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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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腐臭漂う宮殿、あるいはインフラの逆襲

かつて牡丹の香気が満ちていた御花園(ぎょかえん)を、今は粘りつくような酸っぱい腐敗臭が支配している。






「地上の楽園」と(うた)われた優雅な回廊は、たった数日でその機能を停止し、排泄物と腐肉の匂いが滞留する巨大な閉鎖空間へと()ちていた。

未回収の生ゴミがうず高く積まれた影では、銀色の(はね)を持つ(はえ)が金属質の羽音を立て、黒い渦となって視界を遮る。




詰まった排水路からはどす黒い汚水が溢れ出し、かつては鏡のように磨き上げられていた石畳を、ぬらぬらとした油膜で汚染していた。




「いやあああ! 臭い! 誰か、誰か片付けなさいよ!」




「お風呂に入りたい……もう三日も身体を拭いていないのよ! 肌が(かゆ)い!」




高価な西域の香油を頭から浴び、その刺激臭で腐臭を上書きしようと足掻(あが)妃嬪(ひひん)たちが、喉を潰さんばかりの周波数で叫んでいる。

だが、その物理的な振動に応える者はいない。

末端の血流を担う使用人たちは、一様に姿を消している。




あるいは、申し合わせたように「急な腹痛」という名のサボタージュを選択し、不潔な寝床で沈黙を守っていた。




混乱の極地は、潔癖という名の「不文律」で塗り固められた皇太后の居室だった。

氷のロジスティクスが断絶した室内は、陽光の熱が蓄積され、肌を刺すような熱気が(よど)む蒸し風呂と化している。




彼女が(まと)う最高級の白絹は、洗濯というメンテナンスを失い、皮脂と老廃物が酸化して黄ばみ、()えた臭いを放ってその肌に不快に張り付いていた。




(……インフラを支えているのは誰か。その答え合わせの時間ね)




私は、地下牢の石灰質の壁に背を預け、冷たい硬度を背骨に感じながら看守たちの低い呟きを拾っていた。

彼ら自身の食事の配給も滞り、その空腹が「なぜ仕事が回らないのか」という怒りへと変換されていく。




「もう限界だ」「皇太后様は何をしているんだ」「俺たちまで飢えさせる気か」――。




その血走った視線と、胃の腑()が鳴る音の重なりは、私にとってどんな雅楽よりも心地よい勝利の旋律だった。




この城は、血管が詰まり、壊死(えし)の始まった巨大な心臓だ。

末端の血流サービスが停止すれば、どれほど赭黄(しゃこう)の衣で飾り立てようとも、内側から腐り落ちるしかない。




権威。伝統。

そんな実体のない概念では、目の前の生ゴミ一つ、物理的に排除することは叶わないのだ。




私は冷え切った石床の上で、壁に刻んだ「ストライキ計画書」の最終項を指先でなぞった。

計算通り。

旧弊なシステムの耐久限界点クリティカル・ポイントは、今まさに、音を立てて突破されようとしていた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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