓迎会に参加してくれた。
三人揃っているので、学校には馬車で行く。
「学校に着いたら、俺たちがマックスを入学式を行うホールまで送るよ」
一人でも大丈夫だと言いたいところだが、昨日、迷子になったのを知られているので黙っておく。
「すごい。きれいな学校だな」
到着した学校は石造りだが、辺境のような重厚な建物ではなく繊細な感じがする。
ホールまで案内してくれたシモンとクラリスは「おとなしくしていろ」「動くな」など散々、注意してから去って行った。入学式の日、授業はないが、図書館に行くらしい。
それにしても、失礼な。俺が暴れるわけないだろう。
案内係に指定された後ろの方の席に座る。
「それでは入学式を始めます。最初に学校長からお言葉を頂きます」
司会の言葉に嫌な予感がした。すぐにそれが現実になる。この世界でも学校長の話は長かった。
まとめると、この学校の生徒であることに誇りを持て。学校内では身分の差を問わない。より賢く、より強く、研鑽を怠るなということだった。
「次は新入生代表の挨拶です。マクシミリアン•フィッシャー、前へ」
え、俺? 俺の名前がなぜ呼ばれるの?
慌てて立ち上がると、隣の女の子がくすくす笑った。
舞台の上にはすでに一人の少年が上がっている。なんだ。同性同名の人か。俺は慌てて座り直した。
同姓同名の少年は制服にじゃらじゃら飾りをつけている。派手だ。少年が頭を下げると、ものすごい拍手が巻き起こった。
「フィッシャーさま、素敵」「こっち見て」
女の子たちが声をかける。
「やっぱり、代表は沈黙の貴公子か」「さすがだな」
男の子たちの憧れでもあるらしい。
有名なんだなと思っていたら、バチッと目が合ってしまった。ギロリとにらまれたのはなぜだろう。
「本日は私たち新入生のためにこのような素晴らしい入学式を開いていただき、ありがとうございます」
この挨拶も長かった。
入学式が終わると、学校の案内などを渡された。今日は授業はなく、寮の部屋の整理などを行えということらしい。
俺の部屋の鍵が見当たらないということで待っている間に他の新入生はみんな行ってしまった。
置いてけぼりをくらって、ちょっと寂しい。
ただ、一人でも校内図を渡されたので、無事に自分の部屋にたどり着くことができた。
寮の屋根裏だった。
寮の部屋は二人部屋だと聞いていたのに床に積もった埃に足跡がないところを見ると、どうやら独り占めできるようだ。
俺は自分の荷物からとりあえず、簡易テントを取り出して広げた。寝袋もいいのを持ってきている。
簡易テントも寝袋も前世の記憶で作ってもらった物で辺境騎士団の中でブームとなった製品だ。俺もアイデア料でずいぶん儲けさせてもらった。
それから、シモンとクラリスと約束していたので、お昼を食べに食堂に行った。最初だから二人が奢ってくれるというので、高めのステーキセットにした。
「ああ、うまかった」
食事の後、コーヒーを飲みながら、入学式の失敗を報告した。
「そういえば、俺、入学式で大恥かいてしまったよ。新入生代表の沈黙の貴公子っていうのが俺と同じ名前でさ。名前を呼ばれて、思わず、立ち上がっちゃった」
シモンとクラリスが顔を見合わせた。
「それ、おかしい」
「沈黙の貴公子って、マックスの弟だぞ」
「え?」
「フィッシャー家の庶子だが、マックスの方が早く生まれたから」
父って、あれだけ俺を猫可愛がりしてたのに外で子どもを作ってたのか。しかも、同じ年に。
「きちんと覚えていないが、マックスと名前が違っていたのは確かだ」
「ねえ、学校内で偽名を使うのは禁止じゃなかった?」
「ちょっと、家に戻って、状況を報告してくる」
シモンが立ち上がった。
「大げさな」
「まあ、シモンの勘は当たるから、報告した方がいいと言うなら、任せましょ。私はマックスの部屋で待ってるから」
「俺の部屋?」
「掃除、手伝ってあげるから」
「女子が男子寮に入っていいの?」
何となく貴族社会では男女別だと思っていた。
「そんな馬鹿なことする女子がいないから、規則にないんだよね」
そう言って、クラリスは俺の部屋についてきた。
「へー、屋根裏で一人部屋かあ。運がよかったね」
と笑っていたクラリスはドアを開けたとたん、大きく息を吐いた。
「マックス、これで何かおかしいと思わなかったの? ベッドもない、机もない、掃除もされていない。これ、明らかに悪意がある」
「どうせ、貴族は自分の荷物を大量に持ってくるし、掃除は従者にやらせるから、こんなものかと思っていた」
クラリスは腰に手を当てて仁王立ちになった。
「そんなわけ、あるわけないでしょ。学校ではまず、常識を覚えなさい」
「はい」
なぜか、俺が叱られることになってしまった。




