プライムクラス
「いいか、退学等で卒業できなかった場合、ひよこ隊に逆戻りだ。小さい子どもと一緒に訓練を受けてもらう」
「だ、団長、それはない」
「何がないって」
団長にギロリとにらまれ、俺は震え上がる。
ああ、行きたくなかった学校。好き勝手なことをして、退学になってもいいと思っていた。せっかく、ひよこ隊を卒業したのだから、早く正規の隊で活躍したかったし。その気持ちがバレていたのか、先に団長に釘を刺されてしまった。
まあ、退学にならないように卒業するなら簡単だと思って、自分のクラスに行った。
クラスの人数は少なくて二十人くらい。
「げ」
俺の弟、マクシミリアンが真ん中辺りに座っていた。その周りに女の子が集まっている。モテモテだ。ふん、羨ましくなんてないから。
男子生徒も半分ほどは弟の周りにいる。取り巻きなのか、女の子の集まっているところにいたいのか。
俺は後ろの入り口すぐの席に座った。
もうすぐ授業が始まるギリギリに女の子が駆け込んできた。街で迷子になった時、出会ったリリーさんのご主人だ。
俺に気づくと、少し目を見張り、それから、目をそらした。うわー、助けたんだから感謝しろとまでは言わないけど、目をそらすのはやめてくれ。
可愛い女の子だからか、弟が立って、横の席を指し示した。
「シェリル様、どうぞ、こちらへ」
まわりの生徒たちも道を開け、きっちりとお辞儀をしている。
「私は前がいい」
そう断って、シェリルと呼ばれた女の子は俺の座っている列の一番前に座った。弟は後を追うか迷ったようだが、先生が入ってきたので、そのまま座った。
担任の先生は痩せぎすで眼鏡をかけていた。
「ようこそ、プライムクラスへ。私は担任のストリクトスです。このクラスでは将来、国を背負って立つ人材を育てることを目標としています。そのため、授業は通常クラスより厳しく、成績不良者は退学処分になることもあります」
え、厳しい? 成績次第で退学? 別のクラスに移動するんじゃなくて?
「推薦してくださった方を満足させるよう、頑張りましょう」
推薦が必要なクラスか。誰だ。俺を推薦したのは。団長か? それとも、おばさんか?
「それではまずは自己紹介をそちらから。家名もお願いします」
先生が端に座っていた俺を指す。最初かあ。それにしても、家名付きって。校長先生は身分を気にするなって言ってたのにねえ。
「初めまして。辺境領から来ましたマックス・フィッシャーです。マックスと呼んでください」
ペコリと頭を下げると、クスクス笑いが広がった。
「マクシミリアン様を真似た名前で堂々と。恥ずかしくないのかしら」
「辺境領って、ようは田舎者ってことだろう」
「マックスと呼べって平民みたい」
「なぜ、プライムクラスなの?」
うわー、聞こえるように悪口。嫌な感じ。
「静かに!」
注意したのは先生ではなく、シェリルだった。仁王立ちして、俺の悪口を言っていた生徒を睨みつける。
「あなたたち、陰でコソコソ悪口を言うなんて、品格のないこと、やめない? 昨日の校長先生のお話を覚えている方はいないの? 身分の差は問わないとおっしゃったよね」
クラスのこの雰囲気の中、勇気がいるだろうに俺のために言ってくれたのか。シェリルに向かって、俺は小声で言った。
「あの、俺は気にしませんから大丈夫です。それより、俺をかばったことでクラスから浮いたら大変ですし」
「あなたの気持ちは問題じゃない」
え? 断言されてしまった。
「たとえ、私の侍女に懸想するような変態相手であっても、このような態度をとるのは間違ってる」
変態という言葉に生徒たちがざわつく。俺がリリーさんに惹かれただけですごい言われよう。子どもって、年上のお姉さんに憧れるもんでしょう。いや、俺は前世の年齢に好みが引っ張られているだけだけど。
「おっしゃるとおりです」
マクシミリアンが立ち上がって、手を叩いた。いちいち、動作が大げさだ。
「みんな、これからは気をつけるよね」
マクシミリアンは悪口には最初から反対だったような態度を取る。
俺は見てたぞ。俺が悪口を言われている間、ニヤニヤ笑っていたのを。
「はい、気をつけます」
生徒たちが頭を下げた。といっても、俺にではなく、シェリルに向かってだ。
「謝る相手が違う」
もうやめておけばいいのに、シェリルが言う。正義感からか。
「姫様、申し訳ありません。時間がありませんので自己紹介の続きをさせてください。後から、私からも注意しておきますので」
ストリクトス先生が頭を下げた。
「わかった。それなら、次は私だな。シェリル・デ・クライアン。足りないとよく言われる常識を身につけたいと思っている。これから、よろしく頼む」
シェリルの自己紹介にみんなが拍手する。
なんで? 可愛いけど、ちょっと変な子じゃないか。
ちょっと、待てよ。姫様って呼ばれてたよな。
クライアンって、王族の名前じゃん。そりゃあ、クラスから浮く心配はないか。
そんなことを考えていると、シェリルが振り返って俺を見た。俺は思わず、ペコペコ頭を下げた。




