王都の迷子
「俺、迷ってる?」
王都のさびれた通りで俺はつぶやいた。人に道を尋ねたくても、誰もいない。
辺境領から団長と一緒に馬で王都まで走り抜けた。団長の王都の屋敷に着いた後、少し休憩すると、俺は退屈になってしまった。
そこで、王都を少し見てきますと飛び出してきたのだが、失敗だったかもしれない。
「子どもの頃もそんなに外を出歩いていないだろう。王都は辺境領と違って栄えているし、人も多い。仕事の話が終わるまで待ってろ。俺が案内してやる」
団長がそう言ってくれたのに、「大丈夫、俺、迷ったことないから」と一人で出てきたのは大失敗だ。
「ああ、俺が前世で迷わなかったのはGPSのおかげだったんだなあ」
俺は反省する。
「辺境領では道に迷ったら、木に登ればよかったし」
高い建物が砦ぐらいなので、高い木に登って、上から見下ろせば、すぐに場所がわかった。
それが、王都では建物は高く密集しているし、高い木も生えていない。飾りのような街路樹は小さく刈り込まれている。
「とりあえず、まっすぐ歩いてみるか」
俺は耳をすませた。人の声が多く聞こえる方に行きたい。
すると、叫び声が聞こえた。女性の声だ。
そのとたん、声の方向に俺は走り出した。
すぐに絵に描いたようなごろつきたちが女性と女の子の手を掴んで連れて行こうとしているのが見えた。
「やめろ!」
俺の声に男たちが振り返った。
「何だ、このガキは」
「その汚い手を放せ」
捕まっている女性は美人だから、目をつけられたのかもしれない。
男たちが俺を甘く見たのか、軽い魔法を放ってきた。
ふん。一丁前に無詠唱か。でも、そのぐらい、辺境の魔獣のちょっと強いので慣れている。避ければいいだけ。
俺が急速に近づくと、狙いを合わせにくいのか、男たちは慌てた。その隙にまず、女の子を捕まえている男の急所を力いっぱい蹴る。痛みに体をくの字に折った男を盾にして魔法を防ぐ。男の髪が燃え上がり、嫌な匂いがした。火魔法を放ったと思われる男の頭を狙って、かかと落とし。避けた男の顎に俺のアッパーが炸裂する。弱い。
弱い。俺は崩れ落ちる男の腰から剣を鞘ごと抜いた。そのまま、鞘から抜かない剣を片っ端から叩きつけていく。
相手を殺したくない時は剣を抜くなと厳しく訓練されてきたから、習慣のようなものだ。
「えっと、これで全部かな」
俺は地面に転がる男たちの数を数えた。逃げたのはいないようだ。しっかり、叩いておいたから、しばらく、目を覚ますことはないだろう。
襲われていた女性は女の子を守るように抱きしめている。
「もう、大丈夫ですよ」
俺はにっこりと笑う。
「ありがとうございます」
美人が頭を下げる。
「さ、お嬢様もお礼を」
おっ、女の子は美人さんの子どもじゃなかったんだ。よかった。独身かなあ。
女の子がずいっと前に出ると、俺に指を突き付けた。
「ありがとう。でも、リリーに近づく権利を手に入れたわけじゃないからね。ニタニタ、近寄らないで」
うっ。ニタニタしていないと思うが、リリーさんにお近づきになるの、ダメですか?
「お嬢様、命の恩人に向かって、そのようなお言葉は」
リリーさんが注意する。主人に向かっても、間違いを正せる。できるメイドさんって感じでいいね。
「だって、私のこと、目にも入っていないんだもの」
「そんなこと……」
あったかもしれない。冷静に考えると、同じ歳ぐらいの可愛い女の子だ。気になるのが当たり前かもしれない。ただ、どうしても、前世の記憶が邪魔をして、同じ歳ぐらいの女の子はロリコンになったようで抵抗がある。
「お怪我はありませんか?」
一応、丁寧に聞いておく。
「大丈夫よ。お礼をするから、住まいと名前を教えなさい」
偉そうな女の子だ。高位貴族なのかもしれない。関わるとややこしそうだし、ここは一度言ってみたいセリフナンバーワンを言ってみよう。
「いえ、結構です。名乗るほどのものではございません。失礼致します」
立ち去ろうとした俺の背中にさらに声がかかる。
「お礼をするって言ってるのに」
「いりません」
そのまま、立ち去ったら、かっこよかったんだけど、俺は大事なことを思い出し、慌てて振り向いた。
「あの、お礼というのなら、一つだけ、教えてください」
思い出してよかった。
「ここ、どこですか?」




